第123話 バレンタイン 璃月の場合

 2月14日――放課後、璃月の部屋。

 僕は制服ではなく、璃月の部屋着パーカーワンピースに身を包むと、ペタンと女の子座り。それから1人で寂しさのあまりしょぼくれ、泣いちゃいそうだった。

 というわけで、元気を出すために今着ている璃月の部屋着パーカーワンピースの匂いでも嗅いじゃお、と。くんくん、りちゅきの匂いだぁー、しゅきー、とぅきー♡

 ちなみに言っておくが、このワンピースは勝手に拝借したわけではない。

 今回ばかりは違う。

 まるで前にしたことがあるみたいな言い方だけど、今は関係ないので置いておく。

 とりあえず、する可能性があるかないか問われれば、あると断言できるけど今回ばかりは違った。

 だって、璃月の指示で着ているのだから。

 しかも、パンツは履いちゃダメという謎の指令付きで、だ。

 パンツを脱げと璃月に言われれば秒で脱ぐし、脱げと言われなくても脱ぐのが僕ではあるが、ことの経緯を簡単に説明をしようと思う。

 まず学校が終わって、僕は璃月の家にお呼ばれした。

 そして、着いて早々に僕はお風呂に入るように指示され、最終的にはノーパンでワンピースを着せられているというわけである。

 うん、自分で言っていて意味がわからない・・・・。

 普段から突拍子もないことをしでかすのが璃月なので驚きはしない。だけれど、珍しく1つだけ嫌なことがあった。それを思い出しただけでも泣いちゃいそう。

 ・・・・うぅぅ、璃月ってばヒドイんだ。

 僕に向かって――、


「ごめん、今日はお風呂に1人で入ってほしいの」


 ――とか言うの‼

 いつもならお風呂に入ることになったら、一緒に入ってくれるし、身体も璃月の身体を使って洗ってくれるし、いっぱい遊んでくれる。あとは、えっちなこともしてくれてるのに、1人で入れだなんてイジワルが過ぎるじゃないか・・・・。

 はは、1人でお風呂に入るの、久しぶりだったな。

 久しぶりすぎて、1人で心配だったけど、どうにかなってよかったー。

 また1つ、大人になった僕である。

 冗談はさておき。

 現在、璃月は交代でお風呂に入っているところ。

 ・・・・。

 ・・・・、突入しようかな。

 璃月が入ってくれないなら、自分から行ってしまえばよくないか?

 普通にえっちな考えがよぎるが、グッと我慢する。

 彼女であれば、僕がお風呂に突入しても笑顔どころか、えっちな顔で迎えてくれること間違いなし。けど、あえて璃月が「1人で入って」と言うくらい。

 何かしらの考えがあっての言動であるのは明白なのだから。

 それはわかっていたとしても――。

 頭で理解していても、寂しいものは寂しいし。

 璃月と一緒にいたいし、璃月の裸がみたいし、璃月の身体を洗ってるとこ見たい‼

 行き場のない気持ちをどうにかして落ち着かせなくては。

 何しよ。

 ここは璃月の部屋。

 ・・・・やることと言えば、彼女が所持している僕のパンツ(使用済み)を探しだして回収すること、とかかなー。けど、それしたら「盗らないでよー」とかガチ泣きされる恐れが拭いきれない(僕のセリフだよ)。やめておこう。他を考える。

 部屋を見渡して、僕はあるモノは見つけた。

 それが何かと言うと、


「わぁー、おっきないるかさんのぬいぐるみだぁー」

「――ッ‼」


 大きなイルカのぬいぐるみだった。

 たぶん、僕が一緒に寝ていない時に、抱き枕代わりにしているやつだろう。

 ということは、僕の敵だ。

 コイツめ、可愛いなりして僕の代わりに、僕の大好きな璃月に抱かれて寝てるだなんて、むきぃー、ぜってぇゆるせねぇー。ぎゅーってして懲らしめてやるぞぉー。

 というわけで、嫉妬している体で僕は抱き着くことにした。

 ぎゅー、はわわ、柔らかだぁー。

 璃月の匂いもして、はぁ、何だコイツ、やるな。璃月が見込んだだけはある。

 訳のわからない上から目線な逆ギレをし始めちゃう僕。


「やわらかだぁー、ふへへ、ずっとぎゅーしたい」

「――ッ‼」


 てか、思うんだけどさ。

 璃月って寝る時は全裸派じゃん?

 ということは、このイルカを抱くのって、間接的に裸の璃月を抱いてることになるよね。やば、ちょっと興奮してきた。もう離さないぞー、りつきぃー。

 イルカが僕にとっては、璃月と同義となった瞬間であった。

 と更に僕は――、


「くらげのぬいぐるみもあるぅー」

「――‼――‼――‼」


 ――新たな璃月を見付けた瞬間であった(自分で何を言ってるんだろ)。

 もちろん、クラゲにも抱き着いちゃうのが僕。

 えへへ、やわっこーい。というかこれ、初めてのデートで買ってたヤツだぁー、懐かしぃー、えへへ、あの頃からずっとりちゅきちゅきぃー♡♡♡

 右手にイルカのぬいぐるみ、左手にクラゲぬいぐるみ。

 しかもどっちも、璃月の抱き枕なので、裸の璃月を2人抱いているのと同義。

 こんなの幸せ以外の何モノでもない‼

 えへへ、璃月に抱き着くのも、大きなぬいぐるみにぎゅーするのだぁーいすき♡

 抱き着きながら寝転がる僕は、足をパタパタしちゃう。

 もはやここにいるのは、16歳の男子高校生ではなく、ただのショタ。

 狂気の16歳児が再臨してしまった瞬間である。

 璃月がここにいれば、ぬいぐるみをぎゅーっとした僕をえっちに襲うおねショタプレイを強要されたに違いない。ちょこっと、ううん、けっこうされたいなぁー。

 狂気を振りまきながらパタパタはしゃいでいると、僕を更に幸せにしてくれる璃月アイテムを発見。それが何かというと――、


「りつきのおふとん‼」

「‼」


 何度も言うが、僕の彼女は全裸で寝てる(えっち)‼

 というわけで、この布団をかぶれば、裸の璃月が僕に覆いかぶさってると同義になるではないか。こいつぁ飛んでもねぇ、どえっちなアイテムだぁ、ふへへ。

 笑いが止まらない。

 もちろん、覆いかぶさられるなら本物の裸の璃月のがいい。けれど、ここには璃月はいないからね。仕方なく、仕方なく、お布団をかぶって我慢するの。

 僕は思うがはやく、ぬいぐるみを抱きつつ頭から布団をかぶった。

 こうして僕は、更に璃月に関するアイテムを装備して最強に近づいてゆく。


「ふへへ、璃月に囲まれてる、しあわせぇー」


 とはいえ、人の欲には底がないもの。

 それはもちろん、僕も例外ではなく、更なる璃月アイテムを探してしまう。

 そこで、見つけた。

 これは――ッ!?


「ひとをだめにするくっしょんだぁー」


 ぶっちゃけ、璃月は僕をダメにしてくれる。

 今だって、璃月のぬいぐるみ2つに、璃月の布団を装備したことで言語能力が奪われてショタ化してしまっている。そこに璃月の人をダメにするクッションの追加。

 自分が正気でいられるか、不安でしかたないよぉー。

 今が正気かは知らんけど。

 けど、けれど、だ。

 僕にこれを追加しない選択肢があるものか。

 というわけで、考えをまとめる前に僕はぽふんとダイブした。


「はわわ、やわらかだぁ、とろけぇるぅー、えへへ、このままねちゃおー」

「‼」


 ダメになり過ぎて、完全に舌足らずになっていた。

 これもリツキニウム欠乏症時に、過度なリツキニウムを取り込んだせいだろう。

 枯渇していたリツキニウムを確保する為に、璃月に関するものをぎゅーっとして僕は多くのリツキニウムを吸収した。だが、今回は吸収し過ぎてしまったのだろう。僕は今、リツキニウム欠乏症からリツキニウム中毒になってしまったのだ。

 ちなみに、僕自身、訳の分からないことを考えている自覚はあるッ‼

 とりあえず僕は、裸の璃月を2人抱いて(ぬいぐるみ2つのこと)、裸の璃月に覆いかぶされながら(布団のこと)、璃月に枕になってもらって(クッションのこと)、眠ることにした。


「ふへへ、りちゅきー、むにゃむにゃ」

「・・・・目、瞑ってるし、もうちょっと近くに」

「りちゅきのにおい、しゅきー」

「・・・・匂い、嗅ぎながらお昼寝はえっちだよ」

「・・・・」

「・・・・寝顔、かわいい、ここまで可愛いとえっちなことしてあげたい」


 何か視線・・・・もだけど、えっちなのを感じる。

 というか、声も聞こえてなかった・・・・?

 気のせいだと思いたいが、彼女の声と視線を僕が間違えるはずもない。

 僕は目を開けるのが怖くなり、夢の中に逃げたい衝動に駆られるが、彼女からは逃げられない。否、逃げたくはない。ここは目を開ける他ないだろう。

 目をコシコシ擦って、パチリと瞼を開いて誰がいるのか一応、確認する。

 で、誰がいたかというと、


「うにゃっ、璃月がやっぱり見てた‼」


 やはりいたのは、璃月。

 どうしてか知らないけど、ビデオカメラのレンズをこちらに向け続けていたりしてニヤニヤ顔で恍惚の表情を浮かべていて、ドえっち。

 ・・・・、僕は嫌な予感しかしてなくて、泣いちゃいそう。

 そんな僕の心情を知らない璃月は、口を開く。


「わぁー、急に叫び出してどーしたの?」

「いないと思ってた大好きな璃月がいたから声が出ちゃっただけだよ」

「そっか、そっか。寂しけど、鳴瑠くんの中では私はいなかったことになってるのか。仕方ないよね、鳴瑠くんはぬいぐるみに夢中だったもんね」

「・・・・」


 璃月はさっき――、


「鳴瑠くんの中では私はいなかったことになってるのか」


 ――とか言わなかった?

 あれれ、おかしいな。

 その口ぶりだとずっと近くにいたような意味に取れるんだけど・・・・。

 僕の気のせいかな?

 もしも璃月が近くにいて僕を見ていたら、 

 璃月の服の匂いを嗅いだり、

 ぬいぐるみに抱き着いて足をパタパタさせたり、

 布団を頭からかぶったり、

 両手にぬいぐるみを抱えたままお昼寝しようとしていたり、

 舌足らずで騒いでいたり、

 全部、ぜーんぶ、見られたことにならないかな‼

 いや、待って、待つんだ、僕。確かにこれらは他人に見られたら恥かしい部類、黒歴史確定なものばかり。だが、今回見られた相手は璃月。他人ではなくて僕の一部みたいなところがあるから、見られるだけならセーフの域だろう。

 何より、僕がぬいぐるみに抱き着くの好きなの璃月は知ってるし。

 だから、最初から見られているのはいい。

 もし気になることがあるなら――、


「ねー・・・・・璃月」

「あれれ、さっきまでの喋り方はもう終わりなの?」

「・・・・」

「小っちゃい子みたいに、舌足らずで私のぬいぐるみに抱き着いたりしてるの、可愛かったのに。私、あのナーくんも大好きだよ。続けてもよかったのに」

「安心して。この後、璃月にめちゃくちゃ甘える予定だから、その時いっぱいする」

「えへへ、そっか、そっか。で、どーしたの、鳴瑠くん?」

「璃月、その手に持ってるビデオカメラってなに?」

「これ?」


 キョトンした顔でビデオカメラを指さす璃月。

 璃月のキョトンした顔も可愛いなと思いながら頷いて返事とする。


「これはね、鳴瑠くんの可愛いとこを録画してるの」

「・・・・」

「鳴瑠くんを待たせるの悪いなって思ってシャワーだけ浴びて出てきたの。そしたら鳴瑠くんが私の服の匂いを嗅ぎ始めてるところにでくわして、これはとんでもなくえっちな展開になるかもって思って撮影し始めたの。結果的にはえっちなのは撮れなかったけど、とっても可愛いナーくんが撮れたから私、満足なんだ。えへへ♡」


 アホ毛をぴょんぴょこさせて、だらしない顔で笑いながらはしゃぐ璃月。

 そんな様子もとっても可愛いなっ。

 思うも「可愛いね」って言ってあげられるだけの気持ち的な余裕が今はない。

 また、彼女は一体、匂いを嗅いだ僕がどんなえっちな展開にでると予想して撮り始めたのか、訊ねまくり璃月のえっちさに気づかせたい衝動に駆られるが我慢しとく。

 僕が叫びたいことはただ1つ、


「りちゅきに辱められたぁぁぁぁ‼」

「私、えっちくないから鳴瑠くんを辱めるようなことはしてないはずだもん・・・・だけど、ごめん。無断で隠し撮りをしたのはダメだったかもしんない」


 シュンとする璃月。

 その謝罪に対して、僕は首を横にふる。


「さっきはああ言ったけど、実は録画されたのはいい」

「え、そーなの?」

「うん。だって今日撮った映像で璃月が何をするのか考えるだけで興奮できるし。なにより、撮られて恥かしいと思うことをしたのは僕のせいだもん」

「・・・・鳴瑠くん。それじゃ、何が嫌だったの?」

「近くにいたのに、僕に会いにきてくんなかったことだよ‼」

「それはほんとにごめんね‼」


 謝ると璃月は僕のくるまる布団の中にモゾモゾと入ってくる。

 それからぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめたままの僕を膝の上に乗せて、抱っこしてくれた。頭も撫でてくれて、おっぱいも飲ませてくれる。もう寂しくない‼

 璃月の膝の上、大好き。

 一生、ここにいたいまである。

 それから元気を取り戻した僕に璃月は言う。


「今日はこのまま甘やかしてあげるね」

「わーい、璃月、大好き」

「私も大好き。そだ、バレンタインのチョコもあげなきゃ」

「そうだった、ついに念願の璃月チョコが貰えるんだ‼」

「りつきちょこ・・・・・璃月チョコ、なにそれ。私があげるチョコのこと?」


 いつもは察しよすぎてほぼ説明しなくてもわかってしまう璃月だが、今回ばかりは本当にわからないよう。僕は璃月チョコの正体を教えてあげる。


「璃月チョコはね、身体にチョコを塗りたくった璃月のことだよ。璃月はえっちだから自分の身体にチョコを塗って食べさせてくれるって知ってんだ、僕。あ、ごめんね、ネタバレしちゃって。でも楽しみだなぁー、璃月チョコ」

「えっとぉ、鳴瑠くん。私、えっちくないから、そんなことはしないよ?」

「んー?」


 あれれ、何かおかしい。

 本当に璃月チョコがないと言わんばかりの反応だし。

 何より、えっちと僕に言われた反応がいつもと違い落ち着いている気がする。戸惑っているとでも言えばいいか。これは本当に璃月チョコがないの、かな・・・・?

 もうちょっとだけ、訊いてみることにする。


「またまた、璃月はえっちなんだよ。僕が璃月の服の匂いを嗅いでえっちな展開になることを想像してたくらいだもん。ドえっちって言っても過言じゃないよ、えへへ」

「・・・・」

「え、待って。いつもの『私、えっちくないもん』すらないのはどういうことかな・・・・もしかして本当に璃月の身体にチョコを付けた璃月チョコじゃないの?」

「ごめん、私が用意したのと違う」

「・・・・え、璃月なのに」

「私なのにってヒドいよ、まったく。ヒドイ失望のされかただよ。もぉーそんなイジワルゆー鳴瑠くんは、私のバレンタインチョコはいらないのかな!?」

「いる‼もちろん、欲しい‼」


 膝の上でチョコが欲しいと暴れアピールをする僕。

 それを見て璃月は呆れながらに、


「なら、最初から変なチョコを想像するのはやめてよ、まったくぅ――」


 と言って笑う。

 危なっ、危うくチョコが貰えないところだったよぉー。

 安堵のため息をこぼす僕。

 それから璃月は続けて言った。


「――と、いうわけでチョコをあげるので、お洋服を脱いでベットに行こう」

「はえ?」


 さっき、えっちじゃないとか言いませんでしたっけ?

 もちろん璃月の指示に従わないという選択肢はないので、従うけど・・・・。


 ♡☆


 所代わり、ベットの上。

 璃月のベットの上は衣服厳禁。

 だから、僕も璃月も互いに服を脱がせ合って全裸になっていた。

 璃月が足を延ばして、彼女の膝の上にぬいぐるみを抱きしめる僕が座るって形を今はとっている。どうやら今日は、本当に膝の上で甘やかしてくれるみたい。裸で膝の上に乗るのは初めてで、興奮しちゃう僕がいる。しない方がおかしいと思う。

 それはさておくとして。

 これでようやく璃月からチョコが貰えるので、はやく食べたい。

 いくぞ、璃月。チョコの貯蔵は十分か‼

 そわそわしているのが伝わったのか、璃月は優しく微笑むと言う。


「ナーくん、お待たせ。ようやくバレンタインチョコ、あげるね」

「わーい、食べさせて‼」

「うん、はい、あーん」


 差し出されたチョコはハート型。

 既製品ではないようなので、璃月の手作りチョコのよう。

 出されたそれを、璃月の指を食べる勢いで、はむっと口の中にいれた。


「あーん、ぱくり――もぐもぐ、おいひー‼」

「よかった、よかった。まだまだあるよ?」

「ほんとー、食べるぅー」

「いーよ。はい、あーん」

「あーん、はむ」


 もぐもぐとよく噛む。

 僕の様子を璃月は、アホ毛を左右にフリフリ、大きな目で僕をニコニコの笑顔で見てくる。なんというか彼女の表情は、何かを期待しているように見える気がする。

 んー、更なる感想を求めてるのかな?

 とはいえ、僕にはそこまでの語彙力はない。

 けど、璃月に求められれば、詩的な感想ってやつを言ってみちゃうぞぉ‼

 張り切り口を開く。


「えっとぉー、苦さの中に璃月みたいな優しい甘さがある‼」

「そっか、そっか、よかった」

「まだある?」

「あるよ。はい、どーぞ」

「はむ」


 微笑みを僕に向け、ただただジーっと見てくるばかりの璃月。

 え、感想がもっと欲しいのかな?

 

「璃月、おいしいよ?」

「うん、うん。よかった、よかった、ところでナーくん――」

「ん?」

「――身体とか熱くない?」

「身体?・・・・別になんともないと思うけど・・・・」

「そっか。はい、あーん」

「うん、はむ」


 チョコを出されて「どうしてそんなことを訊くの?」と訊ねるタイミング失ってしまう。口をもぐもぐして、よく噛みながら思う。

 もしかして璃月、チョコに何か入れたの?―――と。


「ねー、璃月」

「んー?はい、チョコ」

「ありがと、はむ」

「おいし?」

「うん‼」

「よかった、はい、あーん」

「はむ。もぐもぐ」

「はい、次のだよー、あーん――」


 璃月は僕のアホ毛を読み取り、チョコを飲み込んだ瞬間に口に運んでくる。それを繰り返し行われ口が空かないために訊ねることさえできない。何かしらの理由により、彼女は意図的に僕をコントロールをしているよう。

 なんでそんなことを?

 考えようとしても、10個目のチョコを食べた辺りからボーってしてきて纏まらない。次第に妙な感覚が身体の奥底から湧いて出て、熱い。

 璃月の膝の上で身体をモジモジ動かして落ち着かなくなる。けど、膝の上からは絶対に落ちたくない、璃月から絶対に離れたくない。そんな思いから身体が熱いのに、璃月にしがみついてしまう僕がいる。うぅぅ、何これぇー。


「りつちゅきぃー、あついよぉー」

「あ、効いてきたんだね、えっちなお薬‼」

「ふぇぇ?えっひなおくふり?」

「そー。チョコを食べた後にね、えっちなことするの決まってたから、今日は一緒にお風呂に入らなかったんだ。一緒に入ったらえっちな展開になっちゃうでしょ。流石に鳴瑠くんの身体が持たないかなって思って。私も我慢してた‼」


 やっぱり変なのを盛ったなッ‼

 さっきえっちくないとか言ったじゃないか(本日2回目)‼

 とか、もはやツッコめるような状況ではなく、何かとんでもないことを璃月が言ってる気がする程度しかわからない。もうほとんど璃月しか頭にはなかった。

 虚ろな瞳で彼女を見ていると、璃月にベットに押し倒されてしまう。

 上にいる彼女は優しい微笑みで言った。


「安心して私が治したあげる‼お医者さんごっこだよ‼」


 こうして僕と璃月は、甘々なバレンタインを過ごすことになる。

 ちなみに、この後、べろちゅーをした璃月にもえっちな薬がプラシーボ効果的に作用してえっちくなったりした。策士策に溺れると言うが、璃月の場合は快楽に溺れる結末になったりもしたが、彼女の為に言わないでおこうと思う。

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