第44話 夏休み 7月その1 宿題 前編
夏休み初日。
学生たちが休みになったからとはいえ、今は平日の昼間。学校帰りにたまに立ち寄ることのあるファミレスは、僕たちを含めて3組程度しかいなかった。
一応、長時間ここで勉強してもいいか訊ね、店員さんからえっちなことさえしなければいいと了承をえることができた。
なにやら変な条件が付けられている気がするが、普段からここでイチャイチャし過ぎて目を付けられてしまっているからなのかもしれない。とりあえずは、許可を貰えたので、ドリンクバーを頼んで宿題をはじめることにした。
そんな一幕でのこと。
「で、鳴瑠くん。どーして私たちは夏休みの初日も初日に宿題をしているのかな?」
「それは夏休みに宿題が出ちゃったからじゃないかな」
僕の言葉に璃月は口をとがらせる。
「むー、学校はどーして世の中の流れを取り入れずに古い体制なままなのかなー」
「古い体制?」
「うん。残業とかサービス残業とか、持ち帰ってのお仕事はダメってなりつつある昨今。学生はあいも変わらず宿題と言う名の持ち帰り残業が今だにあるわけだよ」
「まぁーたしかに。普段の宿題はいらないと思う。授業聞いてればどうにかなるし」
「う、うん。そうなんだね」
微妙に賛同してくれなかったことはさておき。
僕にも思うことはあった。
「でもさ、夏休みの宿題がなかったら、夏休み明けの授業が始まったときに内容を忘れちゃってて、勉強にならなくない?だから、忘れないためには必要かなとは思う」
「でも、鳴瑠くんと私は、できる
「うん」
「それってどのみち、次に勉強するのは1ヵ月後になるから、どのみち忘れない?なら、やらなくてもよくない?」
「たしかに・・・・」
「はい、最終的には宿題はなくていいという結論です」
そう言いながらも璃月は黙々と宿題をこないしていく。とっても偉い。僕は璃月のアホ毛を撫でることにした。
「えらいねー」
「撫でるなら、ん・・・・ん、ん・・・・頭にして」
「う、うん」
なんかえっちな声が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだろう。僕はさらに撫で続けることにした。
で、1分くらい撫で続けていると、すかさず店員さんがイエローカードを持ってやってくる。どうやら、アウトだったようだ。
しかもサッカーのルールと同じで2枚で退場とのこと。他のカップルにはそんなことしてないのに、僕たちだけそんな過剰なサービスをしちゃっていいのかな?
そんな皮肉的なことを思いながら、店員さんを僕たちは見送った。それから、気を取り直して、話題を変えた。
「そういえば、璃月は自由研究なにするか決めた?」
「うん」
「何?」
「鳴瑠くん」
「僕の成長記録はお姉ちゃんに任せてるんだけどなー」
「パパとママじゃないのはさておいて。平気、私が観察するのは鳴瑠くんのお姉ちゃんも知らない鳴瑠くんだから」
「いったい僕のどこのことかな!?」
やばい、ちょっと興奮している僕がいる。
「そんなの決まってる。鳴瑠くんのおち・・・・男の子の部分」
「そうゆうの言うと、店員さんが・・・・」
よく聞こえていなかったようで、怪訝な顔でこちらを見ているばかり。どうやら今回は聞こえていない為にセーフのよう。全部言えないったり、言葉尻が小さくなってしまっていた璃月の照れ屋さん?ムッツリさん?なところが功を奏したようだった。
「とあえず、いろいろ観察して『鳴瑠くんが私で興奮しました』って、せんせーに見せる」
「見せないで、2人だけの思い出にしたいなー、とか思ったり」
「鳴瑠くん・・・・・じゃ、やめる」
どうやら思いとどまってくれたようだ。
そもそもいくら自由だからと言って、そんなの提出したら学校で問題になってしまうだろう。いや断言できる。
「それじゃー、何にしよーかなー。鳴瑠くんは決まってる?」
「うん、璃月のアホ毛――「はい、いつものきたよ」「ひどくない!?」
かぶせ気味でこられて、思わず叫んでしまった。
それから、どうしてアホ毛の観察日記がしたいのか熱い思いを語ることにする。
「璃月のアホ毛ってさ、日々成長し、角度とか、長さとか、形とか、動きとか、どんどん人知を超えていってるわけだよ。いつか髪だけに神としてあがめられる日もちかいわけでさ。これはまさに人類の誰かが記さなきゃいけないことだと思うんだよね」
「うん、たぶん、そんな日は来ない。アホ毛教はできないよ」
「僕ならすぐ入会するんだけどな。むしろ、今、作っちゃおうかな」
「作らなくていい。私は君だけに見ててほしいな」
「う、うん。そっか、なら僕だけがアホ毛を見るためにも自由研究の観察対象は璃月のアホ毛にするね」
「うん・・・・ん?いや、しなくていいよ」
騙されなかったようだ。
流れで言えば許可がとれるかと思ったが、そこまで甘くはなかったか。とりあえずは人生の自由研究として観察し続けることにしよう。
「仕方がないかー。璃月のアホ毛がダメとなると、他の題材か。うーん、隣の街との境界にある次元の壁についての研究しかないかもなー」
「アホ毛との差がひどいよ、しかもそれ、今だに解明されてない難問じゃん」
次元の壁。
それは街境の境界線にある見えない壁のことだ。それがあることによって、街が滅ぶほどのことが起きても、その壁があることで周辺の街にはなんら影響を及ぼすことがないそんな感じのもの。
多くの研究者たちが調査をしているのだが、なんのためにあるのか今だ解明されていないため、人類の抱える難問として有名となっていた。
まぁ、アホ毛に比べたらとるに足りない話だけど。
「アホ毛がダメだとそれくらいしかなくない?」
「朝顔の成長日記でよくない?」
「璃月の部屋に毎朝入る。うん、それ悪くないかも」
「違うよ。別に入ってもいいけど、違う。植物のことだよ。あ、待って。やっぱ寝顔見られるのは恥かしいかも。色々準備した後の顔なら見てもいいけど」
「えー、観察した後にちゅーする特典付きだよ?」
「ぐぅぅ、待って、やっぱダメ。だって自由研究てことは発表あるじゃん。皆の前で私の寝顔を晒さないで」
「たしかに僕だけの独り占めにしたい」
て、待って。
発表があるのに、璃月は僕のアレについて研究しようとしてたの?本当にド変態だな。このムッツリさんめ。
そんなことを思って話を戻す。
「そうなってくると、やっぱり、次元の壁について研究するしかないかな」
「それやったら夏休みがそれだけで終わっちゃう」
「たしかに。あー、ならアレでいいかな。毎年やってるお姉ちゃんの成長日記で」
「しすこん」
「なんで!?」
「やっぱりって感じ。君のお姉ちゃんの話を聞いてると、重度のぶらこんだから、君もそーじゃないかと思ってたらやっぱりだよ」
「えー」
そんなこんなで、僕は毎年やっているお姉ちゃんの成長日記にした。ちなみに璃月は星の観察とのこと。そのため、ちゃっかり星を見に行くことが約束できてラッキーだった。何はともあれ内容が決まったところで、僕たちはドリンクバーで飲み物の補充に席を立つのだった。
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