第64話 練習 その3 二人三脚
それぞれ出る種目を特訓してきたわけだけど、次にやる特訓は僕たちが2人で出る二人三脚だ。
一般的には男女で分れていたりすると聞くけれど、うちの学校ではどんなペアでも出場できる。そのため、男男のペアや、女女のペアもあり、僕たちのような男女のペアもある。自由度の高い二人三脚と言える。
これに関しては、僕たちの仲の良さを知るクラスメイトたちから懇願されて出場する形となり、それを2つ返事で了承したという経緯がある。
その為、僕たちは、
「璃月、2人の共同作業だよ。テンション上がるね‼」
「だね、だね‼」
けっこうノリノリだった。
息を合わせて歩くとか普段じゃ味わえない特殊プレイだし(体育祭の競技の不健全化が著しい)、共同作業と思えばやりたくないことなんてなかった。
「それじゃ、ヒモ、つけるね」
そう言って璃月は、僕の左足と彼女の右足をヒモで結ぶ。これで2人息を合わせて歩かないとどこにも行けない状態になったわけなんだけど。
「なんか、手錠とか、リードとか、首輪に比べたら・・・・たかがヒモの拘束感って大したことないっていうか。物足りないね」
「私もそーおもう」
拘束慣れとでも言えばいいか。自分たちを縛るという状況下において、僕たちは慣れ過ぎてしまっていた。
そのため、互いの足にヒモを付けて拘束するといった動きの制限程度では、もはや満足感は得られない僕たちだった。
「これって手錠を足に付けるとかじゃダメなのかな?」
「それ系の自由度の解禁は、学校としてアウトだと思うの」
「んー、そっかぁー」
「鳴瑠くん、ヒモはこれくらいのキツさでいい?」
「もうちょっときつめの方が好み。璃月に強くヒモを縛られているって思うと、えへへー、興奮しちゃう僕がいるよー」
「二人三脚を考えた人も、後世で変態さんにこんな喜ばれ方してると想っても見なかったと思うの。」
そう言いながら璃月は、僕の要望通り強めに結び直してくれた。うん、このちょっといた気持ちいくらいがちょうどいい。
なんやかんや言いながら、僕の好みに結び直してくれる璃月がとっても大好き。
「それで、璃月。掛け声は、そうだね。『アイ』『ラブ』『璃月』でいいかな?」
「え、普通にいや・・・・・圧倒的センスのなさは掛け声界のトップを走れるよ」
ガチトーンで拒否られた僕。
悲しい。これほどの悲しみ、璃月に抱きしめられないと治らないよ。僕は「抱いてー」と彼女におねだりして慰めてもらうことにした。
心よく引き受けてくれた璃月は、僕を胸に抱きながら安心させるように言ってくる。
「勘違いしないで。鳴瑠くんに愛を囁かれるのはいいの。それ好き。めっちゃ好き。今からでも囁いてくれていいの」
「璃月、好き好き大好き」
「うんうん。私のこと大好きで仕方ないのは知ってるよ。それでね、鳴瑠くん。よく考えてほしいの。自分のことを自分で『アイラブ璃月』って言う子ヤバいよ。私、そんな目で見られたくないよ。逆の立場で考えてみて」
・・・・・たしかに。
自分で自分のこと『アイラブ』って言うの、ヤバい。どんなにヤバい子になっても璃月のことが大好きなのは変わりないけど。とりあえず、ヤバいのはたしか。
「うーん、それじゃぁ、どんな掛け声にしようか」
「普通に『いち』『に』じゃダメなの?」
「つまらなくないかな」
「面白さはいらないと思うの。二人三脚にはラブラブな共同作業という部分。よーするに、私たちの愛を見せつけることが第1だと思うの」
たぶん、二人三脚で1番重要なのは、1位になることだと思うの。
それは片隅に追いやって、別のことを思う僕。
僕たちの愛を見せつける。それすなわち、全校生徒の前でイチャイチャするかぁ・・・・・興奮しないわけがない。
「あえてここは掛け声なしで行くってのはどうかな。掛け声なしで息を合わせられるって、すんごく仲良さげだし」
「うーん、私たちならいけるかな?」
「いけるいける。大抵のことは愛があればなんとかなるって――」
そう言ってから、僕は続ける。
「――だからね、璃月。掛け声を変えるんじゃなくて、もっと周りに愛が伝わるような縛り方に変えるっていうのはどうかな?」
「縛り方?・・・・えーと、そのぉ・・・・鳴瑠くん。私を見損なわないでほしいんだけどね・・・・」
「僕は璃月を見損なったりはしないよ‼」
「そっか・・・・ならゆーね・・・・・私、き、きっこーしばりはできないの」
亀甲縛りができない彼女を見損なうって、どんな鬼畜彼氏なのかな・・・・。そもそも、それで璃月を見損なうと思われてるとか悲しすぎないかな?
「ごめん、そうゆう話じゃないんだ」
「ばかなるくん‼このド変態‼」
理不尽な怒られ方をする僕。
そもそもね。縛り方を変えるって言って、亀甲縛りは出てこないと思うの。えっちな璃月に対する指摘はさておき。
今度は僕が璃月を抱いて落ち着かせることにして。
それから、
「ようするにね、お互い向かいあった状態で両足を縛って、抱き合いながら走るっていうのはどうかなってこと」
「うーん、よくわかんない。とりあえず、ちょっとやってみよーか」
「うん‼」
そう言って、僕たちは1度向き合う。
それから既にヒモで結ばれている方とは逆の方にもヒモを付けることにした。最終的に、僕の右足と璃月の左足が、僕の左足と璃月の右足が縛られた状態になった。
両足が縛られている為に、もちろん、動きはかなり・・・・・もうほとんど制限されていると言っていい。しかも立ったのはいいけど、お互い抱き合って支えあわないと倒れてしまいそうになる。
ヒモがあるために離れることができない強制感。倒れないようにするために、お互いがお互いにとって必要な存在であり続けるこの状態。全てがよかった。
とはいえ。
もし、これで走るとなると、どちらかが後ろ向きで走ることになり転ぶリスクが大きく危険だと思う。まぁ、横向きで走るといったこともできるかもしれないけど。
さておき、この状態を璃月はどう思っているのかというと。
「鳴瑠くんとずっと抱き合うしかないこの状況・・・・いいよ‼」
「えへへー、天才でしょ。この縛り方なら危ないところはあるけど、全校生徒に僕たちのラブラブな様子がすんごーく伝わると思うんだよね」
「ほんとうにこのまま出場したいくらい・・・・・でもね、鳴瑠くん」
先ほどまで楽しそうにアホ毛を振りながらキャピキャピしていた璃月は、言葉が続くにつれて浮かない声音になる。
それから続けた。
「この縛り方だとね、二人二脚だよ。三脚目がないよ」
「・・・・・たしかに」
根本的な問題があった。
たしかに、両足を縛ってしまうと、二脚しかなかった・・・・・。
これは不覚だよ‼
イチャイチャを取りすぎて、根本的なルールを見失っていた。
まぁ、両足縛って抱き合うっていうのは・・・・・うん。今後もやっていきたいことの1つとして記憶の中に残しておこう。
僕は密かに、ここに手錠も加えたいとか思ったりしちゃう。
「とってもえっちなこと考えてる顔だ」
「ばれちゃったかー」
「うん。鳴瑠くんは私のこと大好きさんだから、えっちぃことを考えちゃうのも仕方ないからいいのぉ。それも愛されてる証拠」
えへへー、と笑いながら璃月は、ぎゅーと抱き着く力を強めて、僕の方に体重を預けてくる。そうするとバランスが崩れて抱き合ったまま倒れてしまう。
僕は衝撃から彼女を守りつつ、草の広がる大地に倒れ込む。
胸の上にいる璃月は僕の方を上目遣いで見てくる。
「ごめん、ふざけすぎちゃって。痛くなかった?」
「うん。平気だよ。むしろ、璃月が僕の上にいてくれて、最高に幸せな気分」
「そっかぁ、私も鳴瑠くんの上に寝るの好きだよ」
そう言いながら僕の頬をぷにぷにしてきたり、キスをいっぱいしてきたり、二人三脚の練習そっちのけでイチャイチャし続けたのだった。
ちなみに、その後、実際に二人三脚をやってみたんだけど、話題が広がらないぐらいのレベルでうまく行きすぎてしまった。
そんなわけでこれに関しては特訓はこれっきり。とはいえ、想いのほか足を縛って動けない状態でのイチャイチャが気に入った僕たち。定期的に足を縛っていこうと決まったりしたのだった。
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