第72話 お尻と狩りと宣戦布告
ある日の休み時間のこと。
2人で1つの椅子に隙間なく身体をくっつけて座っておしゃべりをしている。
こうして座っているとふと思う。お尻同士が当たって、お尻でちゅーしてるみたいでなんかえっちぃ。
基本的には僕はアホ毛派。
おっぱいとお尻ならおっぱいを選ぶ人種だ。
ようするに、あまりお尻には興味ないはずなんだけど、改めて璃月とお尻をくっつけてみて思った。小っちゃくて柔らかくて可愛くて魅力的でいいな、と。
璃月の魅力にまた1つ気付けた話はこれくらいにして。
お尻に関してはこれくらいにして、意識をおしゃべりの方に向ける。
「鳴瑠くん、色んなことが好きな私だけど、理解できないこともあるの。今回、それを少しだけ紹介してみようと思うの」
「突然、どーしたの」
「ただ鳴瑠くんとお話したいだけだよ」
僕のほっぺをぷにぷに人差し指でつっつきながら璃月が言う。
ならしょうがないな。
それにしてもほっぺぷにぷにされるのしゅきぃ・・・・・。
「○○狩りっていくつかあるでしょ。いちご狩りとか、ブドウ狩りとか。そうゆーのに、理解できないものがあるなと、授業に飽きたときに気づいたの」
「うん、うん・・・・ん?」
授業に飽きちゃったのかぁー。そこには言及しないであげて思う。
たしかに『○○狩り』って言葉。よくよく考えると多い気がする。
璃月のことが何でも知りたい僕は、話を聞くことにした。
「理解できないのは全部で3つあったの」
「けっこうあるね」
「うん。題してシリーズ1――『私3大わけがわからない○○狩り』」
シリーズってことは、今後も続いたりするのかな?
璃月との時間はこの先も続いてゆくので(別れたりするフラグとかではない)、おいおい聞いていくとして。今回の話を聞くことにする。
「まず1つ目。ボンタン狩り」
「ヤンキーがやるやつだ‼」
話しには聞いたことあるけど、実際にその狩りがなされているところを見たことがない。それをしたら確実に暴力沙汰なわけだし、見たくない。
そもそもボンタン自体、璃月の勧めで観た特撮作品の主人公が履いていたから知っていたものの、普通の生活でまずお目にかかることはないだろう。
あれ・・・・・でもボンタンではないけど、
「璃月ってよく僕のズボンとパンツを脱がしてくるよね?」
「・・・・・」
「やってることは――」
「近くない。それに鳴瑠くん、私に脱がされるの好きじゃん。上着とか『はーい、ばんざーい』って言うと喜ぶじゃん。ズボンだってそー。私に脱がされるの興奮――」
「これ以上はやめようか」
基本的に他者に見られた上でイチャイチャするのは僕は好き。
だけど、教室内で璃月とのおねショタプレイを暴露されるのは何か嫌。アレは僕と璃月、2人だけの秘密というか。2人の時だからやってるのであって・・・・。
とにかく、これ以上は話されたくないので咳ばらいを1つして話題を変える。
「たしかに、璃月の言う通り、僕たちの感性からボンタン狩りはよくわからないね」
「でしょ。力よりも私は愛を示したい」
ちょっとカッコいい。
愛を持って僕のズボンやらをお姉さんぽく脱がすだけはある。
また、愛を示すように璃月は僕の頬にちゅーをしてくれる。幸せ。
「考えてみたの。今の時代、これをしたらどうなるのかを」
「警察に捕まっちゃうというか、補導されると思うけど」
「うん。それもだけど、もっと大変なことになると、私は気づいたの」
「大変なこと?」
警察に捕まるとか、補導以外に大変なことってあるのかな?
そう思うものの、警察に捕まるのも補導されるのも、どちらもピンとはきていなかった。殴り合いの喧嘩をしようとも、したこともないし。
もし警察のお世話になるとしたら、璃月との野外プレイのときかも・・・・・注意が必要だ。する予定は今のところ未定。
「そう。ボンタン狩り。よーするにこれって男の子たちがズボンを脱がし合う戦いなんだよね。つまりだよ。これってBLネタにされちゃいそうじゃないかな」
「たしかに、されそうだけど。警察にどうにかされる方が大変じゃない?」
社会的だったり将来的に就職とか難しくなりそうだし。
あ、『警察にどうにかされる』と言ったけど、BL的な話じゃないよ(重要)。
「いやいや、学校中でネタにされるの心にくると思うよ」
「そうかな。だって、妄想の中でしょ」
「鳴瑠くんにお知らせがあります」
「何でしょうか」
「鳴瑠くん、私とお付き合いする前ね。色んな子の妄想の中で、BLカップリングされてました。ちなみに『総受け』にされてた」
「初耳なんだけど・・・・。複雑な上に、急にお尻に違和感が・・・・」
最初にお尻の話をしてたから余計に意識しちゃう。
お尻が狙われている気がして怖くなり、璃月に助けを求めるように抱きつく僕。それを彼女はこころよく受け入れて抱きしめてくれた。
ここぞとばかりに、おっぱいに顔を埋めてみたりしておく。
璃月のおっぱい、柔らかくて温かくていい匂いがして好きー。
幼児退行して逃避をするのはこれくらいにして、現実に目を向けることにした。
たしかに、心にくるものがあった。
いくら妄想の中とはいえ、知らない男にお尻を・・・・・と思うと怖い。BLのことは詳しくは知らないけど、『総受け』ってことは、どんな人とでもということで、お尻を狙われる方なんでしょ・・・・。
また、誰が言ったのかも気になるし、『総受け』の理由も聞きたいような、聞きたくないような、複雑な気持ちにされて人間不信になりそう。
何より過去のことだろうと、男とだろうが、妄想だろうと、璃月以外の人とカップリングを組まれるのが辛い。一途を生業としているから余計だった。
んー。と、唸りながら、なんとも言えない気持ちの僕は璃月のおっぱいに甘える。そんな僕の頭を優しく撫でながら璃月は言う。
「安心していいよ。私の所属する〈オー・ネショタ〉が〈ビー・エルズ〉と交渉してくれて、その手の妄想は今はなくなったから。もしあっても私がこの学校で戦争を起こす。君とのカップリングは永遠に私のもの。おねショタカップリングでもそれは同様。仲間でもそれをしたら、戦争を起こすから」
「・・・・・僕、璃月とだけがいいから。そこまでしてくれて嬉しいよぉ」
「私のおっぱいに甘えてかわいいね♡」
「璃月、大好き」
「うん。知ってるよ。ほら、もっといっぱいおっぱい飲んでいいからね♡」
待って。流しちゃいけないのあったよね、さっき。とっても不穏じゃなかった?
おっぱい飲んでる場合じゃない(飲んではない)。
なに〈オー・ネショタ〉って。なに〈ビー・エルズ〉って。戦争ってなに?
そもそもこの学校にそんな派閥あったの?
この学校には、まだまだ僕の知らないことで満ち溢れているらしい。
「次に鳴瑠くんのお尻に何かある時は、この私がお尻を性感帯に改造するときだし」
「この学校の謎の派閥とか、戦争とか、それよりも恐ろしい言葉が・・・・・」
「気持ちのいいことは良い事」
何が平気なのかはわからないけど、とりあえずは璃月にお尻を向けて寝てはいけないことだけは確かだ。そんなことを思いつつ話を戻す。
璃月は『私3大わけがわからない○○狩り』を発表する。
「2つ目はね、魔女狩り」
「たしかに、理解はできないし、僕も璃月と同じなんだけど――」
ここにきてガチのきちゃったか・・・・。という思いが強かった。
ぶっちゃけよう。
僕は今、コメントにめちゃくちゃ困っていた。
ちゃかしずらい上に、してはいけない気がする。
詳しくはわからないけど、闇が深そうだし、可哀想な話だっていうのは知ってる。なので、早々に話を次に進めることにした。
次も重い系ならどうしようかな。
そんな想いがありつつも璃月の話を聞く。そして、最後の『私3大わけがわからない○○狩り』はというと。
「最後。3つ目はなんと紅葉狩り‼」
「・・・・・」
「まさかの無言!?」
「いやー、うん。そうだね」
「反応うっす・・・・」
「いや、なんていうか。『魔女狩り』の後だと・・・・肩抜かしというか」
たしかに、紅葉狩りのわけのわからないさはある。アレって紅葉を見るだけで、それ以上もそれ以下もない。何が楽しいのかわからないまである。
だけど。
『ボンタン狩り』よりも話が盛り上がる気がしないし、『魔女狩り』よりも常識から逸脱していない為に、『紅葉狩り』にはインパクトが欠けていた。
もし言うことがあるとすれば、話す順番が悪かった・・・・・・。
「私、もっと、もっとぉ、鳴瑠くんとお話したい」
「えー、仕方がないな」
愛する彼女の頼みなら、その彼氏である僕が応えないわけにはいかない。
何を話せばいいのかわからないけどやってやる。人は無謀ながらもあがき続けなくちゃいけな時がある。それが今だったというだけの話だ。
ちょっとカッコいい。欲を言うなら、もっと決める時に言いたかった。
自画自賛しながら話し始める僕。
「うーん、これ璃月に言っちゃダメかもなんだけど」
「うぁ、酷い前置きだぁ・・・・」
「基本的に璃月と一緒なら何でも楽しいという自信のある僕だけどさ。紅葉狩りに一緒に行っても盛り上がらない自信しかないよ」
「絶対に私に言っちゃいけないヤツだよ‼」
涙目になりながら、僕のほっぺをむにーと引っ張ってくる璃月。
やってくることが可愛いのはさておいて。
僕が前置きした通りこれは確実に恋人に言うべき言葉ではないのはわかってる。
そもそもこの話自体が璃月の理解できない○○狩りというテーマで進んでいるのだから、そのような結論になってもおかしくはない気はする。
「璃月、僕と一緒に紅葉狩りに行くことを想像して考えてみなよ」
「えー、うん」
僕の提案に素直に従う璃月は、ぽけーとした気の抜けた可愛い顔をする。
それから結論が出たのか、そっぽを向いて言った。
「これ。鳴瑠くんに言っちゃダメかもなんだけど」
「どっかで聞いた酷い前置き・・・・」
「鳴瑠くんと紅葉狩りに行っても絶対に盛り上がらないと思うの」
「言われることわかってたのに、直接いわれるのきっつ‼」
「だよね‼」
マジでキツイ。泣きたくなるからね、これ。
難しい顔をして「「うー」」と唸りながら数分。それから何かを思い立ったように顔を合わせると、僕たちは同時に最愛の名前を呼ぶ。
「璃月」「鳴瑠くん」
きっと考えてることは一緒のはずと信頼しているからこそ、譲り合うこともせずに同時に口を開いて言った。
「「このままじゃ、僕(わたし)たちの愛が『紅葉狩り』に負けたみたいだから、2人で行って楽しんでやらない?」」
こうして、僕と璃月は楽しさが見いだせなさそうな『紅葉狩り』に宣戦布告。よくわからない戦いが始まろうとしていたのだった。
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