第74話 窓ガラスとナンパとお揃いデート
今日は璃月とのデートの日。
待ち合わせ場所は片隅駅。
集合時間よりも前ついてしまった僕は、いつもよりも気になる髪型を整える為、カフェの窓ガラスに自身を映すとチェックする。
手串で髪をくしくし、左右の見え方を確認するために頭を動かしてみたり。
いろいろやって満足するものになるようにしてみるんだけど、
「うー、不安だなぁ。この髪型でちゃんと大丈夫かな?」
唸りながら不安になる。髪型って1度気になるとずっと気になっちゃう。
ひとしきり髪をイジイジしている僕は、ふと視線に気づく。
現在、鏡代わりにしているのは、カフェの窓ガラスなわけで・・・・。
その向こう側には男の人がいて、目が合っていた。
「あ・・・・うぅぅ」
とっても気まずくて仕方がない。
少し前に璃月と見に行った紅葉のように顔が赤くなる。それはもう窓ガラスに映る僕の顔を見なくても明らかなくらいだった。
顔が火が出るくらいに熱い。
まぁ、格好的に足が少しばかり寒いので、良い感じにバランスがとれたかも。なんて負け惜しみというか、軽口を思いつつその場を後にすることにした。
待ち合わせ場所の噴水前にやってきた僕。
家が近いのに、こうして遠くに待ち合わせ場所を設定したのには少しばかり理由があった。それは気分を変えてみたかっただけだった。大した理由じゃなかった。
そんなこんなで、わざわざ電車を使わないとこれない場所に待ち合わせ場所を設定したわけなんだけど、今の僕はとにかくめちゃくちゃ寂しい気持ちになっていた。
うー、早く会いたいなぁ。こんなことならお家に迎えに行っちゃえばよかったよ。
軽い気持ちで気分なんて変えてみるもんじゃないな・・・・。
そんなことを思いつつ、スマホをポチポチ。璃月とレインでやりとりする。
と、そんな時の事。僕は突然、声をかけられた。
璃月だったらとっても嬉しいけど、彼女はまだ電車の中。だから違う。
そもそも男の人だった。
どこかで見たことあるような、ないような・・・・そんな人。
とりあえずは学校の人じゃないのはたしか。学校の人なら僕を外で見かけても絶対に声をかけてきたりしない。別にいじめられているわけではなくて『僕に話し掛けてくる=デートの邪魔をする』に繋がるからだ。
また、容易にそんなことをすれば僕たちのイチャイチャを見せつけられることになるわけで。好き好んで休日に話し掛けてくるような子はいなかった。
とはいえ、歳は近そう。
他の学校の生徒なんだろうか?
さすがの僕も話しかけられて無視をするほど人間はできていない。仕方なく話を聞いてあげることにした。ほんとは璃月じゃないから無視したかったんだけど。
その内容としては当たり障りのない些細なことばかり。
うーん、どうしてこんなことを僕に話しかけてくるんだろ?
小首をかしげると、栗色の髪が首筋に当たってちょっとくすぐったくて頬が緩んでしまう。その様子を何やら勘違いしたのか、よくわからないけど突然、「お茶をしない?」と提案してきた。
もちろん、答えは決まっていた。
しないに決まっている。
お断りすると「連絡先でも」とも言ってきた。
僕の連絡先なんて聞いても・・・・・と、思いつつ僕はこの事態の違和感というか、現状で起きているこの状態の名を理解する。
「もしかして・・・・ナンパされてる!?」
思わず呟く。
それを聞いてかこの人は「警戒しないで」なんて言ってきた。
いやいやするよ。だって僕、学校中で『総受け』なんて言われてたんだもん‼
思わず、お尻を両手で隠した。
手に触れた服は少しばかり、いやけっこう防御力に乏しい。
脱がされるのに1分もいらないだろう。
う、ううぅ、僕のお尻の穴は璃月のものなんだから。だから、絶対に貴方に明け渡したりはしなんだから。璃月に開発してもらうんだから‼
何かがおかしい。
身体だけでなく、心まで璃月に調教されているようだった・・・・・。
そもそもの話なんだけど。
男が男にナンパされるってあんまり聞いたことないよね。人は見かけによらないというか。この人、男が好きなのか。
なんて軽く感心の眼差しを送る。
人の愛はさまざま、どんな形があってもおかしくないと僕は思ってる。
まぁ、僕が好きなのは璃月で、このナンパを成功させる気はさらさらないけど。
尚も食い下がる彼。
僕は「デートの約束をしている」と言って断った。
そうすると、案外簡単に引き下がり、どこかに行ってしまった。
このまま話し続けて、璃月が来てしまえば浮気を疑われるところだった。人外とか概念とかと浮気を疑われることは多い僕だけど、人との浮気を疑われるのは簡便してほしい。一途な僕としては辛い。
それから、僕はしばし待つ。
ようやく駅のホームから、『僕とお揃いの格好をしている』璃月が現れた。
すかさず忠犬が如く、彼女の元へゆくと抱き着いた。
「璃月、好きぃー、大好きぃ、会いたかったぁー」
「もうナーくん。可愛すぎ。匂いとかわんちゃんみたいに嗅いじゃって、くすぐったいよぉー。このままわんちゃんみたいにぺろぺろ舐めてもいいんだよ?」
うーん、さすがにここ、外だし。
結構な人の目がある。興奮しすぎて何をしでかすか僕がわからないので、舐めるのはやめておくことにした。
「え・・・・舐めないの」
「失望した目はやめてほしいんだけど」
「ごめん、ごめん。冗談」
と、そんなとき。
僕たちに話しかけてくる人が、先ほど僕にナンパしてきた人だった。
どうやらまだここら辺にいたよう。
待ち人が、好きな人が璃月だったことに少しばかり驚いている様子だった。どうしてかはわからないけど。
小首をかしげる僕に璃月が訊ねてくる。
「知り合い?」
「うーん、微妙なとこ。さっきナンパしてきた人だよ」
面倒なことになっても困るので、僕は包み隠さず打ち明けた。
それに対して璃月はと言えば、
「あー、そーゆーことね」
と、何やら察した物言いをしてくる。嫉妬というか、浮気と言ってくるかと思ったんだけど意外だった。
「ナーくん。ちゃんと断ったの?」
「うん」
「ちなみになんて言って断ったの?」
「デートがあるって言ったよ」
「あー、だから私を見て驚いたのか」
1人勝手に納得する璃月。対象的に僕は状況を把握しきれない。
また、ナンパしてきている人も「え、百合!?」などと言っていた。
失礼にもほどがある。いくら僕が童顔で可愛い系の男だとしても、正真正銘の女の子に見えたりはしないはずだ。ぷんすか怒りをあらわに頬を膨らませる。
「ほっぺがパンパンのナーくん。可愛いなー」
呑気なことを言う璃月。
彼女は「仕方がないなー。彼氏のやったことの責任をとるのも彼女の役目」なんて呟くと僕にキスをして、ナンパをしてきた人に言った。
「私たち、こーゆー関係なので」
言った璃月に手を引かれて、その場を離れる。
そんな僕たちの背中をナンパしてきた人は、呆けた顔で静かに見送っていた。
それから。
少し離れたところにある公園のベンチに腰を下ろすと、璃月が訊ねてきた。
「どーして鳴瑠くんがナンパされたか、わかるかな?」
「んー、あの人が男の人が好きだった、とか。・・・・あれ、でも『百合』とか言っていたような。どーゆーこと?」
「これは重症だよ・・・・鳴瑠くん。いや、ナーちゃん」
「む、『ちゃん』付けはよしてよ。いくら今、璃月とお揃いのワンピースとかジャケットとか帽子とかバックを身に着けて、ウィッグも付けて髪を長くして、どうみても見てくれが完全に女の子でも、僕は男だからね‼」
「ごめんね、『ちゃん』付けして。鳴瑠くんは男の娘だもんね」
漢字が違う気がした。
・・・・・ん?完全に女の子の格好をしてたんだったね、僕‼
「あー、今の僕、容姿だけ見れば美少女だからナンパされたのか」
「そーゆーことだよ。さすがに男の娘にナンパしてたって言うのは可哀想だったから、あの人には話さなかったけど。人間不信になりそうじゃん」
たしかに。
男にナンパしてたとわかったときの絶望感は辛そう。
ナンパしたことないから、詳しいことはわからないけど。
でも、思うことはある。
「璃月が他の男に優しくするなんて、むかむかするよ」
「嫉妬する鳴瑠くん可愛いー」
「僕は真剣だよ」
「うんうん、知ってるよー」
子ども扱いしてくる。
よくよく考えると、お姉ちゃんもよく知らないおじさんにナンパされてるわけで。僕が女の子同然の可愛い恰好をしれいてば、されるのは必然か。うんうん。
頷きながら自画自賛なことを思う僕は、一応、心の中で先ほどの男の人に「男だったの、ごめん」と謝っておくことにした。
そうしてようやく、
「とりあえず、いこーか」
「うん」
僕がナンパされるハプニングがあったけど、璃月とのデートを始めたのだった。
そもそもどうして僕が、女の子の格好をしているのかって疑問が残ってるけど、それは決まってる。ペアルックならぬ、お揃いコーデでデートをする為。
僕は璃月と百合百合しい見た目で、手を繋いで歩いて行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます