第99話 サンタと赤外線といい子判定
「こんばんわぁー(小声)」
寝起きドッキリの最初の挨拶「おはようございます(小声)」のテンションで、誰に聞かせるわけでもなく呟く。それっぽい感じにしたかった私――璃月である。
そんな今日はまだクリスマスイブの24日。
時刻としては日付が変わろうとしているような深夜。
場所としては、宇宙町家の廊下である。
いくら彼氏の家で、彼とは結婚が前提で、彼の家族と大変親交が深い間柄でも非常識にもほどがあるだろう。そんなわけで、今回は鳴瑠くんのママとパパにちゃんと許可を頂き、深夜の鳴瑠くん家にお邪魔させてもらっていた。
理由としてはただ1つ。
鳴瑠くんのサンタさんになりにきたの‼
てな感じ。
この企画を鳴瑠くんママに話したところ、すごくノリノリになってくれて、協力してくれることに。すでにお家に入れてくれたことはもちろんのこと、2人の行動やサンタ捕獲罠の位置情報など、多くのことで私こと新米サンタを助けてくれている。
今もなお、別室に待機している鳴瑠くんママとは、インカムを通して会話をすることが可能となっている。それが心強よく本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
とはいえ、まだ何も終わってはいない。
その感謝は、ミッション『鳴瑠くんにバレずにプレゼントを渡す』が終わった後でも遅くはないだろう。私は「まずは鳴瑠くんにプレゼントを渡すぞ‼」と再度思いなおすと、目の前のミッションに集中することにした。
では、まずは状況の整理から始めよう。
今回、見つかってはならない標的こと鳴瑠くん。
あとついでにいろはちゃん。
2人は現在、リビングの真ん中に布団を敷き、スヤスヤ仲良く寝ているとのこと。
ちなみに、本人たちは「サンタさんを今年こそ捕まえるために、寝たふりするんだから‼」などと意気込んでいたらしい。だが鳴瑠くんママの睡眠薬の力によって無力化されてしまったとのこと。今の2人の状況は必然的に作られている結果であった。
何とも無慈悲なやり方ではあるが、私も同じ立場ならそうしただろう。
故に、責めることはできない。
考える思考が私と鳴瑠くんママと似通っている為か、実は仲良しだったりする。
月に何度かご飯に行ったり、お茶をしたり、写真の交換こをしたり、果ては鳴瑠くんとの思い出を語ったり、有意義な時間を過ごせる相手だったりしている。あーあ、今度はどんなお話をしようかなー、楽しみだなぁ・・・・っといけない。
脱線してしまっていた。
私は、ぺちんぺちんと、2度ほどほっぺを叩くと自分を戒める。
浮かれ下手をうち、どちらかを起こしてしまうことがあれば、『サンタさんは本当にいる』という夢を壊してしまうことになるだろう。それだけは避けたい。2人にはスヤスヤと眠り夢でも見ていてほしかった。
あわよくば、鳴瑠くんに関しては、私とのえっちぃ夢を見ていてほしい。
あれれ、でもさ、夢の中で私とえっちぃことするじゃん。でもそれって現実の私とは違うわけで・・・・・これって夢の中の私と浮気していることにならないかな(ならない)。やっぱダメ。私とのえっちな夢なんて見ちゃいけません‼
君は二足歩行で日本語を話すことができるような動物さんたちが出てくる森の夢でも見てなさい。私が目的を完遂するまで遊んでもらってて、いいね‼
なんともファンシーなことを思う私はさておいて、リビングの扉を開けると中の様子を覗ってみる。すると、リビングの中心にお布団とクリスマスツリーが見えた。
とりあえずは、あそこまで行き、プレゼントを置いて戻ってくればそれでいいわけだ。なんとも簡単なように思える。案外、簡単なのかもしれない。
目に見えるトラップはなさそうだし。
私は思い、足を踏み入れようとした。
そのとき、耳に付いたインカムから鳴瑠くんママの制止させる声がする。
『待って、璃月ちゃん』
「どーして(小声)?」
『とりあえず、渡したゴーグルをつけてみて』
とのこと。
そう言えば、そんなものを渡されたっけ。
私はそれを付けてみる。
で、そこに広がった景色と言えば、肉眼で見ることが叶わない無数の赤外線センサーたちであった。それがリビングの至る所に飛び交い、細長い赤き橋を創り上げている。さながらスパイ映画のワンシーンのようで、一般家庭で見れるようなものではない。
「あぶなっ(小声)!?」
『でしょ。あの子たち、アホなの』
というかだよ。
こんなのプレゼントが欲しい子たちがすることじゃないよ。
サンタさんを捕まえるガチ勢なの!?
私は叫びたいのを我慢する。
イルミネーションで家を綺麗に光らせるというのは聞いたことあるが、家中に見えない赤外線を張り巡らせ光らせるなんて話は聞いたことがない。もーほんとに変な風に振り切ってる鳴瑠くんたち、大好き。天才なのにバカなのほんとかわいっ‼
テンションが上がってしまう。
私も大概、変なので人のことは言えなかった。
何はともあれ、ここまでやられたら逆に燃えてきちゃうよ‼
絶対に枕元まで行ってプレゼントを置いてやるんだから‼
「よぉし、がんばるぞい(小声)‼」
胸の前に両手をグーにして意気込むと、そのままリビングへいざ出陣えいえいおー。私はカチドキを心の中で上げ、鳴瑠くんたちとの勝負に挑むのであった。
そして、赤外線センサーを避けている途中で思ったことが1つある。
何かと言えば、おっぱいが大きいのってすんごいハンデを背負っている気がしてならないんだけど、ってこと・・・・・。
だってさ、考えてよ。
おっぱいがでかいだけで、それだけであたり判定が大きくなるんだよ。
これムリゲーくさくない?
私はこの仕様に文句を付けたくなる。
だが、私は宣言しよう。
このゲームには必勝法がある、と(ゲームではない)。
ある程度、進み気づいたことがあるのだ。
それが何かと言えば、この罠を作ったのは鳴瑠くんといろはちゃんなのである。
根本にあるのは、プレゼントが欲しい、という欲。
故に、絶対にクリアができないように道を閉ざす形で、赤外線センサーを張り巡らせてはいないということ。
もっと言うなら、自分たちのところまで絶対にいけないようにはしていないのだ。
そんなことをすれば、サンタさんからプレゼントを貰えなくなってしまうから。
ヤツら、あわよくばサンタさんを捕まえたいだけで、根本的にはプレゼントが欲しいお子ちゃまなのである。いやいや、調子よすぎないかな!?
だから、無理な態勢をとらせられる難所はあれど、一歩一歩着実に落ち着いて進めば、鳴瑠くんたちの元へと行けるようになっているのだった。
まぁ、そのルートは、リビングをぐるーっと渦巻き状に中心へと進まざるおえないものとなっている為に、無駄に時間がかかってしまったりもしてるけど。
何はともあれだ。
私にとってこんなことは些細なことに他ならない。
明日の朝、私のあげるプレゼントを見つけてそれを開ける鳴瑠くん・・・・とついでのいろはちゃん。その2人の笑顔を想像しただけで力が湧いてきちゃう。
どうにかこうにか、枕元にやってきた私。
枕元には、鳴瑠くんのパパとママが置いたであろうプレゼントがあって。
クリアしているとは、すごい。
これが新米サンタとベテランサンタの違いなのか。
『重さで反応するセンサーも切ってあるから、置いちゃって平気だからね』
「あ、うん」
そんなものも仕掛けていたのか。
私はため息をつきたくなるのを我慢する。
とりあえず、プレゼントを置く。
で、私は思った。
先ほどの道をまた戻らなくちゃいけないの?
・・・・と。
ぶっちゃけ、軽く絶望できるほどであった。
なんというか、考えてほしい。
ここまで来るのには『プレゼントを渡す』という目的が明確にあり、それがモチベーションにできた。だが、ここからは帰るだけ。
どのようなモチベーションで挑めばいいのだろうか。
私は燃え尽き症候群的な状況に陥っていた。
赤外線センサーの解除スイッチとかないのかな?
ないよなー。
はぁー、頑張って帰ろ。
ここで文句を垂れても意味はない。ため息をついて、帰ることにした。
でも、最後にちょっとだけ寝顔みよーかな、それくらいはいいよね?
答えは聞いてない。
と、私は誰に聞くわけでもなく、勝手に鳴瑠くんの寝顔を見ることにする
そして、それが運の尽きだったと、この時の私は知らなかった・・・・・。
お布団の方に視線を送る。
視線の先には1つのお布団に仲良く眠る2匹のゴールデンレトリーバーの子犬のような姉弟が仲良く寝ていて――。
・・・・あ、やばい。弟の方を襲いたくなっちゃうよ。
姉の方はさておき、弟の方が可愛すぎて襲いたいよ‼
気持ちよくさせて、わんわん鳴かせたい‼
私は夜這いをかけたくなってきてしまう。
見なきゃよかったわぁー。
それでも見ちゃう。鳴瑠くんが好きだもの。
わけのわからないことを思いつつ、口が勝手に呟いてしまう。
「この2人の間に私、入って寝たいな・・・・(小声)」
理解させられた。
これは私という新米サンタを捕まえる為の罠である(絶対に違う)と。
私以外は誰もこのお布団の中に、入ろうと思わないはずだ。
だが、私は違う。
ちょー入りたい。2人の間に入って寝ぼけた2人にぎゅーってされたい‼
たぶん、最強の罠とは誰もを等しく捕まえるものではなく、誰か1人を捕まえる為に特化させたもののことを言うのだろう。それが目の前にはあった。
無意識に身体が、お布団の方に動き始めてしまう。
その行動に異議を唱える声あり、もちろん鳴瑠くんママである。
『ダメよ、璃月ちゃん。耐えるのよ』『早まらないで、璃月ちゃん』『ダメ、ここを耐えれば無事にプレゼントが渡せるんだから』『璃月ちゃん、璃月ちゃん‼』
インカム越しに聞こえる声。
それを私は・・・・無視をする。
私がこの罠を回避するという選択肢をなんてとれるはずがないもん‼
ごめんね、鳴瑠くんママ・・・・・。
心の中で謝り、別の言葉を口にする。
「私ね、思うの。ここで入らないのは、鳴瑠くんの彼女失格だと思うの(小声)」
『璃月ちゃんが入りたいだけでしょ!?』
「・・・・・」
答えは沈黙とする。
そして、息をすーはー深呼吸を1度して、覚悟を決めて呟く。
「新米サンタ、星降町璃月・・・・目標に突入する(小声)‼」
『ノリノリじゃないの!?』
赤色のサンタ服に身を包んだ私は、いつもの3倍の速さがでているイメージで、鳴瑠くんといろはちゃんを起こさないように気を付け、お布団に入り込む。
『は、はやい‼』
などとインカム越しに感想を貰う。
それはさておいて、お布団の中がすんごく気持ちいい。
鳴瑠くんといろはちゃんにより温められたぬくいお布団。そして、大好きな匂いに包まれ、こんなの落ち着かないはずがない。もはや、お洋服を着ていても熟睡できるレベルである。そもそも、昼はプールに行っていて、このお布団に来るまでにも過酷な道を通ってきているわけで、ほどよい疲労もあいまって寝れないはずもなく。
訪れる微睡。
私はそれに抗うことができずに、瞼を閉じてしまう。
『おーい、璃月ちゃん?』
声がする。
だが、それに答えることはできない。
だって、もう寝ちゃうもん。
『起きてるよね?』
答えられない。
というよりも、耳元でうるさいよ。
私は無意識に「おはすみ」とだけ告げると、インカムを外す。
それっきり声がしなくって、これで快適。
ここぞとばかりに鳴瑠くんの胸にスリスリ近寄り、鼻を利かして彼の匂いを堪能。満足して「はふー」とため息をつくと、今度こそ意識を手放してしまうことにした。
と、そんなときのこと。インカムも外し、誰の声も聞こえなくなったはずの私の耳に、謎の声が聞こえてくる――。
――ヤツは落ちたか。
――だが、ヤツはサンタ界でもひよっこの新米。
――今後に期待というやつか。
――だな。来年まで待とうではないか。
――そも、サンタ界でも最上級難易度の宇宙町家に挑んだ心ゆきは評価に値する。
――では、遂に彼女にも?
――ああ。
――ふむ。では、ここは私が行こうではないか。
――頼む。
・・・・。
えーと、なにこれ。
なにその『四天王の中でもヤツは最弱』的な言い回し。
私、そのサンタ界に入った憶えない。
何より、その評価ってなに?
私は一体だれに見られてたの?
わからないことだらけ。
だが、それを考えられるほどに、またツッコミを入られるほどに意識を保てる余裕などとうになくなっていた。そのまま、意識を手放すことにしたのだった―――。
♡☆♡ zzzzzz
そして、次に意識を取り戻したときのこと。
私の周りが、なんだか騒がしい。
というか、両腕を左右から引っ張られていて、痛かった。
「・・・・?」
何が起きてるのかな?
寝ぼけている頭をどうにか働かせ、現状を把握することにした。
で、聞こえてきた声と言えば、
「これは僕の璃月だよ‼」
「なーーくんはもう璃月ちゃん、持ってるじゃん‼」
「全ての璃月は僕のだもん。だから、このサンタさんの璃月も僕のだもん」
「1人くらいいーじゃん」
「やっ、サンタさんの璃月は持ってないもん」
「それ言ったら、いろはは、1人も璃月ちゃん、持ってないもん」
「だめ、放してよ、お姉ちゃん‼」
「なーくんが放して‼」
・・・・これは人類の会話なのかな?
そもそも、私は何人もいないし。
鳴瑠くんのだし。
いろはちゃんも私が欲しかったの?
やばい、ツッコむとこが多すぎて、寝起きにはキツイ。
私はツッコむのを諦めることにした。
どうやら、朝起きた宇宙町姉弟が、私をサンタさんからのプレゼントだと想い込み、私を取り合っているというのが現状のよう・・・・。
なに、これ。
いや、私がサンタさん代わりに忍び込んだと思われてないみたいでよかったけど。
でも、ちょっと考えてくれないかな。
私がサンタさんからのクリスマスプレゼントだったとするよ。そうした場合、サンタさんが私のことを新たに生み出したことになるよ。それってクローンってことで倫理的にアウトになるし、私が本物だったらお家から拉致られてることになるから。どの道、サンタさんが外道みたいになるからね・・・・・。
ツッコむことは山ほどあるが、頭が起きてはいないので、諦める。
まぁ、言えることがあれば1つだけかな。
2人に取り合いをされているこの状況がさ、めっちゃいいんだけど。
能天気な私だった。
えへへ、ここからどれくらい続くかな?
鳴瑠くんは私を勝ち取れるかな?
なんて思っていると、
「こーなったら、サンタさんから貰った新しいコントローラーで、ゲーム勝負しよ」
「いーよ。なーくんなんて、こてんぱんにするんだから」
「お姉ちゃんなんかに負けないもん。べー」
「いろはだって。なーくんのべー、だ」
言い合いをして、私の両手を同時に2人は放す。
そうすると、必然的に自由になる私の身体。
そのまま仰向けに倒れて、ゴツンと後頭部をぶつけて、痛い・・・・。
私、賞品じゃないの?
扱いひどくない?
思いながら、私は仰向けのままに上を向く。
すると、逆さまに鳴瑠くんといろはちゃんが、キャッキャとはしゃぎながら私の贈った新しいコントローラーを箱から出していた。
ゲームのコントローラーを壊したと聞いたから贈ったわけだけど、その様子を見る限り喜んでくれているよう。ま、私が二の次なのは気に喰わないけど。
思いながら、自然と笑みがこぼれてしまう。
あーあ、自分の分も買って、2人のゲームに混ざらせてもらえるようにすればよかったかも。なんて少し後悔しちゃう。そんなときのこと、ふと気づく。
私の視界に何やら箱があることに。
なにこれ?
起き上がり、見て見る。
それは私が寝てしまう前に、もっと正確に言えば、プレゼントを置くときにはなかったもの。手に取ってみるとゲーム機のコントローラーで・・・・・。
えっと、誰が置いたの?
先ほども言ったが、私は自分の分は用意していない。
鳴瑠くんママパパにも、2人へそれを贈ることは言っていなかったし。
周りをキョロキョロと見て見る。
お布団の周りには、鳴瑠くんといろはちゃんが開けたであろうクリスマスプレゼントの残骸たち。全部で7個の箱がある。2つは鳴瑠くんの両親でしょ。で、もう2つは私のあげたので。あと3つは誰からのプレゼント?
そもそも、私にプレゼントを贈ってくれたのって、誰・・・・?
謎が謎を呼ぶ。
察しがいいのが取り柄の私でも、何1つわかんない。
そーいえば、寝ちゃう前に変な声が聞こえたような・・・・。
え、もしかしてサンタさんって――。
考えてもわかんないので、私は諦める。
とりあえず、そのコントローラーを手にした私は、鳴瑠くんといろはちゃんのもとにむかう。そうして、ゲームにまぜてもらうことにしたのだった。
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