第2話 恋人繋ぎ

 付き合い始めたわけだけど、残念なことに図書室の営業時間の終わりを迎え追い出されてしまった。

 2人とも通学は徒歩で、帰り道もだいたい同じ。付き合い始めて早々、別れて帰るという悲惨な結果にはならずに一緒に帰る運びになった。

 ようするに、付き合い始めてからの初めての下校。普段と通る道は同じなのに、今までにないドキドキした気持ちが僕の中にはあった。


☆♡


 帰り道。

 5月の上旬でも、日が沈むのは早いようで、既に外は暗かった。


「もう暗いね」


 当たり前のことを口にしたのは僕。

 気の利いた話題が出せないのは僕のとりえだった。普通に残念なとこだった。

 これからはもう少し、話題作りの勉強をしておこうと心に誓う。


「うーん、そうかな。明るいよ?」


 飛んできたのはまさかの否定。

 どこをどう見ても外は暗い。

 街灯はあるけど頼りなく、お世辞にも明るいとは言い難い。


「これから先の未来、明るくない?」

「あ、僕たちの未来の話ね。ごめんごめん、僕は外の話をしてた」

「君との未来とは言ってないよ?」

「泣きそう」


 付き合いたてで、君の未来に僕がいないのはキツイ。


「冗談。君との未来の話」

「泣きそう」


 付き合いたてで、君の未来に僕がいるのは嬉しい。

 どのみち泣きそうだった。


「泣いたらあやしてあげる。ぎゅーていっぱい抱いてあげる」


 魅力的な提案だった。

 いいのか。あのおっぱいに顔を埋めて。

 ぶっちゃけ埋めたい。埋められてしまいたい。健全な男子高校生だった。


「時間切れ。もっと段階踏んでからにしよ」

「残念だけど、うん。そうしよ」

「正直だね。おっぱい好きなの?」

「璃月から投げかけられた問いはまさに愚問の一言だった。当然のことながら、好きな子のおっぱいは好きに決まっている。いや、大好きに決まっている。この世にあるおっぱいの中で唯一好きなおっぱい、それは璃月のおっぱいに他ならない」

「たぶん、それ。心の中で思おうとしてたやつだよね。ま、いいけど」


 そう言いながらそっぽを向く璃月。街灯に時々照らされる彼女の顔は赤かった。

 自分で言っておいて、照れるのは可愛すぎて反則じゃないかな。

 とりあえず、璃月のおっぱいが予約できたのはでかい(色んな意味で)。

 やはり、彼女の言った通り僕たちの未来は明るいようだった。


「未来の話はやめよ。えっちぃから」

「最初に言ったのは璃月だったんだけど・・・・」

「そんなのは知らない。私の頭は都合いいから、忘れたいことは忘れられるの」

「たちが悪いなー、それ」

「女の子はちょっと悪い方が可愛いんだよ」

「安心して璃月は性格が悪くても、よくても可愛いから」

「私に告白してきたこともだけど、鳴瑠くんは好きなものには直球だよね」

「素直に言った方がよくない?」

「うん、そっちのが好き」

「そっか」


 次に照れたのは僕だった。

 少しだけ無言で歩いてから僕はさりげなく言ってみることにした。


「手、繋ぎたいなー」

「欲望にも忠実。性欲主義者。そいうとこも好き」

「半分以上バカにされてる気がするんだけど」

「そうゆうのは好きじゃない?」

「うーん、悪くはないかな。璃月にやられるの限定だけど」

「ふーん、好きなんだ」

「もう、話しが進まないから好きっていうの一端禁止しない?」

「やだ。君が泣くまでやめない。もしやめてほしいなら。服を脱いで全裸になって、私に『愛してる』って叫んでくれたらいいよ」

「それはきっと、僕のことが嫌いになるってことだよね‼」

「そうともゆうかも。でも、うん、塀から出てくるまで待ってたあげる」

「結局、僕のこと好きなんじゃん。でもそれ、結構重い子になってるよ?」

「体重は軽く、愛は重くを信念においています」

「で、結局は?」

「好きってこと」


 そう言って、璃月は僕の手を握ってきた。


「はい、叶えてあげました」

「ありがと。うん、温かい」


 5月の夕方はまだ冷える。それに加えて、ここ片隅市は海に近い。そのため風が強くて余計に寒さを感じさせられる。

 だからこそ、こうして手を繋ぐと温かかった。


「1つお願いを叶えてあげたから、今度はお願い叶えて」

「全裸になって『愛してる』って言えばいい?」

「それはダメ。それはお家の中にして」

「やっちゃダメではないのね」

「うん。それはちゃんとしたときにして」

「わかった」


 また、未来の約束が増えた。

 僕たちの立てる未来の約束、こんなんばっかだけどいいのかな?

 それよりも、璃月のお願いを聞くことにしよう。

 で、そのお願いっていうのは。


「恋人繋ぎがいい」

「いいよ」


 そう言って、僕たちは指を絡ませた。

 密着度が上がった。

 体温が伝わるだけでなく、触れている箇所が多くてなんか・・・・。


「えっちぃ」


 先に言ったのは璃月だった。

 思うんだけど、璃月ってえっちな子なの?

 嬉しいことだから、それはいいとして。


「じゃ、やめる?」

「やめない。私、基本的には鳴瑠くんが泣いてもやめない。何においても、私が満足するまで基本的にはやめる気ない」

「愛で殺しにかかってるね」

「君を殺すのはいやだよ。寂しいし・・・・手、繫げないのはいやだし」

「うん、僕も手繫げないのはやだから、死ねないなー」


 僕が言ってから、璃月は思い出したように言う。


「あ、でも本当に嫌なことはゆってね。それはちゃんとやめるから」

「ふーん、嫌われたくないんだね」

「うん、そう。だから、ちゃんと嫌いになる前にゆって」

「わかった。そうする」


 安心したように、何もなかったような顔をする璃月。

 話しをするごとに、ドキドキして体温が上がってゆく。

 ブレザーを着ているのも熱いくらいだった。


「僕の体温で璃月の手、やけどしちゃったら大変だね」

「大丈夫だと思うけど・・・・」

「ん?」

「・・・・・」


 あー、そういうこと。


「璃月もドキドキして、体温上がってるってこと?」


 同じ温度になればやけどしない、的な感じかな。


「君はほんと・・・・いじわる。むー」

「うれしいなー」


 握られた僕の手に、璃月の爪が食い込む。

 絶対にわざとだ。

 攻撃されているのに愛を感じる。それがうれしかった。

 いってはいけない方向に性癖がいってしまっている気がする。

 そんな初めての手繫ぎ下校だった。

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