第58話 夏休み 8月その8   Sentimental 鳴瑠の場合

 8月31日、午前。

 お泊りが控えている中、僕は片隅駅近くのショッピングモールにやってきていた。店内を一通り見回しては出てを複数の店舗で繰り返す。

 とっても怪しい行動だけど、別に万引きの機会を狙ってるわけではない。もちろん、店員さんを物色しているわけでもない。後者に関しては、璃月命の僕。しかもお泊りが控えている身としては絶対にありえなかった。

 また、気に入ったお泊りセットが見つからないなどといった可愛い理由でもないし、夜に璃月と遊ぶためのものを探しているわけでもなかった。

 連泊するわけでもないので大層なものは必要ない。

 遊び道具に関してはお姉ちゃんの部屋から勝手に持ってきたゲーム機があるので問題なかった。あれ、でもお姉ちゃんが今日は1日ゲームを満喫するとか言っていたような気もするけど・・・・・まぁ平気だろう。

 鳴り続けるスマホから目を逸らしつつ思う。

 では、どうしてここに来ているのか。

 それは璃月に贈るプレゼントを買いに来ていたからだった。

 とはいえ、ここでのプレゼントに深い意味はない。彼女の誕生日は12月2日でまだ先だし、今日が8月31日なわけだから付き合い始めた記念日的なものにしても2日ほど足りないわけで。

 ただ単純に、僕がプレゼントを渡したいからこうして買いに来たというわけだった(付き合ってから1度もプレゼントをしてなかったことに目を伏せつつ)‼。

 理由についてはさておき。

 現在の状況は芳しくはなかった。


「んー、むぅー」


 と、唸るくらいに考え込んでいた。

 普段であれば、璃月に相談して解決するのだが、今回ばかりはそうもいかない。プレゼントを渡したい相手に聞くなんてありえないじゃないし。

 よくよく考えてみれば、僕はお姉ちゃんを除いた女の子にプレゼントをあげたことがない(男にもない)。圧倒的なまでに、プレゼントフォユー経験皆無だった。

 璃月と同じ女の子であるお姉ちゃんに助言を貰う手もあるけど、精神年齢とか、ゲームを勝手に持ち出している(こんな形で障害になるとは思いもしなかった)ことから訊くことはできない。

 現状、誰の助言も借りずに僕自身で選ぶしかなかった。

 まぁ、そんな状況が嫌じゃない僕もいる。

 だって、璃月のことを考えることが嫌なわけがないからだ。

 可愛い彼女を想像して「これだったら喜んでくれるかな」とか、「これとか璃月に似合いそう」とか、「これ身に付けたら可愛いかも」とか。正直、ずっと考えていても飽きたりはしなかった。

 と言ってもだ。

 時間制限はあるわけで、悩める時間も移動時間を含めて2時間程度。

 残念なことに漠然とプレゼントを探す作戦はここら辺で終了し、本格的にプレゼントの方向性を考えていくプランにした方がいいかもしれない。

 思考を開始する。

 まず、璃月のプレゼント選びを困難にしている理由。それは僕が何を贈ったとしても璃月は最終的に喜んでくれることだと思う。

 普段の彼女の行動を見るに、呆れることはあっても愛想をつかすことはない。僕がバカなことを言ったとしても、文句は言いつつ受け入れちゃうのが璃月なわけで。それくらい僕のことが好きな女の子なのだ(断言)。

 だから多分、土偶を贈っても喜ぶと思うし、スコップを贈っても喜ぶだろう。極論、僕の履いたパンツを贈っても喜んじゃうと思うのだ。※実際には贈らない。

 ようするに何が言いたいかというと、喜んでくれるプレゼントの選択肢が多すぎて、逆に難しいということだった。

 人間、少しくらいの制限があったほうがものを決めやすいイメージがあるし。

 では、どうするか。

 ここは『無いな』と思うものを候補から外す、消去法を採用するべきだと思う。

 候補の自由度が高いなら自分で減らすのが妥当なやり方だろう。これならばプレゼントフォユー初心者の僕でも決められるはずだ。

 では、消去を開始する(カッコいい)。

 まず、第1に消耗品は今回はなしとしようかな。

 その為いい香りの石鹸とか、アロマとか、入浴剤とか、ハンドソープとかが候補から消える。ここら辺はプレゼント的にはいいけど、最初のプレゼントだ。形に残るものをあげたいという僕のちょっとしたワガママが入っている。

 続いて第2に衣類も候補から外す。

 これは悲しいことに服を選ぶセンスがそこまでないのが大きな理由だ。また、服とか下着は自分で決めて僕に見せたいとも璃月は言ってたし。

 で、最後に外すべき項目はアホ毛か。

 まことに遺憾ながら外すべきだと僕は思う。大真面目に思う。アホ毛に関係するプレゼントが何なのか皆目見当がつかないけど排除した。もはや、アホ毛関連は僕のワガママなので苦渋の決断でなしだ。

 ここまでくるとけっこう絞れてきた。

 形が残りつつ、衣類以外の身に着けるものであり、アホ毛が関係しないもの――アクセサリーを中心に見ていくことにした。

 可愛いアクセサリーが売っているお店に向かう。

 イヤリングに、髪飾、ブレスレットに、ピアスにネックレス、そして指輪。多くの種類があってどれにするか迷ってしまう。

 ぶっちゃけ、璃月ならどれも似合っちゃうわけで。まったく、璃月の可愛さに悩まされる日がこようとは。なんて幸せな彼氏なんだ、えへへー。

 イケナイ、イケナイ、ちゃんと意識を保ってプレゼントを選ばないと。僕はとりあえずレインを使って『璃月と付き合えて僕は幸せ者だよ』とメッセージを贈って落ち着くことにした。

 落ち着いた僕は再思考。

 ここで考えるべきは、どのタイプのアクセサリーにするかだ。

 まず候補から外すのは指輪。

 なんでかって、そんなのは決まってる。後で立派なものをあげたいからだった。

 自分でそんなことを思いつつ恥かしくなり「うぅー」と漏らしてしまう。店員のお姉さんがこちらにやってきて心配してきたが「好きな子へのプレゼント選び中です」「僕の彼女、可愛すぎてどれも似合っちゃって困ってるんです」と伝えると、「可愛い‼」とか言いながらほっこりした顔で去ってゆく。

 気を取り直して。

 うーん、イヤリングとか、ピアスだと璃月の可愛い耳たぶに穴を開けないと付けられない欠点がある(耳たぶを凝視したことがあるので穴がないのは確認済み)。あと、すぐ耳からとれるイメージあるし(偏見)。

 ブレスレットだと、手錠デートの時に邪魔になっちゃうからダメだ。

 と、なると髪飾りかネックレスになる。

 どっちがいいかと悩んでしまう。

 ここはこうしようかな。

 プレゼントを1つに絞らなきゃいけない理由もないし。ここはどっちも買ってしまえばいいんじゃないだろうか。

 まさに逆転の発想だった。何が逆転しているのかはわからないけど。

 それに璃月もカメラと自分をプレゼントって言うのをやってたわけだし。

 僕はそんな感じで髪飾りとネックレスをプレゼントにすることに決めた。残り時間はデザイン選びやらラッピングに使い、そうこうしているうちに出発する時間になっていたのだった。


 ♡♡


 13時00分過ぎた頃のこと。

 ご飯を用意して待っているとの連絡が璃月からくる。

 それを受け、急いで彼女の家に行くことにした。

 冷めてしまってはもったいないし、大好物の璃月の手作り料理だ。早くこの胃につめて、胃袋を掴まれたかった。僕は自分で胃袋を掴まれるスタイルだった。

 さておき。

 こうして親以外の人が料理を作って待っていてくれているこの状況は、結婚したみたいで嬉しかった。しかも新妻風に出迎えてくれるとの連絡があったからなおの事。

 それにしても、璃月と結婚かぁー、エプロン姿もいいし、裸エプロンもいい(エプロン姿とは別カウント)。部屋着が毎日見れるのもいいし、お風呂上りも見れるのもいい。パジャマは、着ないとのことなので見れないのが残念だけど。

 なにはともあれ、僕は過去最大級に浮かれていた。

 長い時間、璃月と一緒にいられることが。

 また、なにより僕が選んだプレゼントを見て、彼女がどんな反応をするのか楽しみで仕方がなかった。

 心躍らせていると、いつの間にか璃月の家に着いていた。何度も来たことがある場所なのに、今日はどことなく違った雰囲気を感じる。

 なんというか、どこからともなく視線を感じると言うか・・・・・。

 視線を感じる上の方、2階に視線を向ける。

 そこにいたのはなんと、2階の窓にほっぺやらおっぱいやらを押し付けて、ぴょんぴょん跳ねながら、こちらを見ている女の子――璃月の姿だった。

 正直、途中までホラー的なものかと思ったがまったくそんなことはなかった。

 もし幽霊だったとしても、こんなに可愛い幽霊なら毎日どんな時間でもでてきて驚かせてもらって構わない。もはや、憑りついてもらって四六時中一緒にいたい。

 まぁ、そんなできもしない非現実的な話は置いておいて、現実的なことを考えようか。僕は決め顔で璃月に視線を向けて思う。

 窓に押し付けられているおっぱいがとってもよかった。

 普段は物理的に押し付けられている接着面を見ることができない。だが今は透明なガラスを用いることで、見ることが可能となっている。

 それが現実の目の前にあるわけで、感動しないはずがなかった。もっと言わせてもらえば、上下に璃月が動くたびに接着面が形を変えるのもいい。

 また、ほっぺが窓に押し付けられて、ぷにってなってるところも最高。とにかく、窓に張り付きっぱなしの彼女を外側から永遠に見たかった。

 この記録を永遠に残す為に、スマホのカメラを向ける。だが、それを即座に察知した璃月はシュッとしゃがんで消えた。

 最高の録画チャンスを逃してしまう。

 む、むー、ひどい。少しくらい僕のスマホに可愛い璃月の動画をいれておきたかったのに。あわよくば、毎日見て日常の一部にしたかったのに。

 とっても悔しかった。

 僕がため息をこぼすなか、トトトトト、と家の中で走る音がする。それからドタドタ何やら音がして扉が開かれた。

 璃月が鳩時計の鳩もビックリの行き良いで飛び出したかと思うと「鳴瑠くん、おっかえりー‼」と叫びながら僕に抱き着きタックルをしてきた。

 もちろん何も準備をしていなかった僕は、抱き着かれるまま踏まれたカワウソの如く変な鳴き声を出しながら倒れて、彼女に潰されてしまう。


「はむみゅーっ(顎に頭がヒットした鳴き声)‼、ぎゅぅー(潰れた鳴き声)」

「おかえり、鳴瑠くん。おかえり、鳴瑠くん。ご飯にする、お風呂にする、やっぱり私だよね。私以外の選択肢とかないよね。私以外だったらご飯と、お風呂に浮気したってことになるからね」

「はみゅー(潰れてる鳴き声)」

「えーと、はみゅーと浮気?」

「きゅー、きゅー(体を揺すられてる時の鳴き声)」

「今度はキューキューと浮気?」


 僕はこんな攻撃的な新妻風お出迎え知らなし、人外と浮気してると思われるのは不本意でしかないよー。どう頑張っても、ツッコミが追いつかない。

 タックルのせいなのか、はたまた好きな子の匂いとか感触とかそういった甘いラブコメチックな理由で頭がくらくらしているのかわからなくなっていた。個人的には後者であってほしいけど、たぶん前者が主な原因だと思われる。

 それはさておいて。


「ににゅに、ほっろほいへ~(璃月、ちょっとどいて)」

「鳴瑠くん、酔ってるの!?飲んで帰るなら連絡ちょうだいっていつも言ってるでしょ」


 新妻ぽいけど言われたことがない。そもそも僕は未成年だ。

 僕が変な喋り方になってるのは脳が揺れた為、ようするに璃月のせいだった。


「まったくぅーこんなになるまで飲んじゃって。ほら、中に入るよ?」

「きゅー、きゅー」

「よいしょ」


 璃月に肩を貸りて一緒に玄関へ。

 とっても新妻ぽいけど、こうしたのは彼女自身。ほぼほぼマッチポンプと言える。

 玄関に僕は横になって、だんだんと意識がしっかりしてくる。ようやく体が起こすことができるようになった。


「いた、たたた~」

「ごめんね、鳴瑠くん。オンリーワンなお出迎えをしたかったの」

「うん、痛かったけど平気だよ」

「でも心配。だから、ちょっと待ってね――」


 そう言うと璃月は、僕のお腹の上に対面になるような形で女の子座りで馬乗りになる。バランスをとるように僕の肩に両手を添えると、璃月は迷うことなく顎に「――ちゅっ」とキス。それから仕上げとばかりに上目ずかいでこちらを覗いながら甘い声で言った。


「痛いの、痛いの、飛んでけー。・・・・・どぉーかな。治ったぁ?」

「コクコク」


 僕は首を縦に振って答える。それを見て、璃月は「よかったぁー」と安堵のため息をこぼした。どうやら、ちょっとやりすぎだったと反省している様子だった。


「ほんとに気にしなくて平気だよ」

「うん、でももう1回だけ言わせて。痛いことしちゃってごめんね」

「うん、ご褒美とでも思っとく」

「ありがと・・・・・・ん?鳴瑠くん」

「なに?」

「スンスン、スンスン」


 僕の匂いを嗅ぎ始める璃月。

 前かがみになったためか、座る位置が変わる。少しばかり重心が後ろになったため、彼女のお尻が僕の下半身に乗っかってしまう。

 匂いを嗅がれ顔が近づいたこととか、彼女に乗っかられている場所とか。そういった多くのものが重なり、ぽわぽわとした変な気分が体の内から溢れ出る。

 これは無理矢理キスをされた時(壁ドンの時)にも溢れ出てきた感覚と似ていて、僕の頭はどうにかなってきちゃいそうだった。ちょっと怖い感覚だ。

 答えが出ないままの感覚に怯える僕へ、璃月はスンスンと匂いを嗅ぎながら言う。


「んー、んん?鳴瑠くん」

「な、なに?」

「どこか行ってきたの?スンスン、『私以外』の女がいっぱいいるところとか」


 その質問により僕の内から出ていたよくわからない感覚が消え失せた。

 別の意味で恐怖心が沸き上がる僕がいたのもまた事実だった。


「えーと、たしかに、僕は出掛けてたけど・・・・・」

「ふーん、そーなんだ。どこ?」

「ショッピングモールだけど」

「ふーん」


 えーと、もしかして・・・・・浮気を疑われたりしてる?

 というよりも、1人で買い物をしていたわけで女の人と話したりなんかしていな――あ、アクセサリーショップのお姉さんと少し喋ってた‼

 まさか、それのことを言ってるのかな!?

 想い出してみると、璃月以外で喋ったのはあの人だけだった。

 また、よくよく思い出すと、数店のお店を回ったが、どこも女のお客さんばっかりだったような気もしなくもない。考えられるとしたらそこしかなかった。

 にしても、驚愕すぎるでしょ、その匂いをかぎ分けるのは。

 理由がわかったけど。

 言えないなー・・・・というよりも、この流れでは言いたくないな。

 璃月のプレゼントを買いに行っていたので、やましいことは一切なかった。それを言えば璃月からの疑いは一気に晴れるだろう。

 だけど、個人的なワガママになるんだけど、このタイミングでは言いたくなかった。もっと雰囲気がいい時に渡したい気持ちがあった。

 何も言えないでいると。


「私を置いて、1人で、ショッピングモールに行ったんだぁー」

「そうなんだけど、ね」

「私を置いて、1人でお出かけしちゃったんだぁー」

「えーとぉ、璃月はもしかして、寂しかったの?」

「そ、そんなわけないよぉ」


 彼女は涙目だったため、説得力は皆無だった。

 プレゼントを買いに行っていたことを言えば、すごく元気になると思う。それがわかっている僕だけど、まだ言わないでおくことにした。

 心が痛い。痛すぎる。


「ごめんね。今回だけは1人で買い物に行きたかったんだ」

「えっちなの買ってたの?」

「ん!?」

「私に内緒で買い物に行くっていうなら、えっちなもの買いに行く以外ないかなって思った。どんなの買ったの?」


 僕を何だと思ってやがる・・・・・普段の行いだな。

 といっても、えっちなもの以外にも璃月へのプレゼントを買いに行ったりすると思うんですけどね‼


「いやいや買ってないから」

「あー、もしかして、私とはまったく違うタイプの女のヤツなんだ。もしそうなら私・・・・私、泣く」

「落ち着こう、ね。本当に違うから。僕のタイプは璃月。璃月以外では満足できないから、ね。だから安心してよ」


 何を言っているのか、段々とわからなくなってきた僕がいた。

 そもそもだ。


「璃月は、僕が璃月以外で満足できると思うの?」

「できないと思う。鳴瑠くんは私にメロメロだから」

「うん、そうだね。そうやって断言しちゃう璃月が好き」

「ありがと、私も好き」


 えっちな本を買っていたという疑惑が晴れたようだった。

 本当によかった。


「でもそうだね。よくよく考えると、女がいっぱいのとこにいたのはたしかだし・・・・・。そうなると、あれかな。タピオカ。女がいっぱいいるのはタピオカのお店に決まってる。なんで誘わないの!?たいして興味はないけど、誘ってよー。カロリーか、カロリーを気にしてるとでも思ったのか‼私、そんなの気にしないし、気にしてたら、タピオカミルクティータピオカなしでも頼むからー‼」


 ただのミルクティーじゃないか。

 というよりも、もはやただの寂しんぼの甘えたがりだった。

 可愛いのは可愛いし、一緒にいてあげたくなるんだけど。ここをどうやって納得させるかが問題だった。

 僕は素直な気持ちを紡ぐことにした。


「えっとね、璃月。寂しい思いをさせちゃったこととか、疑わせることになちゃったのは本当にごめん。だけどね、これだけは安心してほしいな。璃月を絶対に裏切るようなことはしないよ」

「・・・・・鳴瑠くん」

「それにちょっと恥ずかしいんだけど。僕の趣味って璃月を喜ばせることだしさ」

「・・・・・そっか。そうだよね。鳴瑠くんだもん」


 僕の話を聞いた璃月は、いつもの調子を取り戻したように微笑んだ。それから僕の上から立ち上がって離れてゆく。数歩進むとこちらを振り返った。


「たしかに寂しかったけど、私を置いていくのにも何かしらの理由があったんだよね。ほんとーに、ごめんね。取り乱しちゃって」

「んんん、いいよ」

「今日の私、謝ってばっかりだね」

「たまにはいいんじゃないかな。まぁ、ありがとうとかの方がいいけど」

「そうだね。ここからはお互い、謝るの禁止にしようか」

「それがいいよ。ポジティブな言葉だけにしよう」

「そうしよ。鳴瑠くん、ご飯できてるよ」

「そっか、楽しみだな。それじゃ、いっぱい食べちゃおうかな」


 立ち上がり、リビングに行こうとした僕を1度、璃月は止めた。

 ん?と視線で問うと彼女は告げる。


「その前にお風呂」

「え、うん?」

「鳴瑠くんはもしかして、他の女の匂いを付けたまま食べる気なの」


 彼女は素敵な笑顔のままだった。

 それが逆に怒っているような気がしてならなかった。逆らえないというか、拒否権がない。だから僕は従う。


「えーと、はい。入ってきます」

「隅々まで洗うんだよ」

「うん、隅々まで洗わせてもらいます」


 初めてのお泊りは、お風呂から始まったのだった。

 僕がお風呂から出たあと匂いがとれたかの確認と称し、璃月が抱き着いてきてめっちゃくちゃ匂いを嗅がれてえっちかった(宿題の日記感)。

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