8章
第71話 衣替え
体育祭も終わって10月。
ある日の帰り道でのこと。
衣替えの季節となり、数ヶ月ぶりにブレザーに袖を通した。この姿の生徒たちを見ていると夏が終わって、本格的に秋になったんだって視覚的に思う。
ちなみに、さきほど生徒たちなんて言ってみたけど、実際のところ見ていたのは璃月だけだった。あー、可愛い。ずっと見てられる。幸せ。
ブラウス姿やカーディガン姿の璃月も最高だけど、もちろんブレザー姿の璃月もとっても可愛い。たぶん、この世の服は璃月に着られる為に生まれたんだと思う。
ブレザーの全てが彼女に似合っているのがその証拠。
少し厚めのブレザーが胸の形に押し出されているところとか、うん。僕、大好き。
装い変われど、変態なのは変わらない僕だった。
それに僕と璃月が付き合い始めたのは、ブレザーを着ていた時期。その姿が久々に見れたのがうれしかったりする。懐かしさすら感じるよ。
手を繋いで隣を歩く璃月のブレザー姿をずっと見ていると、彼女は「ん?どーしたの?」とばかりに小首をかしげて訊ねてきた。
「鳴瑠くん。可愛い目でそんなに私を見て。もしかして私の制服が着てみたいの?」
あらぬ誤解にもほどがある。
衣替えって『夏服から冬服に』替わる話じゃなくて、『僕と璃月の着てる服』を替える話なの!?
メタ的な話はさておき。
小首をかしげる様子が可愛いな、なんて言おうとしてたのに。どう勘違いをすれば、『もしかして私の彼氏、私の制服を着たいのかも』なんて思うのか。
さすがに彼女の制服を着たいって提案するのは、ド変態彼氏過ぎる。鬼畜彼氏過ぎる。あれ、どっちも今更だな。
これも普段の行い・・・・いや、璃月の服が着たいなんて言った憶えないな。璃月の布団にくるまりたいって言ったことはあったけど。
「違うよ。ブレザーを着ている璃月が懐かし可愛いから見てたんだよ」
「なーんだ。てっきり、私の制服を着ることによって、常に私に包まれていたい、そんな願望があるのかなって思ったんだけど。勘違いか」
「たしかに。璃月の服を着れば、実質常時抱かれてる状態。ようするに無敵じゃん」
何が無敵なのかは知らないけど。
さておき。どうして僕はそのことに今まで気づかなかったんだろ!?
混乱し始めていると信じたい僕。
決して、璃月の制服が着てみたくなったわけじゃないような気がしたりしてないかったりしちゃってるんだからね‼
何が言いたいかというと、制服が着てみたくなちゃってる僕だった。
「なら、着る?」
「うーん、でもなぁ・・・・スカートか」
「絶対に鳴瑠くんなら似合うって。あわよくば、私の色んなお洋服を鳴瑠くんに着せ替えたい」
「どうして『お姉ちゃんが弟を着せ替え人形が如く自分の服を着せようとする』イベントが発生しようとしてるのかな。実のお姉ちゃんにもされたことないのに」
「え、だって私。鳴瑠くんの恋人であり、お姉ちゃんなところあるじゃん」
あるの?
僕、知らなかったんだけど・・・・・。
それにだよ。僕と璃月って同い年だよ。しかも、璃月はまだ誕生日が来てないから一時的にも年下。・・・・・・年下お姉ちゃん。変態度高くない?
とはいえ。
年下お姉ちゃん、か・・・・・ありだよ。最高じゃん。
僕の変態度には上限などない。
「でもさ。彼氏がスカート履いてるのって、彼女的にはどうなの?」
「私は全然いーけど。だってどんな服着ても鳴瑠くんは可愛いと思うし。変な性癖に目覚めてもどーせ私が結婚するのは決まってるから責任はとれるもん。何にも問題ないもん」
「結婚前提でいてくれるのは嬉しいよ。責任をとってくれようとしてくれるのも嬉しい。嬉しいんだけど『どーせ』って部分のせいで素直に喜べないよ」
「ごめん。でもどんな鳴瑠くんになろうとも結婚してずっとずぅっと一緒にいたあげるのには変わらないから」
「璃月」
「ナーくん・・・・とりあえず1回。1回でいいから着てみよ?」
見つめ合って終わりかと思えば、ちゃっかり提案してくる璃月。
どんだけ僕に、自分の制服を着せたいんだよぉー。
で、僕がどんな反応をしたかと言うと、
「え、うーん」
「ほらほら、どーするの?」
「どーしよーかなー?」
「どーするか、決めちゃいなよ」
「だけどなぁー」
「ほら」
「え、もー」
「ねぇ、待って。どーして断ろうとしないの?」
「え、急になに!?」
あんなに女装を勧めて来ていたのに、急に手のひら返しのようなことをしてきた璃月。その様子に僕はビックリしてしまう。
それから確信をつくようなことを言ってくる。
「鳴瑠くん。今、満更でもないでしょ」
「そんなことはないよ」
「いやいや、私に押し切られるのを待ってるよ、絶対に。仕方ないって体で私の制服を着て責任転嫁しよーとしてるよね。私、わかる」
「いやいや、そんなことはないよ」
「私、この感じ知ってるもん。今の鳴瑠くんの態度ってアレと一緒だから分かるよ。押しの弱い女の子と一緒。押しが強い男の子と付き合っちゃう前段階ぽい」
「えー、そんなことないってばー」
「自覚がなさそうなところもまさにそれだよ・・・・いや、でも鳴瑠くんだし。絶対にわかっててやってる気がするんだよね」
確かに璃月の言うとおり僕は押しに弱いわけじゃない。
今までだって璃月に言われていろいろやってきてきたことはあったような気もする。手錠デートとか。でもそれは結局、僕の意思でやりたいと思ってやってきた。
もう1度いっとくけど、僕は別に押しに弱いわけじゃない。
たまたま。
今はたまたま押しきられそうになってるだけだった。
自分から彼女の制服が着たいっていうのは、なんか犯罪ぽいじゃん?
璃月の言ったとおり『仕方がない』という体でやろうとしている姑息な僕だった。
だが、それもさすがは璃月というべきか。
僕の考えなどお見通しのよう。意思疎通ができていて嬉しい反面、姑息な手をしようしていたことが恥ずかしくなってくる。
「・・・・む」
「ほんとは私の制服、着てみたいんだよね?」
「そんなことは・・・・――」
「私、欲望にも性欲にも愛にも純粋な鳴瑠くんのことが好きなんだよなー」
「んっ‼」
度々璃月は確かに言っていた。
純粋で素直な僕が好きだと・・・・・。
では、今はどうか。
自分の欲望をひた隠し、璃月の手によって制服を着させられるのを待っている。こんなの、こんなの、璃月の好きな僕と言えるのか・・・・・?
否、こんなのは間違ってる。
「ごめん、璃月。僕が間違っていたよ・・・・・」
「鳴瑠くん」
よくわからないけど。
自分の信念を曲げて道を外そうとしていたラノベとかアニメの主人公みたいな感じに僕はなり始めていた。
これが彼女の制服を着るか着ないかの話の流れじゃなければ、めちゃくちゃいい話になっていたことは今更なのでツッコまない。
そして、僕は素直になることにした。
「決めたよ、璃月」
「なに?」
「交換っこしよ」
「それってよーするに?」
「僕の制服を璃月が着て、璃月の制服を着るって感じ・・・・」
目を逸らしながらも提案する。
さすがの変態の僕でも、これを言うのはちょっと恥ずかしい。
だけど、これって、
「お互いのモノをお互いで共有する・・・・なんか恋人感とっても強い‼」
「でしょ」
「さすが鳴瑠くんだよ。自分で制服を着るだけじゃなくて、自分のも相手にも着せて目でも楽しむ。その上、仲のいい恋人感も出すなんて。さすがの発想力‼さすがの変態力だよ‼他を凌駕するえっちさだよ‼」
僕は泣きそうだった。
1つ思うんだけどさ。
璃月が僕の制服を着てもズボンだからたいして変態性はないけどさ。僕が璃月の制服を着るとスカートだから必然的に変態性が上がるのなんかズルくない?
それに社会的、視覚的にもヤバいわけで・・・・・・。
うーん、それを解決させた上でやりたい。
やると決めれば、とことんやる僕だった。
「ちゃんとウィッグとかも付けて、見た目もこだわろうかな」
「めっちゃ本気じゃん‼」
よくよく考えると恋人の服を着るなんてアレと一緒だよね。
突然お泊りをすることになって、彼氏の服を借りる的なやつ。
その逆である彼氏が彼女のスカートを借りるというシュチュエーションをあまり聞かないこと、何より制服を交換する機会なんてないことに目を瞑る僕。
そんなわけで、場所を移動して璃月の部屋。
お互いに制服を脱いで、交換して、着て、今に至る。
そして、僕は鏡を見てみたわけだけど――そこには僕とは思えない美少女(璃月には敵わない)がいた。
背丈は璃月とあまり変わらないので、制服の大きさに違和感はない。
髪は地毛の栗色に合わせたウィッグを使い、髪の長さを伸ばしてロングに。璃月がやってくれたハーフアップにまとめられているため、お嬢様感がある。こだわりのアホ毛も作ってもらってテンションが上がる。
問題のスカートだけど。普段のズボンと違って守備力があまりにも低い印象がある。空気に触れる場所が多いためか、スースーして落ち着かない。無駄な抵抗とわかっていながらも、ニーソックスを履くことで空気に触れる箇所を少なくしてみた。
若干、こだわった絶対領域もできている。
何より最高なのが、常時、璃月の匂いに包まれていること‼
最強のバフ。そのせいもあってか、ちょっと興奮しちゃう。決して女装をしているからじゃない。それだけは言っとく。
「うーん、なかなか可愛く仕上がったけど、璃月には負けるかな」
「いやいや、めっちゃめっちゃ可愛いよ。なーちゃん‼」
ちゃん付けはやめて。
目をキラキラさせたのは、僕の制服を身に纏う璃月。こちらもこちらで可愛い。可愛すぎてどうしても男に見えなかった。
セミロングの黒髪を束ねて、出来る限り短くしている。そのため魅力的なうなじが見えててえっちぃ。今すぐ抱き着いて近くでみたい。
そして、おっぱいがいい‼
ブレザーの隙間から見えるワイシャツ。それは璃月のおっぱいによりパツパツに。今にもボタンがはじけ飛んできそうで、それを顔面で受けたい衝動に駆られる。
なにより。大きなおっぱいが僕の普段使っている制服で主張している。その事実がなんかえっちぃ‼
でも、こうなってくるとアレだな・・・・・・。
僕は自身の胸に手を置くとポソリと呟く。
「・・・・・おっぱいがほしい」
「私の飲む?」
「ごめん。そっちも魅力的だけど、今は違う。『僕の』の話‼」
「そっちか。おっぱいの小ささを気にするようになった鳴瑠くんほんと末期。だけど、可愛い‼まだきっと成長期なんだよ‼」
なんか興奮し始める璃月。
成長期が終わってなくても、おっぱいは大きくならないよ。
そもそも僕にはロリ遺伝子(宇宙町家の人間が持ってる遺伝子)によって、一般的な人よりも身体の成長する見込みはあんまりない。
だからこそ、女の子の服でも簡単に僕でも着れちゃうわけだけど。
慰めるようにそんな僕の頭を撫でる璃月。
彼女はそれから僕をジトーと見ると思うことがあったらしく、それを言った。
「鳴瑠くん。そのスカート、短くないかな?」
「璃月が娘を持つ父親みたいになった‼」
「膝丈にくらいにしよ?」
「別によくない?」
「その長さじゃ、おぱんつ見えちゃうかも。私、心配」
「えー、安心してよ。見せるのは璃月だけだよ」
「それはわかってるけど・・・・」
そもそも僕のパンツを見ようとする人はいないと思うよ?
思う僕に、璃月は可愛く小首をかしげる。何やら思うことがあるようだ。
「そーいえば、鳴瑠くん」
「なに?」
「今、おぱんつはどんなの履いてるの?」
「・・・・」
いた。
ここに僕のパンツを見ようとするド変態が。
「自分のパンツだよ」
「えー、そこは中まで徹底的に・・・・私のおぱんつと交換――」
「ほんとうに璃月は僕を超える変態だと思う」
「私、えっちくないから‼」
さすがの恋人でも、パンツも交換しようは・・・・。
かなり興奮しちゃうからこれ以上考えるのはやめて言及するのもやめる。
服装を交換し、容姿を少し変えても中身は変わらない。そんな当たり前のことがわかった衣替えだった。何はともあれ、僕たちに初めての秋がやってきた。
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