第89話 学園祭 成功と星の町とお悩み相談
メイド喫茶となった教室は、カーテンが閉められ照明も付けられていない。そのため、舞台袖にいると薄っすらとしか人の顔は見えない。
とはいえ、私こと璃月には、第六感のアホ毛があったりする。そのために目に頼らずとも、鳴瑠くんや空間を認識することはたやすい。
科学が生み出した電気なるものは必要なかったりしてる。
いやいや、おかしくない?
自分のアホ毛なのに、私の知らない機能が付けられてるんだけど。
何かの契約の時とか、スマホの機種変の時とか。それらの時に変なプランとか、絶対にいらないサービスを勝手に付けられているみたいな気分にさせられちゃう。
でも鳴瑠くんをどこにいても認識できる機能はありがたいけども・・・・・。
くだらないことを考えている今は、本番1分前を切っている。
このイベントのことを何にも考えていない自分勝手な私がいた。いや、今更だ。
とはいえだよ。
私の中で、今だに『成功』というものが何なのかまだわからない。
うーん・・・・と、唸っていると、軽快な音楽が教室に鳴り響く。
これはこのトークショーの本番が始まる合図みたいなもの。
もう少しで私がステージに上がることになる。
考えが纏まらないままにイベントを開始しようがたぶんだけど・・・・いや、確実に滞りなく終わらせることができる。根拠はないけど自信だけはある。
だって鳴瑠くんと一緒にやることだし。
それがわかっていながらも、その最後の答えが出ていないこの状況に気持ち悪さがあって、少しだけ落ち着かない私がいた。
「璃月・・・・ちゃん?」
「えと、どーしたの、鳴瑠くん」
不慣れな呼び方で私を呼ぶのは女装をした鳴瑠くん。
『ちゃん』付けで呼んでくる理由としては、出来る限り謎の美少女が自分だとバレないようにしているから。普段と違う呼び方にちょっとドキドキで、『ちゃん』付けというロリショタ感が堪らなくいい。可愛いからしゅきー♡
とはいえ、あと数秒で私も登壇しなきゃダメ。
残念なことに、話してる余裕はあんまりない。開始時間、変更しちゃダメかな?
「璃月ちゃん。もしかして緊張してる?」
「ううん、全然。どーしてそう思ったのかな」
「なんか落ち着かなそうにしてるから」
「心配してくれてありがと。けど、へーきだよ」
言葉にも、あまり態度にも出していないはずなのに、それに気づくとはさすがは鳴瑠くんだ。私のこと好きすぎじゃん。めっちゃ嬉しいんだけど、えへへー。
「鳴瑠くんは、まだ緊張してる?」
「ううん。もうしてないよ――」
質問に答えてくれる鳴瑠くん。
彼はまだ続きがあるようで、可愛く笑って続ける。
「――緊張なんてしてられないなーって思ったんだ」
「そうなの?なんで?」
「だってさ。この出し物って璃月ちゃんといっぱいお話できるだけじゃなくって、フタリの初めての学園祭で一緒にやることなんだもん。その思い出が作れる場所で緊張なんてしてられないし、なにより楽しみたいなって思ったら、緊張してられないよ」
「・・・・鳴瑠くん」
彼の話を聞いてもっと好きになりそう。
そして、私にとっての『成功』がなんなのか、見つけることができた。
私の成功それは――、
鳴瑠くんと楽しい事をすることで、フタリの思い出を作ること。いつかの明日に、今日が「とっても楽しかったね」って笑いあえるそんな日にすることでよかった。
他人なんてどーでもいい。
皆に謎の美少女が私にゾッコンだと知らしめるのなんて勝手についてくる。
そーと決まれば‼
にっと笑う私。
「そっか、そーだよね」
「ん?なんか、さっきまでの落ち着かない感じが消えた?何かあった?」
「ううん、なんでもないよ。鳴瑠くんが好きなだけ」
「えへへ、僕も好きぃ♡」
出来る限りの笑顔で鳴瑠くんに愛を伝えると、彼は無邪気な顔で返してくれる。
やばい、このままちゅーしたくなっちゃう。
けど、私はえっちくない。
みんなが見てる場所で、そうそうちゅーなんて見せびらかしたりできないかなー(教室で幾度となくちゅーしてることに目を伏せながら)。
とりあえず、私が向かうべき、成功――目的は見つかった。
あとはそこに行くだけだ。
自分勝手だろうが関係ない。今更だもん。
「えへへー」
「璃月ちゃん、ほんとに平気。情緒不安定すぎない?」
「ほんとに心配しないで。とりあえず、私はもう行かなきゃ」
「そっか」
「ステージの上で待ってる」
「僕もすぐに行くね」
「いっぱいお話しよ」
「僕もしたい。璃月ちゃんと話すの好きだから」
「私も好き」
ダメだ。
すぐに会えることがわかってるのに、いつまでも別れられずに、ステージに行けない。私は気持ちを押し殺して振り返って向かうべき先を見ることにした。
そんな私の背中に「璃月ちゃん」と何度目かの声がかけられる。
決心が緩んで、私は振り向いちゃう。
鳴瑠くんに甘々で、鳴瑠くんに対しては素直な私だった。
何より、好きな子に名前を呼ばれて振り返らないなんてありえないくない?
思う私に鳴瑠くんは笑顔でゆった。
「いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
最初は照れ臭かったこのやりとり。
今では慣れてきて、トイレで男女に分れるときとか、体育で男女で分れるときとか、些細な時にゆったりしてる。大好きなやりとりの1つだ。
ちなみに「おかえり」と「ただいま」はもっと大好き。
これでようやく行ける。
私はステージの上に、「この時は楽しかったね」とフタリで笑える未来――成功したと思える結末へと1歩を踏み出したのだった。
♡☆
何があったのかはわからないけど、何かが吹っ切れた様子の璃月を見送る謎の美少女が舞台袖に1人がいた。その正体はもちろん、僕こと宇宙町鳴瑠だった。
「みなさーん、こんにちわ、1年θ組の星降町璃月です。クラス出し物の1つ〈ほしふるそら〉1番星。今回が初めての企画にも関わらず、本日はトークショーという形ではありますが、公開校内ラジオとしても、学校中のスピーカーからも配信していきたいと思います。最後まで聞いてね」
何やらぽいことを言う璃月。
彼女はステージ真ん中までゆくと、何やらおしゃべりをしている。
ちなみに〈ほしふるそら〉ってゆうのは、このイベント名のこと。僕と璃月の苗字をくっつけてそれっぽくしたみたいだ。また、リスナーのことを『星の観測者(スターゲイザー)』と言い、ペンネームは『キラキラネーム』らしい。
星の観測者とか読み方がスターゲイザーとか、無駄にカッコいい。
まぁ、知っていたし、聞いていた。
だけどだ。
公開校内ラジオってなに!?
これから僕と璃月の会話って、学校内にあるスピーカーから流されるの!?
そのことについて、何も聞かされてはいない。
よくよく思い出してみれば、リハーサルや打ち合わせも参加していなければ、イベントの流れすら知らない。完全に無知であり、未知のイベント。
僕、イベントの参加者だったよね?
・・・・これ、大丈夫なのかな。
正直な話、今更そんなことを僕が思っても意味がない。
後の祭りというか、既に祭は始まってしまっているわけで・・・・。
どうなるかわからないけど、やってみる他ない。
何より璃月が僕には付いているわけで、どうにかなる気しかしなかった。
そうこう考えているうちに、璃月は適当なオープニングトークを済ませていた。そして、僕が登場するであろう前置きをし始めた。
「それじゃ、きてもらおっか。ハロウィンの日に突如として訪れた栗色髪のクリクリお目目が可愛い宇宙で1番可愛くて大好きな私のカレ・・・・」
さっき、彼氏って言おうとしなかった?
バレちゃってない?
璃月は可愛く「こほん」と咳ばらい。
何食わぬ顔で続けた。
「みんなのお待ちかね、謎の美少女――ルナちゃんの登場だよ‼」
バレてるんじゃ・・・・。
と、少しばかりびくびくしながらステージに。
その心配は杞憂に終わり、僕が観客席から見える位置まで行くと歓声がBGMをかき消すレベルであがる。今度はそれにびくびくしてしまう。
何をすればいいのかわからない僕は、とりあえず1礼しといた。
ちなみに『ルナ』っていうのが、男の娘フォーム時の名前。由来は本名の鳴瑠を逆に読んだだけ。とはいえ、偶然にもラテン語で『ルナ』は『月』。大好きな璃月の名前にも『月』が入っててお揃いみたいで好き。気に入っていたりする。
名前についてはさておいて。
僕は頭をあげて、璃月の方へと向かおうとした。
その時に気づく。
普段、勉強しているこの教室の様子が様変わりしていることに―――、
上を見上げれば、
「わぁー(くるくる)」
ここにあるどの星々にも負けないくらいに、目を輝かせて小さな町を見渡す。
今まで行ったことのない、存在しない架空の町。
興味が、好奇心が刺激される。
たぶん、コンセプトとしては、僕と璃月の苗字である宇宙町と星降町を合わせたような街なんだと思う。一目見てここが気に入り、僕は虜にさせられた。
「璃月ちゃん、璃月ちゃん。お星さまがいっぱいだよぉ‼」
「ほんとだねー」
「持って帰りたい‼お星さま、持って帰りたい‼」
「いーよー。持って帰っても」
「やったぁー、お姉ちゃんの分もいい?」
「もちろんだよ」
僕は2つお星さまをもぎりとり、大事に胸の中に抱え込む。
で、そのままスキップするくらいの足取りで舞台袖に帰ろうとしたときだった。
僕のお腹に抱き着く子が1人。
正体はもちろん璃月。
「いやいや、このまま帰っちゃダメでしょ!?」
「えー」
「えーじゃないよ。まだ何も始まってない。5分も経ってないから‼」
璃月は僕を必死に止める。
会場で見ているスターゲイザーのみんなも、声優さんの単独ライブ終盤が如く「えー、まだ来たばっかりー」とか騒いでる。もーワガママだな(本当に来たばかり)。
「仕方がないからまだいることにする」
「ふー、よかった」
「あ、でも。このお星さまは返さないんだからね‼」
「うん、それあげるから。だから、とりあえず座ろっか」
「うん、座る」
2つの星を抱いたままの僕と璃月は、横に長いソファにくっついて腰を下ろす。それから彼女は目の前のマイクに向かって気を取り直すように口を開く。
「ルナちゃんが開始早々に帰りそうになちゃった放送事故も防げたいし、本格的に〈ほしふりそら〉をはじめていこっか」
会場から笑いがこぼれて、先ほどのことがなかったことに。
こうして、ただただ僕(男の娘)と璃月がおしゃべりして、イチャイチャするだけのイベントが幕を開けようとしていたのだった。
☆♡☆♡
まったくぅー。
私こと璃月を置いて帰っちゃおうとするなんてひどいよ、バカ鳴瑠くん。
どうせなら私の胸の中に帰ってくればいいのに‼
イラ立ちの想いを込めて、隣に座る鳴瑠くんの可愛い小っちゃなお手てをぎゅっと握る。それに彼というか、彼女というか、とにかく鳴瑠くんは、ぎゅっと返してくれた。怒ってたのはなかったことにしたあげるよ。えへへー。
もちろん、今も本番中だ。
それでもバレないようになっていた。私たちの座るソファの前にはテーブルがあり、手を繋いでいる姿は誰にも見られないように家具は配置してある。当初から手を繋ぐ予定だった。
よーするに確信犯な私なの。
にしても、大勢の人の前で隠れて手を繋いで、この状況を知っているのは私たちだけってなんかいい。なんかよくわかんないけど、えっちくない?
※何もえっちくありません。
とはいえ、私はえっちくない。こんなので興奮なんてしない。そんなわけで私のやるべきことであるイベント進行をすることにした。私は声高らかに、コーナー名を発表する。
「お悩み相談のコーナー‼」
「え、あの璃月ちゃんが!?」
「ルナちゃん、それはどうゆー意味での発言なのかな‼」
私のコーナー発表に際し、鳴瑠くんがとっても失礼な発言をしてきた。
ぷんぷんほっぺを膨らませる私を見て、鳴瑠くんは「ごめんね」と謝ってくる。
もちろん、許したあげるんだから‼
そこで鳴瑠くんに続くようにいくつかの声が観覧席――同じクラスの皆々が口々に「明日は世界の破滅か?」「まだ死にたくない」とか終末を危惧し始めやがる。
失礼じゃない?
私を悪魔だとでも思ってるのかな‼
そんなに、そんなに私が鳴瑠くん以外に優しくするのが珍しいのかな‼
――で、考えてみて思う・・・・普通に珍しかった。
よくよく考えたら最近、他人に優しくした記憶はなかった(鳴瑠くんは他人じゃないからカウントしない)。日ごろの行いって怖いね。クラスメイトたちは謝っても許してやらない。やっぱり鳴瑠くんを特別扱いする私だった。
「何はともあれだよ。事前にお悩みをスターゲイザーたちから募集したの。だからね、ここにあるのをビシバシ解決していこうと思うの」
「うーん、僕にできるかな」
「別に解決させなくてもいいんだよ」
「そうなの?」
「うん。これはね、人に話したって事実が重要なの。人に悩みを話すと気が楽になったりするでしょ。アレと一緒。だから、具体的な解決案なんて投稿者も求めてないんだよね、たぶん。可愛い女の子に聞いてもらえた事実、それだけで救われるんだよ」
「暴論というか、これ学内放送もしてるんだけど・・・・・いいの?」
「ん?私は鳴瑠くんに愛してもらえれば、誰の理解もいらない」
「たぶんね、璃月ちゃん。その言葉、鳴瑠くんは別な時に聞きたかったと思う」
鳴瑠くんは悲しそう言う。
むぅー、これはやらかした!?
私は「いけない、いけない」とさらに続けることにしとく。
「ま、ここまでは冗談として。最終的に自分ならどうやって解決するのか。それを1つの案として教えてあげればいいんじゃないのかな?」
「それを最初に聞きたかったよー」
私は「こほん」と咳払い。
ここまでのクズいやりとりがなかった体で話を進めてしまうことにした。
「それじゃ、読むよ。キラキラネーム:なーくんのお姉ちゃんさんから。初投稿です。ありがとー。最近、いろはの弟に彼女ができました。その子は普段は良い子なんですが、怒るととっても怖いです。でも大好きです――。え、いろはちゃん、私のこと大好きだったんだ。嬉しぃ。でもなー、私には鳴瑠くんがいるしなー」
「璃月ちゃん、思うの。ペンネームが意味をなしてなかったり、初めてのイベントなんだから初投稿なのが当たり前なところとか。ツッコむとこいっぱいあると思うの」
「そこもいろはちゃんらしいよね。とりあえず、続きがあるから読むね」
「うん」
「――その弟の彼女は璃月ちゃんと言う名前なのですが、いろはの弟を自分の弟だと言い始めたりします。たまに、年上のはずのいろはを妹だと言い始めるときもあったりします。これって普通のことなんですか?弟に彼女ができたのが初めてでわかりません。よかったら教えてください・・・・だって」
「・・・・璃月、ちゃん」
「実名‼私の実名でてるじゃん‼」
「落ち着いてよ、璃月ちゃん」
暴れ出しそうになる私を、鳴瑠くんは抱きしめて抑えてくる。
もう鳴瑠くんに抱きしめられて幸せ(逆ギレ)‼
怒っていてもしかたない。
そんなわけで、私はお悩み相談を開始することにした。
「こほん、キラキラネーム:なーくんのお姉ちゃんさん、諦めて璃月ちゃんという方の軍門に下りましょう。その方が楽です。貴女は今日から璃月ちゃんの妹です」
「これ、僕が相談に答えるコーナーじゃないの?」
「・・・・次にいこっ」
「全力でなかったことにしようとしてる。そんな璃月ちゃんも可愛い」
隣で余裕のない私を見て、鳴瑠くんがキャッキャしてる。
趣味悪いよ。でもキャッキャしてる君がとっても可愛くて好き。嫌いになれない。
「えーと、次のお悩みは。キラキラネーム:1-θ連合さんから。うーん、私の読みが正しければ、このクラスのみんなのような気がするんだけど、気のせい?」
「とりあえず、読んでみなよ」
「うん。初投稿です。ありがとー。なになに、私たちのクラスには学校でも有名なカップルがいて、教室に誰がいても構わずイチャイチャします。見せびらかしているわけではないのは知っていますが、その過激さは日に日に増してる気がします。そのカップルの女の子、ここでは星降町さん(仮)としますが、彼女が見苦しい嘘をつき続けているんです。その嘘っていうのは、『自身がえっちくない』と言ってること。嘘をつき続けるのってとっても大変なことですし、私たちは心配です。どうやったら嘘をつかずに、彼女自身がえっちな子であることを認めさせてあげられるんでしょうか。良い解決法を教えてください。長文失礼します」
「・・・・」
「むきー、『ここでは星降町さん(仮)としますが』って何も隠せてないじゃん‼大きなお世話‼何より、私はえっちくないし‼嘘じゃないもん‼」
私の意見に同意してほしくって鳴瑠くんの方を見る。
とはいえ、今はルナちゃんの姿で、直接的に否定の言葉はもらえないと思う。それでも、鳴瑠くんを信じて彼を見てしまう。
「・・・・スッ」
「なんで目を逸らした、バカルナちゃん‼」
「璃月ちゃんは、璃月ちゃんはえっちくないもんね。僕は知ってるもん」
「こっち見て。こっち見てゆってよ‼」
「たぶんね、璃月ちゃん。ルナも鳴瑠くんも、えっちくてもえっちくなくても、嘘をついていても嘘をついてなくっても、大好きなのには変わりないと思うの」
「私も、私も鳴瑠くんもルナちゃんもすきぃ」
みんながいじめる。
けど、だけど、鳴瑠くんだけはやっぱり私の味方でいてくれる。私はそれだけで救われた気持ちになれた・・・・いや待って。
「いやいや、ぽいことゆってるだけで、まったくもって『私がえっちくない』って否定してくれてないよね!?」
「バレタか」
「バレるでしょ!?」
「うん、璃月はえっちくないよ」
「だよね、うん‼」
えへへ、鳴瑠くんはやっぱりわかってる。
大好き、大好き。やっぱり、鳴瑠くんが私を理解してくれてればそれだけでいい‼
他の人が何を思おうがどーでもいい‼
私はこのお悩みのしめに入ることにした。
「今回のお悩みの答えは。星降町さん(仮)は別に悩んでないのでそっとしといてあげて。好きな子とイチャイチャさせていてあげてください。以上」
「また僕、お悩みを答えてない」
「答える?」
「いや、今回に関してはノーコメントを貫きたい」
「そーお?」
「うん」
なんてやりとりをして、2つ目のお悩み終わり。
ここまで私ばかり被害をこうむってる気がする。そんなわけで、少し私に優しいお悩み、もしくは関係ないお悩みに当たることを願いたいよー。
「えーと、次のお便り。キラキラネーム:璃月も璃月のアホ毛も大好きさん」
「なんで急に僕の方を見たの?」
「ううん、なんでも」
何食わぬ顔をしてるけど、絶対に鳴瑠くんじゃん。
てことは、また私に関係することじゃん。読まなくても確信できる。
「えーと、初投稿です。ありがとー、愛してる」
「えへへ」
「・・・・。続けるね。僕には好きな子がいます。ここでは仮に璃月としますが、その子はとっても可愛いです。めっちゃ可愛いです。ほんとに可愛いです。毎日言っても飽きません。もみくちゃにして混ざり合いたいレベルに好きです。どうしたら、僕の気持ちをもっと伝えられるでしょうか。教えてください」
「えへへ(期待の眼差し)」
バレちゃうぞ。何も答えずに私の答えを待ってたら、ルナちゃんの正体が鳴瑠くんだってバレちゃうからね。いや、答えるけどさ。
「えーと、変わらずに一緒にいてくれればいいと思う」
「えへへ、そーなんだ、えへへ」
「まったくもぉー、可愛いなー」
もう、ばれてもいいや。
ぷにぷにとルナちゃんのほっぺをつっつく。
そうすると、嬉しそうにしてくれて、先ほど答えた2つのお悩みがどうでもよくなる。やっぱり人生に必要なのは鳴瑠くんだけだー。
「気分もよくなってきたし、ここで最後でいいかな」
「え、璃月ちゃん」
「ん?」
「まだ僕、1つもちゃんと答えてない」
「うーん、答えたい?」
「うん」
「仕方ないなー。それじゃ、次で最後ね」
「うん、頑張って答える‼」
張り切る鳴瑠くん。
そんな様子を見たスターゲイザーたちは「がんばえー」と応援し始めている。ペンライトを持ってる人もいて振ってみたりしていて、プリクアの劇場版かな?
とか適当なことはさておき、私は最後のお悩みを選ぶ。
正直、もう私関係はお腹いっぱい。鳴瑠くんのお悩みを聞き満足した。
だから、私に関係ないのがいい。
そして、私は適当に1枚、手にした。
「えーと、なになに。キラキラネーム:ごそーだんの花婿さん。こんにちは、初投稿です、ありがとー。僕には好きな幼馴染がいます。その子とは長い付き合いなのですが、僕を男として見てくれているのかもわかりませんし、今の関係が壊れるのが嫌で告白もできません。今は学園祭も一緒に回る予定で、そこで告白してもいいのですが、学園祭などのイベント時に付き合い始めてもすぐに別れるとも聞きます。僕はこの想いをどうすればいいでしょうか。ぜひ、ぜひともご意見を聞きたいです」
どうやら私は、ガチのお悩みを引いてしまったようだった。
ぶっちゃけ、前3つのお悩みは、私が元凶であり、もはやネタでしかない。
けれど、これは違う。
知らない人の切実な悩み。
それをどう答えるのか、皆が鳴瑠くんの、いやルナちゃんの答えを待つように、教室内は静寂が支配する。数秒間、斜め上の方を見て思考するルナちゃんは、可愛いお顔で静寂をものともせずに口を開いた。
「え、普通に告白すればよくない?」
「うん、さすがだよ」
「逆に訊きたいんだけど。どーしてこの人は告白しないの?」
私の制服の袖をちょこんと持って、小っちゃい子ばりに「教えて教えて」とゆってくる鳴瑠くん。仕方がないので、お姉ちゃんが教えたあげる。任せなさい。
「えっとね、さっきも書いてあったけど、告白して失敗しちゃったら今まで通りにはいられない。それが怖くて告白できないんだよ」
きょとんとしたまま動かない鳴瑠くん。
理解してなさそう。
そもそも鳴瑠くんの恋愛観はバグってる(私がゆえたことじゃない)。これはいろはちゃんにもゆえると思うんだけど、この姉弟において好意を伝えることにためらいがない。関係が壊れること、付き合いの長さ、好感度、全てを度外視し、好意全開で伝えまくる。それがこの姉弟なのだ(今は姉妹かも)。
だからこそ、彼の初恋相手――私に対しても即刻告白してきてるし。なによりそれが成功している分、余計に好きと伝えることにためらいがない。
その良くも悪くも純粋過ぎるところが、私は好き。だから、なおの事直そうとはしない。このまま歪な純粋さのままに育ってほしい。それが私の願い(何目線?)。
「教えてもらってアレなんだけど、全然わかんない」
「うん、だろうなって思った」
「むっ」
「それでルナちゃん。お悩みをどう解決するか、決まった?」
「んー、これでいいのかはわかんないけど」
「うん」
「だけど、伝えようと思ったことは決まった」
「そっか。いーよ、ゆって」
「うん」
鳴瑠くんに話すように促す。
そんな私の心の中では、私以外の誰かの為に動く鳴瑠くんを見て、軽い嫉妬心が芽吹いていた。あとで鳴瑠くんを愛でることでこれを解消しよう。
心に決めて話を聞く。
「えっと、ごそーだんの花婿さん。これが正解なのかはわからないけど、僕の考えを言います。好きなら好きって伝えるのがいいと思います」
「どうして、そう思ったのかな?」
「うーんと、だっていつまでも一緒にいられるとは限らないし、伝えられる時に伝えないと気持ちは伝わらないし。何より好きな人に好きって言うのが僕は好き‼」
「ふ、ふーん」
彼はだらしなく笑って、こっちを見てくる。
その流れでこっち見たら、私のことを好きってゆってみるみたいじゃん。みんなに好きな子が誰なのかばれちゃうよ。正体もばれちゃうよ。
その思いとは別に、普通に照れた私はそっぽを向く。
構わず鳴瑠くんは続ける。
「そもそも、この関係が壊れるのが怖いって意味わかんない。もしも告白して壊れちゃっても、嫌われることをしたわけじゃないんだから、また一緒に居られるようにすればいいと思うし。恋人になっても幼馴染って関係からは変化することになるもん」
それからお水を飲んで、鳴瑠くんは続ける。
「なにより、ごそーだんの花婿さんが好きなのは、『幼馴染との関係』っていう目に視えないものじゃなくて、『幼馴染』でお話もできる。知らない仲じゃないし、長い時間をかけてつのった想いなんだから、それを伝えるのは悪い事じゃないよ。だから、僕は気持ちを伝える君を応援する‼」
めいいっぱいの笑顔で締めくくる鳴瑠くん。
ここにいるスターゲイザーたち、みんなが彼を見て黙る。
各々が何を思い、何を感じたのかはわからない。
静寂が数秒支配し、皆がそれを破るように拍手をし、「好き」とか「愛してる」とか言葉を送り始めやがった。
鳴瑠くんにそれらをゆっていいのは私だけなんですけど‼
とはいえ、鳴瑠くんがお悩みを解決した後で、そんな空気を壊すことは流石の私もゆえない。だけどこれ以上、私のストレスを溜めたいわけでもない。
そんなわけで、このトークショー兼、公開校内ラジオもお開きとする。
「ルナちゃんの答えるお悩み相談もできたし、終りの時間がやってきてしまいました。本日はきてくださり、また最後まで聞いてくださりありがとーございます」
なんて言うと、「まだきたばっかー(本日2度目)」が飛んでくる。
時差というか、時空の歪みが発生しているようだ。
「ルナちゃん、最後に一言、お願いできる」
「うーん、何を言えばいんだろ」
「好きなことをゆえば?」
「わかった。ならできる。璃月ちゃん、だーい好き‼」
「おっと、これは」
「――ちゅっ♡」
しかも鳴瑠くん、ほっぺにちゅーまでしてきた。
どうやら手を繋いでいるだけでは我慢できなかったようで、最後の最後にやらかしちゃった。いや、私的にはありだけどね。むしろ、倍返ししたいくらい。
とはいえ、今はみんなのアイドル的存在のルナちゃんのちゅー。それを見て、スターゲイザーたちは黙っていられずに、悲鳴というか、騒ぎ始めた。
あ、これヤバいかも。
身の危険を本能が、アホ毛が伝えている。
速攻でトンズラするしかない‼
また学校あるけど、とりあえず、今は逃げるに限る。
「それじゃ〈ほしふりそら〉は終わり。次があったら会いましょう。バイバイ‼」
早口で私はゆう。
本来はここから舞台袖に行き、窓にかけられている梯子から脱出する予定だった。だが、それを悠長に待ってくれるほど、彼等彼女等も穏やかな心をしていないはず。
というわけで私は、鳴瑠くんの手を引っ張って教室のドアから逃げることにした。
「うわー」
「驚いてるとこわるけど、適当に挨拶だけして、ルナちゃん」
「うん、えーと、ばいばーい」
とりあえず、謎の美少女がゾッコンだってみんなにわからせられたし、フタリの思い出も作れた。うんうん。もうこれは私の勝利だよね。
何はともあれ、私たちの学園祭の出し物は、成功に終わったのだった。
――私はそう胸を張ってゆえる。
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