第24話 ゲームセンター その1
教室から出た僕たちは少し寄り道して帰ることにした。場所は電車にのってだいたい30分くらいの駅――片隅駅。そこにあるゲームセンターだった。
片隅市で1番栄えていて、ゲームセンターやらショッピングモールなどなど、多くのものがある場所になっている。むしろ、若者が遊ぶと言ったら片隅駅であると言っても過言ではなかった。
とはいっても僕はあまり来たことがない。あってもお姉ちゃんの買い物に付き合ってくるくらいでどこに何があるのか詳しくは知らない。
ちなみに、どうしてお姉ちゃんの付き添いで来ていたかというと、あのロリロリしいお姉ちゃんが1人で歩いていると、怪しい人たちに誘拐されてしまうからだった。そんな悲しい話はさておき。
「璃月。ここは?」
「ん?ゲームセンター」
「え、あの!?」
「あの、って?」
「ほら、ここって可愛い女の子がナンパされちゃう名所。ようするに璃月が入ったらダメなとこでしょ!?」
「君の中のゲームセンターのイメージがわけわからないよ!?」
璃月に貸してもらったライトノベルなる書物やら、教えてもらったアニメなんかでは決まってナンパされていた。
そのため、僕のイメージでは『ゲームセンター=ナンパされる場所』になっていた。それを説明する。
「鳴瑠くん。アニメとかに影響受けすぎ」
「でも・・・・」
「そもそも鳴瑠くんはゲームセンター来たことないの?」
「うん。お姉ちゃんが入ろうとしないところに僕は入ったりしないし」
「お姉ちゃん子というか、なんというか。とりあえず、お姉ちゃんに私と付き合っちゃダメって言われたらどうするの?」
「そんなの決まってるよ。お姉ちゃんと対立して世界を滅ぼすほどの戦いになろうとも付き合う・・・・いや、僕は璃月と結婚する」
「私を世界の命運に巻き込まないで」
「否定するのはそこだけなんだね」
「うーん。なんのことでしょー」
何食わぬ顔を装っている璃月。
より強く握られた手は熱くなる。また、雰囲気からなんだか嬉しそうだった。
「うーん。そうはいってもさ、璃月。やっぱり、璃月って可愛いからナンパされる危険があると思うんだよね。基本的には僕が近くにいるから大丈夫だと思うけど、トイレってどうしようもないじゃん。アニメとかでも『トイレに行ってくる』って言った数秒後にはナンパされてること多いしさ」
「その話、まだ続くんだ。心配し過ぎじゃないかな?」
「んー、でも心配し過ぎに越したことはないと思うんだ。特に璃月にナンパしてきた人を怒りに任せて僕がどうするかわからないし」
「心配ってそっちなのね。もはや、私がナンパされることじゃなくて、ナンパしてきた人を心配するのね」
「璃月は可愛いから、1人でいたらナンパされるのは決定事項だし」
「決定事項なんだ」
「うん」
「う、うん・・・・照れていいのかよくわからないよ」
なにやら呟く璃月。
少し考えて璃月と離れないための案を出すことにした。
「璃月。トイレに行くときは僕に言って」
「な、いきなり何を言うのぉ!?いや、恥かしいけど、言わずに消えたりはしないけど・・・・そいうことはさすがにデリカシーがないっていうか・・・・。それでどーゆうことかな。改めてそんなセクハラ発言なんかしいちゃって」
「いやね。思ったんだ。1人でトイレに行ってナンパをされる展開が多いなら、僕も一緒にトイレに行けばいいのでは、と」
「えーと、ごめん。超理論過ぎてわけがわらないよ」
「よーするにね。同じトイレに入ってしまえば、離れないですむってことだよ」
「ナンパをされる以前として。彼氏が一番の変態なのではないかと私は思います。ここまでくるとナンパしてくる人の方が安全な可能性が少なからずでている気がするの」
「ひどい‼」
「鳴瑠くん。日本は・・・・いや、世界ではね。男の子と女の子でトイレが分れているの。だから、君は女子トイレに入れないし、私は男子トイレには入れないの」
子どもに言い聞かせるように言ってくる璃月。
ちょっと癖になりそうだったけど、さすがに変態度が加速し過ぎているので僕はやめてもらうことにした。
「子ども扱いしないでほしいんだけど。そんなことくらい知ってるよ‼」
「知らないと思ったんだけど、知ってたんだ」
僕を何だと思ってるんだ。たぶん、変態だと思われてるかな。
どれだけ変態だと思われていようと、彼女が心配なのには変わりないわけで。
「でも璃月が心配で・・・・女子トイレの前で待つってのは?」
「それだと、私が出るころには警察か、お店の人に連れて行かれて君はそこにはいられないと思うの」
「ぐ、たしかに・・・・そもそも璃月に変態と罵られるのはありだけど、他の人には嫌だしなー」
「私ね、君はもう手遅れだと思うから。うん、責任を取るね」
「それって・・・・」
「こういう形でロマンチックなムードに入られるのは困るかなー」
たしかにこの流れでキスはあまりしたくなかった。普通にしたいけど、絶対に今じゃない。こんな変態な話をした流れはとりあえず嫌だった。
「うーん。男女共用のトイレを使う」
「それ、確実に変態も入ってくる前提だよね」
「遂には僕を変態呼ばわりだよー」
「そう呼ばれて嬉しそうにしてるよ、この子。うーん、それにだよ。同じトイレに入るのはさすがにまだはやいよ」
「それって・・・・」
「それよりもだよ」
輝かしい瞳を送る僕に・・・・・ではなく。ジト目を送る僕に璃月はそっぽを向くと言う。
「そんなにナンパが心配ならさ、トイレに行かなきゃいいんだよ」
「それは盲点。考えもしなかったよ。これが逆転の発想というやつだ‼」
「すんごく驚いてて可愛いんだけど。対してすごいアイディアじゃないと思うの」
呆れた様子の璃月。
彼女はさらに僕の方へと身を寄せると体を密着させる。僕の腕に何やら柔らかなものが2つほど当たっている。彼女はそれを気にしている様子はない。
背伸びをして僕の耳元まで唇を近づけると囁いた。
「そんなにナンパされる私が嫌なら、しっかりとくっついて離さないようにしなきゃだね」
「う、うん・・・・そーだね」
「どうしたのかなー。さっきまでの変態的元気はどこにいったのかな。鳴瑠くん」
「えーと、璃月」
「なに?」
「なにやら柔らかいものが当たってるんだけど」
「なんのことだろーなー?」
したり顔の璃月。
僕はその柔らかさの正体を恥ずかしがりながら答える。さんざんこれまで変態的なことを考えたり口にしたりしていのに。こういうどっ直球なものを口にするのは初めてで照れてしまう。
「えーと・・・・おっぱいが当たってます」
「当ててます」
「・・・・ありがとうございます」
「どーいたしまして。これくらい近づいてればナンパの心配、ないでしょ」
「たしかに」
「それじゃ、いこっか」
そんな感じでナンパ対策をして、僕たちはゲームセンターに入ることにした。とりあえずは、このナンパ対策はどこでもやりたいなと心の底から思った。
ナンパをされるされないに関わらず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます