第5話 偶然の出会い

 今日はゴールデンウィーク後半の休み1日目。寝れたのは今日の午前4時くらい。それから目を醒まして時計を見れば昼が過ぎていた。

 自室から1階にあるリビングへ。

 そこには両親も、お姉ちゃんの姿もなかった。

 閉められたカーテンを少し開けて駐車場を見るとそこには車がない。どうやら3人は出掛けてしまったようだった。

 スマホを見てみるとメッセージが1件。

 母さんだった。

 内容は、テーブルの上にある千円でお昼を食べるように、とのメッセージが来ていた。それに返事をし着替えてコンビニに行くことにした。

 コンビニまでは10分もかからない。

 自転車を使うような距離ではないので、歩いて行くことにした。


「「あ」」


 2つの声が重なった。

 声の正体は僕の愛しの彼女である璃月。

 彼女の家は僕の家からそう離れていないとのことなので、僕と同じでここが最寄りのコンビニなのかもしれない。

 そんな彼女は大きめのフード付き灰色トレーナーワンピース(萌え袖)に、紺色のキャップを被り、適当に選んであろうサンダルを履いたラフな格好だった。


「おはよ。うん、今日も可愛いね」

「開幕それかー・・・・私としては会うってわかってたら、もすこしオシャレしたのに。あんま見ないでほしいかなー」


 落ち込んだ様子が見受けられる璃月。

 どうやらもう少しオシャレに気を配りたかったらしい。

 僕的には会えただけでも嬉しいのに、その上、私服まで見れているわけで。

 最高の1言に尽きるのだが、彼女としては気を配りたいとこらしいかった。

 そんな彼女は、キスをしてしまうじゃないかと思うくらい距離を詰める。もはや、服は目に入らなかった。彼女の可愛い顔だけが僕の視界を埋める。

 僕的にはアリだが、その隠し方でいいのだろうか。ほんと僕には天国でしかないけれど。


「鳴瑠くん。私は君にデートを申し込みます」

「え、いいの?むしろ僕の方からお願いしたいくらいなんだけど」

「今日の記憶を上書きしたいので、デートに申し込んでいるんですよ」

「さっきも言ったけど、今の璃月でも十分可愛いけど」

「君はもしかして、私のもっと可愛くした姿を見てもらいたいっていうワガママをきいてくれないのかな?」

「うーん、それじゃ、僕のワガママを聞いてくれたらいいかな」

「えっちなやつ?」

「えっちなのはまた今度」

「今度がくるといいね。最後のチャンスを失ったかも」

「大丈夫だよ。きっと璃月は優しいからまたチャンスくれるよ」

「変な信頼のされ方してる。それでなに?」

「めちゃくちゃ可愛い璃月できて」

「仕方ないからそのわがまま、聞いたあげる」

「それは楽しみだ。それでいつにする?明日?」

「せっかちだなー君は。明後日がいいかな」

「わかった、いいよ」


 璃月にも準備したいことがあるのだろう。そんなこんなで、デートをすることが決まったのだった。

 それにしても、早起きは三文のとくというけれど、昼頃起きても得があったようだ。くだらないことはさておき。


「で、璃月は何でコンビニに?」

「お昼まで寝てたら、ママたちにおいてかれたから、お昼買いに来た」


 どうやら僕と同じ理由らしい。

 それにしても、ママ呼びか。可愛いな。


「どうしたの、ニヤニヤして」

「ううん、なんでも。僕も同じ理由できたんだ。ということは璃月もお昼ご飯食べてないってこと?」

「うん。そだよー。あ、ご飯は作ろうと思えば作れるけど、たまたま今日は作らなかっただけだから。ほんとだよ?」

「別に疑ってなかったんだけどな」

「紛らわしいな。それで、何がいいたいの?」

「よかったら、一緒にご飯食べたいかなーって」

「それはいい案。だったら、着替えに戻りたい気もする」

「たぶん、それをしたら夕食の時間までかかりそうだね」

「たしかに。じゃ、やめとく。で、どこまで行くの?」

「近場でいいかなって思ってるけど」

「例えば?」

「コンビニでお弁当買って、海の方で食べるとか」

「トンビにご飯とられちゃうよ」


 片隅市の海岸にはトンビが多く飛んでいる。そのため、海岸付近での飲食には注意が必要だ。盗るか盗られるかの世界で片隅市民は生きている。


「それじゃ、どうしようかな・・・・」


 こんな時に提案できるようなお店を僕は知らなかった。そもそも外食自体、家族としか行ったことがないから余計に知識が乏しかった。


「うーん、と、えーと」

「・・・・・」

「ナックとか?」


 ハンバーガーとか、ポテトとかがある有名ファストフード店の略称である。この他には残念なことにファミレスしか思い浮かばなかった。


「うーん、いんじゃない。私はどこでもいいし。お昼も過ぎてるし、人もあんまいないと思うし。なによりも――」


 璃月は自らの右手を僕の左手に絡ませるとぎゅっと握る。それから「いこっ」と言って歩き出した。僕もつられて歩き出す。

 僕の方を見てから1回笑うと璃月は言った。


「――君と食べるご飯なら、なんでもおいしいと思うんだよね。だから、君が行きたいところならどこでも嫌じゃない」

「そっか。あ、もちろん、僕も同じ。璃月とならどこでもいいよ」


 僕の言葉に嬉しそうにする璃月。

 そんな彼女は苦笑いしながら言った。


「それに君が色々と知識ないのも知ってるんだ、私」

「うわー、ちょっとその言い方はへこむかも」


 僕が普通のカップルが行くようなオシャレなお店や、友達と一緒に行くような場所を知らないことはばれているようだった。まぁ、普通に気づくか・・・・。

 若干落ち込む僕を見て璃月はフォローするように付け足す。


「いや、君がダメってことじゃなくてね。普通でいいんだよ、てこと。無理して自然体でいられない方が私はいやなの。私と一緒にいて、無理されて疲れちゃうだけだと、いつのまにか好きなものが嫌いになっちゃうかもでね。・・・・私のこと嫌いになっちゃうかもしれないじゃん」


 好きなものが多いからこそ、そのような言葉が出てくるのだろう。ここは真摯に受け止めることにした。

 とはいえ、璃月と一緒に行ってみたい場所を探す一環として無理しない程度にはそいうお店も調べておくことにする。

 僕は「わかったよ」と言いながらも、ふと思ったことがあったので言ってみることにした。


「うーん、でも璃月」

「なに?」

「それを言ったら、璃月もオシャレとか頑張んなくてもよくなっちゃわない?」

「ほんとにわかってないなー」


 ため息交じりに、でも楽しそうに言う。


「私はね。君に好きになって貰うのが好き。だから、オシャレするのは楽しいよ。無理なんてしてないよ」

「そっか、とってもいい趣味だね」

「そうでしょ?」


 璃月は笑った。

 だとするなら、僕の為に頑張る彼女が、もっと僕を好きになってもらえるようにするためには、どうすればいいのかな?

 今後の課題だと僕は思う。

 とりあえず、僕はそれを見付けるところから始めようと思った。

 僕から彼女に何ができて、どうしたら好きなってもえるのか。それらを考えただけで、わくわく、ドキドキして胸のあたりが温かくなっている。

 また1つ、璃月に好きの意味を教えられた偶然の出会いだった。

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