第3話「良かったね、いや、良くない」

「うふふ、大事な使徒君がすぐ死んだらつまらないから、装備くらいは奮発しようか」


 邪神スパイラルもさすがに俺が哀れと思ったのであろうか。

 彼が「ぱちっ」と指を鳴らすと目の前に黒い兜と薄汚れた革鎧一式が宙に浮いている。


「こいつは古代竜エンシェントドラゴンの皮で作った頑丈な特製革鎧だ、君の命を護ってくれる筈だよ。見た目が汚くて凄く地味だから泥棒に狙われる事もないと思う」


 はあ?

 RPGで、いきなり最強の鎧を与えられるようなものじゃあないか!

 そんなの、いきなりゲームバランスが壊れるんじゃないの?

 見た所、汚くて格好悪い鎧なのがたまにきずだけど……


 俺がそのような事を考えていると、またスパイラルの指がぱちっと鳴った。

 今度浮かび上がったのは、刀身が60cmくらいのショートソードである。

 しかし、刀身が尋常では無い。

 やや黒光りした刃は禍々まがまがしささえ漂うのだ。


「今度は剣だよ。仮初かりそめの外見は君の居た世界でスクラマサクスと言われているものに近い小型の剣だ。しかし只の剣じゃあない。大気を切れると言われる程、切れ味が抜群なのと永久に研がなくても良いという優れモノだ」


 金髪美少年の姿であるスパイラルは片目を瞑ると、さも面白そうに笑う。


「でね、一応注意しておくよ。もし君が魔物に負ければ引き裂かれて喰われる可能性もあるからね、ひゃははは」


 俺が引き裂かれて喰われる!?

 嫌な事を言わないでよ……


「だってさ~、いくら使徒だからと言って不死身ではないもの。あ、そうそう。その場合は君、再び転生とかズルなし。ジ・エンド! すなわちぃ、魂の完全消滅! あは、無に帰るんだ! 念の為に言っておくよ、分かった?」


 あっ、そう……ジ・エンドね。

 分かりましたよ。

 でも魂の完全消滅とか、無に帰るとか、徹底的に念を押すなんてすご~く嫌味な言い方だよ。

 こいつ……やっぱり……最低なむかつく奴。


「ふふふふふ、ひひひひひ、伝わってくるよ。僕を凄く嫌な奴だって思うだろ?」


「…………」


「ひゃはははっ! 君の憎しみが僕を染める……この言い方、恰好良いだろう? どう?」


 またもや身体を震わせて、歓喜のポーズを見せる邪神様。

 俺が呆然と見つめていると、邪神様め、直ぐに元の姿勢に戻りやがった。


「あ~可笑しい! 笑わせてくれるよ、君は。まあ僕が与える身体は一応頑健だから君が大嫌いな鍛錬をしたり、良い師匠に巡り会って修行すればそれなりの武技や体術は身につくから安心してよ」


「そうですか、楽して、何もしないでいきなり最強ってのは無しです……か」


「ふふふ、甘い、甘い! 君をそんな簡単に、『俺様最強』にするつもりはないよ」


 がっくりする俺に対して、スパイラルは話を聞けと促した。


「うふふ、多分、君は異世界へ行ったらいわゆる『冒険者』って奴になろうとするだろうね。そして……君の知識の中にはいろいろな中二病的なお宝の情報や知識が一杯だ」


「は、はぁ……」


「少しおまけをあげるよ! これから行く世界には君の知識が反映されるようにしておく。だから似た物がどこかに眠っているようになる。君はお宝を求めて世界を旅するのさ」


「え? 冒険者になってお宝を求める? それって凄い!」


 もう俺はヤケ。

 この邪神様の使徒をやりながら、少しでも楽しみを求めるしかない。 


「だろう? そして出会った人々を助ける! 助けられた人々の喜びが世界に満ちる! 僕の命令のお陰って事でね、じゃあ更に大サービスだ……え~と、あと、これもあげる」


 スパイラルが次に出現させて浮かべたのは、くすんだ茶色をした地味な腕輪であった。


「これは収納リシープトの腕輪さ。魔法の力で今君が居るような異界――すなわち亜空間に繋がっていて結構大きなものも入れられる。その上、中の時間の流れが極端に違うから中のものはほぼ腐らない」


「おお、それは凄いです、便利です」


「だろう? 収容量は――例えば大型の竜ドラゴン10匹なんて楽勝だよ。使い方は入れる時は収納リシープト、取り出す時は品物をイメージした上で取り出すテークアウトと詠唱するんだよ」


 スゲーや。

 確かにそれは助かる……

 あるゲームではお宝を集めても重量オーバーで持って帰れないというリアルなものもあったからな。


「今、僕が君にあげた物は君にしか使えない。盗まれても他人には重くて直ぐ持てなくなるし、無理矢理運ぼうとすると僕の『呪い』って奴が掛かるんだ」


 防犯対策まで考えてくれたのか。

 俺は、一応素直に礼を言った。

 こいつ、本当は良い奴かもしれない。

 俺が、そう思った瞬間だった。


「ふふふ、最後に言っておくよ。僕の加護を受けるって事は僕の性格の影響も強く受けるって事なんだ。ふふふ、僕は結構欲が深くてね。中でも『物欲』が著しく高いんだ。なあ、そうだよね、セバスチャン」


「仰る通りでございます。それはもう貪欲を筆頭に傲慢、腹黒、冷酷、あこぎなどと言う表現は坊ちゃまの為にあるような言葉でございますな」


 何だよ、それ……

 下手な魔王や悪魔より酷いじゃないか!

 人々から信仰されるどころか、嫌われて信者ゼロまっしぐら。

 前言撤回!

 やっぱりこいつ、ろくなものじゃあない。


「でもそうなると……俺ってゆくゆくは……スパイラル様、貴方みたいな性格になるのですか?」


「そうだよぉ。凄く嬉しいだろう? あがめ奉る僕みたいな最高の性格になれて」


「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだぁ~」


「ほぉ! OK! OK! OK! だって? やっぱり君は正直だ。こんなに嬉しそうにしている」


「誰もOK! なんて言ってねえし、ぜ~んぜん嬉しくもないっす」


 俺の声が聞こえている筈なのに、邪神様はにやにや笑って華麗にスルーだ。

 ああ、前途多難。

 俺は……全身から脱力するのを感じながら、またため息をついたのである。

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