第30話 誕生日を経てからのデート
時系列は戻って、ご褒美の後のこと。
テストも終わったことで、心置きなく僕たちは休日デートに出掛けていた。行先は片隅駅とは逆、下り方面にある蒲倉駅だ。
ここは大仏だったり神社、竹林、カフェなんかが多くある古き良き街並み多き観光スポット。そんなところにやってきていた。
僕の首からは誕生日プレゼントで貰ったカメラが下がり、璃月の手にはお弁当の入ったバケットが。いわゆるピクニック兼、カメラで色んなモノを撮りにいこーといった感じの趣旨が今回のデートにはあった。
手を繋ぎゆったりと歩いて行っては、ビビっときたものを写真に収めてゆく。わたあめみたいな雲やプリンみたいな雲。昼寝をする猫やら、竹林が有名な一本道。パンケーキやら果ては、誰が書いているのかわからない『神は再臨する』的な文章が書かれた謎の看板――などなど。
2人で一緒に見たもの、行ったものを写真という形に残せるのはなんだかうれしい。映えるというのはよくわからないけれど、色んなものを写真に残しておきたくなることについてはなんとなくわかる気がしてきた。
「これは本格的に写真を撮るのが趣味になりそー」
「そっか」
そっけなさそうに見える態度を璃月はとるが、内心すごく喜んでいるような気がした。なんというのかな、オーラでそう感じ取れた。
まぁ、自分の贈ったもので喜んでもらえたら、あげた側は嬉しいに決まっている。
「そーいえばだけどさ、鳴瑠くん」
「どうしたの?」
「君ってえっちな写真を撮ろうとはしないよね」
「いったい僕を何だと思ってるの?」
「変態な鬼畜」
「ひどい」
「でも、嫌いになってないよ?むしろ、昨日より今日、今日より明日、君を好きになっていってるよ」
「僕が言うのもなんだけど。男の趣味、大丈夫?」
「うん。大丈夫。世間一般は知らないけど、私は自分が好きなものが好きだから」
優しく微笑む璃月。
ほんとうに眩しい。璃月さんマジ女神。本当に彼女の生き方が僕は好きだった。むしろ、現在進行形で好きが増していっていた。
好きというのは不思議なもので、いくら好きになろうとも限界値が見えない。それを改めて思う機会がこの話しじゃなければどれだけよかったことか。
「えっちな写真はもっと適した場所で撮るべきだと思うんだよ」
「どーして私が諭されてる感じなんだろー。不服すぎ」
「璃月のえっちな姿とか、僕以外の誰にも見られたくないし」
「独占欲ってやつ?」
「うん、そうだね。璃月は僕を独占したいと思ってる?」
僕の問いかけに彼女は変然とした声音、真顔で答える。
「愚問だね。もちろんだよ。いつなんどきも私は君をそばに置いておきたい。これから先の未来も全部手に入れたい。できることなら私とまだ会ってない君の過去も手に入れたいくらい」
「僕もヤバいヤツだけど、璃月は璃月でけっこうヤバいよね」
「む、ひどい」
膨れる璃月。
可愛い。言ってたことはけっこうすごいけど。ま、僕もそれ同様レベルのことを常日頃から思ってるから人のこと言えないかもだけど・・・・。
「独占欲と言えばさ、カメラって僕たちに相性いいかもね」
「相性?」
「うん。僕たちってお互いの全部を手に入れたいわけでしょ」
「ずっとぎゅっとしてたい」
「今の璃月は少し本音がダダ漏れな気がするな」
とりあえず、僕は璃月にぎゅっとされておくことにした。あー、璃月の甘い香りが鼻腔をくすぐり、背中にはおっぱいがあたり、腕をが回されて密着し、彼女の温かさが全身を覆いリラックス効果が得られる。これはもうニヤニヤが止まらない。
こほん。
いけない、いけない。
どうせ璃月からは見えないので、顔はにやけたまま声だけ引き締めて僕は続ける。
「うんとさ。写真って形としてその時間を切り取るみたいな感じじゃん」
「そうとも言えるかも。それでなんで私たちと相性がいいのかな」
「いやさ、相手の過去の写真を手に取るのって、相手の時間を自分の手の中に収めてる感じがするっていうか。ようするに、相手の過去を自分が独占してるみたいじゃない?」
切り取った相手の時間を手にしているみたいにも感じる。また、相手の過去を手に入れた証明のようなものになる。
写真とは――時間を切り取るとはそう言った側面があるような気がしてきた。たぶん、独占欲が強い僕だからこそ、そう思ったのかもしれないけど。
璃月も納得したように頷いた。
「それじゃ鳴瑠くん。いっぱい写真とろ」
「うん」
それから璃月を撮ったり、僕を撮ったりする撮影会をしたり。カメラのオート機能を使って2人で撮ったりして過ごす。
現像した写真を入れる用のアルバムなんかを買ったりもした。もちろん、僕用と璃月用のそれぞれ2つ用意したりして。
とりあえず、独占欲の話は抜きにしてもこれだけは思う。
この買ったばかりのアルバムを、思い出でいっぱいにして将来見返したとき、思い出話に花を咲かせることができて楽しいだろうな、と。
僕は・・・・いや、僕たちはそれを待ち望んでいた。
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