第37話 足と罰と進路希望
放課後のこと僕と璃月は適当なファミレスに入り、ドリンクバーとポテトを頼むとダラダラしていた。ちなみに、ポテトはまだやってきていない。
コーラを飲んで喉を潤すと、先ほどホームルームで担任の先生から配られた紙に目を落す。そこには、進路調査の文字が書かれていた。
僕と璃月は高校1年生。
社会人として働くまで、大学に進めばまだ時間が7年ほど、専門学校に進むなら5年くらいで、卒業と共に就職をするならば3年もないくらい。
それくらい人から社畜になるまでの時間は刻一刻と迫っているわけで。
学校側がこれを書けと言うのは、当然のことだと思う。
とはいえ、まだ高校1年生の6月下旬。まだ入学してから3ヵ月ほどしか経っていない。数年で社会人になるかもしれないという実感は正直な話、これっぽちも湧いてはこなかった。伊達に学生しかやってきてはいないのだ。
にしても。
はぁ・・・・働きたくないなぁー。
恋人を愛で続ける仕事はないかなー。
クズなことを思いながら、進路の第1希望欄にカキカキ文字を僕は埋める。
「むぅー、鳴瑠くん鳴瑠くん。何か書けた?(カキカキ)」
何やら書きながら訊ねてくる璃月。
先日、璃月の部屋に行ったときに結婚の話をした。そのこともあり、お互いの進路は他人事ではない。こうして真っすぐに家へ帰らず、ダラダラしているのもイチャイチャする次いでに進路の話をするためでもある。
進路についてまず親に相談していないのは、進路に関しても恋人優先にするという恋にひた走る共通認識を持っているためだった。
「うーん、進路っていってもね。第1希望しかまだ書けてないんだよね」
「へー、このはやい時期に第1希望が書けてるだけ偉いと思うの」
「ちなみに、璃月は?」
「私も第1希望だけ書いた」
「ということは璃月も偉いってことだね」
「嬉しいことにそーなる」
ふふーんと自慢げに笑う璃月。
もはや自画自賛みたいになっていたけど、可愛いからありだった。
「正直、見なくてもなんとなくオチが見えてるけど。一応訊いとくね。璃月は何て書いたの?」
「彼女が真剣に考えた進路をオチ呼ばわりするのは失礼だと思うの」
「それじゃ、見せて」
「はい」
そう言って見せてきた第1希望欄には案の定――、
「やっぱり、僕のお嫁さんじゃん」
「やっぱりとか言わないでよー。そのぉー鳴瑠くんは私がお嫁さんになるのは、いや?」
「嬉しいに決まってるじゃん」
「真顔で答えるんだから」
照れながらそっぽを向く璃月。
とはいえね。
「ま、面白みには欠けるかな」
「進路調査でおもしろみを求めるの間違ってると思うの。それでなんだけど、私は失礼極まりない君に罰を与えたいと思うの」
「それは楽しみ」
「罰は楽しむものじゃなくて、嫌がるものだと思うの。そうしないと、罰じゃなくてご褒美になっちゃう」
そう言いながら、璃月は少し前かがみになると、テーブルの下で何やらごそごそし始める。テーブルの下で何が行われているのか、僕からは確認することができない。
とはいえさ。テーブルの下で何をしているのかよりも、前かがみになったことでおっぱいがテーブルの上に置かれているその様子が気になって仕方がないんだよね。
しかも、おっぱいが身体とテーブルに挟まれてつぶれてやがる。くっ・・・・これほどまでにテーブルになりたいと思った日はない‼
あー、あのおっぱいを僕に押し付けて潰してほしいなー。
「なに、ニヤニヤしてんの?」
「何でもないよ」
「ふーん、おっぱいガン見して何ゆってんだろね」
「ばれてたか・・・・仕方がないか、ここはガン見することにしよう」
「普通なら目を逸らすと思うの」
「でも、璃月は嫌じゃないよね?」
「嫌ではないけど・・・・・むしろ、私的には魅力的だと思われてると思うと嬉しいと言うか・・・・」
「なら、問題ないね‼」
「・・・・うん」
とりあえず、僕はつぶれたおっぱいを見続ける権利を得られた。それを十分に使っていきたい所存だ。
それよりも。ご褒美・・・・じゃないや、罰というのを受けなくちゃ。
「ほら、璃月。せっかく僕を罰するために準備したんでしょ?はやくしてよ。かもん、ほら、かもん」
「罰を受ける人の発言とは思えないウェルカムムード。まー、いーや。いくよ?」
「うん」
つぶれたおっぱいを見ながら僕は身構える。
ふいに僕の足、スネに『つー』とくすぐったい感触が訪れた。璃月が足を使って、僕のスネを愛撫しているんだと気づく。やばい、璃月の足に触れたの初めてで、これ興奮しちゃうやつだ‼
「ふへへー、璃月の足・・・・いいね」
「一瞬ですべてを理解する。こわい」
璃月の言葉は足と目に意識を集中させている僕には届かない。
それよりもだ。
ぎこちない動きがまたいい・・・・。彼女の初々しい足の動かし方に僕は頬がゆるみぱなしだった。
「む、これならどーだ」
「お、足の親指と人差し指でスネを挟みつつ上下運動させるその動き。とっても、いいよ」
「マニアックだよ、反応がつまんないー」
おっぱいを見ながらスネを愛撫されてニヤニヤする僕を、璃月はムスッとした顔で見てくる。ムスッとした顔も可愛い。
どうやら、「やめて、くすぐったい‼」と身体をよじる様を見たかったようだ。ドSなのか、最高じゃないか?
「ふん、璃月よ、甘々の甘ちゃんだね。たかだかこれくらいの刺激は、ご褒美になれど、罰にはならないよ」
「む、だったら。これは?」
イタズラっ子みたいな笑みをすると、璃月の足は僕の膝よりも上へ。最終的には太ももまで達し愛撫を始める。しかも集中的に狙ってきたのは太ももの内側だった。
僕は太ももの内側が弱い。
そのため、不覚にもくすぐったすぎてビクリと身体を震わせてしまった。こ、これは・・・・くすぐった気持ちいい。
また、先ほどのスネへの愛撫の固さ、正確にはぎこちないと言った方が正しいか。それがあったのだが、今はだんだんと慣れてきた為か手つきならぬ、足つきがやわらかでえっちな動きになっていた。
ま、まさか。この数分のうちに、愛撫しながら成長しているのか!?
戦いの中で成長し続ける主人公と、才能に敗北してしまう敵のような状況になっていた。もし、それとの違いがあるなら殺し合いをしているのではなく、イチャイチャしていることだろう。
「どーお?」
「く、これは・・・・」
「ふふー、きいているみただね」
ニヤニヤと嬉しそうに璃月はする。
変態性が隠れてないぞ、僕的には全然いいけど。
「璃月ってさ。たまにこーゆう練習を家とかでしたりするの?」
「な、す、するわけあ・・・・・ないよ‼なにゆーの、この鳴瑠くんの変態‼ド変態‼絶対に変な想像して訊いてきてる。私、えっちくないからしないよ‼」
さっき、『するわけあ』って言ってたな。たぶん、、興味があって少し家で試したな。僕はなんとなくそんなことを思う。
「むぅー。私、えっちくないからもーやめる」
そう言って僕の太ももから璃月は足を離してしまう。
あ、あー、からかい過ぎちゃったか・・・・。残念で仕方がなかった。
落ち込みながら、テーブルにのるおっぱいを眺める僕に対し璃月は「ポテトおそいね」と言ってから訊ねてくる。
「それで鳴瑠くんは何て書いたの?」
「なんのこと」
「進路希望調査の話。おっぱいと足に気を取られ過ぎだよ。進路の話をしてたんだから、胸元とか足元とか近いとこばっかり見てちゃダメだよ。先を見なきゃ」
なんかうまいことを言われた気がした。
そうだった。忘れてたけど、進路希望調査の話をしてたんだった。胸元を見てたり、足を気持ちよくさせている場合じゃなかった。
「そんなに僕のが見たいの?」
「うん。気になる。君の進む先には私もいるし」
目を合わせず璃月はそっけない様子をとる。照れてるときのやつだ。
そんな彼女が可愛くて仕方がない。
紙を彼女の方に向けると、第1希望しかまだ書かれていない紙を渡す。そこには『璃月のお婿さん』と書いてあるわけで。
「うわー、これ書いといて、よく人に予想通りとか言えたよね」
「え、でも考えてみてよ」
「何を?」
「女の子がお嫁さんって書くのはよくあるけどさ」
「書いた私が言うのもなんだけど、そーそーいないと思う」
「お婿さんって堂々と書く男は僕くらいだよ」
「それはそーだけど。でも、これで提出してみよーか」
「うん、そーしよ」
脱線しながらもようやく話がまとまった頃。
口に赤いもの(血のようなもの)が付いた店員さんが、「やっと運べる・・・・イチャイチャし過ぎだろ」みたいなため息をつきながらポテトを持ってきてくれた。その店員さんに2人でお礼を伝える。
いやいや、おかしい。
スルーしそうになったけど、明らかにおかしい部分があったよね。口に血のようなものがついた店員さんは絶対におかしいよ。
心配になり大丈夫か訊ねてみるも「ごふっ大丈夫です、お前たちがイチャイチャし過ぎて舌かまなきゃやってられないっての」みたいなことをぶつぶつと言っているだけで、僕たちには何がなんだかわからなかった。
もしかすると後ろめたいことでもあるのかも・・・・。
ということは、もしかしてアレかな?
ポテトに付いてるケチャップを盗み食いしたのかも。この店員さん、もしかするとケチャラー(マヨラーの亜種)なのかも。たしかにそれは言えないな。
僕たちはそれを察してそれ以上は言及しないでおくことにした。
ちなみに持ってきてもらったポテトは、電子レンジにかけ直したのかと思うくらいにアツアツで、食べるのにとっても苦労した。
それから翌日のこと。
僕と璃月は朝1番に先生へと進路希望調査の紙を提出に行った。もちろん、書いてある欄はどちらの紙も第1希望のみ――僕が『璃月のお婿さん』で、璃月が『鳴瑠くんのお嫁さん』と書いてある。
僕たちの進路には第1希望より下はいらなかった。だから書いていない。
キラキラと目を輝かせた僕たちの進路希望調査の紙を一瞥した先生は、頭痛を抑えるようにこめかみに手を添えると静かに再提出だと言ったのだった。
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