第94話 変化 後編

 鳴瑠くんから逃げてしまう生活3日目――。

 私こと璃月は、カランカランと音を立ててドアを開けると、鳴瑠くんと何度となく通っている喫茶店の中に足を踏み入れる。

 ここのマスターさんや店員のお姉さんとはもはや顔見知りにまでなっていた。

 そんな2人と軽く挨拶を交わすと、いつも座っているお店の1番奥の4人席のテーブルに案内され、コートを脱いでソファに腰を下ろす。

 座ったばかりでまだ注文もしていないのに、目の前には普段から好んで飲んでいるアップルティーが置かれる。注文し過ぎていつも飲んでいるものを覚えられているよう。なんだかこの常連感がくすぐったい。

 とはいえ、別の飲み物の気分だったらどーするんだろうね?

 思いながらも、ここのアップルティーは何度飲んでも飽きることはないので、ふーふーと適温にして飲む。流しこんだソレは冬の寒さによって冷え切った身体を優しく温めてくれた。

 今日のもおいしい。おいしいけど。鳴瑠くんが隣に居てくれたらもっとおしかったんだろうなー。

 そんなことをふと思う。

 もとはと言えば、私が避けてしまっているのが原因なのにも関わらず・・・・。

 ここでちゃんと断言するけど、私が彼から逃げている理由は嫌いだからじゃない。

 むしろ、鳴瑠くんのことはめっちゃ好き。前よりずっと好きだし、大大大好き。愛してるし、愛しまくりたい気持ちがめっちゃ強い。寝てもさめても好きだし、夢の中でイチャイチャしまくりなほどに彼のことばっかり考えている。宇宙中探しても、数多くある並行世界中を練り歩いても、彼よりも好きなモノが見つかるとさえ思えないほどに大好きでしかたない。今だってほんとはイチャイチャしたい。くっついて、ちゅーをして、えへへーそれからそれから、

 思考が暴走し始める。

 それを舌を噛み無理やり止めた。

 最近、ずっとこう。

 鳴瑠くんのことを考え始めると、どうにも歯止めが利かなくなってる。

 そうして、最終的にはある『欲求』にたどりついてしまい――。

 私の意思とは関係ないままに鳴瑠くんを・・・・・。

 考えるのすら恐ろしく、そこでやめておく。

 今、近くにいかないのもそれが理由。

 物理的な距離を少し開け、徐々に近づきながら自らをコントロールする訓練をしてみてる。けど、効果はあまりない。むしろイチャイチャできないことにより『欲求』は日が経つごとに強さを増している気がした。悪手だったとしか思えない。

 私はえっちくないけど、この状況を一言で表すなら、欲求不満てことなのかな。

 落ち着くために、アップルティーを飲みことに。

 先ほどまで温かったそれは、時間とともに冷えてアイスアップルティーになっていた。どうやら思考の海に浸り過ぎていたよう。また、何やら舌にもしみて痛い。

 そして思う。

 幾分か放置すると、アツアツの飲み物もいつかは冷たくなる。

 それが鳴瑠くんの愛にも同じことが起きてしまったら――。

 嫌われたり、愛がさめられたりされてしまえば、私は生きてはいけない。

 そう思っただけでも、心臓が止まりそうだになってしまう。

 数日もかけるべきではない。

 早急の解決が必要になる。

 そう思い直し、考えようとするが、頭がフラフラして思考が定まってくれない。

 最近、目まいが続いているのだ。

 もう、私の身体も限界か・・・・・、


「ナルトエチレンが不足して、このままじゃ欠乏症でしんじゃうかも。どのみち、私の命も長くないかもしれないってことかな・・・・・」

「うっわ、その危険な物質、なーくんバージョンもあんだ・・・・」


 誰にも聞かせるはずがなかった呟き。それに返答する声があった。

 マスターさんでも、店員のお姉さんでもない。 

 今日、ここで会う約束をしていた私がよく知る女の子、


「いろはお姉ちゃん、迷わず来れたんだね‼」

「あ、すみません。人違いみたいでした」

「どうしてそうなるのかな!?」

「いろはには、いろはのことを『お姉ちゃん』って呼ぶ妹はいないから」

「私、義理の妹だよね!?」

「まだ違うけど、いずれはそうなる璃月ちゃんって子はいるよ。けど、その子はいろはのこと『いろはちゃん』って呼ぶから。きっと人違いだよ」

「私が璃月だよ‼」


 何を言わされてるんだろうか?

 思いながらも、帰ろうとするいろはお姉ちゃんの手を掴むと阻止。

 そのまま向かいの席に座らせた。


「とりあえず、病院にいこーか」

「待ち合わせして、即病院につれていこーとしないで‼」

「カウンセリングが必要だと思うから、精神科、かなー」

「リアルなのやめて。まだ頭の病院とかゆわれるほうがいいんだけど・・・・・。そもそも私がいろはお姉ちゃんって呼ぶの、そんなにおかしいのかな?」

「ぶっちゃけ・・・・キモイ、かな(目を逸らしながら)」

「女子高生にゆっちゃいけない禁句の1つだよ‼」


 これはもはや、イジメなのではないでしょうか。

 泣きそうなのですが。

 こうなったら、


「鳴瑠くんに言いつけてやるんだから‼」

「やめてよ。ゲームの相手してくれなくなる上に、おやつ隠されちゃうじゃん‼」


 低次元な争いがここにはあった。

 ちなみに私が呼び方を変えた理由は、誕生日の一件で鳴瑠くんとの結婚が現実味を帯びた為。ここら辺でいろはちゃんとの関係もしっかりしとこうと思ったんだけど、予想に反して酷い言われようで泣きたくなってくる。

 とりあえず、呼び方は戻すことにしよーかな・・・・・。

 足をパタパタしてメニューを見てるいろはちゃん。

 そんな彼女の名を私は呼ぶ。


「いろはちゃん」

「うん。いつもの呼び方。そっちのが璃月ちゃんぽいからいい」

「・・・・。いろはちゃんから見て私は一体どのように見えてるのかな?」

「暴虐武人な非常識で自由な子」

「・・・・むっ。どこが?」

「年齢とか関係なく自分の妹にしたければ、年上でも妹にしちゃうところとかまさにそうじゃん。絶対に年齢とか飾りだと思ってるよね。いろはね、わかるよ。璃月ちゃんは社会にでても敬語とか使えなくって社会不適合者呼ばわりされたりするの。で、最終的に会社で働けないですぐ辞めると思う‼」

「なんか、今日はキレッキレに私のこと悪くゆーね‼」

「別に悪くは言ってないよ?」

「悪口の何モノでもないと思うけど・・・・」

「いろは、思うの。璃月ちゃんみたいな人が新しい事を始める人なんじゃないかって。だから、璃月ちゃんはどこにも就職せずに、自由気ままに新しい事業を起こすのがいいと思う。ほら、働き方とかは人それぞれだから諦めないで」


 ロリ感満載の子に言われ、ギャップをすんごく感じてしまう。

 何はともあれ、いろはちゃんが言ったことに対して、反論できそうにはなかった。

 だって、彼女が言ったこと、私が思ってることだし。

 縦社会や年功序列、これらがよくわかんない。

 私は年齢だけでなく、実力や人間性も見た方がいいと思ったりもする。

 年齢が上だからというだけで無条件に敬い敬語を使う意味がちっとも理解できない。もちろん、年上で敬える人に対しては敬語を使えるけど、パワハラセクハラをしたり、人を見下すような年上の人たちにそれを使うことに理解ができない。私に牙をむくなら潰すのもいとわないもん。

 また、上の立場の役職に上がりたいとも思わない。偉くなれば必然的に仕事をする時間は増えて、自分の時間を削ることになってしまう。そうなれば鳴瑠くんとのイチャイチャ時間が減ることになる。そんなのはイヤ。なら、年下のやる気ある子たちに上司になって貰った方が絶対にいいに決まってる。偉くなれるかは知らないけど。

 故に私はやる気もなければ、協調性もなく、偉くなりたい野心もない。仕事をするために生きることなんて絶対にできない。私にとって生きると言うのは鳴瑠くんとともにいることなのだ。そんな私は社会不適合者に他ならないだろう。

 けれど、そんな私でも将来をどーするかは決めなくてはならなかった。

 むしろ、鳴瑠くんとの結婚の未来が明確になればなるほど逃げては通れない道。

 彼がお婿さん以外の将来を見つけたように、私も見付けなくてはいけない。

 こんな私が何になれるんだろうか・・・・・。

 とはいえ、先にやるべきは鳴瑠くんから逃げないようにすること。また、目の前にはいろはちゃんがいるわけで、1人で物思いにふけっている場合ではないだろう。

 将来のことを頭の片隅においやって、意識を現実に戻すことにした。

 そんな私にいろはちゃんは楽しそうに言う。


「あー、璃月ちゃんとのデート、楽しみだなー」

「あ、申し訳ないんですが、デートじゃないんで。勘違いしないでくれます?」

「ガチトーンで急になに!?」


 私の低めにした声に驚きが隠せない様子のいろはちゃん。

 そんな彼女に、その訳を説明してあげることにした。


「私がデートするのは鳴瑠くんとだけだから。だから、冗談でもデートとかゆわないで。次に同じことをゆったら、いろはちゃんの可愛いお洋服を、お漏らしで濡らすようなことをしちゃうんだからね。覚悟してね‼」

「脅し方、こわ。何をしてくるのか具体的に言わないとこがこわっ。でも何より怖いのがこの子、さっきまでいろはのこと慕うとか言って呼び方変えてたのに、こんなこと言ってくるところだよね。最初から慕う気なかったよね、絶対に‼」


 都合が悪い話は無視をするのに限る。

 クズくなりつつある私は、話を思いっきり変えてしまうことにした。


「それで、本題に入るけど、私を呼んだのって――」

「ちょっと待ってよ、璃月ちゃん」


 鳴瑠くんとの一件で話があると思い、それに触れようとした。

 だが、彼女はそれを制止し、メニューに視線を落とす。

 その行動の意図が読めない。

 私が黙っていると、彼女は先に口を開く。


「本題に入る前に、何か頼みたいの」

「あ、そうだね。お店の人に悪いもんね」

「それもあるけど、1番の理由は違うよ」

「そーなの?それじゃ、温かいのが飲みたいとか」

「ううん、違うよ」

「え、それじゃ、急になに」

「いろはが注文する理由はただ1つ。今日はお金をなーくんに貰ってきてるの。実質おごり。ちなみに残ったお金は返さなきゃだからね、貰ってるお金ギリギリまでケーキとか食べたい。めっちゃ食べたいの」

「・・・・」


 いろはちゃん、貴女って子は・・・・・。

 なんか悲しくなる私がいた。

 どうにかこの想いが口からでないように、口を結ぶのを頑張ってみる私。


「弟にたかる姉、うわー、ひくわー。字ズラで引くわ」

「璃月ちゃん!?」

 

 出ちゃった。

 頑張ってもダメなことって、世の中にはあるよね‼

 そんな彼女に、この言葉を贈りたいと思います。


「姉呼びから戻して正解だったかも」

「それは一体、どうゆー意味の言葉なのかな!?」


 意味についてはご想像におまかせ。

 この後、私たち義姉妹は、ケーキをいっぱい食べたのだった。

 もちろん、私は自分のお金で。


 ☆彡  ♡


 スーパー銭湯の脱衣所。

 私はいろはちゃんに何も聞かされぬままに、連れてこられてしまった。

 鳴瑠くんともお洋服を脱ぐ場所に連れ込まれたことがないのに、それをよもや彼の姉に先につれて来られるとは。いろはちゃんはどえっちな子かもしれない。


「いやいや、おもむろに服ぬがないで」

「脱がないと、お風呂入れないよ?」

「いや、そーだけど・・・・」

「それじゃなに?」

「そもそもどーして私はここに連れてこられたの?」

「え、決まってるじゃん。赤裸々にお話するから」

「はい?」


 説明されても・・・・いや、説明されてないな、これ。

 何を聞かされたのか、察せない私がいた。

 全てを察するのが私の特技のはずなのに・・・・。


「わけわかんないんだけど」

「だから、赤裸々って裸って漢字を書くじゃん」

「うん、だね」

「だから、赤裸々に話せるように、裸で話せる場所にきたの」

「ただの言葉遊びで、ここに来たと」

「そーとも言う。あと、寒かったからお風呂に入りたかった」


 どっちがほんとの理由かはわかんないが、既に入場料も払っている。

 ここまで来てお風呂に入らずに出るのはもったいない。諦めて入るのがいいのだろう。それがわかっていながら、嫌なことがあるために踏ん切りがつかないでいた。


「もしかしてイヤだった?」

「いや、そんなことはない。けど・・・・」

「けど?」

「お風呂に入るの、いろはちゃんとじゃなくって、鳴瑠くんとがいいー」

「今日まで逃げ続けておいて、変なとこでワガママ言うなー、この子‼」


 当然なことを言われる私。

 マジでその通りでしかない。ちなみに、これが嫌なことではない。


「もー入るよ、入ればいいんでしょ。私のこと脱がしたいなんて、このえっちロリ」

「ほんとーに、今朝までいろはのこと、お姉ちゃんとして慕う気あったの?」

「・・・・。・・・・。・・・・うん」

「その間は照れ隠しかな!?」


 何も返さないでおくことにした。

 ここまで私が文句を言って服を脱ぐのをためらっているのは、それが先ほど言った嫌いなことだからだった。もちろん、鳴瑠くんの前でならいくらでも脱ぐし、脱がされたいまである。また全裸が大好きで、お部屋では脱ぎたい。

 だけど、それはあくまでも鳴瑠くんの前や、1人きりのときのお話。

 私はけっして、見せたがな変態さんではない。えっちくないもん。

 何より、経験上わかってしまうのだ。

 私がこういった場で脱ぐと、周りの人たちがどんなことをしてくるのかを。

 服を脱ぎ、下着姿になる。

 そうすると、皆が揃って、私のおっぱいを見てきた・・・・。


「むー」

「ん?」

「なんでもない」


 いつもこう。

 背はあまり高くないが、おっぱいは大きい。

 そんな私の身体を皆が皆、羨ましそうに見てくる。これは家族旅行で温泉に入った時とか、中学の修学旅行の時に、何度となく経験してきたことだった。

 いくらやられても慣れない。

 よく男の子がおっぱいに視線がいってしまう、なんていう話がある。けれど、それは女の子もそうで、マジマジと見てきたりする。同性だからいいだろう、という意見があるかもだけど、私的にはそれはイヤ。鳴瑠くんに独占させてあげたい。

 ため息をつきつつ、下着も脱ぎ始める。

 で、おぱんつを脱いだとき、そこでも視線が・・・・。

 仕方がないのかもしれない。

 16歳になって、つるつるの箇所があるわけで。

 鳴瑠くんに合わせて、自分でそうした。

 けど、他の人はそれを知らない。

 故に珍しいと感じる人が多いのは仕方がないことなのだろう。けど、ここにいる人たちに見せる為にしたわけではないのだから、見ないでほしかった。

 好奇心で人を嫌な気持ちにさせることをわかってほしいのだけど・・・・・。

 アホ毛を動かせるようになってる私が、人なのかはさておいて。


「羞恥プレイとか、鳴瑠くんとしたいんですが」

「しゅうちぷれい?」

「なんでもない」


 私の軽口に反応するいろはちゃん。

 そんなロリは、私のおっぱいを悪びれもせずに、ガン見してきやがる。


「はわー」

「・・・・、何かな、ロリちゃん。じゃなくて、いろはちゃん」

「あ、ごめん。璃月ちゃっておっぱい、おっきいね」

「うん。鳴瑠くんの為に大きくした」

「そーなの!?」


 嘘である。

 鳴瑠くんと出逢う前の中学時代から大きかったもん。


「あ、もしかして揉んでみたいとか?」

「え、いいの?」

「ダメに決まってるじゃん」

「いい流れだったよね・・・・」

「なわけない。だって、私のおっぱいは鳴瑠くんのだもん」

「そうなの?」

「うん。だからね、鳴瑠くん以外はモミモミしちゃダメなの」

「というよりも、いろは揉みたいなんて・・・・ん?」

「どーしたの?」

「なーくんって、璃月ちゃんのおっぱい揉んだりするの?」

「・・・・」

「なんで急に黙ったの!?」


 答えは沈黙。

 ロリっ子には聞かせられないお話なの。

 話題を変える。


「もちろん、おっぱい飲ませてもあげないよ」

「いろは、赤ちゃんじゃないもん。もうおっぱいとか飲まないもん」

「そこで飲んでるって言われたらビックリするとこだよ」

「でも、飲ませてあげないってことは何かでるの?」

「でないよ」

「だよね、びっくりしちゃった」

「あ、もちろん、このおっぱいを飲ませてあげるのは鳴瑠くんだけだよ」

「へー、そうな・・・・ん?」

「どーしたの?」

「なーくんって赤ちゃんじゃない上に、何もでない璃月ちゃんのおっぱい飲むの?」

「・・・・」

「なんで黙るの!?」


 答えは沈黙。

 ロリっ子には聞かせられないお話なの(2回目)。

 黙る私に、今度は彼女が何やら気づいてしまったようで、話題を振ってきた。


「そもそもさ、さっきなーくんとお風呂に入りたいって話してたじゃん」

「うん」

「一緒に入ったことあるの?」

「あるよ。何回か」

「へー。どんなことして遊ぶの?」

「・・・・」


 ゆえるか‼

 身体同士をくっつけて洗いっこしたりしてるとか、ロリっ子にゆえるか‼

 黙ってるしかできない私がいた。

 3度目のだんまりに、いろはちゃんはそれ以上の言及をやめ、代わりに物珍しいものを見つけたように、私の下半身を見て驚きの声を上げ始めやがる。


「璃月ちゃん、つるつるー」

「・・・・」


 この好奇心旺盛なロリ、やめてくれませんかね。

 恥かしいんですが‼

 キャッキャと喜んでいる。

 そんな彼女の身体を私もお返しとばかりに見てやることにした。

 私の1個上とは思えないほどのロリっ子体型。お胸には段差がないし、肩から足先までスンて感じに直線で曲線が少ない。いつから成長が止まっているのだろうか。また、鳴瑠くん同様に肌がプルプルで弾力が強く、まつ毛から下には産毛が見当たらない。流石は姉弟かと納得してしまう。

 前に鳴瑠くんが言ってたけど、ロリ遺伝子が強い為に、いろはちゃんの方が、ロリ感が強いんだっけ。そんなことを思い出す。

 鳴瑠くんとの違いは、髪の長さとアレが付いてないの、あと背が低いことくらい。

 彼の隅々まで見て、憶えている私はそんなことを思う。

 やば、彼のアレを思い出したら、少し興奮してきちゃったよぉ、えへへ。

 密かに興奮し始めた私に、いろはちゃんは言う。


「璃月ちゃんとお揃いなんだ」

「純粋な顔して、えっち。それ喜ぶことなの?」

「うん」

「なんで?」

「璃月ちゃんは、ロリ遺伝子は知ってる?」

「鳴瑠くんといろはちゃんの中にある、2人を可愛いままで留めるDNAだよね‼」

「・・・・あー、うん。そんな感じ」


 微妙な顔をするいろはちゃん。たぶん、違ったのだろう。

 それから続ける。


「いろはとか、なーくんと同じ年頃の子たちは、みんな揃って成長して大人になっちゃうの。けどいろはたちは、成長が止まっておいてかれて、追いつけない。だから、自分たちのような子が同世代にいると親近感が湧いて嬉しいんだ」


 なんて無邪気に笑う。

 一応、能天気なロリっ子に見えて、身体の違いとかに悩んでるだなって再認識させられる。ぶっちゃけ、悩みとかないと思ってたのに。

 よくよく思い出してみれば、私の裸を初めて見た鳴瑠くんも喜んでたっけ。彼がそういう性癖なのだとばかり思っていたが、そういう悩みがあったのかも。

 ・・・・あーでも、鳴瑠くんだからなー、怪しいな。えっちだし。

 でも、ま。はしゃぐ鳴瑠くんが可愛かったしいーや。そいえば、あの時、めっちゃ鼠蹊部を触られたっけ。やっぱ、えっちだな。

 思い出して興奮する私はさらに考えてしまう。

 にしても、そう言われるとなんかこー、いろはちゃんに裸見せてよかった。

 そう思う。絶対に本人には言わないけど。

 とはいえ、周りの人が見てくる件に関しては普通に嫌だ。

 仕方がないので、いろはちゃん以外の人に対して、アホ毛を使って威圧感を飛ばすことにした。そうして、私を見るのはヤバいことなのではないかと、思わせることに成功する。ようやく、視線から逃れることができたのだった。

 そんなことを密かにしている私の周りをいろはちゃんはくるくる回っている。

 何をしてるのかな?

 と、見ていると、私に話しかけてきた。


「璃月ちゃんってさー、鳴瑠くんの名前とか入れ墨いれてないんだね」

「私を何だと思ってるの!?」

「入れてそうじゃん」

「入れないよ‼」

「そーみたいだね・・・・」

「どーして残念そうな顔をするのかな?」

「期待外れだなって」

「これはひどい。そもそも、入ってたら温泉も入れないじゃん‼」

「ちなみに、いれようと思ったことは?」

「・・・・」


 答えは沈黙。

 今日、どんだけいろはちゃんに言えないことあんの。

 私はそんなことを思いながら、大浴場に向かうことにしたのだった。


 ☆彡 ♡


 大浴場に入ると、身体を洗う。

 その時に、何故かは知らないけど、洗いっこさせられる。

 最初は私が洗われたのだが、いろはちゃんの手つき、洗い方が、人を洗うのに妙になれていた。そのことに妙な違和感と、嫌な予感が私の心を支配する中、答えは見つからずにそれも終わりを迎え、私が今度はいろはちゃんを洗うことに。

 身体を使わずに洗うのはあまり経験がなかったが、綺麗に洗うことができたと思う。とりあえずは、露天風呂の方に向かうことにしたのだった。

 2人で並んで座る。

 いろはちゃんはロリっ子だからお風呂に長時間入ってられないと思っていたのだが、意外なことに長湯するとのこと。ぶっちゃけ「そこはロリ基準じゃないのか」と思わなくもない。話を聞くと、お風呂は楽しい時間なのだとか。

 私は密かに思う。

 彼女にとって、どうしてお風呂が楽しい時間なのか。

 その理由が、無性に嫌な予感を感じさせられるが、彼女は教えてはくれない。

 いろはちゃんのお風呂事情に、私は引っかかりまくりだが、それはおいておく。

 冬空を見上げるいろはちゃんは、口を開く。


「ね、璃月ちゃん。なーくん、寂しがってるよ」

「そーだよね。鳴瑠くん、私にメロメロで、大好きだもん」


 遂に本題に入るようだった。

 私はそう返しながらも、心が痛い。

 鳴瑠くんにそう思わせていると思うだけで、心が張り裂けそう。


「むー」

「璃月ちゃん、恥かしくっても照れちゃっても、逃げないでぶつかろ」

「・・・・」


 神妙な顔つきで言われる私。

 何も言い返せないでいた・・・・。

 というより、違和感を感じざるおえない。

 恥かしい?

 照れちゃう?

 なんの話?

「好きなのに、恥かしくって、照れちゃって、顔をが見れなくなちゃって、逃げちゃうんだよね。いろは、わかってるよ。けど、それで寂しい思いを相手にさせたら意味ないんよ。だから、ちゃんと――」


「待とうか、いろはちゃん」

「え、どうして。今、いろはが、良い事言うところでしょ」

「たぶん、何もわかってないから」

「いろは、全部わかってるはずだけど?」

「どこからその自信が出てるんですかね・・・・」


 何はともあれ、いろはちゃんは、私が鳴瑠くんから逃げてしまっている理由を絶対に勘違いしてしまっている。だって、恥かしいとか照れてるとか、心あたりない話してるもん。流石に困惑する私。

 そんな私を見て、不安になってきたのか、いろはちゃんも困惑顔をしはじめる。


「えーと、璃月ちゃん」

「・・・・」

「ここで確認したいことがあるの」

「いーよ」


 私の言葉を聞き、彼女は真剣な顔をして口を開く。


「璃月ちゃんがなーくんを避けてる理由って『好き避け』ってやつだよね。いろはの乙女的な思考回路から導き出した見解としてはソレしかないと思ったんだけど」


 うっわ、乙女的とか言われたら、否定しズラっ‼

 目を逸らし、私はいろはちゃんの平らなお胸を見て、返事をする。


「・・・・・、うん、その通り」

「ならどーして、いろはのお顔を見て話さないのかな」

「いやいや、乙女的に考えて、好き避けしかないよね、マジ」


 嘘をつくのが辛い。

 ここまで何も言ってこなかったけど、このタイミングで言えるか‼

 だって、だって、私が鳴瑠くんから逃げてる理由って――、


「けっして――鳴瑠くんが好きすぎるあまり、彼の近くによると脱がしたい衝動に駆られたり、えっちなことをしたくてたまらなくなって自分を抑えられなくなっちゃいそうになっている――とかではないよ。それで逃げるとか、私は乙女だしない」

「・・・・、・・・・・」


 無言、やめてほしい。

 優し気な顔で私を見ると、いろはちゃんはゆっくりと口を開いた。


「璃月ちゃんてさ、ほんとーに、えっちだよね」

「私、えっちくないもん‼」

「初めてあった時、自分で言ってたじゃん」

「私がそんなことゆーわけない」

「絶対、絶対言った。めっちゃキメ顔で言ってたよ‼」

「あー、あー。知らない。私、いろはちゃんと出逢った時の事、憶えてない」

「・・・・え、うぅぅ、ひどいよぉー」

「憶えてる。だから泣かないで‼」

「だよね、ぐす。なら言ったよね、えっちって」

「・・・・うん」


 遂に認めた私。

 泣くのはズルくない?

 たしかに煽るのに言ったけど、それをいろはちゃんが憶えていたとは・・・・。


「で、璃月ちゃんはなーくんのことが好きすぎて、えっちなこと?したくなって逃げてるってことなんだね。璃月ちゃんが言うえっちなことって例えば?」

「・・・・」


 この子のえっち基準は、ほっぺにちゅー。

 その上が私と鳴瑠くんが見せた、口を使ってご飯を食べさせるやつ。

 ようするに、えっちな知識がないと言っても過言じゃない。

 うわー、説明したくなっ‼


「えーと・・・・とりあえず、鳴瑠くんをドロドロにする」

「スライムで遊ぶの?」

「あとは、いっぱい鳴かせる」

「泣かせる!?・・・・それ、えっちなの?」


 私の言ってることがわからないようで、目を回し始めるいろはちゃん。

 このままじゃ、知恵熱を出しちゃいそう。


「とにかく、いろはちゃんには想像できないことなの‼」

「うーん、そーなの?」

「そー」


 はぁー。

 言っちゃった。

 私、えっちくないはずなのに、えっちなのことをいちゃった。

 これじゃ、私がえっちな子みたいじゃん。

 自己嫌悪に陥る私に、いろはちゃんはフォローを入れてくれるのか口を開く。


「ほとんど何言ってんのかわかんなかったけど、璃月ちゃんって可愛い顔して乙女じゃないよね。欠片もない」

「ぐはっ」


 とどめの一撃だった。

 私のライフはとっくに0なのにー。

 そんな私に、いろはちゃんは優し気な顔を見せる。そして、言った。


「とりあえず、璃月ちゃんがどんなことをしたいのかわかんないけど、なーくんとっても寂しがってるよ。いろは的にははやく元に戻ってほしいかなー」

「はい」


 虚ろな目で返事をする私。

 それを気にせずに、いろはちゃんは続ける。


「だからさ、1回だけ思う存分好きな事しちゃえばいいんじゃないかな。満足するまでやって、欲求が満たされたら、案外普通に接することができるようになるかも。だから、逃げずに好きなことやってみよ、ね」

「は・・・・い?」


 今回も虚ろな目で返事をしようとした私。

 だが、話しはちゃんと聞いていて、それを理解すると間抜けな返事をしてしまう。

 私がえっちなのをバカにせずに、はたまた笑いもせずに、それを受け止めた上でアドバイスをくれた?

 うわー、えっちとか、えっちじゃないとか言ってた自分がバカみたいに思えてきちゃうじゃん。まったく、この子はまったくぅ。


「いろはちゃんって、お姉ちゃんなところもちゃんとあるんだね」

「どうして喧嘩を売られてるの?」

「売ってないよ。私が思ってることは1つ、ありがとーってことくらい」

「そーお?ま、璃月ちゃんがそう言うならいいけど」


 今日、話せてよかった。

 素直にそう思う。

 私は自分のコントロールできなかった欲望を、発散させてしまうことに決めたのだった。というわけで、善は急げとお風呂から出ることにする。

 が、そんな私の手をいろはちゃんは掴む。


「なに?」

「100まで数えなきゃだよ」

「えー、鳴瑠くんに会いたいんだけど」

「それでもだよ‼」

「姉と思った矢先に、ロリぽいことをして台無しにする」

「どうゆー意味の発言かな‼」


 そうして楽しそうに互いに笑う。

 この子とは、年齢も違えば、友達ですらない。けれど、確かに仲は深まってゆく。とりあえず、ちゃんと義理の姉妹になれている。私はそう確信しているのだった。

 ちなみに。

 鳴瑠くんとの件は、この日の次の日パパとママが帰ってこないことを良い事に、彼を家に泊めて寝ずにイチャイチャしまくった。そのかいあって、いつぞやの朝が如く「淫乱」だの「むっつり」だの泣かれたりもしたけど、とりあえずは仲良しに戻ることに成功。こうして着実に変化しながらも、日常に戻ってゆく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る