第120話 掃除と柵と窓ガラス
掃除中のラッキースケベ対策という名目で璃月が引き起こした『教室前廊下封鎖事件』から10分。我が学年フロアは、柵に囲まれた僕のいるエリア、僕の所属する教室、それ以外の3つに分れて、混沌を極めていた・・・・。
――突然の適当ナレーション。
それではまったく意味が解らないと思うので、現状を簡単に説明しよう。
掃除をしながら僕の巻き起こすラッキースケベを対策すべく、璃月が行った手は僕の隔離であった。それに伴って僕を隔離する場所、また僕の掃除する場所を選ばなくてはならない。そこで選ばれたのが廊下であったというわけである。
教室には前と後ろに扉が2つあり、その2か所にどこから持ってきたのかわからない柵を設置。そこを僕の掃除するエリア兼、隔離場所としたのであった。
ちなみに、廊下が封鎖されていることに文句を言う者はいない。
僕を見るなり璃月の仕業だと皆が悟り、僕以外が彼女を止められるとは思っていないから文句を言っても無駄だとラーニングしている為である。
璃月を止められるのはただ1人、僕だけだ(止める気は皆無)‼
止める気がないので、どんなにカッコよさげなセリフを言っても意味がないのでさておき。璃月の
いくらラッキースケベが世界の物理法則を越えようと、近くに巻き込む子がいなければスケベな状況を作り出すことは不可能。
もはや僕がただ転んで終わりまである。痛いのはやっ。
ここまでくると、ラッキースケベに残された手は、転んだ拍子に空間移動をして誰かをえっちな状況に巻き込むことくらいしかないだろう。
そこまでくると、ラッキーで片づけられるものではなく、軽く怖いけど。
まぁ、何はともあれ、僕はえっちな展開にならずに普通に掃除をすることができていたのだった。それとは別に、犠牲にしたものがあるわけなのだが――。
「・・・・・あぅー」
すんごく視線を感じる。
放課後で生徒の数は減っているが、それでも部活や掃除で残っている人は少なからずいる。そのため、柵の外は少しばかり人だかりができていた。
もはや、軽く観光スポット化されている。
きっと柵についている『ラッキースケベ注意』という看板も一役買ってるはず。
僕は見られるなら、璃月からのえっちな視線がいいな、と思ってしまう。
えっちな願望は後で璃月に叶えてもらうとして、女の子の恰好をしている僕――ルナの時にも人の視線は度々感じるし、それによって慣れてきてはいた。
それでも、この状況はそれとはまた違う視線のような気がする。
なんというか、好奇の目というか。
柵の中にいるためか、動物園の動物になった気分だ。
まったく、僕は動物園の動物じゃないんだけどなぁ。
共通点があるとしたら、色んなことを他者に管理されていることくらいだろう。
ほら、僕って璃月にお昼ご飯とか、あとはえっちなこととか、けっこう管理されてるとこあるし。えへへ、僕、もっと璃月にえっちな管理されたいな、えへへ。
璃月のことを考えていたら、会いたくなってきちゃったぁ。
そんな普段から思っていることを考えると、僕は掃除を進めることに。視線を感じようがやることはやらないといけないし、何よりどうすることもできないからだ。
とはいえ、教室と違って廊下の掃除なんてほぼすることはない。
廊下の床は少し前から導入されたお掃除ロボットのルンバが綺麗にしてくれている。AIに人の仕事を奪われる日が近いと言うけどその時が遂に来たみたい。
お願い、もっと仕事を奪って‼
願いをきいてくれたのか、ルンバがゆっくりとこちらにやってくる。
そして、そのままガンッと柵に当たって引き返して行ってしまう。
・・・・うん、そうなるよね、流石に柵は越えられないよね。
何はともあれ、床はあのルンバが後で引き返してやってくれると思うのでやめておく。僕はルンバの届かない窓を拭くことにした。
廊下には教室側と外の景色が見える側、両サイドに窓がある。そこをハンディーモップを取り出して、綺麗にしてゆくことにした。今日から僕は窓際部署ってやつだ‼
アホなことを思いつつ、外の景色を見ながら窓を拭く。
ちなみに、新聞紙とか雑巾を使わないのは、柵があって取りに行けないから。
どんどん拭いてゆき、次は教室側の窓を拭くことに。
その際、教室の様子がチラリと伺えた。
中では女の子たちが楽しそうにおしゃべりをしながら、掃除をしている。
・・・・なんというか、楽しそうでいいなぁ。
というのが僕の感想。
皆は楽しそうに掃除ているのに、僕は1人寂しく観光スポットになりながら掃除。
この差に何とも言えない悲しみが芽生える。
と、そんな時のこと。
突如として僕の目の前に璃月がぴょこんと現れてくれた。
彼女は「にこっ」と笑うとハンディーモップを取り出し、僕の拭いている窓を拭き始めてくれる。
窓の教室側は僕には拭けないし、手伝ってくれるのかもしれない。何より彼女は僕と何でも一緒にやりたがるし、1人で掃除するのは寂しかったし、璃月と会いたかったので来てくれたのがとっても嬉しい。彼女の登場によって、掃除が楽しくなってきたまである。窓の拭き掃除を再開することにした。
ハンディーモップを右に、ふきふき。
すると、目の前の璃月は僕のハンディーモップを追いかけるように、ふきふき。
今度は左に、ふきふきしてみる。
すると、彼女はまたもや僕を追いかけるように、ふきふきしてきた。
もしかして、璃月ってば僕に合わせて拭いてくれてるの‼
理解して、僕は右に左に上に下にハンディーモップを遊ばせる。読み通り彼女は全部それに合わせるように拭いてくれて、きゃはは、璃月が遊んでくれて楽しくなっちゃうよぉ。どんな時でも遊んでくれる璃月、大好き‼そだっ‼
別の遊びを思いつく、僕。
そんな僕は『すき』って文字を窓に描いてみる。
すると、璃月は『私も♡』なんて描いてくれて、嬉しくならないはずがない。
あとはね、あとはね、なんて描こうかな、えへへ。
悩んでいると、璃月はただただ僕をじーと見つめてくる。
普段から璃月と見つめ合っていることが多いが、それでも彼女からの視線に慣れてしまうことはなく、そのつど照れてドキドキしてしまう。今だって鼓動がはやい。
何を考えてくれてるのかな?
大好きって考えてくれてれば嬉しいけど・・・・えへへ。
そんなことを思っている僕を今だに見つめてくる璃月は、何やら思いついたのかアホ毛をぴょこんと立たせた。それから窓を開けて、ついでに口を開いて言う。
「ねー、ねー、鳴瑠くん。私ね、気づいたの。柵に囲まれてる鳴瑠くんって、明るい栗色の髪も相まって動物園にいるライオンさんみたい。えへへ、私、食べられたい」
璃月まで僕を動物園の動物扱いか‼
なにより、璃月に見つめられて、ドキドキしてた僕が何か恥かしいじゃん‼
ちょっぴり残っていた純情を弄ばれた気がしてならない。
怒ったぞぉー(たいして怒ってない)‼
ここは仕返しに、今まで僕が出したことないライオンのような野性味を出して、璃月に仕返ししてやるんだから、がおー(野性味皆無な僕)‼
ちなみに、ライオンごっこをしたいだけだったりするが、璃月には秘密だ。
両手を顔の横に持ってゆき、爪を立てるようにする。
それから目をツリ目にして――、
「がおー、食べちゃうぞぉー、僕はらいおんだぞぉーがお」
「え、かわいっ‼」
「にくしょくだがぉぉぉ・・・・」
渾身の野性味をただの一言で否定されて、悲しい。
しかも、璃月は写真・・・・いや、動画を撮り始めたりもしている。
怖がってもらえないよぉ・・・・がぅぅぅ。
「ほら、鳴瑠くん。これ、付けた方がもっとライオンさんだよ‼」
「がお?」
璃月は言って僕の頭に何やら付けてくれる。
それから一端、録画をやめて僕の写真を撮ると、僕の姿を見せてくれた。
彼女のスマホの画面に映るのは、犬耳を付けた僕の姿。
がぅぅ・・・・ライオンは猫の仲間だよ。
ライオンの完成度が上がったのか、下がったのかもはやわからない。たぶん、後者だと思う。けれど、耳を付けたことによって気分はちょっと変わった気はする。
「がおー、がおがお、璃月のこと一口だがぉー」
「いーよ、そうゆーの、そうゆーのもうちょっと頂戴。うへへ」
大好きな璃月のため、出来る限り要求には堪えてゆく。
その際、後ろで横目に見ながら掃除をしていたクラスメイトの女の子たちも、僕の写真を撮っている気が・・・・璃月にバレタラ大変だから気を付けるんだよ?
見ないふりをしておく。なんたって僕は、璃月のことだけ見ていたいからだ‼
「それで、それで、鳴瑠くんは一体、私のどこを食べたい?」
「えー、もぉー、僕の口から言わせるのがぉー」
「ほらほら、ゆってみなよ。ゆえば食べさせたあげるよー」
「じゃぁね――」
えっちな言葉を言わされる流れみたいになってる謎の会話。
僕は璃月に褒められたいがために、元気よく彼女の食べたい部位を宣言する。
「――アホ毛‼」
「想像してたのと違う!?」
ぴょんぴょん飛んで璃月のアホ毛を食べようとする僕。
彼女は巧みにアホ毛を動かして、僕がジャンプをしても届かない上の方に退避させて僕の口から逃げる。ひどい、言えば食べさせてくれるって言ったのに‼
なおもぴょんぴょん飛んで諦めずに、アホ毛を食べようとするも叶わない。
「むぅーヒドイよ、言えば食べさせてくれるって言ったのに(ジャンプしながら)」
「いや、初手でアホ毛ってゆった鳴瑠くんにも非があると思うの。私はなんてゆーか、もっとえっちなところを食べさせてほしいってお願いするのかと――って私はえっちくないんだから、ナーくんからえっちなお願いしてよ‼」
隠せてない。
僕にえっちなことをされたかったという願望が、何1つ隠せてない。
ツッコミを入れないでおいてあげる。だって、ムッツリツキも可愛いし。
飛び跳ねがら僕は話を続ける。
「なら、璃月はどこなら食べさせてくれるのさ」
「えー、うーん、そうだね・・・・んー、ベロだったら、どぉー?」
「――ッ!?」
目を瞑り舌をチロっと出した璃月は、跳ねる僕にそんな提案をしてきた。
・・・・。
・・・・、・・・・・捕れない獲物より、捕れる獲物。
そいう考え方も、今の野性的な僕には必要かも。
というわけで、ジャンプしても届かないアホ毛から狙いを変えて、彼女の舌に狙いを定めた。彼女の肩を掴んで顔を近づける。そのまま舌をパクリとしてみた。
「はむはむ」
「ん、んー」
「はむはむ」
「んー、んー・・・・ん」
「りちゅきのひは、おいひー」
掴んだ小さな彼女の肩を通して、璃月の身体がビクリと動いたのを感じる。
それでも、無我夢中ではむはむと僕は息が続く限り食べ続けてしまう。
それもこれも璃月の舌がおいしいせいで、やめられない止まらないので仕方ない。
「ぷはっ」
「はにゃー、にゃーくん、わたひのべりょ、食べしゅぎだよぉ」
ようやく息が切れて僕は璃月の舌から口を放す。
酸欠なのか、気持ちよすぎたためなのか、フラフラしてる璃月。
そんな彼女の肩を支えて、息を整えるまで待ってあげる。それから口を開いた。
「璃月の舌おいしんだもん。それとも、食べ過ぎだった?」
「・・・・そんなことはない」
「ならよかったぁー、えへへ」
「ねー、鳴瑠くん」
「んー?」
「お掃除終わって、お家に帰ったら、もっと食べても・・・・いーよ?」
「え、いいの‼」
「・・・・うん。ライオンさんごっこいっぱいしていいよ」
「するぅー、その時はアホ毛は?」
「ここではやだけど、お家でなら食べさせたあげる」
「わーい‼」
ぴょんぴょん跳ねながら犬耳を付けた僕は喜ぶ。
そんな様子を見て、璃月は僕にえっちな視線を向けてきている気がする。
「・・・・、えへへー」
「ん?」
「犬耳を付けた鳴瑠くんって。ガラス越しに見るとライオンさんってよりかは、ペットショップのショーケースの中にいるわんちゃんみたい。可愛いなぁ、飼いたいな」
もう僕は既に璃月に売約済みだよ‼
動物園のライオンよりペットの犬になったことで、野生感が更に薄まった気が。
とりあえず、さっさと掃除を終わらせ、僕の皆無な野生を璃月に堪能してもらうことにしよう。この後のえっちなイベントが決まって、やる気に満ち溢れたのだった。
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