第19話 おうちデート その2 姉弟ごっこ

「鳴瑠くんて、お姉ちゃんいるんだよね」

「うん、いるけど」

「いいなー、私、ひとりっ子だから憧れちゃうよ」

「そんなに憧れるようなものじゃないと思うけど。僕のお姉ちゃん、小っちゃいうえに、ワガママだからお姉ちゃん感ないし」

「それでも憧れるの」


 僕のお姉ちゃんの写真を見せると、璃月ははしゃぐ。


「鳴瑠くんに似てる。いや、鳴瑠くんが似てるって言えばいいのかな。とりあえず可愛い。ちっちゃいぬいぐるみみたい」

「うーん、お姉ちゃんだから可愛いとか意識したことないかな。あ、でも。よく知らないおじさんからお菓子を渡されそうになるって言うから可愛いかもしれないね」

「それは危ないから防犯ブザーを持たせないとダメだね」


 と、そこで何を思ったのか璃月は僕にとんでもない提案をしてくる。


「鳴瑠くん。私、お姉ちゃんやってみたい」

「えーと、気まずいと思うけど、パパとママに相談してください」


 完全に僕がどうにかできる案件ではなかった。

 けれど、璃月は僕を「ジー(期待する眼差し)」で見つめてくる。


「えーと、なにかな?」

「ジー」

「・・・・・・」

「ジー」


 もしかしてあれかな。

 現役弟のこの僕に、璃月の弟役をやれと?


「璃月・・・・・・お、おねえちゃん」

「何かな。鳴瑠くん‼」


 めっちゃくちゃ元気に、また嬉しそうに僕との距離を詰める璃月。むにゅと腕に柔らかいものが当たる。何も隠さずともおっぱいに他ならない。

 これは天国ですか?

 はい、天国です。

 腕に全神経を集中させて、彼女の胸の感触をたしかめながら僕は言う。


「璃月・・・・お姉ちゃん。流石におっぱいが当たってるのは姉弟の距離じゃないと思う。いや、ずっとこのままでもいいけど」

「うーん、私たちはあくまでも姉弟ごっこだからね。うん、仕方ないからおっぱい当てるのやめとくね」

「え、えぇぇ・・・・」


 自分で言っておいて、がっかりする僕がいた。

 でも、改めて姉弟ごっことは何をすればそれになるんだろうか。姉弟ごっこの謎は深まるばかりだった。


「鳴瑠くんはお姉ちゃんと普段、何してるの?」

「うーんと、一緒にマンガとか映画とか見たり、ゲームしたり、カードゲームしたり。あとは冒険とか、鬼ごっことか、かくれんぼとか、かな」

「だんだんと普通の高校生姉弟がやらなそうなものにグラデーションしていってるね」

「でもね、鬼ごっことか、かくれんぼとかには罰ゲームがあるよ。捕まったほうはくすぐられるっていうね」

「『でも』って言ってるけど、何も大人っぱくなってないよ」


 きっぱり言われた。

 たぶん、僕たち姉弟は、同じ年ごろの姉弟よりも子どもぽいことしかしていないのかもしれない。あとしてることと言えば、一緒にお昼寝とかしたり、璃月には絶対に言えないけどお姉ちゃんがお風呂も入ってきたりしてるくらいだった。

 とりあえず、僕は案を出してみる。


「ここは発想を変えて、璃月が弟にしたいこととかないの?」

「それはあるかな」


 そう言って、璃月は正座するとポンポンと自らの太ももをゆっくり叩く。もしかして、もしかしなくとも、膝まくら?


「いいの?」

「うん。鳴瑠くんの頭、いーこいーこしたあげる」


 なんて魅力的な話だろうか。

 こんなの断る方がどうかしてる。というわけで、僕は膝枕してもらうことにした。


「どーお?」

「えーと、柔らかいうえに。いい匂い」

「匂いは嗅がないで。変態な弟くんだな」


 ちょっぴり嬉しそうな声音の璃月。

 彼女は優しく僕の頭を撫で始めた。


「いーこ、いーこ。鳴瑠くんはとっても変態さんで偉いね」


 何が偉いのかはわからないけど、これだけはわかる。頭の下も、頭の上も、頭の中も(罵倒されてうれしい気持ちになってるということ)どれも気持ちいということだけは。


「うん。僕は変態でもいいかな。むしろ璃月お姉ちゃんにもっと褒めてもらえるように、もっと変態になるよ」

「うーん、これ以上の変態さんになるのかー。うん、いけるとこまでいっちゃえ‼」


 変態さを磨くように背中を謎に押される僕。

 とはいえ、姉弟という存在が何なのかわかってきた僕がいた。それは全てを全肯定してくれる優しさと、血のつながり故の見放されない安心感を持った存在なのだろう。1つの真理にたどり着いてしまった気がする。


「えっと、璃月、お姉ちゃん。ずっと一緒にいてくれるかな」

「うーん、嫌かな」

「え!?」


 僕は思わず飛び起きてしまう。

 璃月は「わー」と言いながらも大した驚きは見せない。


「えーと、理由を訊いていいかな。璃月。僕に愛想つかしたとか?」

「違うよ。私はずっとは君のお姉ちゃんはやりたくないってこと」

「ほえ?」

「むぅ、ようするに。お姉ちゃんだと血のつながりが邪魔でイチャイチャも、えっちぃこともできないでしょってこと」

「あ、あー。ずっと姉弟プレイはできないってことね。安心」

「もー、言わせないでよ。あとプレイって言わないで」


 そんな感じで姉弟ごっこはお開きとなった。

 とりあえずは、血のつながりはなくとも互いを許容し認め合える。そんな恋人関係であり続けられれば何よりも嬉しい。

 そんなことを思う、姉弟ごっこだった。

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