第109話 リラクゼーション
スキー・スノボー教室が終わっての翌日。
今日は休日。
また、寒いのが苦手な僕とお姉ちゃんの朝は、いつも以上に遅い。姉弟揃って布団から出ないでお昼を迎えそうになる中、目を覚ました僕は身体の異変に気が付いた。
「・・・・おねーちゃん」
「ん、んー、どーしたのぉ。もう、さすがに起きなきゃだね」
「それがね、起きられないんだ」
「え、どーしたの。午後からは璃月ちゃん、くるんでしょ」
「くるんだけどね、身体が、身体が、どーしようもなく、痛いんだ」
「昨日は疲れたとは言ってたけど、身体が痛いなんて言ってなかったのに」
「目が覚めたら、痛くなってた。あと、身体が少し重たい」
「平気?」
「うー、動けないよぉ」
「んー、とりあえず、お熱。お熱を測らなきゃ」
お姉ちゃんはそう言って、僕の前髪をあげる。それから、僕のおでことお姉ちゃんのおでこをぴたりと付けて、熱を測ってくれる。お姉ちゃんのおでこは僕の熱を正確に測ってくれるので、体温計を使うまでもない。むしろ、こっちのが正確だ。
「お熱はないみたい」
「そっか」
「何が原因なのかな・・・・とりあえずは、今日は1日寝てたほうがいいかもね」
「・・・・璃月が今日、来てくれるし。遊びたい」
「ワガママ言わないの」
「むぅー」
「とりあえず、いろはが万病に効くやつしてあげるから」
「・・・・うん」
「痛いの痛いの飛んでけぇー」
お姉ちゃんは、僕の頭を撫でながらおまじないをしてくれる。
最強のお姉ちゃん子にして生粋の弟たる僕は、不覚にもお姉ちゃんにそれをされて嬉しくなってしまう。絶対に本人には言わないけど、すんごくこれが好き。
ぶっちゃけて言おう。
あと、数回やってほしかったりする。
けれど、そんなお願いをしてしまえば、僕がお姉ちゃんのことが大好きなのがバレてしまう。それはどうしても避けたい。思いがバレずに、もう1度やってもらえるような言い方を考えると、それを告げることにした。
「お姉ちゃん。ぜんぜん効かない。たぶん、璃月のに比べてお姉ちゃんのおまじないは回復量が少ないみたい。だからね、あと数回してほしいんだけど・・・・だめ?」
「いーよ、治るまでしてあげるよ」
「わーい‼」
お姉ちゃんは優しく微笑み、おまじないをしてくれる。僕にかかれば、自分の気持ちを隠しながらお願いするのなんて造作もないのだ。思いながら頬を緩ませる。
と、そんな時の事、いきなり扉が開けられた。
「鳴瑠くん――いろはちゃんが大好きなこと、隠せてないよ‼」
正体はもちろん、璃月。
だが、その登場時の言葉は僕の名前を呼ぶところまでしか届かない。
どうして届かなかったかと言えば、お姉ちゃんに耳を塞がれてしまったから。ヒドイことをする。大好きな璃月の声を聞かせてくれないなんて・・・・。
そんな悲しみも一瞬のこと。
璃月が現れたら、彼女に会えたことを喜ぶのが僕という男なのである。
テンションは爆上がりだ。
「わぁー、わぁー、璃月だぁ‼お姉ちゃん、璃月が来てくれたよぉー‼」
「よかったね、なーくん」
「うん‼」
「鳴瑠くん。大好きな私の登場に喜ぶのはわかる。けど、待ちなさい。一端、落ち着きなさい。そして、私のお話を、私の想いをゆわせてほしいの」
璃月の話は何でも聞きたい僕。
彼女にそんなお願いをされれば、断ることなどできない。
「なになに、僕が好きって話?」
「うん、大好き。ナーくんのこと、大好き」
「お姉ちゃん、璃月がね僕のことが大好きなんだって、聞いてた?」
「聞いてたよ。よかったね」
「うん‼」
「って、本題に入らせてよ‼」と、璃月。
コホンと咳払いをして1度目を瞑る。
その思いのたけを彼女は告げた。
「なんで2人はイチャイチャしてるの‼」
「「え、何の話?」」
よくわからないことを言われた僕たちは、姉弟揃って疑問の声をあげる。
その返答に璃月は満足することは、もちろんない。
「いやいや、鳴瑠くんといろはちゃん。よく考えて」
「「ん?」」
「添い寝して頭を撫でながら『痛いの痛いの飛んでけぇー』とか。経緯はわかんないけど、それイチャイチャだよ。ぶっちゃけ、私がそれ、したいんだけど。もはや、それって姉である私の役目っていうか。私が今日、来るのわかってたよね。私が来るまで我慢できなかったのかな、鳴瑠くんは」
「璃月ちゃん、なーくんのお姉ちゃんは、いろはだよ?」
「私もお姉ちゃんだし」
「璃月ちゃんがまたわけわかんないことを言い始めたよ」
「私、嫉妬に狂いそう」
ぷくっと頬を膨らませる璃月。
彼女はポシェットをテーブルに置くと、僕たちがいるベットに潜り込んでくる。
ベットは少し大きめで、僕たち3人の身体は小さい方。
それでも、3人で1つのベットというのはギリギリで入っているようなもので、壁側のお姉ちゃんと真ん中の僕は落ちないにしても、璃月は落下の危険があった。
「璃月、もっと僕に抱き着きなよ」
「うん、そーする・・・・けど、まだ嫉妬に狂ってるんだからね、私」
ほっぺを膨らませながらも、モゾモゾと動いて僕の腕に抱き着いてくる。すると、当然の如く彼女の胸が僕の腕に当たる。はわわー、やわらかぁーい。
動くたびに謎の痛みを味わう身体。
不思議と彼女のおっぱいが触れても痛くはなかった。むしろ、気持ちいい。おっぱいによるマッサージで、僕の身体は癒されてゆくではないか(嘘、痛い)。
「ねーねー、鳴瑠くん」
「ん?」
「さっき『痛いの痛いの飛んでけぇー』してもらってたけど、どっか身体悪いの?」
不機嫌そうだった彼女の顔は一転、心配そうなものへと代わる。
どうやら、彼女は事の発端である謎の痛みがあったことを知らないよう。
それに答えようとしたのはお姉ちゃんだった。
「璃月ちゃん。なーくんはね――」
「待って、お姉ちゃん。自分で話すよ」
「わかった。なーくんが言うなら」
「え、何その意味深な会話。怖いんだけど」
身体に原因不明な痛みがあることは、心配はかけてしまうかもしれない。だが、僕は璃月に隠し事はしたくない。何より、言うなら自分の口で言葉にして伝えたい。
だから、ここは正直に答えることにした。
「璃月、実は、僕の身体に謎の痛みがあるんだ」
「・・・・・」
璃月は何も言わない。
僕のことが大好きで仕方ない璃月のこと。僕の身体に謎の痛みが走るようになったことが、ショックなのかもしれない。安心させるように、抱きしめることにした。
だが、抱きしめようと身体を動かすと、痛い。
これから先、彼女を抱きしめようとするたびに、この痛みが生じるのか。
そう思うと悲しいものある。
それでも、僕は璃月を抱きしめることをやめないだろう。
心に誓う僕がいた。
「なーくん」
僕の決意を悟ったように、「がんばれ」と言わんばかりにお姉ちゃんは背中を撫でてくれる。痛みが少しだけ、和らいだ気がした。
「・・・・鳴瑠くん」
プルプルと、僕の胸の中で震える璃月。
そんな彼女の言葉がどんなものかはまだわからない。けれど、どんな言葉でも受け止めようと心の中で思い待つ。そして、彼女は口を開いた。
「それ、ただの筋肉痛だから‼」
「「えー!?」」
璃月の渾身のツッコミに、驚きが隠せない僕たち。
この後、璃月にイチャイチャストレッチと呼ばれる璃月考案の新たなイチャイチャ法をしてもらって、身体の痛みはすっかり消えたのだった。
とりあえず、もう少し運動しようと思った僕がいたりする。
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