第76話 緊急事態と花とお揃いデート
お揃いデートの最中、それは必然的に突然起こった。
僕を襲ったとでも言えばいいのだろうか。
「りつきぃ・・・・」
「どうしたの、もじもじしちゃって」
「う、うぅぅ・・・・璃月、トイレ」
「私はトイレじゃないよ・・・・あ、もしかして性欲のはけ口的な意味!?」
「違うよ。よくあるネタを変態的に昇華させないでよ。そして、興奮しないで」
「してないもん。えっちくないからしてないもん。冗談だし。鳴瑠くんにいろんなことを無理やりされるのなんて・・・・・・悪くないもん‼」
ただただ変態的な宣言をにやけた顔でしているので、えっちくない発言に関しては説得力皆無だった。
まぁ、僕も璃月に無理やりいろんなことされるのは好きだし、性欲のはけ口にされるのも悪くないとか思ってるから、人のこと言えないけど。
願望はさておいて。
「トイレに・・・・お花を摘みに行きたいんだよ」
「どうして急にメルヘンチックな言い方にして、乙女化したのかはさておき。私に気にせず行ってきてもいいよ」
「うん、それじゃお言葉に甘えて」
あまり待たせるのも悪いので、すぐにトイレに行ってくることに。
で、なんだけど――僕は何もせずに戻ってきていた。
「りつきぃ・・・・ひどいんだよ。僕が男子トイレにお花を摘みに入ったら、みんなが僕を追い出すんだ。何も摘めなかったんだぁ・・・・」
「よくよく考えたら、でしょうねって感じだよ」
今はお揃いデート中。
ようするに、僕はまだ男の子ではなく、男の娘だった。
「みんな、僕の胸を見てガッカリしつつも、顔とか足を見てえっちな目を向けてくるの。怖いよぉ。男子トイレ怖いよー」
「ふむ、鳴瑠くんにえっちな目を。それは許せない。ちょっと待ってて、私が鳴瑠くんの代わりに花と言う名の命を摘んでくるから‼」
「僕の為にしてくれようとしてくれてるのは嬉しい。嬉しいんだけど、やめて‼そんなことをしても誰も助からないし喜ばない。なにより、僕の膀胱はそのままだよ‼」
璃月がしようとしていたのは『摘む』よりも『刈る』のが近い気がしてならない。そんな彼女を僕はぎゅーと、漏れそうなのを我慢しながら腕にしがみついて止める。
彼女がしようとしていたことも、膀胱の氾濫もギリギリのところで止められてよかった。とはいえ、膀胱の氾濫危険水域に達しようとしていて時間はない。
「うーん、女子トイレに入るのは気が引けるんだよね。恰好的には正しいけど、男の僕が入るのは他の利用者の人に悪いし。犯罪になりそうだし」
「珍しく常識人な鳴瑠くん。えらいよ」
「いやいや、僕は変態って罵られることは多いけど、分別はつくよ」
「ほんとに?」
「うん。璃月以外のトイレシーンとか男女問わず僕に需要ないもん」
「それって私のに興味あるってことじゃん。分別がつくって、対象の話なのね。行為についてじゃないんだね!?」
「そうだね。もっと言ってしまえば、璃月以外でムラムラすることないし。璃月以外で気持ちよくなることなんてないよね」
「ナーくん・・・・えへへ、私なしでは生きてけないね?」
「うん‼」
「元気なお返事うれしい」
璃月はよしよし僕を撫でてくる。
その行為は嬉しいんだけど、膀胱に響いて辛い。
ちなみに璃月は「私も鳴瑠くん以外でえっちには・・・・」と言いかけてやめた。全てを言ってしまえば、自ら言っている『えっちくない』発言が嘘になってしまうからだろう。璃月はえっちだから言っちゃえばいいのに。
にしても。
ショボンと肩を落とした僕は璃月に言う。
「きっと僕には花を摘む権利もないんだ」
「そんなことはないと思うけど」
「どこでも摘めなくて、最終的には摘めずに終わるんだ」
「飛躍しすぎじゃないかな。ん、んーと、摘めずに終わるって言うと、お漏らしってこと・・・・鳴瑠くんのお漏らしシーンかぁ、悪くはないかも」
「璃月?」
「しかも泣きながら『ダメなのにぃ、止まってよぉ~、りつきぃ見ないで』とか言いながらだったらもっといい。それを私が慰めながら、濡れた身体を拭いてあげる・・・・・うん、えへへー、ナーくんも脱がせられて最高かも、えへへ」
その妄想、ダメでしょ。止まってよ。璃月、漏らさないかと今か今かと見るのやめて・・・・・。妄想の中で僕は大変なことになっていた。
まったく璃月は変態だな。
やれやれと肩をすくめる。
まぁ、でも思うことはある。
璃月に身体を拭かれるのは悪くないな‼
と、興奮する僕がいた。トイレ行きたい。
「にしてもさ、鳴瑠くん。その恰好でトイレに入ったら追い出されるのわかってたよね。勉強ができる天才のはずなのに。抜けてて可愛い」
「学校の勉強は符号の集合体。いわば○×ゲーム。あんなのできてとーぜん(何を言ってるのか自分でもわからない)」
「何を言っているのか10割方わからないんだけど。とりあえずは、天才感出そうとしていることだけはわかった」
「そんなことよりも、どーしよ。トイレ行きたい」
花を摘むという言い方すらできる余裕が段々となくなってきた。
たぶん、このまま僕は男子トイレにも、女子トイレにも行けずに漏らすんだ。
僕は目からも漏らしそうだった。
絶望にくれ、死に場所ならぬ漏らす場所を探そうかな、と思い始めた僕に、璃月が真顔で言ってきた。
「いやいや鳴瑠くん。普通にどっちにも行けばよくない?」
「え、なにそれ。なぞなぞ?」
「ううん、なぞなぞじゃなくて。普通に男女兼用トイレに行けばいいのでは、と」
「たしかに‼」
「というわけで私も兼用トイレ、いうところの多目的トイレになら一緒に入れるからさ。私も中に入って後ろから抱き着きながら手伝ってあげよ――」
何やら多目的トイレの『多目的』という言葉の意味を、『ナニをしてもいい』と捉え、えっちなことを勧めてきている気がする璃月。
だけど今の僕に、僕の膀胱にそこまでの余裕はなく、全ての話を聞く前に僕は多目的トイレに行ってしまったのだった。
そのあと、無事に戻って来た僕に彼女は「私のお話、最後まで聞いてくれなかった。ひどい‼」とか言いながらほっぺを膨らませてぷんぷん怒っていた。
抱きしめたり、キスをしたり、お話をして機嫌を取った僕だった。
ちなみに、璃月が多目的トイレの存在をすぐに教えてくれなかったのは、もじもじした僕を長く見たかったかららしい・・・・・。
逆の立場の時が来たら、トイレ行くのを阻止してやる‼
心の中でそう誓ったのだった。
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