第73話 紅葉狩り
空は雲が1つない秋晴れ。
どこまでも続くような清々しい蒼い色が広がる。
山々にある木々の葉は、赤色、黄色と様々な色合いに染まり鮮やかだ。
地面には草が少なくなり土の茶色が多いが、ところどころに落ちた葉の赤色、黄色が差し色として入り始めている。もう少し時期が遅ければ、赤色と黄色の絨毯が見れるかもしれない。
そんなここがどこかと言うと、人気のハイキングコースもある近場の紅葉が楽しめる山。その名も
少し前に宣言した通り、山に紅葉狩りにやってきたわけだ。
ここまで電車とバスを乗り継いで片道2時間半・・・・遠い。めっちゃ遠かった。
とはいえだ。
璃月とのプチ旅行みたいで最高によかった。
実は2人で数時間かけてどこかに行くのは初めてのこと。そのため、わくわくが止まらず、昨日もあまり眠れていなくて寝不足気味だったりする。
移動中に眠れたらよかったんだけど、電車やバスの窓に液晶画面のように移り変わる景色を璃月と見たくて、眠ることはできなかった。
そもそも寂しがり屋さんの璃月が僕を寝かせてくれるはずもない。あの日の夜のように・・・・・(言ってみたかった)。
ふりそそぐ秋の日差し、肌を撫でる風に眠気を誘われてしまう。
「ふぁぁ」
と、あくびを漏らす僕。
その様子を見て璃月は、秋の優しくも儚げな日差しのように優しく微笑む。
そして、静かに訊ねてきた。
「あ、もしかして、紅葉狩りのつまらさに、あくびしちゃった?」
「紅葉狩りに対して優しさの欠けらもない暴言だね‼」
「山に入ってまだ10分くらいなのに、あくびしてたからさ」
「ただ寝不足なだけだから。ビックリするくらいに表情と言葉があってなくて、なんか誘われた眠気も吹っ飛んじゃったよ」
「む、鳴瑠くんを寝ることに誘っていいのは私だけなのに。秋の日差しと風と浮気なんて鳴瑠くん酷いよ。しかも二股」
「彼氏に対して『秋の日差しと風に二股浮気した』とか言ってくる方が絶対に酷いと思うんだけど」
人外との浮気シリーズを増やしていくのはやめてほしいの。
僕は一途で、璃月一筋だから。
そもそも、僕が眠気を誘われていた側。ようするにアプローチされてただけだからね。ちゃんと断ろうとしたし。
と、心の中で変な言い訳をしていると、璃月は可愛く「冗談」と言って続けた。
「私、知ってるもん。鳴瑠くんが私とのプチ旅行を楽しみにしてて眠れなかったことくらい。まったくもぉ、遠足前のショタみたいで可愛い」
璃月は興奮したように、アホ毛を♡にさせるとだらしなく頬を緩ませる。それから僕のほっぺをムニムニ、頭を撫でまわしたり、時々おっぱいを当ててきたり。
ショタを可愛がるが如く璃月は、僕をイジリ倒してきた。
ガチでショタ好きを拗らせてんなぁ・・・・。
そんなことを思いながらも僕は拒否しないし、引いたりもしない。
なんでかって?
決まってる。
こうされるのが最高だからだよ‼
「おっといけない。僕たちは紅葉狩りを楽しむ為にきたんだよ」
「楽しいね、紅葉狩り。こうして鳴瑠くんを撫でまわすことができるんだもん」
どこでもできるし、何よりけっこうな頻度でコレやってるよね?
そんなことを思いつつ、紅葉の存在を璃月にアピールする。
「璃月、もっとこー、紅葉がなきゃできないことじゃないと」
「違うでしょ」
「え・・・・えーとぉ?」
「私のことは璃月じゃなくて、璃月お姉ちゃんでしょ」
・・・・・そっち?
今のところ、100%紅葉ガン無視だけど、いいの?
「大好きな璃月お姉ちゃん。紅葉はみないの?」
「うーん、私思うの」
「なに?」
「ここにいれば嫌でも目に入るし、わざわざ見なくてもいいかなって」
「よし、僕たちをもってしても、紅葉狩りに楽しさは見いだせなかったという結論でいいね。そんなわけだから帰ろうか」
「まだ、まだその結論にならないで。複雑で寂しいよぉー」
そう言って手を繋いで帰ろうとする僕を引き留める。
どんな引き留め方かというと、散歩から帰りたくない犬のように、どんなに手を引いても歩き出さない感じに似ていた。犬みたいで可愛い。
可愛いのは当たり前として。
2人でいるのに、楽しさが見いだせていないこの現状に、璃月がやっぱり嫌らしい。正直、僕もあんな結論を出しながらも同じ思いだったりする。
璃月はそれから、むー、と唸り考えると。
「あ、鳴瑠くん。1つだけ楽しめるかもしれないの、あったよ‼」
「え、ほんと‼なになに?」
僕の嬉しそうな反応を見てか、璃月はまだ何も言っていないのに『褒めて褒めて』と犬の尻尾のようにアホ毛を振って近寄ってくる。
この大きなわんちゃん可愛い。
飼いたいなー。
そんなことを思いつつ、僕は頭を撫でることにした。
気持ちよさそうに目を細めて「わうー」と唸る璃月。どうやったらこのわんちゃんを飼えるんだろ。そっか、婚姻届けに判を押して役所に届ければいいんだ‼
今すぐ帰って婚姻届けが書きたくなる僕。
ふと気づく。
僕はまだ年齢的に結婚できないことに・・・・ちっ。
年齢なんてただの飾り。そんな重要視することなのかな。年功序列も何が偉いのかわかんないし、能力ある人が上でよくない?
そんなわけで、結婚してもよくないかな。
論理も法も何もない超理論というか、最初から全てが破たんしている話しはさておいて。璃月の思いついた話しに戻ることにした。
「絶対に紅葉を使って、コレやったら楽しいの」
「何なに?」
「ショタ鳴瑠くんと璃月お姉ちゃんが、紅葉を使っておままごとするの」
「帰ろうか、璃月」
「やぁーだー、ここまで2時間半。めっちゃ遠かった。まだ遊びたいのぉー」
駄々っ子のように言う璃月。
どこにも璃月お姉ちゃんはいなかった・・・・・。
いやね、さすがに紅葉を使ったおままごとは、璃月の頼みでも辛いかな。やるんだったら、えっちな新婚さんごっこの方が好みかなー。
健全よりもえっちを取る僕がいた。
「紅葉の上に泥団子を乗せて『食べて、璃月お姉ちゃん』って可愛く私は言われたいの。紅葉をお金に見立てて『これ今月の生活費。璃月お姉ちゃんの為に稼いできちゃった』とか可愛く言われたいのぉー。私の細やかな夢なの‼」
ほんとショタを拗らせてるな、僕の彼女。
そもそも、1つ目のシュチュエ―ションはあるけど、2つ目はなくない?
そんなこと言っちゃうショタとか嫌じゃない?
僕が紅葉を使ったおままごとに乗ってくれないとわかると、可愛く口をとがらせる。まったく、えっちなおままごとなら、いくらでもしてあげるのに。
そんなことを思う僕に、璃月は新たな提案をしてきた。
「おままごとはいい。それはいいから、もうちょっとライトなのしてほしい」
「・・・・一応、きこうか」
「何やかんやお話を聞いてくれるナーくんしゅきー」
と、愛を囁きピョンピョン跳ねてから、彼女は代案をだした。
「ショタ鳴瑠くんが、大好きな璃月お姉ちゃんの為に綺麗な紅葉を探してプレゼントするのはどーかな。絶対に楽しいと思うの‼」
「もう帰ろう・・・・きっと、璃月も寝不足なんだよ」
「いーやーだぁー」
再び璃月お姉ちゃんはどこかに消えた。
むぎゅー、とほっぺを膨らませる璃月は、とっても可愛い・・・・。
「可愛い思い出が欲しいのぉ。可愛いショタの鳴瑠くんが一生懸命、私の為に探してくれた綺麗な紅葉(顔くらい大きいやつ)が欲しいのぉ‼」
めっちゃワガママになっていた。しかも注文がさりげなく増えてるし。
ここでよくよく考えてほしい。
僕は今年で高校1年生であり、リアルの姉がいるそんな男子学生だ。
いくら大好きな彼氏をショタ扱いするおねショタ好きの彼女に喜んでほしいからって、高校生がショタ化して綺麗な紅葉を探すなんてことすると思う?
答え――する。
「璃月お姉ちゃん。これ、プレゼント‼」
「わぁーありがとー」
10分以上かけて探した『綺麗かつ顔くらい大きな紅葉』を僕は大好きな彼女お姉ちゃんにプレゼントしたのだった。
おかしい。
確実にやらない流れだったはずなのに・・・・・。
喜んでくれた顔を見れて僕はどうでもよくなった。探す様子から渡す様子まで全部を動画で撮られていたけど、どうでもよかった。
だって、僕の幸せは璃月の幸せだもの‼
「うーん、おままごとはできなかったけど、案外2人で紅葉狩りに来れば楽しいね」
「紅葉狩りというよりかは、ショタを楽しんでいたような」
「違うもん。ショタじゃなくて、狩りを楽しんでたんだもん‼」
なんか『狩り』と訳されると、とっても血なまぐささを感じる僕がいた。
紅葉が赤いから、視覚的には余計にそう思えちゃうし。
くだらないことを考える僕に、璃月は訊ねて来た。
「私ばっかになってるけど、鳴瑠くんは何かやりたいことないの?」
「僕は、とくにショタ好きじゃないし、特にやりたいことはないかな」
「本筋を見失ってるよ、鳴瑠くん。今回は紅葉狩りの楽しみを見つけるための旅行だから。ショタプレイの一環じゃないから」
「ごめんごめん、勘違いしちゃったよ」
その勘違いの理由も、璃月のお願いがそっち方面だったなんだけどね‼
さておいて。
特にやりたいことはなかった。
もしあるとしても、普通に璃月と同じ景色が見れればいいなんていう珍しく普通のことくらい。正直、紅葉じゃなくてもいいわけで。
そもそもの話、どうして璃月と一緒でも紅葉狩りに来ても盛り上がらないと思ったんだっけ・・・・・。
考えてみて、1つの答えにたどり着く。それは、もっとも単純なものだった。
「紅葉も綺麗だけど、毎日のように綺麗なものを見てるから。だから、綺麗な紅葉を見ても僕は大して新鮮味が感じられなくて、盛り上がらないと思ったのか」
と、納得する。
僕の言葉に、璃月は「はて?」と?マークをアホ毛で作りながら僕に訊ねてきた。
「なに、急に」
「璃月と紅葉狩りに来ても盛り上がらないと思った理由だよ」
「理由?」
「うん。ようするに、毎日のように僕は綺麗で可愛い璃月を見てるから、紅葉を見ても大して綺麗とは思わないというか。この世の全てが璃月の綺麗さと可愛さに敵わないんだもん。そりゃ盛り上がらないよねって話」
「それってつまり・・・・」
「璃月が綺麗だって話‼」
「む、むぅー」
紅葉のように顔を赤くする璃月。
尚も続ける。
「ズルい。そーゆーの、急にズルい」
「めちゃくちゃ照れてる?」
「当たり前。褒められたら、いつもは可愛いしか言わないし」
たしかに、常日頃『可愛い』とは言ってるイメージがあるけど、『綺麗』と褒めたことはあまりなかったような気がする。
これはなかなかいい。
「顔が赤い璃月も綺麗だなぁー」
「も、もぉー鳴瑠くんは、ナーくんはそーやって私にイジワルするんだから」
「嫌いになっちゃう?」
「・・・・もっとぉ・・・・・大好きになっちゃう」
「璃月、ぎゅーするね‼」
「してもいいんだから」
僕はたまらず璃月を抱いた。
とりあえず、紅葉狩りもいいものだと思った(紅葉関係ない)。
そんなこんなで、同じ景色を璃月と一緒に見てまわり、頃合いを見て帰宅した。
もちろん、帰りの電車とバスの中では2人寄り添い眠った。
そのかいあってか、家に着くころには、寝不足は治っていたのだった。
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