第60話 8月その10→9月その2  Xover フタリの場合

 私の部屋――8月31日、23時50分頃。

 ベットの上。私はいつものように全裸になってお布団にくるまっていた。

 部屋の中は電気が消されており、カーテンから少しだけさしこむ月明かりで青白く照らされていた。

 頭上には宙に浮く家具たち。ふわふわーとしてるそれを見ていれば普段だったら眠くなる。枕だって、お布団だって変わってないから眠れるはず。なのに今日はぜんぜん眠れる気配がしなかった。

 理由なんて1つしかない。

 それは大好きな鳴瑠くんがベットのすぐそばに敷布団をしいて寝ているから。

 べ、別に鳴瑠くんが近くにいる状況で、裸でいるから興奮する的な理由じゃない。だって、私はえっちくないもん(全裸という点に目を瞑りながら)。

 じゃぁどーしてか。

 諦めているはずのに私は、好きな人がこっちにくるかもしれない。そんなときに寝てるなんてもったいない。

 そんな期待を抱いてしまっていて眠れなかった。

 ほんとーは、自分から行っちゃえばいいんだけど、私は恥かしくってできない。また、鳴瑠くんからこっちに来てほしいってゆーワガママがあるから動けなかった。

 そんなときだった。


「璃月、もう寝ちゃった?」


 と、鳴瑠くんからの声がする


「起きてる」


 さっきの取り乱した件が尾を引いてそっけなく答えてしまった。これじゃぁとっても嫌な子じゃん・・・・・。

 それによって自己嫌悪ってヤツをしちゃう。

 全部、自分のせいなんだけど、嫌なことってどーして続くんだろ。

 こんなときは好きなもの・・・・・好きな人のことを考えよう。

 気持ちを切り替えることにした。

 鳴瑠くんは今、何を思ってるのかな?

 そっけなくしちゃって、私のこと嫌いになってないかな?

 もしかしたら泣いちゃってて、枕を濡らしてるかもしれない。

 私はベットに寝てるから、床に敷布団をしいている鳴瑠くんとは、けっこーな段差があって手を繋ぐこともできない。

 とってももどかしくて仕方ない。

 今から鳴瑠くんの寝てる布団にはいちゃおっかな・・・・・でも、できることなら彼からきてほしいなー。

 ふとそんなことを思って、あれから鳴瑠くんが話かけてこないことに気づく。

 寝落ち・・・・だったらよくないけどまだいい。もしもほんとーに泣いてたらどーしよう。もし、そうだとしたら、私が私が慰めてあげないといけない。

 心配になり、服を着てないことも忘れて起き上がって声をかけようとする。だけどそれは叶わなかった。だって私の寝ているベットの上に鳴瑠くんがいたから。

 彼は私の名を呼ぶ。


「・・・・・璃月」

「ん?」

「璃月のベットって、衣服厳禁だったよね?」


 鳴瑠くんの問い。

 それに答えようとした私は目を疑う。彼がここにいることだけでもビックリなのに、彼の姿はお洋服を着ていない、私と同じ格好だったから。

 月明かりの青白い光に照らされているはずの鳴瑠くんの顔は、赤いとわかるほどに真っ赤で。私のことを熱い瞳で真っすぐに見ている。

 やばいよぉ・・・・・ドキドキしすぎてえっち子だとか、そうじゃないとか、どーでもいいほどに鳴瑠くんを求めたい。彼を私のものにしたい。


「・・・・・うん」


 私を見つめる鳴瑠くんをしっかりと見返して、どうにか答える。

 そして、思った。

 鳴瑠くんのこと、とっても好きだなって。

 それ以上に、今の私の心を言い表せる言葉は1つもなかった。

 日付をまたぎ、夏休みは終わりを迎えた。


 ☆→♡


 璃月の部屋――8月31日、23時50分頃。

 全ての照明が消された部屋。

 カーテンからは微かに月の光が差し込み、薄い青色に染めている。

 目を開けると、家具がゆらゆらと浮遊している。落ちてくるんじゃないかと少しばかり不安になるが、ずっとそのことばかり考えていても仕方がないので、どうにか気にしないように意識を逸らす。

 僕が今いるのは、床に敷かれた敷布団の上。同じ部屋で寝ているものの、璃月はベットで寝ている為に、一緒には寝ていなかった。

 それに少しばかり寂しさを感じてしまう。

 たぶん、そう感じるのはそれだけが理由じゃない。

 夏休みが残り10分程度で終わりを迎えるというのも起因しているはずだ。

 明日、もっと正確に言えば残り10分で9月1日を迎えて、数時間後には学校に行かなくてはならない。璃月と1日中、自由にいられるのももう終わりだった。

 そのことに関しては、昨日の夏祭りの時点でさんざん話をしたので、この想いはただの在庫処分的な残りモノみたいな気持ちでしかない。

 とりあえず、僕がやるべきは、学校に備えて寝ることだった。

 そうしなくては、明日の身体に響いてしまう。

 それはわかってる。

 だけど、僕は眠れないでいた。

 数回目の寝返りを打ってみる。何度となく繰り返ししてみた。

 でも現状は変わらない。

 たぶんだけど、天井とか枕が違うから眠れない、なんて話でもない。

 どう頑張っても変わるきざしもない。異常なまでに僕の目は冴えてしまっていた。

 どこか懐かしい感覚。

 その答えを僕は知っている。

 璃月と付き合い始めたばかりの夜。

 あのふわふわとしたなんとも言い表せない幸福感に似ていた。璃月が近くにいるからいつもの夜以上にそう感じるのだろうか。

 誰も答えてはくれない。

 これだけはわかる。

 似ていても、あの日、あの時とは違うものであると。

 だって、あの日、あの時よりも、璃月のことがもっと好きになってる。もっと触れ合いたいと思ってる。もっと、―――僕はそこまで考えて、その先の言葉につまる。

 無意識的に、何かから逃げていた。

 また、もう1点、あの日と違うことがあるとするならば、


「璃月、もう寝ちゃった?」

「起きてる」


 電話をしなくても、声が届くことだろう。

 もっと言ってしまえば、手を伸ばすこともできる。

 できるんだけど、僕は敷布団、彼女はベットに寝ている。そのために段差という物理的な壁が存在していて阻まれている。

 とてももどかしかった。

 手を繋ぎたいのに、それができないというのは。

 この段差を乗り越えて、璃月のベットに潜り込んでしまうという手もある。

 とはいえ、それは服を脱ぐことも同義と言える。

 なんと言っても、璃月のベットは衣服厳禁なのだから。

 服を脱いで彼女のもとに行ってしまっていいのか迷ってしまう。今までの関係が変わってしまうのではないかと少しばかり怖い。

 この段差は、服を着る者と、服を捨てた者を分ける境界ともとらえられた。

 これを乗り越えた先には―――、

 そこで再び答えに詰まった。

 どうして、先ほどから答えに詰まる部分があるのか。無意識的に詰まらせておきながら、僕はそのことには気づいている。ただ逃げているということを知っている。

 僕が逃げていること・・・・・それは、


『私を傷つけたくないのはわかったけど。これから先、私に痛い思いをさせることがあるとするじゃん。そーなったら君はどーする?』


 昨日、璃月が言っていた言葉だ。

 彼女はこの言葉が意味する『例えば』をはぐらかしていた。

 だけど、僕はあの後も考えていた。

 そして、答えを出した。

 普通の男女がするようなことで、好きな人同士がやることで、璃月という大好きで愛していてどうしようもない子がいる僕も他人事ではないこと。

 僕はそれをただただ目を逸らそうとしていた。

 だから、すぐに答えを出そうとしなかった。

 璃月もたぶん初めてで。初めては痛いと知識だけでは知ってる。

 その痛い思いを、愛してやまない彼女に僕自身がさせなくてはいけない。そのことから目を逸らし続けていた。先に進めないように自分の気持ちを押し殺していた。

 だけれど、段々と想いは募っていた。

 最初にそれを意識したのは壁ドンの時で。それからもちょくちょく感じていた。今日だってそう、出会って上に乗られたときも、お風呂上りの璃月を見た時もそう、彼女がお風呂に入っているときもドキドキして一緒に入りたかったし。彼女の髪を乾かしている間も――何より、璃月が下着を身に着けていないとわかった時も。

 僕は無意識的に目を逸らしてた。逸らし続けていた。


――好きでいながらも、痛みを与えなくてはいけない矛盾。

 

 酷い矛盾だ。

 こんなの僕は嫌で仕方がない。

 けど璃月は、


『そうだとしてもやらなきゃいけないの』


 とも言ってた。

 たぶんだけど、璃月はとっくに覚悟をしていて。

 僕はとってもバカだった。

 背き続けることじゃないのに、見ようとしていなかった。

 璃月が好きと言っておきながら、彼女との大切なことを見ていなかったのだから。

 矛盾を受け入れる。

 目を逸らして逃げるのもやめる。

 ゆっくりと服を脱ぎさる。

 暗いと言っても好きな子の前で裸になるのは恥かしかった。それでいて見られて興奮する性癖ももってるため、悪くないと思う僕もいる。

 そして、僕は衣服厳禁である彼女の領域に、敷布団とベットの段差――服を着る者と服を脱ぐ者の差を超えてゆく。ベットの上にのった瞬間、何を思ったか璃月も起き上がった。そして目が合って僕は名を呼ぶ。


「・・・・璃月」

「ん?」

「璃月のベットって、衣服厳禁だったよね?」


 月明かりに照らされた綺麗な顔を持つ璃月は、僕の身体を見て驚きを隠せない様子だった。それからか細く返事をする。


「・・・・・うん」


 璃月は僕を真っ直ぐに見て何かを思った様子を見せる。

 その後、視線を下に動かす。そこから数秒の間、僕の身体をマジマジと見たのちに月明かりの青白い光りでもわかるくらいに顔を赤くした。

 本当にえっちな子でしかない。だが、そんなことは僕が言えた義理ではない。裸で、裸の璃月が寝ているベットにいるのだから。

 普通なら事案。けれど、僕たちにおいてはこれでも成り立ってしまう。最初から今日まで間、僕たちのイチャイチャはぶっ飛んでいることが多い。今更でしかない。

 僕はここに来た理由を告げる。


「僕、璃月と一緒に寝たい」

「それは、覚悟が・・・・できたって、こと?」


 この『覚悟』とは、昨日の・・・・いや、日付を先ほどまたいだので、一昨日の夏祭りの時に言っていた話だろう。

 僕の答えは決まっている。

 だから、真っすぐに、ただただ真っ直ぐに璃月を見つめたまま答える。もう目を背けることはしない。その意思を態度に込める。


「・・・・・うん。覚悟した」

「そっか」

「だからね、璃月、最初に謝ろうかなって思うんだけど――」


 最初に痛くすることを謝ろうとしたとき、彼女は布団がはだけて胸が見えてしまうのも気にせずに手を出すと、僕の唇を人差し指で抑えた。


「めっだよ。だって今日はお互いに謝るの禁止だもん」

「でも・・・・璃月。もう日はまたいでるよ?」

「寝るまでが今日なの。だから、まだ謝るのはめっなの」

「・・・・そっか」


 従うことにした。

 そして思う。謝られるよりも、もっとふさわしい言葉があると。だから『ごめん』の代わりにそっちを璃月に伝えることにした。


「璃月、好き」

「うん、私も好き。だからね、鳴瑠くん・・・・・いいよ。おいで」


 誘われるがままに、彼女の入っている布団の中に入ってゆく。

 僕と璃月の関係はまた1つ深くなり、夏休み最後の思い出を作ると共に、夏休みは終わりを迎えていく――。


 ☆♡☆♡


 9月1日――07時21分頃、璃月の家のリビング。


「鳴瑠くん・・・・・学校はどーする?」


 膝を抱えて泣いている僕に、璃月は優し気な口調で話かけてくる。今日から学校で、もうそろそろ準備を始めなくては、遅刻してしまう時刻になっていた。

 それがわかっていながら僕は動くことはしない。今日の学校をどうするかは既に決めていたからだ。


「休む」

「そ、そっか・・・・」

「身体、痛いから休む。歩けないから休む」

「うん、そっか、そうだよね。私もお休みするね・・・・・」


 目を逸らしながら璃月はそんなことを言う。

 2人揃って学校を休むことが決定した瞬間だった。

 どーせ、始業式なんて出たって良い事なんてない。

 終業式と同じで、つまらないスベリまくる校長のギャグを聞かされるだけだろう。そんなことの為に、無理して学校に行くことなんてない。

 もはや、罰ゲームじゃん。

 毒舌気味の僕だったが、たぶん、寝不足のせいだと思う。眠いと人に優しくできないよね・・・・・。睡眠の重要性がわかった今日この頃だった。

 そんな新しいことが学べた僕は璃月にポツリとこぼす。


「璃月ってえっちだと思ってたけど、想像以上だったよ・・・・・」

「私、えっちくない・・・・・・はずだもん」


 いつもの璃月の決め台詞にも声のはりがない。彼女に張りがあるのはつやつやのお肌だけだった。先ほどまでシャワーを浴びてたからか顔が赤い。

 軽口はこれぐらいにして。ここまでの詳しい経緯を軽く説明すると。

 僕と璃月は昨夜、文字通りの裸の付き合いをした。

 そこまではよかった。

 だけど、回数がえげつなかった。時間にして深夜0時から今朝の06時09分頃まで行われていた。いや、正確に言えばアホ毛を♡型にした璃月が、僕の身体を使って勝手にことに及んでいたと言っても過言ではなかった。

 しかもだ。

 彼女は僕が何度「やめて」と言いながらガチ泣きしても、一切やめる気配を見せず、手錠をかけられ首輪を付けられ、逃げることもできなかった。

 そのため、僕はハイライトが消えた状態で、ただただ茫然とベットの上に横になってされるがままになっていたのだった・・・・・。もう何もかもが枯れていた。


「璃月の変態、ド変態、淫乱彼女」

「む、むぅー、変態も、ド変態も、いんらんもぉ、せーんぶ、悪口なんだからぁ‼」

「手錠を付けて逃げられなくしたり、首輪とリードを付けたりし始める彼女がそうじゃないと思うんですかね?」

「だって、だってぇ、もっともぉっと鳴瑠くんを私のにしたかったのぉ‼」


 ちょっとキュンときちゃった僕がいた。

 とはいえ、可愛い理由だったとしても、やってることはえげつないのには変わりなかった。休憩なしとか辛いよ。


「そもそもだよぉ。彼女にだって、言っていい事と、悪い事があるんだから。この、このぉーバカ‼バカナルくん‼」

「身体中どろどろで、泣いても、何を言っても聞いてはくれなくて、怖かったなー」

「仕方ないじゃん、鳴瑠くんの鳴いてる声が可愛すぎて、止められなかったのぉ‼」

「字がおかしい・・・・」

「でもさ、鳴瑠くん。君だって虚ろな目をしながらも気持ちよくなってたじゃん。私知ってるんだから。毎回毎回、気持ちよーくなる度に、私の名前を何度も何度も呼びながら、ぎゅーって痛いくらいしてきてたもん。あーあ、あの『なーくん』可愛かったなぁー、素直でかわいかったなぁー、もう1回みたいなー」


 えへへーと笑いながら璃月。

 やばい、恥かしい話を出されて、僕、辛い・・・・・。

 ちなみに、璃月の言った『なーくん』はもちろん、僕のこと。

 彼女がえっちな状態、もしくは、感情が高ぶったりしたときに出るようになった僕のあだ名である。ちなみにお姉ちゃんもそう呼んでくるけど、璃月に呼ばれる方が断然好きだった。お姉ちゃんごめん。

 また、最中ことある事に呼ばれていた為か、反射的にえっちな気持ちになりそうだなととか思ってしまう。今に関しては絞りつくされた後なので何も来ないけどね‼


「それにしても、ほんとーに鳴瑠くん、可愛かったよぉ。ぎこちない腰の振り方とか、見ててキュンキュンしちゃったよぉー」

「僕が責めたの2回までじゃん‼」

「でも頑張ってたよ。私の為にいっぱいいっぱい頑張ったねー」


 わーわー、それ以上、言わないで‼

 恥かしいよぉー‼

 もう少し経験を積みたい所存の僕である。


「あーもう。それ以上、僕の恥かしい話をするなら、璃月の恥かしいことも言っちゃうからね」

「私、恥かしいことないもん」


 既にいくつか出されてると思うの・・・・・。

 僕はそんなことを思いながら、


「このおねしょた好き‼」

「ひどい‼それ、悪口‼と、ゆーよりもそんなえっちぃ子じゃないはずだもん‼」

「おねしょた好きじゃなかったら、僕に自分のことをお姉ちゃん呼びさせないよ‼」

「鳴瑠くんも、虚ろな顔しておいて、ノリノリで呼んでたじゃん‼」


 く、痛いところをついてくる。

 このままではバレてしまう。虚ろな顔をしてされるがままになってる状態が、たいして嫌じゃなかったことが・・・・。

 おねしょた風なのもいいことがバレてしまう。幾度となく「気持ちいい?」てお姉さん風に訊ねられるのが悪くないわけがないじゃないか・・・・・。

 人間、気持ちのいいことには勝てない。

 劣勢になったので、僕はすぐさま話題を変える。

 状況判断も社会人には大切だ。このことを軸に面接で話せば、きっと採用まったなしだよ。絶対に言えないけどね。


「璃月が僕の身体を開発するから、全身性感帯の改造人間だよ‼」

「改造人間、いいじゃん。ヒーローと一緒だよ‼」


 その考えはポジティブ過ぎない?

 なおも続ける璃月。


「それに鳴瑠くんが絶対にお尻の穴だけはいやってゆーから、そこだけはやめてあげたじゃん。私、ちゃんと君のこと考えてるじゃん」

「配慮の仕方が微妙すぎじゃないかな」


 むーとお互い見つめ合う僕たち。

 それから僕から再びは言い合いが始まる。


「えっち璃月‼」

「えっちくないもん‼」

「淫乱璃月‼」

「い、いんらんじゃないもん‼」

「大好き愛してる璃月‼」

「えっちくな・・・・なーくん、好き、大好き、しゅき♡」

「変態‼」

「しゅ・・・・変態じゃないもん‼」

「しゅき‼」

「えっちじゃ・・・・しゅき‼」

「もうほんと好き。もうずっと一緒にいたい‼」

「私も、もう1回しゅる?」

「今日はしない‼」

「する流れだよー」


 ガチで数週間は待ってほしかった。

 あんまり歩きたくないくらいに下半身を中心に痛い。お風呂にだって無理に入ったと言っても過言じゃない。


「あとさー鳴瑠くん。返答間違えちゃうから、愛を囁くか、罵倒するかどっちかにしてほしいの。私的には愛しか囁かないでほしいの」

「うーん、ワガママだなー」

「ワガママじゃないのぉ。私は愛がほしいの」

「わかったよ。僕はどんなに犯されても璃月のこと大しゅき‼」

「なーくん・・・・・待ってよ。お、犯すとか言わないでよぉ。愛を囁いてくれたのは嬉しいけど、余計なのいらないよぉ‼」

「えー」

「えーじゃないよぉ。そもそも、そのぉー、ちょくちょくさぁ、鳴瑠くんも、私にお、おかされて気持ちよぉーくなってたじゃん」

「むぅ、そ、そんなことないわけがあるわけじゃん‼」

「どっち‼このえっち鳴瑠くん大好き‼」

「それよりも気になってたんだけど、身体は大丈夫‼」

「うん、平気。心配してくれて、ありがと・・・・・」


 突然のド直球な言葉に璃月は、ここまでの行き良いもなくなり、普通に照れてしまったようだった。

 ここまで色々言ってきたり、言われたりしたけど、その言葉を聞いて僕は安心しちゃって。せっかく止まった涙がもう1度流れてしまう。

 どんなにひどい・・・・ううん、気持ちいい目にいっぱいあわされて、その照れくささから変な態度になってしまったわけだけど。

 何やかんや言いながらも、心の底ではやっぱり璃月の身体が心配で心配でどうしようもなくって。本人の口から『平気』だって聞けて僕は安心して涙が再びあふれ出てしまう。


「うぅぅうう、ぐす」

「え、え、鳴瑠くん。きゅーにいっぱい泣いちゃって。どーしたの?痛いの?私がいっぱいやり過ぎちゃったから痛くて我慢できないくなちゃったの?ごめんね、ほんとーにごめん?」

「ううん。体は痛いけど、この涙はそれじゃないよ。あと、まだ寝てないからお互いに謝っちゃだめルールは適用中」

「たしかにそーだけどぉ!?」


 と、困った顔をする璃月。

 彼女はふと考えて、思いついたように僕に提案してくる。


「よしよし。よしよししたあげよーか?」

「して」

「うん、したあげる。・・・・・あと即答してたけどね、鳴瑠くん。君ね、私のおねしょたバカにできないからね」

「おねしょた好きの璃月も好き」

「なんだか、さっきまでの罵倒し合っていた流れが茶番とか、言われ損な気分」


 そう言いながらも璃月は僕の頭を撫で始めてくれる。

 正直いって、最高だった。

 彼女は撫でながら訊ねてくる。


「で、どーして急にもっかい泣いちゃったの?」

「璃月の身体に何もなくって安心しちゃった」

「そっか」

「あと璃月が初めてのわりに、痛そうじゃなかったからよかたっなって」

「うん。あれは私もびっくり。たぶん、体質の問題だと思うんだけど、驚くほど痛くなかったよ。むしろ、気持ちよすぎて気持ちとか爆発しすぎて朝までしちゃったよ」

「ほんとうに怖かった」

「璃月お姉ちゃんは怖くないよ」

「おねしょたにハマった彼女とどう接していけばいいかわからないよ」

「甘えればいいと思うの」

「それよりもね、璃月」

「お姉ちゃんの話、無視しないでほしいかな」

「とにかくね、璃月」

「わかった続けて、鳴瑠くん」

「結果はどうあれ、頑張ってくれてありがと、璃月」

「なーくんも、頑張ったよ。えらいよ、えらいよ」

「璃月も頑張ってえらい、えらい」

「えへへー、このままの流れで――」

「璃月、マジでえろい、えろい・・・・・」

「・・・・」


 僕たちは落ち着くまで、抱き合っていた。

 それから朝ごはんを食べて、ゆったり過ごす。

 僕はまだプレゼントを渡してなかったことに気づく。関係も深くなったタイミングだし、プレゼントを渡すのにもちょうどいい機会かも。

 なんて思って、僕はリュックから2つの紙袋を取り出して、ダイニングテーブルの目の前に座る璃月にそれを差し出す。


「これ璃月への・・・・・んー、とぉ、これあげる」


 いざ渡すとなると、なんだか照れ臭い。そのため僕はそっぽを向きつつ、ぶっきらぼうになってしまった。

 僕の声が小さかったためか、璃月は差し出されているこれがプレゼントだとは思っていないらしくアホ毛で?マークを作っている。


「ん?」

「えーと、ね。これプレゼント」

「ぷれぜんと?」

「そう。璃月にまだ1回も渡してなかったから、そのぉープレゼントを用意してきたんだけど・・・・・受け取ってくれる、かな」


 しどろもどろになりながら、今度こそ伝えた。

 そうすると、今度は全て理解したようで、璃月のアホ毛は!マークになった。


「もらう。絶対もらう‼」


 嬉しそうな顔をすると、目の前の席から僕の隣の席に移動してきた。

 それから、キラキラと光る目を僕に向けてくる。


「開けていいの?」

「うん」

「やったぁー‼」


 それから「なにかな、なにかな」と足をパタパタ、アホ毛をパタパタしながら袋をあけてゆく。


「2つ?2つもあるよ、ナーくん‼」

「うん、璃月にどっちも似合いそうだなって思ったから2つあげようかなって」

「そーゆーとこは決断力あるね‼」

「う、うん」


 『そーゆとこは』以外の決断力のなさってあれかな。4ヶ月近く、待たせたヤツのことかな・・・・・。タイムリーな話すぎて、ちょっと気になる僕。 

 で、璃月はというと、大きな紙袋から小さな箱を2つ取り出し開いた。


「はわわわ、月のペンダントと、鳥の髪飾りだぁー」

「うん、どーかな・・・・」

「とってもきゃわわだよぉ。にゃーきゅんみたいできゃわわだよぉー」


 言語能力の低下については心配だけど、喜んでくれているようで何よりだ。

 彼女はむふふーと笑いながら髪飾りを付ける。言語能力の低下なんて、彼女の笑顔に比べれば大したことではないかもしれない。

 僕はそう思うようにした。


「ねぇ、ナーくん。ペンダント付けてよ」

「うん、いいよ」


 そう言って、璃月は僕に背を向けて後ろ髪をかき分けて、細い首を露わにする。正直「ちょっとえっちだな」とか思いつつも僕はペンダントを付けてあげた。

 ペンダントを1度見て、璃月は笑ってアホ毛をぶんぶんさせる。

 そして、


「似合ってる?似合ってるよね?」

「とっても似合ってるよ。何でも似合っちゃう璃月は流石だよ」

「違うよ。なーくんにセンスがあるんだよ」

「そんなことはないよ。璃月が可愛いから」


 と、数十回にわたって褒め合う。

 それも満足して、僕たちはコクコクと船をこぎ始める。

 活動できる時間は限界に近かった。

 それも仕方がないこと。なんたって、一晩中起きていたのだから。

 流石にダイニングテーブルに伏せた状態で眠れない。といってもベットまで行く気力は無い。僕たちは絨毯の上に眠ることにした。

 2人並んで寝転がる。


「なぁーくん」

「なに?」

「いつ呼んでくれるの、かな?」

「なんのこと?」

「ほら、あのときの私のあだ名。とってもショタぽくて・・・・・違うの。とっても可愛い呼び方だったから聞きたいなー」

「えーと、呼ばなきゃダメ、かな」

「ムリにっては言わない。けど、たまに呼んでほしいかなー」

「うーん」

「呼びながら好きって言ってくれたらいい夢見れるきがするの」

「それ強制だよね」

「ううん。個人の意思に任せるの」

「そっか・・・・おやすみ。大好きだよ、・・・・・りーちゃん」

「私も、大好き。なーくん・・・・おやすみ」


 互いの体温が心地よくて安心する。

 昨日の眠れなかったのが嘘のように、まどろみがすぐに訪れて、2人でそれを受け入れる。僕と璃月はこうして眠りについたのだった。

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