第130話 おでこと前髪と温泉気分
早いもので今日で璃月がお泊りする夢のような期間は、最終日。
もっともっと泊まってほしい思いが強い。
それどころか、一緒に暮らしたいまである。
すごく寂しい気持ちが強い僕だけど、しんみりしていては楽しめずに折角の璃月のお泊りを無駄に過ごすことになってしまう。
よく考えてみれば、相手は璃月。
めちゃくちゃ適当な理由を付けて、これから先の未来でお泊りしてくれるかもしれない。もっと言えば、将来は結婚するから暮らすことが決まってる‼
まったくもって、寂しがる必要なんてなかったみらい。
未来に希望がいっぱいの僕は、気持ちを新たに楽しむことにしたのに――、
「ぐしゅん、りつきぃー」
――今の僕は泣いていた・・・・・。
宇宙の果てに泣いている僕あらば、ホーミング機能付きのミサイルが如くどこまでも追いかけてきてくれるのが璃月。すぐ隣に居る彼女は、腕を広げて言う。
「おいで、鳴瑠くん」
「いくぅー」
ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃー。
全裸の僕はお湯をかき分けて、大好きな全裸な璃月のもとへ行き抱き着く。
裸の璃月は、服を着ている時よりも柔らかく感じて、細いながらも抱き心地がいい。ふへへ、いつまでも抱き着きたい。なぜ人類は服を着始めた?
人類に対し、疑念を抱き初めそうになるのをグっと我慢しておき、現状の説明をしておこうと思う。まず僕たちが裸なのは、ここが湯船の中だからだ。
学校から帰ってきた僕たちは、仲良く脱がしっこして、仲良く洗いっこをして湯船に入って温まっているというわけである。ポカポカして僕はお風呂大好きぃー。
ちなみに、僕の大好きな温度はお風呂の温度よりも、璃月の体温だ。
璃月の頬づりしながら服だけでなく、思考まで脱線していると璃月は言う。
「よちよち、どーしたのかな。私的には抱き着かれるのも、鳴瑠くんを慰めるのも大好きだけど・・・・泣いてるのは心配。泣き止んで、笑ってる方が可愛いよ?」
「うぅぅ、璃月、聞いてほしいんだ」
「うん、ゆっくりでいいからゆってみて?」
優しい声音。
さすがは璃月・・・・僕を慰めるぷろだぁー。
感心するのはほどほどにして、僕は璃月に泣いている理由を話始めることにした。
「あのね、璃月」
「うん、うん」
「璃月がヒドイんだ」
「そっか、そっか、ん?」
「んー?」
「泣いてる理由って私のせいなのかー、うーん、私、何もしてないけどな」
「いやいや、璃月。僕にヒドイことしたじゃん‼」
「うーん?」
「僕のお尻に指いれたじゃん‼」
頬を膨らませて僕は抗議する。
事件が起きたのは、身体を洗いっこしている時のこと。
お互いの身体に石鹸を付けて抱き合いながら身体を洗っていたのだが、僕の彼女こと可愛い璃月はどくさに紛れ、僕のお尻に指を入れてきたのだ。
まったく、お尻に指を入れてくるだなんて、とんだド変態だ、璃月は。
まぁ、そう言ったところも大好きだけど。
とはいえ、突然はやめてほしいわけで(突然じゃなければ、アリかな‼)。
抗議の意思も込めて頬は膨らせたままにする。
そんな僕を彼女はなだめようとして、優しく何度も頭を撫でてきた。
「むぅー、璃月。流石に今回のことはえっちだって認めるしかないと思うよ‼」
「いやいや、私はえっちくないよ」
「お尻に指入れるのはどうあがいてもえっちだよ‼」
「そんなことないもん。私は鳴瑠くんの隅から隅々まで綺麗にしたあげたかっただけだもん。彼女として、お姉ちゃんとして綺麗にしたあげたい純粋な気持ちだもん‼」
すんごく純粋な瞳を向けてくる璃月。
彼女に更に僕は訊ねる。
「訊くけど、璃月」
「なに、鳴瑠くん?」
「僕が璃月に同じことしたらどうするのさ」
「え、決まってるじゃん。えっちだって文句はゆー、かな・・・・やではないけど」
「自分の言葉を思い出して‼璃月もえっち確定だよね!?」
僕の言葉に「やれやれ」みたいな雰囲気を出しつつ、ちょっぴり困った顔をし始める璃月。困り顔がすんごく可愛い。特に八の字にした眉毛とかなぞりたい。
そんな表情を見てしまえば、いつまでも困らせたくなってしまう。好きな子にイジワルしちゃう子ってこの顔が好きなのかな‼
たぶん、違うのでおいておくとして。
璃月の可愛さにテンションが上がり始めて来てる僕に、璃月は言う。
「んー、鳴瑠くん。確かに勝手に入れたのは私がダメだったかも。ごめん」
「う、うん」
「それでも1つだけ、ゆわせてほしいの――」
「ん?」
なんか、流れ変わったな?
僕が思うも、もはやこの流れは変わらない。
そして、璃月は僕に訊ねてくる。
「鳴瑠くんってさ。私に突然、えっちぃことされた方が好みなんじゃないの?」
「――ッ‼」
その質問に答えることができなかった。
理由は決まっている。
璃月に何の前触れもなくえっちぃイタズラをされるのとか最高だし大好き。もはや、事前に知らされるよりも、突然えっちぃことされる方が好ましい。
ここで認めるのは簡単だ。
素直なのが僕の取り柄だし。
とはいえ、ここで認めてしまうのは1つだけ問題がある。
冒頭で大して泣いていなかったのがバレてしまう。
そうなれば、璃月は僕を慰めてくれるのをやめてしまうかも。僕はまだまだ璃月に甘えたい盛りなので、無言を貫き現状維持に持ち込むことにした。
「ぎゅー」
「えへへ、無言でぎゅーしてきて、甘えんぼーなんだから。というよりも、何も言わないってことは、やっぱり嫌じゃなかったんでしょー。さては、私に甘えたいだけだなー。いいよ、好きなだけ甘えてくれて。えへへ、ほっぺツンツンしちゃお」
璃月は言いながら、コアラの子どもみたいに抱き着く僕のほっぺをツンツンしてくる。それがくすぐったくて、一生されていたい。えへへ、璃月、すきぃー♡
ほっぺを弄ばれる僕。
それだけでもとっても楽しい。
けれど、僕は璃月の恥かしそうにしている顔も大好きだ。てなわけで、ここからは僕も反撃することにする。辱められたら辱め返す、倍返しだ。
「璃月、えい‼」
「にゃー♡」
つんつんしてくる璃月に僕は、覆いかぶさるように抱きなおす。
すると、彼女は嬉しそうに鳴いてくれる。
その様子はとっても可愛いけど、もちろんこれだけでは終わりはしない。
僕はそれから濡れておでこに張り付いた前髪に手を伸ばす。それをかき分けると、彼女の可愛いおでこを空気にさらした。
普段、璃月はおでこを出すような髪型をしない。僕でさえあんまり間近では見たことのないその部分。今回はそこをさらけ出し、褒め散らかそうと思い行動に移した。
「えへへ、いつも前髪で隠れてるけど、璃月はおでこも可愛い♡」
「こ、こらー、ナーくんのバカ鳴瑠‼勝手に前髪を上げておでこを晒さすなんてダメなんだよ。前髪をあげるのは、スカート捲りと同じくらいの大罪なんだぞー‼」
「璃月は僕がスカート捲っても怒らないし、平気だよ。えへへ、おでこ、可愛い。ちゅーしちゃお――っちゅ」
「確かに怒らないし、ちゅーしてくれたり褒めてくれたのは嬉しいけど、ありがとーだけど・・・・ちょっぴり恥かしいよ。恥かしがってる顔が全部、見えちゃうぅ」
褒められたりちゅーされたことで、顔を赤くしてニヤニヤが止まらない様子の璃月。彼女の言う通り、前髪がないことによって普段よりも、その表情がよりわかりやすく見ることができる。恥かしそうにしているが、僕的には楽しい。
「僕、璃月の顔をずっと見るの大好き‼」
「ナーくんは、私のこと大好きっ子だからしかたないよね」
「うん‼璃月、前髪を上げてても可愛い。何しても可愛い璃月は最強だよ‼」
「ほ、褒め過ぎ・・・・けど、ありがとー、えへへ」
はにかむ璃月は、「褒めてくれたお礼」とばかりにちゅーをしてくれる。
それから思い出したかのように、パチンと手を叩かくと口を開いた。
「あ、そだ、鳴瑠くんと一緒に使いたいものがあったの‼」
「んと、なに?」
「えへへ、待ってて」
言うと、璃月は1度、湯船から出てゆく。
その際、とってもえっちな璃月の全裸が見えたが、普通に興奮しちゃう‼
彼女のウキウキとした心を表すようにアホ毛をフリフリさせながら脱衣所へ。すぐに戻ってくると、持ってきたものを見せてきた。それが何かと言えば、
「温泉の素だぁぁぁ‼」
「うぉぉ、予想以上の食いつき。そーだよ、温泉気分を鳴瑠くんと味わいたくて、持ってきたの。予想以上に喜んでくれて嬉しいな、えへへー」
久しぶりに見た温泉の素を見て僕はついついぴょんぴょこ跳ねて喜んでしまう。
そんな僕を見てショタ味を璃月は感じたようで、えっちな顔で言う。
「温泉の素くらいではしゃいじゃって、可愛いんだから」
「温泉の素くらいじゃないよ‼」
「そーなの?」
「うん。だってね、僕の家ではお母さんが温泉の素はダメって言うんだ」
「そうなの!?」
僕の家のルールを聞き、璃月は「持ってこない方がよかったかな?」とか心配になっている様子。このままでは温泉の素が使えなくなる可能性があるかも。
急いで言葉を紡ぐことにする。
「璃月が使ったって言えば平気だよ?」
「そーなの?」
「うん」
「というよりも、鳴瑠くん」
「んー?」
「どうして鳴瑠くんのお家では温泉の素が禁止なの?」
「あー、それはね・・・・とっても深い理由があるんだ。だからね、璃月も湯船に入った方がいいよ。湯冷めしちゃう」
「わかった。お話を聞く前に温泉の素、入れちゃおうか‼」
「わーい」
璃月は、温泉の素をザーっと湯船に入れてくれる。
その際に出たゴミを脱衣所に置きに行ってもくれた。その間に僕は湯船全体に温泉の素がいきわたるようかき混ぜておく。
今回、璃月が持ってきたのは濁り湯タイプのもの。
お湯の透明さは失われ、白く濁っていった。
これでは璃月がお湯に入っても、璃月の身体が見づらくなってしまう・・・・。
ちょっぴりそれが悲しくもありながらも、久しぶりの温泉の素だったり璃月と温泉に入っている気分が味わえるのは嬉しい。テンションは爆上がり。
そもそも見えないなら、アホ毛で見たり触ればいい話だし‼
色々考えていると、璃月は脱衣所から戻ってきて再び湯船に入る。
肩まで使って「はうー」と艶めかしいため息をつくと、すんごくえっち。
思わず見惚れてしまう。
「どしたの、ぽけっとして」
「んーん、なんでもない」
「そー?」
キョトンとした顔をする璃月は、それから思い出したかのように訊ねてくる。
「あ、それで鳴瑠くん。どうして鳴瑠くんのお家では温泉の素が禁止になったの?」
「その話だったね。えっとね、あれは2年前のことだったの――」
「えっと、予想以上に最近の話だね」
「うん‼」
元気よく返事をすると、目を瞑る。
昔のことを懐かしく思いながら僕は、温泉の素が禁止になった出来事を語りだす。
「あれは2年前のこと。僕とお姉ちゃんは仲良くお風呂に入っていたの。でね、時折、お歳暮で貰うような箱に入った温泉の素セットを使って温泉に入った気分になってたの。で、僕たちは思ったんだ。ここに入ってる全ての温泉の素を同じ湯船に全て入れれば、最強の温泉が完成するんじゃないかって‼」
「えっと・・・・ようするに、温泉の素を全種類いれてママに怒られた、と」
「そー‼」
僕の元気な返事を聞いて、璃月は少し考えだす。
それから、なぜだか僕の頭を撫で始めると、優し気に言う。
「そっか、そっか、可愛いエピソードだね。その小学生姉弟がやりそうなことを中学生時代にやってることに、若干の闇が見えてるけど私的には全然アリだよー。それよりも鳴瑠くん。高校卒業して、もっと遠出できるようになったら温泉巡りしよっか。それで、最強の温泉、みつけよーね。よちよち」
なんだかすんごく子ども扱いされてる気がする。
けれど、璃月との温泉巡りは、すんごくしたい‼
「わぁー、僕も、温泉巡り、したい‼」
「しよーね」
「うん‼」
元気よく返事をする僕。
それから僕たちは肩を寄り添いながら、ゆったり温泉気分を楽しむことにした。
いつか本当の温泉にフタリで入りたいと思いながら――。
ちなみに、この日を境に璃月のヘアスタイルに前髪をあげたものが増えたのは、言うまでもない。そんな璃月も大好きだ。
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