第3話 連絡先交換
別れる間際の事。
「璃月、連絡先交換したいな」
「本当にまっすぐで貪欲だよね。私としたいことに関して」
「それはそうだよ。なんていうのかな。今までやりたいこととかなかったから、その反動なのかもしれないけど」
「そーなんだ。まぁいいけど。はやく、こーかんしよ」
それぞれスマホを出してメッセージアプリ『レイン』を起動する。
そう言えば、人と連絡先を交換するのなんて、両親とお姉ちゃんとした以来だから懐かしい。
悲しいことに高校に進学してからの約1ヵ月、僕は誰とも連絡先を交換していなかった。やばいめちゃくちゃ悲しい・・・・・。
嫌なことを思い出してしまった僕に、璃月はスマホを振りながら訊ねてくる。
「ふるやつ?」
「ふるやつ?」
「ん?」
「ん?」
なんだ、この噛みあわない会話は。
僕たち至上(付き合い初めて1時間程度)もっとも噛みあわない会話だった。
「ふるやつ知らない?ふるふるーてやると、ID交換できるやつ」
「んー、とりあえず。璃月の説明が可愛かったのはわかった」
「そういうのはいっぱい欲しいけど、今は違うよ。うーんと、GPSを使って、IDをフルフルマッチデース‼するの」
『フルフルマッチデース』が何のモノマネかはわからないけど。ようするに、GPSを使った交換方法だということはわかった。
交換のやり方も知らない彼氏が気にくわなかったのか、はたまた、モノマネが伝わらなかったことが気にくわなかったのかわからないが、璃月はちょっと膨れてそっぽを向く。
「むーなんで知らないの。にちあさを見るのは全国民の義務だよ。選挙の投票と一緒。税金を払うのと一緒」
「そっちでむくれてたのね。あー、それはあとで教えて」
「うん。私ね、らびらびが好き‼」
璃月の言っていることが8割方わからなかった。
とりあえず、目を輝かせている彼女が可愛いのでよしとしよう。
「スマホ、みして」
どうやら設定してくれるらしい。
正直、僕よりも璃月の方がこういったことは詳しそう。僕はスマホを彼女に渡してしまうことにした。
「うん、いいけど。はい」
「人にスマホ貸しちゃうんだね。しかもなんの躊躇もなく」
「別にみられて困るようなものはないし。璃月ならいいかなと」
「ふーん。そっか」
そこから、璃月の視線はスマホに。
タプタプ操作して、ふって交換ができるところまで画面を進めてくれた。
「はい。返す」
「うん、ありがと」
「どういたしまして。じゃ、ふろっか」
無言で数回振る。
で、ようやく画面が変わって、璃月のアイコンが映し出された。
「おー。なんか感動なんだけど‼ヤベーイ、現代の技術スゲーイ、モノスゲーイ」
「・・・・・・」
「あれ、僕の感動してるとこ見て・・・・・引いた?」
「いや、楽しそうで何よりっていうか。うん、ほんとににちあさ知らないんだよね?」
「うん、そうだけど」
「へー」
なんか怪しまれている。めっちゃ、ジト目で見られてる・・・・・。
それよりも。
これで当初の目的である連絡先交換が終わったわけだけど。
うーん、初めて送るメッセージって何がいいんだろ?
「どうしたの」
「初めて送るメッセージ、何がいいのかなって」
「なんでもいいんじゃないのかな?」
「うーん。初めての彼女で、高校生になってから初めて連絡先を交換した相手だよ。なんかこー特別な言葉を送りたい」
「その彼女は現在、ナチュラルに彼氏の悲しい現実を知って悲しいです。泣きそうです」
「たぶん、泣いた彼女の涙は、彼氏が拭いてくれるんじゃないかな」
「マッチポンプ過ぎてあまり嬉しくないと、その彼女は思ってると思う」
僕の耳は都合の悪いことは聞こえない。
というわけで、璃月が何を言ったのかわからないことにした。
「あ、そうだ。お互いに好きなものを送ろう」
「えー、それ結果が目に見えてる気が・・・・」
「ダメかな?」
「私、にちあさって送るよ?」
「そこは彼氏の名前にしてほしかった」
「泣いたらきっと彼女が涙を拭いてくれるよ」
「マッチポンプ過ぎて、彼氏は嬉しくないと思う」
「似てるね。その彼氏と彼女」
「そうかもね・・・・」
そんな時――ピコン、とメッセージが送られた音がした。
送り主は僕の目の前にいる璃月から。
そこに書かれたのは――
『宇宙町鳴瑠』
――の文字。
ようするに、
「むぅー」
「どうしたの、うなって?」
そっぽを向いて、何もなかったような素振りを見せる璃月。
これ、照れるんだけど。
落とされてから、あげられるこの感じ。たまらなく癖になりそうだった。
僕の性癖は変な方に向かっている気がする。
とりあえず、僕は『星降町璃月』の名前をメッセージで送ることにした。
それを見て、彼女は言った。
「やっぱり、似てるみたいだね」
その顔は頬が緩んでだらしなく笑っている。それを見て、僕も自然と頬が緩んでしまう。やっぱり似ているようだった。
時間を見ると、もういい時間になっていることに気づく。
「それじゃ、名残り惜しいけど、もう遅いし帰ろっか」
と、璃月。
別れ際、僕は訊ねる。
「うん、帰ってから連絡していい?」
「どーだろ。してみたら、返信がくるんじゃないかな?」
「そっか。それじゃ送ってみようかな」
「うん。それじゃ、またね」
「うん、またね」
何度となく振り返り、僕たちは手を振り合う。それは姿が見えなくなるまで続いた。
なんでもないことが全て楽しくって、連絡先が1つ増えただけなのに、僕は浮かれている。好きなものが増える楽しさを僕は実感していた。
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