第114話 遊園地と観覧車と万物は流転する
夕陽が沈む。
それに伴い、空は暗い青色とオレンジ色に変わり始める。
だんだんと青色が増えてゆき、空は煌めく星々と共に夜を向かい入れてゆく。
あと数十分と待たずに、完全に夜の世界と変わるだろう。
そうなれば、僕と璃月は遊園地から帰らなければならない。
冬というのは、昼の時間が短く、夜が長い。当たり前のことなのだが、夏よりも損した妙な気分になってしまう。だが、嘆いても仕方がないこと。気持ちを切り替えて、最後のアトラクションに乗ることに。そこで選ばれたのは、観覧車でした。
それを選んだのには、理由がある。
なにかと言えば、空に昇れば夕陽が沈む時間を引き延ばし、夜になる時間を遅らせることができるかもしれないと思ったからだ。たった数秒でも、また地上に戻ってしまえば意味をなさないことも、全てわかっていながらそれを選ばずにはいられない。
思いながら珍しく璃月を見ずに、ゴンドラの窓から外を僕は見る。
景色はゆったりと高度を増してゆき、時間が巻き戻るように太陽は地平線から顔を出す。夕方の時間が少しだけ伸びた気がしてちょっとしたお得感が。
まぁ、冬の昼間の時間の短さを考えれば、総合的に得はしていないと思うけど。
損得の話は、おいておき。
夕陽をこうして見ていると、思い出す。
付き合い始めた頃に璃月と砂浜で見た水平線に沈んでゆく夕陽を。
あれから1年も経っていないのに、なんとも懐かしかった。
とはいえ、今はあの時とは違うことが2つ。
まず、夕陽を綺麗だと思う純粋な想いだけでなく、それを見ていると寂しさも感じていること。先ほども言ったが日が沈めば帰らなければならない。
今日が楽しかった分だけ、今日の終わりを感じさせる夕陽を見てしまえば、寂しさが増す。まぁ、その寂しさは今日1日が楽しかった証拠のような気がして、僕的には悪い気はしないけど。極度の寂しがり屋の璃月は納得しないと思うが。
次に違う点をあげるなら、璃月と一緒に見ていないこと。
一応、璃月もゴンドラには乗っている。
けれど、璃月は夕陽を見てはいなかった。
彼女が何をしているかと言えば――、
「はむはむ」
「ん、あぅっ♡」
――対面する形で僕の膝の上に座って抱っこ。それから小っちゃな可愛いお口で僕の耳たぶをはむはむ甘噛みをしていた。
耳たぶがとっても気持ちよくって、ふぇぇん、えっちだよぉ~。
どうしてこんな状況になっているかと言えば、遊園地から帰るのに寂しくなってしまった璃月はそれを補う為に僕を口の中に入れておきたいんだと思う。
実は真面目な感じにモノローグをここまでし続けたが、ずっと耳たぶを食べられていた。もっと言えば時折、気持ちのいいのを我慢したりして、モノローグでバレルかバレナイかのスリルに興奮していたりもしていたが、それは内緒だ。
とはいえ、バレてしまったのでは仕方がない(我慢できなくなってきた)。
感情を露わにすることにした‼
「り、りちゅきぃ、みみたぶ、だめぇ」
「はむはむ」
「ん、りちゅきぃ」
「はむはむ」
ここはゴンドラの中。
フタリきりの空間だ。
寂しくなって僕を食べたい璃月は容赦を知ることなく、気持ちよくしてくる。
顔の筋肉は蕩けきり、身体は熱を帯びてゆく。
次第に快楽の許容限界が訪れ、僕は抱っこしている璃月の身体を強く抱く。彼女の名を呼びながら、数回にわたって身体をビクリと震わせてしまった。
「はむはむ」
「あぅぅ、りちゅき、気持ちよすぎてダメだよぉー」
「はむはむ」
気持ちよさのあまりに言語も不安定に。
僕の言葉に璃月は何も返してくれずに寂しさを感じてしまう――が、一瞬のこと。
璃月は耳たぶから首筋へと、標的を変更。
そのままカプリと噛みつく。
「まだ、するぅ、かぷっ」
「ふぇっ、りちゅき、まだしゅるのぉ!?」
「うん、まだ寂しいのぉ、なりゅくん、たべりゅのぉ」
快楽に震えていた身体へ、新たな快楽を流しこまれる。それにより寂しさなど吹き飛んだ。ついでに思考も吹き飛ぶ。そのためか普段のような、
吸血鬼の吸血行為が性行為って気持ちがわかった、とか
お姉ちゃんとお風呂に入った時にキスマークを見られちゃうよ、とか。
そんな適当なことを思うことすら不可能。
あるのは気持ちがいいってこと。そして、僕の身体で璃月の寂しさが埋められるならどんなことをされてもいいってこと。愛おしさが強くなって寂しさが少しでも和らぐように、彼女の頭を優しく撫で続けたのであった――。
☆♡
――璃月は僕の首筋から、ほっぺ、鎖骨、ないはずのおっぱい、べろの順に甘噛みして、ようやく落着きを取り戻す。ちなみに僕はと言えば、連続する快楽により腰が抜けてしまっていた。ゴンドラが地上に降りるまでには回復するはずだ、きっと。
まぁ、それはいいとして。
ゴンドラは観覧車の頂上を越えて、下りに入っている。
遊園地デートも本当に終わりが近づいていた。
そんな折、膝の上にいる璃月は、僕の頬を撫でると優しく訊ねてくる。
「ごめんね、いっぱい甘噛みして。痛いとこ、ない?」
「平気だよ。むしろ、気持ちよかったから、お礼を言いたいくらい。ありがとぉー」
「えっとぉー、どーいたしまして?・・・・じゃないよ、私の方こそありがとだよ。抱っこもだけど、頭をずーっと撫でてくれて、嬉しかったぁ、えへへ」
寂しくなって僕にえっちな甘え方をしてくる璃月も可愛いが、普通の璃月も可愛い。ようするに、璃月は可愛かった。璃月は最強であった。
「それでなんだけど、鳴瑠くん」
「んと、もっと頭を撫でてほしいの?」
「撫でて、撫でて‼」
パタパタ足をさせながら言ってくる璃月。
ご要望にお応えして、僕は頭を撫でてやる。そうすると、だらしなく笑う。
「ふへへ、ナーくん、すきぃ。私もナーくんの頭、なでなでしたあげる」
「ありがとぉ。僕も璃月に頭を撫でられるの、大好きなんだぁー、えへへ」
「お揃いだね‼」
「だね‼」
お揃いなのが嬉しくって、だらしない顔が更にだらしない顔になってしまう。
それからも頭を撫で合いながら話しは進む。
「で、どうしたの?」
「そうそう。鳴瑠くんのことをさっき、好き勝手にしちゃったでしょ」
「うん。無理やりされて、興奮しちゃったよぉ」
「喜んでくれて何より。でねでね。提案があります」
「ん、なになに?」
「今度は私のことを鳴瑠くんが好き勝手にしてもいいよ‼」
なんとも魅力的な提案。
とはいえ、思うことが1つ、普段と大してかわっていないということ。
璃月は僕に甘々な甘党彼女。
僕のしたいことは言っても言わなくてもしてくれるし、喜びそうなことを積極的にやってくれる子だ。普段から璃月を好き勝手にしてるまであるわけで、いつもとかわらないと思うのは当然のことと言えるだろう。けれど、璃月は違うようだった。
「普段とはぜんぜん違う」
「え、どこが?」
「どこって――」
璃月は少し考える。
答えが出たようで、すぐに口を開いた。
「普段の私は絶対にパジャマを着て寝ないけど、今お願いされたら1回だけパジャマを着て寝てもいいと思うくらいには違うよ。ほらね、違うでしょ、でしょ」
自身満々な様子で言ってくる璃月。
僕は困惑してしまう。
どうしてしてしまったかと言えば、基本的に『私の身体を好きにしてもいいよ』と言われたらえっちな感じになるはず。にも関わらず、璃月から出たのは服を着るというド健全なもの。ぶっちゃけおう、普段がえっち過ぎてえっちな内容になることが健全になるという、謎の現象が生じていた。
そんな中、璃月は期待の眼差しを送ってくる。
「鳴瑠くんのことだから、きっとえっちなことなんだ、えへへ」
彼女から受ける妙な期待。
まだ足りないと言うのか、璃月の性欲は底なしか(知ってた)!?
無駄に驚きながら、僕は思った。
さすがにこれ以上、えっちなことをするのは体力的にキツイな、と。
僕は璃月に気持ちよくされ過ぎて、健全になっていた。
「ごめん、璃月」
「ふぇ?」
「璃月が望むようなえっちなお願いじゃないのでもいい?」
「別に鳴瑠くんがいいならいいけど・・・・って待ってよ、えっちなのを望んでるみたいな言い方しないでよ、私はえっちくないんだから。ちょっと期待してたけど‼」
期待してたならえっちなのでは?
否定できてなかったよね、さっきの。
僕は発言を見逃さなかったが、言及せずに見逃すことにしとく。ここで言い合いをしてしまえば、ゴンドラが地上に着いてしまうからだ。
なにより、僕は既に璃月の身体を使ってやりたいことがある。それを璃月に言う。
「璃月、実は僕。なりたいものがあったの」
「なりたいもの?」
「うん、璃月の身体を使って前々からなりたかったもの」
「え、なに、なに?」
「それはね」
「無駄に引っ張るね、それは?」
「それは、おっぱい置き‼」
「おっぱい置きか、おっぱい置き・・・・おっぱい置き?え、待って、何それ?」
「おっぱい置きだよ。璃月のおっぱいって前々から重そうだなって思ってたの。でね思ったの。僕が璃月のおっぱいを支えられるようになればいいんじゃないかって」
「私を支えてくれるていで、ただおっぱいを支えたいだけという。えっちじゃん。えっちな提案じゃないとか、嘘じゃん。鳴瑠くん、嘘つきじゃん」
「えっちくないよ。だって、おっぱいを僕の頭の上に乗せて休憩所にしてもらうだけだもん。あとね、璃月。僕はおっぱいだけじゃなくて、璃月自身も支えたいと思ってるよ。大好き、璃月。楽しい時も辛い時もずっと一緒にいようね‼」
「おっぱい置きになりたいって言い始めた彼氏の言動から、感動させられるとは。うるうるし始めちゃうじゃん。もぉー鳴瑠くん、私のおっぱい、置かせて‼」
ついに自ら僕をおっぱい置きにしてくれるまでになってた。
何はともあれ、僕の夢の1つであるおっぱい置きになることが実現する。
璃月は立ち上がり、僕に更に近づく。
両手で下からおっぱいを持ち上げると(これえっち)、僕の頭の上にぽにょんとおっぱいを乗せた。ズシリとした重み。これは僕が支えないと大変だね。
アホなことを思いつつ、璃月のおっぱいを置いてもらえたことに喜びを感じる。
「ふへへ、璃月のおっぱい。おっぱいで普段は隠れてる部分が見れて新鮮。ここも璃月は可愛いんだね」
「マニアック過ぎて褒められてる気がしない」
「褒めてるよ‼」
「とりあえず、ありがと。おっぱいでナデナデしたあげる」
「おっぱい頭ナデナデすきぃー」
璃月からのナデナデが大好きな僕。
おっぱいでされれば、喜ばないはずがなかった。
「それよりも重くない?」
「重いよ、けど、平気。璃月のおっぱいだから」
「無理して首とか痛めちゃやだよ?」
「平気、平気。リフティングしたいくらいだよ」
「ダメ。それは絶対にやらないでね」
必死に止めてくる璃月。
おっぱいでリフティングされるのは、恥かしいのかな?
僕は疑問に思っていると、璃月は続けて言う。
「鳴瑠くん、ただでさえ運動ができないんだから。絶対にケガするから」
「・・・・」
何も言えなかった。
心配してくれているのはわかる。わかるけど、僕の運動能力の低さを言及されて、悲しい気持ちになってしまう。
まぁ、璃月を心配させたくないからおっぱいリフティングは中止にしとくけど。悲しみをかき消すように、僕は璃月の腰に抱き着き、顔をお腹に埋める。頭上におっぱい、目の前には璃月のお腹があって、安心感が半端ない。一生こうしてたい。
「わぁ、おっぱいだけじゃ飽き足らず、私のお腹も堪能しようだなんて、欲張りさんだ。もぉー、甘えん坊さんなんだから、ぎゅー」
璃月は僕の後頭部に手を回して、頭を更に抱きしめてくれる。ここぞとばかりにウリウリと、顔を左右にしてお腹を堪能。その行動に、彼女はくすぐったそうに笑う。
ふにゃぁぁ、りちゅき、あったかぁい。
これ、裸でやってもらいたい気分になってきた。
今度、お願いしよう。
僕は心に決める。
「璃月」
「んー?」
「遊園地、楽しかったね」
「だね」
「また、来ようね」
「うん、また遊びに来よう」
おっぱいを乗せた僕と、おっぱいを乗せている璃月。
フタリが乗ったゴンドラは、空の旅を終えて地上に戻ってくる。ゴンドラに乗った場所、降りた場所は同じだけど、璃月とは更に仲良くなれた。くるくると同じところを回っていても、万物は流転するように関係も変化するのだろう。
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