第16話 保健室 添い寝

 目を開けると目の前に広がるのは白い天井だった――と、ありきたりなことを言ってみたかったが残念ながら言えなかった。

 僕の目の前に広がるのは、璃月の寝顔だったからだ。

 素晴らしい景色じゃないか。ぶっちゃけ写真を撮って背景に設定したいくらいだった。だが、残念なことにポケットを探ってもスマホはない。

 僕は体操着のままだった。

 遅まきながらにここが保健室であることを理解する。

 どうしてここにいるんだっけ?

 ・・・・。・・・・。・・・・。3秒考えて、体育の時に顔面でボールを止めたことを思い出す。かなり悪い記憶だったので忘れ続けたかった。

 とりあえず、璃月の寝顔を見て記憶の上書きをすることにした。

 いや、待てよ。

 どうして璃月が僕の隣で寝てるんですかね。

 遅まきながらにそんな疑問を持つ――のだが、璃月の体温が毛布の中で感じられてぬくい。心地いい。自然と瞼を閉じてもうひと眠りしたくなる。

 薄々自分でも気づいていたが、先ほどからちっとも思考がまとまらない。何かを考えようとしても璃月の寝顔やら、璃月の体温やら、匂いやらが思考の邪魔をしてきている。

 よし、ここは深いことを考えるのはやめて、今の状況を楽しもう。どこまでもポジティブに生きてゆく僕だった。


「それにしても・・・・・」


 好きな子と同じベットって、そわそわする。

 顔が数センチ先にあって、体を動かせば当たってしまうくらいの距離なわけで。うわー、ちょっと犯罪感がでちゃうけど、触れたくなっちゃうわけでさ。


「うーん、どこならセーフかな・・・・。おっぱいは流石にアウト、だよね。よし決めた。ほっぺにしよ」


 僕は璃月のほっぺを指でぷにぷにする。

 おー、柔らかい。

 僕の指に吸い付くような柔らかさがあってこれはいい。癖になりそうだった。ぶっちゃけ毎日やりたい。

 ぷにぷに、くにくに、いじる僕に声がかけられる。


「別におっぱいでもよかったのに」


 どうやら、璃月さんは起きていたようでした・・・・。人が悪い。そんな璃月も好きだけど。

 とりあえず、挨拶することにする。


「えーと、おはよ」

「おはよ。じゃなくてね、とりあえず寝てる子の体に触るのはおっぱいでもほっぺでもアウトだと思うの。まぁ、私的にはおっぱいを触られても全然ありだけど」

「マジかー。アウトじゃなかったなら、触ればよかったよ」

「もう元気なようだね、安心した」


 僕がどうして保健室にいるのか璃月は教えてくれた。

 どうやら、というか、わかっていたというか。サッカーボールを顔面で受けて気絶してしまったらしい。なんともかっこ悪い話しだった。

 ちなみに、なんで璃月が添い寝しているのかというと。僕のことが心配で仮病を使ってまで授業をさぼり一緒に寝てみたとのこと。

 彼女が授業をさぼっている為、素直に喜んでいいのか複雑だった。とりあえず璃月と添い寝ができたことは喜んでおく。

 それから付け足すように彼女は言う。


「あとね、鳴瑠くんが寝てるとき、私も君の体を触っちゃったからお相子ね」

「どこを触ったの?」


 めちゃくちゃ気になることだった。

 問いに答えるように璃月の視線は毛布の中へと向く。

 え、何。下半身でも触ったの?


「寝てるときに璃月に触られたと思うと興奮しちゃうんだけど」

「君と同じで、ほっぺ触った」

「それはそれであり」

「ほんとーに、君はどうしようもない変態さんなんだから」

「ちなみに、どんな触り方したの?」

「・・・・・」


 目逸らす璃月。


「どうして目を逸らすのかな。本人に言えないような触り方でもしたのかな?」

「うーん、どーだろーねー」


 僕はとにかく気になって仕方がなかった。

 本人に言えないようなほっぺの触り方がどんなものなのか。

 これは是非とも、


「再現願えますでしょうか‼」

「興奮しすぎ」


 僕の足と璃月の足が毛布の中で当たる。

 よくよく考えると、1つの毛布の中に一緒に入ってるのってなんかドキドキしちゃうんだけど。

 服は着ていて健全?なはずなのに、えっちな気分になりそうだった。むしろ、これでならない方が不健全ではないか?

 それはさておき。

 僕が「もう1回、もう1回だけ‼」とお願いをすると、璃月は「・・・・むぅ」と唸ってから諦めたようにため息をつく。


「1回、だけだよ?」

「やったー」

「それじゃ、目、つぶって」

「どして?」

「再現なんだから、目をつぶらないとダメでしょ」

「うーん、納得できるような、納得できないような。まぁ、従うけど」


 僕は目を瞑る。どれくらいそうしていただろうか。全神経を頬に集中しているが、いまだ何の感触もやってはこない。

 え、もしかしてお預け?

 ここまで期待させておいて・・・・・それはないよ、璃月。

 多大なる絶望感にうちひしがれ始めた僕。そんな僕に不意打ちと言っていいほどにそれは突如として訪れた。

 頬に柔らかな感触が当たり、その直後に「ちゅ」と音をたてる。5秒くらいして、ようやく触れたのが唇で僕はキスをされたことを自覚する。

 それから頭に腕を回された感触が訪れる。顔全体に柔らかな2つの膨らみに包まれる。これはもしかしておっぱいなのではないか。そう、目を開けずして答えを導く。

 僕はどうやら抱かれているようだった。

 耳元に彼女の息づかいが、聞こえたと思ったら、優しい声音で囁かれた。


「痛いの痛いのとんでけー」


 数回頭を撫でられて全ての行程が終わったらしく「これで終わり」と言いながら彼女の腕から解放される。ぶっちゃけもう数千周くらいしたかった。

 とりあえずは、目を開けることにした。

 彼女の方を見ると、毛布の中に潜っているため表情は読み取れなった。

 うん、これは言えないわ。全てを納得する僕がいた。

 毛布の中から声がする。


「私だけ再現するのずるい。鳴瑠くんもして」

「いいけど、僕は璃月と違って指でつんつんしただけなんだよなー」

「ほんとに、指なの?勘違いかも・・・・」


 僕がやった本人なのに、勘違いとは?

 と、思わなくもない。

 だが、僕はすぐに璃月が何をしてほしいのか理解した。


「あ、ごめん。勘違いだったかも」

「でしょ。それじゃ、今度は私が目を瞑るからよろしく」

「うん、任せておいて」


 とはいいうものの、いいのか?

 いや、了承はとってるようなものだし。

 毛布から顔を出す璃月。

 もちろん目を瞑っている。

 僕はそんな彼女の頬めがけてキスをした。照れくさくて、彼女の温度が唇から伝わるという体験が初めてのもので、なんだかふわふわとした感覚に陥る。

 指もよかったけど、キスもなかなかいい。

 とりあえず、僕はもう1度、ほっぺにキスをする。


「むぅー、2回もしてないはず」

「ほんとは1回もしてなかったけどね」

「そなんだけど。むぅ」


 攻められてか、璃月は恥かしがってばかり。再び毛布の中へと隠れられてしまう。

 僕も追いかけて毛布の中へと入ることにした。中はそれなりに暗い。だが、毛布の中は狭いので目の前に彼女がいることだけはわかる。


「なんで入ってきたの?」

「ほっぺを狙いにきた」

「まだやるの?」

「嫌ならやめるけど」

「いやとは言わないけど。鳴瑠くんはやりすぎ」

「えー、そんなことはないと思うけどな」


 ここまで恥かしがってくれる璃月を見て、僕はまた不意打ちで頬にキスをしようと決める。

 顔面にボールが当たったことなどすっかり忘れてしまっていた僕だった。

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