第9話 初デート その3 恋の鐘
僕たちの降りた駅は江トノ島駅。
行先は江トノ島。
自然を残しつつも、人の手が入った観光スポットだ。神社や食事処、お土産屋さんに展望台と様々なものが小さな島に詰め込まれている。全体的には山型の島になっているため、階段や坂が多いのが特徴だ。船で島の反対側に回り込めたり、エスカレーターですいすい昇ってゆくことも可能になっている。
また、僕はあまり詳しくないが『龍と瑠璃色姫』なる伝説があるらしく、いたるところに龍とお姫様がいるのも特徴だった。
そんな島での目的は1つ。
カップル御用達の観光スポット――瑠璃色の龍恋鐘。
これを男女で鳴らすと末永く幸せでいられる伝説があったりするもの。地元からすぐ近くにあるということで、最初のデートはそこに行くことにしていた。
鐘がある場所へは、船やエスカレーターを使ったほうが早いが、僕たちはそれをどちらも使わず歩いて行くことにした。
それらを使わずに階段や坂を行くというのもいい思い出になると思った結果だった。ひたすら階段を昇ること30分ほど。ようやくあと階段1セットを昇り切れば到着というところまでやってきていた。
後ろを振り返れば、町や海が1つの景色となって広り、自分がでっかい人間なんじゃないかと錯覚させられる。ま、璃月の方が綺麗なんだけど。
とりあえず、気持ちがでかくなりすぎて「町がゴミのようだ」とか口走らないうちに彼女へ「けっこう、あるったね。大丈夫?」と呼びかける。
息を切らす璃月は少しづつ階段を昇りながら言う。
「・・・・はぁはぁ、私ね・・・・。君の背中の大きさを実感したいの」
「えーと、ようするにおんぶの要求かな?」
背中の大きさを感じる。
そんなシュチュエ―ションは、おんぶ以外にはなかった。
でも璃月は、
「ううん、違うの。・・・・とりあえずね、君の背中の広さを感じながら耳元で、『可愛い顔して以外と背中は広いんだね、やっぱり男の子なんだ』って言いたいの」
「それ状況的におんぶされてるよね。やっぱりどう考えてもおんぶしてほしいんだよね。疲れたんだよね?」
「・・・・・そこまで言うならいいよ。私をおぶっても。別に疲れてないし、おぶってもらうつもりなかったけど。そこまで言うなら私をおぶろっか、鳴瑠くん」
僕が要求しているようで、璃月が要求しているだけだった。
とはいえ、彼女と密着できるチャンスに他ならないわけで。ぶっちゃけしてあげたかった。というよりしたいまであった。
けれどまぁ、最初から僕の答えは決まっていた。
「普通に無理だよね。おんぶしながら階段昇るとか」
「・・・・・・うん。現実的に考えて普通に無理だよね。よし、少し休憩しようか。鳴瑠くん」
「はーい」
そんなわけで、木陰に移動し階段に座る。
で、璃月はゴクゴクとミネラルウォーター(梨風味)を飲むんで水分を補給している。そのペットボトルを僕へと傾けると言う。
「飲む?」
「・・・・・いいの?」
「いいよ。よくなかったら訊かない」
「たしかに・・・・じゃ、いただきます」
「どぉーぞ」
「ありがと」
間接キスじゃん‼
ぶっちゃけ僕の脳内はそれしかなかった。
それでも僕は躊躇なく口を付けた。コクコク、全部飲み干すわけにはいかないので少しだけ飲んで返すことにする。
「おいしかった?」
味はわからなかった。
だけど、僕はこう答えることにした。
「それはもう。こんなにおいしい水・・・・・はじめてかも」
「それはよかった。私も飲みたいから、返して」
コロコロと笑いながら璃月。
ためらいなく、僕が口をつけたペットボトルを飲む。
なんだか見ているだけなのにドキドキしてしまう。
「えーと、璃月」
「なに?」
「お水、おいしい?」
「うん。なんかさっきより、おいしくなってる気がするよ。なんでだろうね?」
「さー、僕にもわからない」
「そっか。じゃ、休憩おわり。行こっか」
「うん」
このあと、鐘を無事に鳴らすことができた。
でも、鐘を鳴らさなくても、僕たちは仲良くやっていけるそんな気がしてならなかった。
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