第47話 夏休み 7月その3 寝たふり

 僕は今、寝たふりをしていた。

 ここは僕の部屋。

 昨日はお姉ちゃんの自由研究の妖怪探し(ほんと高校生姉弟がやることじゃない)を1日中付き合ったこともあり、疲れが溜まっていた。そんなわけで不覚ながら、恋人である璃月が僕の部屋に来ているにも関わらず寝落ちしてしまった。

 どれくらいの間、寝ていたのかはわからない。

 今はわかることと言えば、


「つんつーんつんつん」


 と、璃月の謎の擬音付き(甘い声)でほっぺをツンツンされているこの現状くらいだった。薄目を開けて璃月を見ると、目をキラキラさせている。

 寝ている(と思ってる)僕にイタズラするのが楽しいのだろう。ぶっちゃけ、その様子を見るのが僕も楽しくて仕方ない。

 というわけでやることは1つ。

 寝たふり一択だった。


「鳴瑠くんのかわいいほっぺをつんつーん」


 璃月のが可愛いよ‼

 叫びそうになるのをぐっと我慢する。このままではニヤニヤしてばれちゃうかもしれない。ニヤニヤを我慢している顔が見られない位置に寝がえりをうつふりで、姿勢と位置を変えて横向きになる。

 僕が動いたことにより、璃月は少しばかり驚くように言う。 


「起こしちゃったかなぁ?」

「・・・・・」

「起きてないみたい、もー、私を暇にさせるなんてめっなんだけどなー」


 僕の眠りを邪魔したくない気持ちと、かまってほしい気持ちが、複雑に絡み合っている様子だ。声音から読み取れた。ちょっと心が痛い。


「うーん、どこまでならやっても平気なのかな」


 何をするつもりなのかな!?

 何をされるのかわからない不安と期待が僕の胸を躍らされた。先日の壁ドンの一件で僕は無理やりされる快感を知ってしまった(色々ヤバい)。故にこの状況で何かをされるのは僕の本意でしかない‼

 再び寝返り風をよそおって、今度は仰向けになる。

 ニヤニヤされてる顔とか見られてもいいや。もはや、好きに僕をいじってくれ‼

 そんな意思を込めた寝返り――服従のポーズだった。


「まるでしてほしそうに寝返りが」


 なんて言ってるけど、そこまで気にした様子は声の感じからは伝わってはこない。もはや、寝ている僕にイタズラする気しかなく、楽しくて仕方がないのだろう。


「うーん、最初は前のおかえしをしなきゃだね」


 コロコロ笑う璃月は、僕の服を少しめくると何の躊躇もなく小さく細い指を僕のおへその中へとつっこんだ。どうやら先日の宿題のときにしたお返しのようだ。

 あう、う、ううっ、こ、これは――ッ‼

 今までに感じたことのない感覚に襲われ、僕は心の中で変な叫びをあげてしまう。


「くりくり、どーだ」

「――っ!?」


 お腹の中をかき回される感覚と言えばいいか。なんとも言えないお腹に広がる感覚と、好き勝手にいじられているこの現状が僕の快感を加速させる。


「うーん、次は・・・・そーだぁ。いつもアホ毛をいじられてるから、髪の毛を撫でてやるぅー」


 そう言うと、璃月は優し気な手つきで、僕の頭を撫で始めた。

 先ほどまでの蹂躙される快感とでも言えばいいか(言っていいのか?)、それとは別の優しさしかないこの行為。この安心感で再び寝てしまいたくなる気持ち良さがあった。これで膝枕などされてしまえば、1秒もかからずして寝てしまうことだろう。


「鳴瑠くんが起きてたら、子守歌でも歌って寝かしつける赤ちゃんプレイができたんだけどなー。残念」


 そ、それは、変態度がかなり高いプレイの1つじゃないか‼

 僕の心は穏やかじゃなかった。もちろん、興奮のためだ。


「うーん、あとは・・・・」


 ちょっと考える様子を見せる璃月。

 もはや、次は何がくるのか楽しみでしかない僕。


「あ、ふふーん、これしかないよね」


 そう言うと、璃月は何を考えたのか、添い寝をするように僕の横に寝転がる。スリスリとこちらにやってくると、僕の右半身に体を絡めるように軽く抱き着いてくる。

 む、むむ。肩周りには璃月の腕が、腕におっぱいが、足に璃月の足がぁ、太ももがぁ‼何より、息づかいがわかる程度に璃月の顔が近い‼

 右半身に彼女の柔らかさが広がってくる。スリスリと動くたびに彼女から伝わる甘い香りが鼻腔をくすぐり血液のめぐりを早くしていく。

 しまいには、僕の顔に璃月のアホ毛が当たり、鼓動の脈打つうるささから死を覚悟した。たぶん、ショック死で僕は死ぬ。


「食べちゃいたい。・・・・はむ」


 そうして璃月は、僕の耳に甘噛みした。

 僕はたぶん死んだ(死んでない)。

 耳に伝わる生暖かな温度、耳を挟むように伝わる固い歯。

 彼女から伝わるすべての刺激が快感へと変わる。また、璃月に食べられているという事実が・・・・・もうらめら、ものろーぐがつじゅけられ――バカになっていた。


「はむはむ、もきゅもきゅ――」

「ん、うう。り、りつき」

「ひゃっはり、おひへはね、はるひゅん(やっぱり、起きてたね、鳴瑠くん)」


 どうやら、寝たふりをしていること自体、最初からバレていたようだった。

 ここはこの状況を・・・・・ダメだ。あまりの刺激にいつもの楽しむ余裕などこれっぽちもなかった。


「う、うん。うぅ、これよすぎて・・・・」

「ろーお?(どーお?)」

「もう、らめ」

「ふふ、ひょろこんれくれへよはっは(喜んでくれてよかった)」


 これは気持ちがいいが、頭がバカになってしまうというかなりのリスクがあるので、長時間はやってほしくないという思いが珍しく僕の中にあった。

 それを察したのか、璃月は息の荒い僕から口をはなした。それから優しく少しばかり蕩けた微笑みで僕を見つめてくる。そんな彼女の息もまたいつもよりか荒かった。


「寝たふりして私をかまってくれないばつ」

「う、うん」

「耳が弱いんだね。これから君への罰はこれにするね、はむ」

「ううぅ、ん、んん」

「かわいい」


 癖になったのか璃月はさらに甘噛み。

 そして、抱き着く力を強めてくる。たぶん、彼女も切なくなって僕を求めてきている。これ、お互いの為に封印した方がいいんじゃないかな。

 と、一瞬思ったが、僕は再びバカになったしまったので、提案できずにされるがままになる。また、記憶からも飛んでしまった。

 そんなわけで、たまに璃月がこれをしたがるようになったのだった。

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