9章

第81話 噂と謎の美少女

 11月上旬、ある日の休み時間。

 ハロウィンが終わって、廃墟とかした教室もいつもの仕様に元通り。

 そんなわけで日常が戻ってきていた。

 とはいっても今月末には学園祭が開かれることとなる。再び非日常がやってくるのも時間の問題ではあったりするわけだけど。これから先のことはおいておき。

 最近の学校の様子は何かおかしかった。

 クラスメイトたちは休み時間、昼休みと、授業が終わると揃えたようにぞろぞろ教室を出てゆく。残っている子たちのほうが少ないくらい。しかも、それは他のクラスでもそうらしく、日に日に数を増やしているとのこと。


「璃月、最近、みんな一斉に消えるけど、何してるんだろうね?」

「つーん」

「ん?」

「つーん」


 璃月はそっぽを向いて答えてはくれない。どうやらあまり話したくない内容みたいだ。僕が握るアホ毛と態度からわかる。

 そんな態度をとる彼女だが、先ほどから握られた手をにぎにぎと必要以上にしていてとっても可愛い。にぎにぎし返しておこう。


「うーん、顔が見たいなー」

「つーん」


 彼女は「つーん」と言いながら今度はこっちに顔の向きを変える。

 どうやら僕の要望に応えてくれるようだ。まったくめんど可愛いな、璃月は。

 ニヤニヤしちゃう僕。


「ニヤニヤして、いいことでもあったの?」

「璃月が今日も可愛い」

「いつものやつか」

「うん、璃月はいつも可愛い」

「それは鳴瑠くん」


 そうそっけない態度を取りながらも、彼女のアホ毛は犬の尻尾のように大きく左右に揺れようとしていた。僕はそっとアホ毛を放し自由にしてやった。

 すると、元気に暴れはじめた。

 アホ毛博士の僕から言わせてもらえば、これは喜んでいる証だ。


「鳴瑠くん。これあげるよ」

「ん?」


 差し出されたのは1枚の紙。

 もしかして、婚姻届けかもしれない‼

 大喜びで見てみると―――、


「ちっ」

「なんで舌打ち!?」

「婚姻届けかと思ったのに、違うんだもん」

「それは2人で後で用意しよっ‼」

「うん‼」


 機嫌を直した僕は、璃月から貰ったものを見てみることにした。

 彼女から貰ったものはなんでも嬉しい僕だ(舌打ちした件に目を伏せる)。

 どれどれー。


「学校新聞?」

「そ」

「僕たちの結婚報告でも載ってるの?」

「いや、載ってないけど」

「ちっ」

「だからどうして急に舌打ちするの!?」

「それじゃ、璃月のグラビア特集でもあるのかな」

「もはや新聞じゃないよ、それ。そもそも載せたくない‼」

「うん、載せたら今すぐにでも新聞部を潰しに行くとこだった」


 璃月の水着などのグラビアを載せたが最後、僕はあらゆる手で新聞部を潰す。

 璃月のえっちな姿を見ていいのは僕だけなのだ‼

 とか思いながらも一通り、目を通してみる。


「んー、璃月に関する記事がないとか見る目ないね、うちの新聞部」

「・・・・・私の彼氏がアンチとかしてる。ここまで理不尽しかない」

「璃月も高い確率で、僕と同じことを頻繁に言ってる気がするけど」

「そんなことあったかなー」


 とかとぼけながらも、


「違くてね。最初の鳴瑠くんの質問の答えが載ってるの」

「最初の質問?」

「自分で訊いといて・・・・・私のことじゃないから忘れちゃったか。私のこと大好きだもんね、仕方ないなー」

「うん、めっちゃ好き」


 とぼけたフリしてるだけで、実際は憶えてるからね。

 アレだよ。

 えーと、クラスメイト一斉消失事件のことだよね。

 無駄に物騒にしつつ、新聞に目を通してみる。ちなみに先ほども目を通したけど、アレは璃月の記事を探すためだけに見ていた為、内容は頭にろくに入ってない。


「ハロウィンについての記事だね」

「うん、ここ」


 璃月は指をさす。

 そこは見出しとなる記事の為、ひときわ大きく書かれていた。


「えーと『ハロウィンに現れた謎の美少女‼』かぁ・・・・」

「そ、謎の美少女」


 続きを僕なりにかみ砕きながら読んでみる。


「『どの学年かもわからずに、どのクラスかもわからない謎の美少女。突如現れ、突如として姿を消した。不思議の国のアリスの恰好をしていたことから、こちらの世界に迷い込んだのだろうか』・・・・・かー。へー、不思議なこともあるんだね」

「だね、みんな、この子を探してるんだってさ」

「ふーん。大変だね。璃月の方が美少女なのに」

「・・・・鳴瑠くん」

「ん、なに?」

「これさ、完全に君のことだよね」

「違うよ。僕、この日は学校をバックれてたもん」

「平気な顔して堂々と嘘つくんじゃありません」


 璃月お姉さんからお叱りを受け、不覚ながら僕は興奮する(年下姉バンザイ‼)

 で、ふと思う。

 12月2日になれば璃月は誕生日を迎えることになる。そうなれば彼女と僕は同い年になるわけで、年下姉もできなくなってしまうということ。

 これも残り1ヵ月しか楽しめないのか・・・・・残念でしかたない。

 ま、同い年姉もいいけどね‼ 

 そんなどうしようもない僕はおいておき。

 璃月はぐてーと机に突っ伏す。

 何やら疲れている様子。ここは僕がアホ毛をマッサージして疲れを癒してあげよう。ということで、アホ毛マッサージを始めることにした。


「あ、アホ毛きもちいい」

「アホ毛のツボを押してるんだよ」

「こわっ」

「ひどっ」

「でも、ありがと。私のために」

「璃月のためならなんでもできるし。それにしても、どうしてこんなにアホ毛がこってるの?何か疲れることでもあった?」

「9割方何を言ってるのかわからないけど、そうなの。この記事の美少女――鳴瑠くんと一緒にいたところを見られてた私は、めっちゃ質問攻めにあったの」

「・・・・そっか」


 知らなかった。

 もしかすると、璃月は僕にこの事が知られぬようにするため、アホ毛をどうにかして外気に触れないように隠してたな。そうしなければ僕が璃月の変化に気づかないはずがないわけで。アホ毛以外にも璃月の変化に気づける何かがほしいな。

 とにかく、僕は彼女の変化に気づけなかったことが悔しくて仕方がなかった。


「鳴瑠くん。とりあえず、アホ毛言語ことアホ語で話さないで」

「もしかして全部、声に出てた?」

「うん」


 これは恥かしい。

 にしてもその略し方、ほんとに罵倒でしかないんだよね。


「もう訊かれてないんでしょ?」

「うん。めっちゃはぐらかしたもん」

「アホ毛が作り出した幻覚だった、とか?」

「その例、おかしいから」

「アホ毛に不可能はないし、僕が言われたら絶対に納得するけど」

「日本語と人の限界を忘れないでほしいの、璃月お姉さんとの約束だよ」

「はーい」

「元気なお返事えらいね」


 と、いつものやりとり。

 それから璃月は続けて言う。


「とりあえずね、ハロウィンだし幽霊でも出たんじゃないの?って言っといた」

「それで誤魔化せるのかな?」

「ちなみにその結果、こうなってるの」


 璃月はそう言って自身のスマホを僕に見せてくる。

 画面に映し出されたのはSNSアプリ。学校用の璃月のアカウントだった。

 そこには数々のメッセージたちがうつし出されている。例を挙げると『美少女独占禁止法』『美少女を隠すな』『美少女はどこにいる?』なる文字が・・・・・ようするに軽く炎上中だった。


「まったく、炎上するのは鳴瑠くんとの恋心だけでいいってのにね、はは」

「笑いごとじゃないよね、これ!?」


 SNSアプリなどはお姉ちゃんともどもやってないので詳しくはわからない。

 だけど、やばそうなのだけはわかる。


「なんかね、写真も出回ちゃって、嘘ついたのバレちゃった」

「女の子の恰好をしてたのがバレるのは恥かしいけど、こんなことになるなら別に言ちゃってもよかったのに・・・・・」

「いやいや鳴瑠くん。ぶっちゃけ、炎上したことはいんだよ」

「そうなの?」

「うん。私がもっとも嫌なのは、鳴瑠くんが狙われること。あんな美少女だってバレたらたくさんの男の人から告白されちゃうじゃん‼」

「されなくないかな!?」

「それにだよ。今後も女の子の恰好してくわけだけど」

「わけなの?」

「その時に無理やり襲われそうになったら大変じゃん」

「それはもはや事件では。性犯罪なのではないでしょうか・・・・」

「鳴瑠くんのお尻は私のもので、すでに開は――「それ以上は言わないで‼」


 恥かしくなった僕は、慌てて口で璃月の口を塞ぐと、それ以上喋れなくした。


「「ん、んん、ん・・・・・ん」」


 と、2人で仲良く甘い吐息を漏らしながら、しばしの時間を過ごし離れる。

 火照った顔が可愛い璃月に僕は訊ねた。


「落ち着いたかな、璃月」

「ううん、興奮しちゃった。無理やりなんてズルいよ・・・・えっちくない」


 説得力皆無な発言については、目を瞑る。

 僕からの優しだ。


「で、これからどうしようか」

「うーん、正直ね、勝手に探させておけばいいと思うの」

「たしかにね。人の噂も七十五日って言うしね」

「だね」


 ひとまずは僕の女装は封印になりそうな感じになりそうだった。

 こうなると、寂しいというか。もっとやりたくなっちゃうなー、とか思う。


「仕方ない。お揃いデートは、当分控えて、お家で鳴瑠くんを着せ替えて遊ぶしかないかな。あー、何着せようかなー」

「・・・・」


 浸っていた僕だったけど、現実はそんなに甘くないよう。これからも璃月に女の子の恰好をされるようだった。

 まぁ、2人だけの秘密と思えばいいか(お姉ちゃんも知ってることに目を瞑る)。

 そう思うことにした僕だった。

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