3章
第21話 テスト勉強
テスト。
それは学生にとっては、切っては切り離せないものであり、逃げられないものである。とはいえ、勉強は嫌いではないし、趣味のない僕は家では勉強くらいしかすることがなかった為、特別恐れることはなかった。
あくまでも『僕は』だ。
「鳴瑠くん。私ね、別に勉強が嫌いなわけじゃないの。ただやりたくないだけなの」
そう悲しそうに言うのは璃月。
どうやら、多趣味な彼女はあまり得意でないとのこと。それを知った僕は、テストに向けた勉強会を思い出の地――図書室の一番奥のところで開催していた。
「そう言わずにさ、一緒に勉強しようよ」
「うーん、君が言うならやってあげなくもないけど」
「それじゃ、やっとこ」
「うん。えーと、教科は保健体育でいいかな」
「とっても魅力的な教科だけど、今回のテストでは範囲外だね」
「むぅー、いじわる」
「好きな子のことをいじめちゃいたくなる年頃なのかも」
「このしょーがくせー‼好きな子には『愛してるよ』って言いながら、ぎゅって抱きしめて、ちゅーする方が断然いいんだからね」
「本当に璃月ってえっちな子だよね」
「つーん」
そっぽを向かれて何食わぬ顔をする璃月。
今回のテストは、国数英理社の5科目。7月の上旬にやるテストでは保健体育もあるとのことだけど、残念ながら今回はない。
まぁ、ここでいう保健体育はえっちなやつだろうけど。あと、なんだかセリフを取られた気がしてならなかった。
「それじゃ訊くけど。鳴瑠くんは私と保健の勉強したくないの?」
「いやしたいけど」
「そくとー」
「当たり前だよ。むしろ、永遠に保健の勉強し続けたいまである‼」
男らしい宣言だった。
遠くから図書委員の子から咳ばらいを受けてしまったので「ごめんなさい。でも本気なんです」と言うと、注意を受けたがまあ本音なので仕方がない。
とりあえず、璃月の勉強に戻る。
「うーん、僕だってね。無理して璃月に勉強してほしくないよ」
「だったら・・・・」
「でもね、璃月。考えて」
「ん?」
「赤点をとったら補習だよ?僕との時間が消えてなくなるんだよ!?」
「それは・・・・いやだけど――あ、だったら逆に鳴瑠くんも補習を受けられるように赤点を取ればいいんじゃないかな?」
「その逆転の発想をしてみました感は何なのかな」
「え、ダメ?」
「うん、普通にダメだよ。そもそもね、補習の時間は先生がいるわけでイチャイチャできないんだよ」
「私もそれは知ってるけど、でも見られながらイチャイチャするの、君は大好きじゃん」
「さすがに先生の前では無理かな。それにできれば補習以外でイチャイチャしたい」
「え・・・・(信じられないものを見た時の顔)」
「その失望の仕方は流石にやめてほしいかな!?」
で、璃月は少し考える。
それから少し経って。
「よし、君が補習でイチャイチャしたくないってことなら・・・・・」
「したくないってことなら?」
「がんばれそー」
「そっか」
教科書とノートを交互に見つめて、何やらカキカキし始める璃月。
そんな彼女は視線も上げずに僕の名を呼ぶ。
「鳴瑠くん」
「ん?」
「テストで補習にならなかったら、めっちゃ甘やかしてね」
「いいよ。膝枕は決定事項として」
「うんうん」
「あとは、なでなでもつけよーかな」
「いいの?あと・・・・もう一声ないかな」
「うーん、それじゃー、耳かきもつけようか?」
「え、それもいいの?私ね、もう100点取った気分だよ」
「まだテストしてないし。テスト勉強をした気になって散々なことになりそうだから危ないと思うんだけど」
「間違えた。100点がとれるくらい勉強できちゃうよ」
「ならいいけど。とりあえず、平均点くらいは取れるくらいはがんばろ」
「うん。膝枕なでなで耳かきの為に、私は頑張るよ‼」
璃月はいきよいよく宣言した。
その声がでかかった為か、図書委員の子から咳払い。璃月は謝りお許しをもらう。それから、にっこり笑うと小声で僕に言う。
「あの子には悪いけど、お揃いみたいで嬉しいね」
どうやら、図書委員の子に、お互い咳払いされたことを言っているようだった。たしかにお揃いみたいで嬉しかったりする。
図書委員の子には申し訳なさすぎるけど。
僕はそれに賛同して、勉強に戻る。
「璃月。それじゃ、勉強しよっか」
「うん、君からのご褒美。たのしみだなー」
また、カキカキし始める璃月。
僕はそんな彼女を見て思う。
膝枕とか、なでなでとか、耳かきとか。僕がやるのって、何かが逆のような気がしてならないと。
とりあえず、やるのも楽しそうだし、まあいいけど。
僕も膝枕なでなで耳かきをしてもらおうと心に誓いながら、勉強を教え始めたのだった。
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