第42話 期末テスト 結果

 先日、期末テストが行われた。

 ここで赤点を採ってしまえば、夏休みには補習地獄が待っているとのこと。それを聞いた璃月は僕と遊びたいが為に多くの時間を勉強に費やしていた。

 そのかいあってか、彼女の点数は前回よりも大幅に上がっているわけなんだけど・・・・。


「私は、この結果を見て不安に思ってるの」


 僕たちは期末試験の合計点数上位者順位が張り出された紙の前にいた。しかも、彼女はそれを指さし、むーとよくわからないけど唸っている。

 小首を捻りながら、僕は訊ねる。


「え、どうしたの。璃月の順位、15位じゃん。そんなに残念がるような順位じゃないと思うけど」


 そう、今回の璃月の順位は15位。

 正直、喜びはしても悔しがるような結果ではないはずだ。そもそも彼女の目標は赤点回避。もっと上の順位がよかったといった意識の高い理由ではないと思う。

 また、いくら得意な保健体育(絶対に本人には言わない)があるからといって、この順位に行くのは中々できることじゃない。そもそも彼女は勉強が好きでないとのことなので、なおのこと誇るべきではないかと思ってしまう。


「何が嫌なのかな」

「うーん、私ね、不安なんだよ」

「え、璃月は頑張ってると思うよ。だから不安になることはないと思うけど」

「違うの。私が気にしてるのはね――」


 璃月は自分の15位の順位よりもさらに上、僕の順位である1位を指す。


「――君、鳴瑠くんの順位が心配」

「え、僕の?自分で言うのもなんだけど、なんか知らないけど1位だよ」

「そこが問題」

「んー、下がることしかないとか。下からのプレッシャーがあるとか。そういう系の心配?だったら、正直気にしてないけど・・・・」

「違うよ。私の鳴瑠くんは誰にも負けないから」

「う、うん・・・・」


 照れる。

 『私の』とか、『誰にも負けない』とか。そういう風に思ってくれてるんだと思うと嬉しくて仕方ない。頬が緩んで仕方なかった。


「それで、僕のいったい何が心配なの?」

「決まってるよ。ここまで1位を採り続け、入学試験ギリギリだったこの私を15位まで引き上げた天才の鳴瑠くんだよ。そんな子、みんなほっとかないってこと」

「うーん、ん?よくわからない。というより、入学試験ギリギリだったんだね」

「それはいいんだよ」


 璃月は気を取り直すようにコホンと咳払いをする。


「だからね、このまま学年1位をとり続けてたら、可愛い五つ子の家庭教師をお願いされたり、良い大学の推薦を条件に可愛い女の子たちの教育係にさせられたり、するかもじゃん」

「その心配はないと思うよ!?」


 五つ子っていうのも中々見ない上に、全員が可愛いって天文学的奇跡だし。可愛い女の子たちの教育係って・・・・そんなの現実に――、


「あ、もう可愛い女の子に勉強教えてたわ」

「だれ!?」

「璃月だけど」

「ふへへー」


 わかってて言ったな。

 可愛い彼女だ、まったく。


「それで鳴瑠くん。一応、訊いておきたいことがあるの」

「なに?」

「過去に可愛い女の子たちとフラグとか立ててないよね?」

「うーん、どうかな・・・・。ないんじゃない?」

「ほんとーにー」


 ジト目を送られて僕は興奮する。

 というよりも、マンガの読み過ぎじゃないかな。僕のことが好きだからってそんなに心配しなくてもいいのに。だってさ――、


「璃月以外に教えないし、そもそも璃月だから勉強を教えたいなって思ったんだよ」

「そっか・・・・勉強も、えっちなことも私にしか教えてないんだ。えへへ」

「うん。・・・・ん?」


 えっちなこと、いつ教えたっけ?

 璃月がえっちなのは僕が教えたからじゃなくて、自主勉の成果じゃん。

 とはいえ、今回は言うのはやめておこう。

 璃月に「私えっちくないもん」て言わせるのもいいかもしれないけど。今回はやめておくことにした。あんまりやり過ぎると嫌われちゃうかもしれないし。


「あ、安心してよ。私も2人きりで勉強をする子は君だけだから」

「そっか、まぁ心配してなかったけどね」

「ふーん、あ、そうだ。今度、私が勉強を教える側になったあげよーか?」

「んーと、いいけど。何の勉強を教えてくれるのかな」

「決まってるよ」


 ニコッと笑うと璃月は耳元で囁いてくる。


「女の子のこと」

「やっぱり、璃月はえっちな子だな・・・・・あ」

「私、えっちくないもん。意地悪ゆう鳴瑠くんには教えたあげない‼」


 口を滑らせてしまった。でも後悔はしていない。

 それにしても、さっきの璃月の甘い声はヤバかった。

 今も心臓がドキドキと痛いくらいに脈打つ。彼女を見ていると、抱き着き「ここで教えてほしい」とか口走りながら色々としてしまいたくなる。

 浅くなった息を無理やり深呼吸をして整える。

 そんな僕を心配そうに璃月は見つめてくる。


「鳴瑠くん?」

「ううん、平気。ただ璃月のことが好きなだけ」

「そーお?なら、いつもの鳴瑠くん、かなー」


 不思議そうな顔をする璃月。

 僕はこの気持ちをどう彼女に打ち明ければいいのか答えが見つかってはいなかった。とりあえずは、璃月と夏休みを迎えられることを喜んでおく。

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