第13話 お昼ご飯

 昼休みの事。

 僕と璃月は一緒にお昼ご飯を食べることにした。

 場所は、東棟の屋上へと続く踊り場。

 ここは彼女が学校探検(自主的に行ったもの)をしたときに見つけた場所らしい。できれば外で食べたい気持ちもあったけれど、外は海風が強いので難しいとのこと。

 そんなこんなで、ここにたどり着いていた。

 余っている机や椅子がいくつか置かれていたので、それをお借りすることにした。

 で、互いにお弁当を広げると璃月は言う。


「鳴瑠くんはコンビニのおべんと?」

「うん。基本的にはいつもお昼はコンビニかな」


 僕とお姉ちゃんは、それぞれ毎日お昼代と称して母さんからお金を貰っている。僕はコンビニ弁当で、お姉ちゃんは学食で食べているとのこと。

 学食の方が若干安上がりなのだが食堂に行くのが手間だったり、購買という選択肢もあるけれどあそこはやたらと混むので、楽さで言えばコンビニ弁当が勝っていた。


「璃月のは、自分で作ってるの?」

「うん。中学まではママがやってくれてたんだけど、高校に入ってからは自分でやってみてるかなー」


 璃月の手の中にはピンクの可愛いお弁当箱が。

 中にはタコさんウィンナーやら、パスタ的なもの、卵焼きに、野菜、果ては僕は知らないけれど何かのキャラクターがそこにはいた。たぶん、キャラ弁というやつだろうか。地味に難易度が高そうなことをしていた。


「それはキャラ弁?」

「そー。暇だから作ってみた。えーとね、プリクアの星の妖精だよ」


 そう言いながら、僕に見せてくる。

 とはいえ、元のキャラを知らない僕としては『完成度が高そうだなー』くらいにしか思えなくて残念でしかたがない。この機会にプリクアにも手を出すことにした。

 それから璃月はというと、少し考えるそぶりを見せる。


「うーん、卵焼き。食べる?」

「え、いいの?」

「うん。私、君にご飯あげるのが趣味なとこあるから」


 どうやら『あーん』もしてくれるらしい。

 滅茶苦茶得じゃないか。僕の答えは決まっていた。


「それは奇遇だね。僕も璃月にご飯を食べさせてもらうのが趣味なんだよ」

「知ってるよ。とはいえ、人としてはアウトになっててるね」

「そうかもダメにされてってる」

「私のせいにしちゃめっだよ」

「その言い方いいね」

「もう手遅れだ・・・・」


 璃月は気分を切り替えて自分の使っていたお箸で一切れ卵焼きを掴むと、僕の方へと差し出す。拒む気はさらさらないので「あーん」と食べることにした。

 あーんもよかったが、間接キスもなかなか。

 ではなくて、味の感想を言うべきだろう。


「うん、甘くておいしいね。毎日食べたいくらい」

「いいよ。毎日食べさせたあげる」


 冗談交じりな風を装いつつ、本気で提案してきている様子。


「それってどういう意味かな?」

「どうゆー意味がいいかなー?」

「えーと、毎日『あーん』をしてくれるってこと。それとも――」

「それとも、私におべんと作ってほしい?」


 僕よりも先にその答えを璃月は言う。

 なにその選択。

 どっちもサイコーすぎない。

 待て。待つんだ、宇宙町鳴瑠。

 そもそも、これは選択なのか?


「これって、璃月にご飯を作ってもらって、それを食べさせてもらうというのはアリでしょうか?」

「うーん、どだろーねー。たまにならいいかな」

「そっか。たまにかー。なら、璃月のお弁当が毎日食べたい、かなー」

「うん、いよー」

「でもお金は払うよ」

「んー、別にそんなこといいのに」

「そこだけは譲れないかな」


 ただただ無償で貰うのは気が引けた。それがたまに『あーん』付きとなればなおさらなこと。そもそも、彼女にお昼ご飯を無償で作らせて『あーん』までさせるのは、さすがに鬼畜彼氏すぎるだろう。

 璃月は僕の意図をくみ取ってくれたのか、意外と簡単に引き下がる。


「わかった。お弁当代として君からお金を貰うてことにしよー」

「で、僕はお弁当を貰って、たまに『あーん』して貰えると」

「それだけじゃダメ」

「何かほしいものあるの?なんでも言って」

「私もたまに『あーん』してもらいたい」

「もちろん、いいよ」


 毎日の昼休みが楽しみになった。

 『あーん』のさせ合いっ子。はやく現実のものにしたかった。

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