第69話 体育祭 プログラム2 二人三脚

 お姫様抱っこでゴールした借り物競争が終わり、僕と璃月は次なる競技に挑むこととなった。それは特訓とは名ばかりのイチャイチャしかしていない二人三脚だ。

 僕たちは応援席から足をヒモでかっちり結んで待機所にむかう。

 そして、待機所につくと競技のルール説明をされたのだった。


 ルール。

 男女組み合わせ自由の2人1組が、各チームから2組ずつの全6組で行われる。通常の二人三脚同様に、両名の足を結び50メートル先のゴールを目指す。

 だが、注意点として、順位による得点はこの競技に限りないものとする。

 どのようにポイントの入手方法についてだが、コース内にゲームエリアと呼ばれる箇所が2か所あり、そこでゲームをクリアすることでポイントが加算される。

 ゲームの内容については、普段の学校生活を参考にしたペアの関係性によって変わり、内容はゲームエリア到着と同時に発表となる。

 ゲームは全2回おこなわれ、1クリアごとに15ポイント付与される。

 だいたいの流れとしては、

1. グランドのトラックを二人三脚で進みゲームエリアへ。

2.学校側からクリアすべきゲームが提示されゲームに挑む。

4.クリアの場合は15ポイントの加算、失敗は0ポイント。

5.次のゲームエリアへと二人三脚で移動。

6.出されたゲームに挑む。

7.『4』と同じ。

8.そのまま二人三脚でゴールへとむかう。

 といった感じ。

 失格の条件としては、ヒモが外れた場合と、ゴールできなかった場合の2つとする。そうなった場合、獲得したポイントは失われることとなる。


 ――全てを聞き終わった僕はというと、

 はいはい、きたよ。謎オリジナリティを出してるやつ。

 競技参加も2度目だ。驚きもせず軽く受け流すことができるようになっていた。

 もしも言いたことがあるとすれば。

 これ二人三脚じゃなくてもよくない?て、ことくらいだろうか。

 そんなことを思う僕に、隣の璃月が自信ありげな態度をとる。


「鳴瑠くん。このゲーム《きょうぎ》、私たち・・・・ううん、ゲーマー『瑠璃』の独壇場になるに違いないよ」

「うん、そうだね」


 出た、ゲーマー『瑠璃』。

 0勝1敗の敗北しかしてない2人で1人のゲーマーの名だ。

 その名前を出されると、正直、負ける未来しか見えないからやめたほうがいいよ。とは思うものの、2人で1人という部分が好きな僕としては何も言わない。

 なにより、言うべきはどうして『ゲーム』と書いて『競技』と読ませてるのかってことくらいだろう。このままいくと『決闘』とかでも『競技』って読ませそう。くだらないことはさておき。


「とりあえず、やろうか」

「うん。のーこんてにゅーで全くりだよ、ナーくん‼」


 そんなこんなで、銃みたいので「パン‼」となって競技がスタート。他競技者ペアは声を揃え慎重な足取りながらも律儀に走り始める。

 僕たちはというと、


「これ、走らなくていいよね」

「うん。手、繋いでいこ♡」

「うん♡」


 和やかな空気感のもと、体育祭二人三脚手繫ぎデートと洒落こんでいた。律儀に走ることはないのだから仕方がない。

 これはルールを決めた方が悪いと思う。

 時間制限はないし、順位による得点はないし、最下位のペアや走らなかったペアにペナルティがあるわけではない。ルール内に明記されてないわけで。

 僕たちは、ラノベに出てきそうな〈ルールの穴をつき勝利を掴むゲーマー主人公〉のように、ルールの穴をつき楽を掴んでいた。カッコよさに天と地の差があるけど。

 たぶんだけど、このルールを決めた人も、走ることをルールとして強制しなくても走るだろうという浅はかな思い違いをしていたのだろう。先生たちも唖然とした様子でこっち見てるし。だが僕はそんなのには惑わされない。

――ルールをついて楽ができるなら、僕は楽をもぎ取ってみせる‼

 勝利を掴むテンションで、圧倒的にかっこよくないことを思いながら前に進む。


 第1ゲームエリアに到着。

 そこには僕たちの担任の先生が待っていた。

 話しを聞くと先生が、僕たちペアの担当らしく、ゲームの発表やらクリアか否かの判断をしてくれるとのこと。すんごく嫌そうな顔なのは気のせいだと思う。

 で、僕たちがやるゲームはというと、

〈第1ゲーム:手を使わず協力して1分以内に風船を割ること〉

 とのこと。

 ゲームなんて言うからすんごく高度なことをさせられると思ったのに、そんなことはなかった。普通の体育祭によくありそうなやつだった。

 流石は普通の学校とでもいうべきか。

 ちなみに、僕たちに与えられているゲームは『バカップル専用』のものらしい。学校側が僕たちをどのように見ているのかわかってしまった。

 それはさておき、先生からスタートの合図がだされゲームが始まる。


「よし、璃月、僕が風船を持って固定するから、頭を出して」

「ん、んん!?あ、頭?どーして頭を出さなきゃいけないの?」

「決まってるよ。尖った璃月のアホ毛で、この風船を割るんだよ」

「尖ってるのは君の提案だよ・・・・」


 僕の素晴らしき提案に、璃月は呆れ半分といった感じにジト目を送ってくる。

 え、どうしてそんなうまいこと言うの?

 そんな思いが顔に出ていたのか、彼女は聞き訳がない子どもに言い聞かせるように説明してくれる。そんな対応のされ方が悪くない僕だった。


「鳴瑠くん。君は知らないと思うけど、アホ毛じゃ風船は割れないの。先生たちも私たちがアホ毛を使って割るなんて想定すらしてないと思うの。そもそも鳴瑠くんが風船を固定するのに手を使ちゃってるじゃん」

「うーん、たしかに。でもこれだけは言わせて、璃月のアホ毛なら出来ると思うんだよね。ううん、絶対にできるよ‼」

「信頼してくれてるのは嬉しいけど。そもそも顔のすぐ近くで風船割れるの嫌なんだけど。めっちゃ怖い」

「え、じゃぁ、どうやって割るの・・・・・」

「そこは私と鳴瑠くんが抱き合うように風船を挟んで、潰して割ればよくないかな?どーして君は天才さんのはずなのに、そこら辺に関してはバカ鳴瑠くんになるのかな?そーゆー鳴瑠くんも可愛くて好きだけど‼」


 途中、罵倒された気がしたけど、最終的に好きって言われて全部どーでもよくなった僕がいた。


「とにかく、抱き合うよ。鳴瑠くん‼」

「え、あ、うん」


 そう言って、璃月は僕にぎゅーと抱き着いてきた。

 うん、やっぱり璃月の細い体は僕の身体の一部のようにフィットするし、彼女の甘い香りは心地がよかった。こうしてると落ち着くなぁ―――とは、残念なことながら今日だけはならなかった。

 何でかって?

 決まってる。

 ここはグラウンドの真ん中なわけで、全校生徒が僕たちを見てるわけで。こんなの興奮しないわけがなかった‼


「おっといけない。抱き合ってるだけじゃダメじゃん。風船、割んなきゃ」

「え、もう風船とかどーでもよくない?私的には、なーくんと抱き合ってれば、それだけでいーかなとか思ったりしちゃったりしてるんだけど」

「さっきまで風船、割る気だったじゃん!?」

「むぎゅー、なーくんしゅきしゅきだいしゅきー♡」


 く、かわいい・・・・ぼくもめっちゃ好き。

 いやいや流されちゃダメだ。

 璃月の様子を見てある1つのことを思う。「この璃月の症状はナルトエチレンの異常摂取による副作用だな」と診断結果を出す。

 もっと詳しく言うと。

 現在の僕は興奮してしまっている。そのせいもあり普段以上にナルトエチレン(僕から分泌される謎の物質)が過剰に分泌されている。それを摂取した璃月は、いつも以上に僕以外のことがどーでもよくなってしまっているようだった。

 なんて恐ろしい物質なのだろうかナルトエチレンめ・・・・・。

 そう思いながら、僕は僕でリツキニウム(璃月から分泌される謎の物質)を摂取して幸福感を身体にため込んでゆく。本当に依存性の強い物質だった。

 とはいえだ。


「とりあえず、ゲームに参加をしとかなきゃだよ」

「えー、もー、なーくんがそこまでゆーならしてあげなくもないけど」

「ありがと」


 そんなわけでゲームに挑むため、僕と璃月はお互いの間に風船を挟み込んだ。

 位置的にはお腹のあたりにあるんだけど、下を見ても風船は見えなかった。その理由は単純で、風船の上に璃月のおっぱいあり風船を隠してしまっているのだ。ちょっとえっちだなと謎の興奮を得る僕だった。

 ちなみに残り30秒くらいしかない。

 お互いの身体を引き寄せるように腕を回すけど、これが意外と難しくて割ることがなかなかできない。こうなってくると、風船が邪魔で抱き合えないだけの虚しい時間だけが過ぎてゆくだけだった。


「うう、切ないよぉ・・・・なーくん」

「僕もだよぉ・・・・このまま一生からだをくっつけられないとかヤダよ」


 抱き合えないことにより、寂しくなってきてしまう僕たち。

 一生このままなわけがない。

 それはわかっている。わかっているはずなのにそう思ってしまうのは、お互いの身体から分泌されている謎の物質による副作用――中毒性からくるものなのか。

 あー、もっと摂取したい。

 もっと璃月とくっついていたい。

 その様子をみんなに見てもらいたい。

 変態化する欲望。最初から変態だったような気もしなくもないが、璃月とくっつきたい欲は強くなる一方だった。

 次第にお互いを求めるように強く抱き――パン‼という音とともに、僕たちを阻んでいた風船は消えてなくなり抱き合うことができていた。


「「やったぁー、抱き合えたぁー‼」」


 僕たちはゲームをクリアしたことよりも、抱き合えたことをピョンピョン跳ねながら喜び合い、たっぷりと謎の物質を互いに補給したのだった。

 そんな様子を見ていた先生は「私は何を見せられているだろ・・・・転職しようかな」と嘆きつつも15ポイントをくれた。


 最終ゲームエリアにやってきた僕たち。

 先生とさっきぶりの再会をはたしたわけなんだけど、「どうして私は教え子のイチャイチャしてるところを見せられているの・・・・」と涙を流していた。

 ひとしきり涙を流し終わった先生は、最後のゲームを発表してくれた。

〈最終ゲーム:出されたお題に対して、同一回答を3問中2回出さればクリア〉

 というものだった。

 これは簡単じゃないかな。だって僕たちはとっても仲良しだ。アホ毛に関する価値観の違いはかなりあるけど、基本的には気が合う恋人同士なわけで。


「鳴瑠くん、これは学校側も私たちを舐めすぎだよね」

「ほんとだよ。こんなのちゃちゃっと終わらせちゃお」

「うん。3問も必要ないとこ、見せつけよー」


 意気揚々としている僕たち。

 そんな僕たちに、フリップが渡される。どうやらこれに答えを書くようだった。

 1つ目のお題は『一番かわいいものは?』だった。

 うん、こんなの簡単なことだし、愚問だよ。

 そう思いながら、フリップに答えを書いてゆく。璃月は璃月で、すらすらと答えを書いているようだった。

 お互いが書き終わり同時に答えを先生に見せる。見せられた先生はというと「うわぁ・・・・」みたいな顔をして腕でバッテンを作った。

 どうやら第1問目は失敗してしまったようだった・・・・・。


「「え、どーして・・・・」」


 僕と璃月は同時に落胆の声をあげ、互いの答えを見せあった。

 そこにあったのは、

 僕の答え:『璃月』

 璃月の答え:『鳴瑠くん』

 だった・・・・・。

 彼女の答えを見て、僕は納得できずに文句を言うしかない。


「いやいや、この世で1番かわいいのは璃月だからね‼」

「違うから。1番かわいいのは鳴瑠くんだもん‼」

「いくら璃月でもこれはだけは譲らないから」

「私もだもん。ぜっったいに、鳴瑠くんの方が可愛いもん」

「それは璃月だから――」


 永遠に言い合いしそうな僕たちの間に、嫌そうな顔をする先生が仲裁をするように割ってはいる。それによって一端、落ち着くことはできた。

 だけど、まだ納得がいったわけではないため、僕と璃月はぷいっとそっぽを向く。

 そんな状態ながらも次に進む。

 2つ目のお題は『子どもの性別はどっちがいいか?』だった。

 うん、高校生にその質問は・・・・とは思わなくはないけど、『バカップル』用の問題なのでしかたがないのかもしれない。

 それに璃月との子どもとか夢があっていい。絶対に可愛いに決まってるだろうな。

 夢が広がる中、フリップに僕は答えを記入してゆく。

 互いに書き終わり、次こそはという意思を込めて同時に先生に見せた。先ほどよりもやつれた表情になった先生はバッテンを作った。

 どうやら、今回も失敗だったようだ・・・・・。


「「・・・・・おかしい」」


 僕と璃月は声を揃えてそう言うと、互いの答えを見せあった。

 結果といえば、

 僕の答え:『女の子』

 璃月の答え:『男の子』

 ・・・・だった。


「おかしいよ、鳴瑠くん。絶対に男の子のがいいよ。鳴瑠くんの子どもだもん。絶対に可愛い男の子が生まれるに決まってるじゃん‼」

「これだからショタコンは」

「なっ!?ゆっていーことと、悪いことがあるんだから‼」

「ショタコンはほんとのことじゃん」

「自分の子どもにそんな気持ちはわかないと思うんだから‼」

「そもそもね、璃月。璃月が可愛いんだから、絶対に女の子がいいって。可愛い女の子になると思うし。絶対にそっちのがいいって」

「違うから。鳴瑠くんみたいな可愛い男の子の方が絶対にいいもん。ぜぇったいに可愛い男の子の方がいいもん。あわよくば、鳴瑠くんみたいに愛も性欲も好きなものにも、純粋な子にしたいもん‼」

「いやいや、違うでしょ。璃月みたいに、えっちなくせに自分は違うよ、って平気で言っちゃうような天邪鬼で可愛いムッツリスケベの方がいいでしょ‼」

「だ、誰がえっちで、天邪鬼で、ムッツリスケベだぁー‼」

「むっつりつきだよ」

「むきー私、えっちくないもん‼」

「そう言っちゃう璃月も可愛いなー」

「可愛いのは鳴瑠くんだよ‼」

「いやいや――」


 永遠に続きそうな言い合いを止めたのはやっぱり先生だった。なぜだかは知らないけど、先生は「もう結婚したい」とか何やら言いながらガチ泣きしていた。

 先生がなんて言ったのかよくわからなかった。

 だけど心あたりはある――僕たちの言い争い。

 自分の教え子の言い争いをしている様子なんて見たくないはずだ。それを悲しみ、先生は泣いてしまったのかもしれない・・・・。

 僕と璃月は言い争うのをやめることにした。

 何はともあれ、これで2問連続で失敗してしまったのでゲームは失敗に終わってしまった。あとはゴールにむかうだけだった。

 だけど、僕たちは進みはしなかった。


「璃月」「鳴瑠くん」


 呼ぶ声が重なる。

 それから揃えてもいないのに同時に提案した。


「「ポイントは入らないけど、あと1回やらない?」」


 と。

 先ほどまで、珍しくまったくと言っていいほど意見があっていない僕たちだったけど、久しぶりに意見があった。それが嬉しく思う。

 2人で先生にお願いしてみることにした。

 そうすると、先生は「まだこの拷問は続くのね・・・・でも、いいわ」と何やらぼやきながらも了承してくれる。本当に生徒想いのいい先生だなと思う。

 そんな先生が出してくれた最後のお題、それは『1番好きな時間はいつか?』というものだった。

 僕たちはこれまでのように、黙々とフリップに答えを記入して先生に見せる。

 先生は苦笑いをしつつ、今日何度目かの腕でバッテンを作る。先生の苦笑いの正体を確認すべく、僕たちはそれぞれの答えを見せあった。

 僕の答え:『璃月と一緒にいるとき』

 璃月の答え:『鳴瑠くんと一緒にいるとき』


「「・・・・・」」


 互いの答えを交互に見る。

 そして、


「鳴瑠くんは、私と一緒にいるときが1番、好きなんだー」

「璃月だって僕と一緒にいるときが1番なんだね」

「そんなの当たり前だよ」

「僕だって」

「私だってそー」


 また言い争いをしつつも、今度は笑いあう。

 先生は「よそでやってほしいな・・・・あーあ、彼氏ほしい」と呆れた声音で何やら言いながらも、僕たちを優し気な微笑みで見つめてくれたのだった。


 それからは、特段なにもなく、無事にゴール。

 はれて、15ポイントを獲得することができた。

 まぁ、全クリすることができなかったのは悔しい結果だったけど。でもまぁ、璃月と一緒にゴールできたのはよかった。

 こうして僕の出る種目は全てが終わる。あとは璃月の出る最後の種目『パン喰い競争』の応援を全力でしていこうと思ったのだった。

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