第133話「嫁ズの為に頑張るぞ!」

 ソフィアは俺に問う。

 ジュリアと同じようになったら、世話をしてくれるのかと?


 ゴッドハルト達、信頼する部下は居たが、ソフィアは孤独を感じていたのだろう。

 彼女が本当に欲しかったのは確かな絆、そして愛する者からの自分を慈しむ深い思い遣りであったと思う。

 

 かくいう俺も、自分の気持ちの変化に少しずつ気がついていた。

 

 ソフィアに会った最初の印象は微妙だった。

 

 気位が高くて、とても生意気。

 我儘で気まぐれ。

 見栄っ張りで、高飛車。

 何かと人を振り回す。

 

 しかし、一緒に行動するうちに変わって来た……

 

 常に明るく健気で優しく、そして強く振舞おうとするソフィアに惹かれつつあった事を。

 だから彼女のプロポーズを気持ちよく受けたのであるし、当然ながら質問の答えは決まっている。


「当たり前だ! お前は俺の愛する、大事な嫁だろう? いつでも、どんな事でもしてやるさ」


「…………」


 俺の答えを聞いてソフィアは俯き黙り込んだ。

 

 僅かに肩が震えている。

 しかし、ソフィアはすぐに顔を上げてはっきりと言う。

 その表情はとても晴々としていた。


「ふふ、聞くまでもなかったのう……」


「だから当たり前だって!」


 俺がそう言うと、ソフィアは俺へ抱きついて来た。

 当然、きゅっと抱きしめてやる。


 甘えるソフィアは凄く可愛い。


わらわはの、とっても嬉しいのじゃ、トール。今ならジュリアの気持ちがよう分かるわ。逆にトールがそうなったら喜んで世話をしてやるからな」


「下の世話をしてくれるのは嬉しいけど、出来ればお互いにそうなりたくないな」


 俺が言うとソフィアも苦笑した。

 自分達がおしめをする姿を一瞬想像してしまったから。


「ふふふ、確かにそうじゃな。お互いにずっと元気に健康でいたいものじゃ。そしていくら年を取っても、手を繋いで歩けるようなふたりになりたいのう」


 そんなソフィアを見て、俺は思っている気持ちが自然に出た。


「だからお前を一刻も早く本当の身体に戻さないとな、そして改めて抱き締めてやるぞ」


「おお! 楽しみにしておるぞ、私のトール……ありがとう」


 俺の言葉を聞いたソフィアがまた顔を胸に擦り付ける。

 だが、俺は更に言う事があった。


「でも……」


「でも?」


「万が一、お前が人形のままでも、永遠に俺の愛する嫁である事に変わりはないさ」


「あ、あう!」


 俺には分かる。

 今の俺の言葉こそが、ソフィアにとって一番聞きたかったものなのだと。

 案の定、ソフィアは心の底から嬉しそうに笑う。


「お主は優いし、強い! わらわの夫として最高の男。トールと巡り会えたのは確かな運命じゃ、間違いない」


 ソフィアは感極まったように言い放つ。

 そんな彼女の頭を俺は軽く撫でてやる。


「ははは、今更褒めても何も出ないぞ、さあそろそろ寝ようぜ……おやすみ」


「ほほほ、おやすみ……旦那様」


 明日も忙しくなるだろう……

 ふたりはしっかりと抱き合ったまま、眠りに就いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝……


 白鳥亭で朝食を済ませた俺達はとりあえずこのベルカナの街の商業ギルドへ向う。

 まずはこの街の商人鑑札を取得したいと思ったからである。

 ちなみに昨夜、食べた夕食と言い、今朝食べた朝食と言い、アマンダさんの言う通りにハーブの効いた料理で俺にはとても美味しかった。


 しかも出されたお茶はエルダーフラワーティーだった……

 確か魔除けの力もあるハーブである筈だが……

 イザベラやヴォラクはとても美味しそうに飲んでいたし、お代わりまでしていた。


 怖ろしい悪魔でしょう、この人達……

 魔除けの力が全く効かないのは何故だろう?

 まあ、良いや。

 細かい事は忘れてしまおう。


 宿を出てからは例によって街角に立つ美男子アールヴ衛兵に道を聞きながら進んで行く。

 本当は美女アールヴに聞きながら――が希望なのだが。

 だがソフィアも俺の嫁となった今では、そんな事をしたらとてつもなく怖ろしい事態に陥るのは目に見えている。

 

 そんな理由で俺はまだ死にたくない。

 泣く泣く諦めるしかないだろう。


「あこがれていたハーレムも自由と引き換えなのか……」


「何か言った? トール」


 俺の独り言を、聴覚が異常に発達したジュリアが聞いていたらしい。


「いや大した事じゃない……リア充って、思ったより辛いと思ってさ」


「リア充? 何それ?」 


 前世の言葉を使った俺の言わんとする意味が分からず、ジュリアは可愛く首を傾げた。

 ほら、そのポーズはやめなさいって。

 俺が昔好きだった某芸能人に似ているからさ。

 心がつい、きゅんとなるよ。


「ふふふ、あたし達3人を今後とも宜しくね」


 俺のそんな気配を察したのか、ジュリアが俺に腕を絡めて甘えて来た。


 分かった!

 改めて言うぞ!

 まとめてばっち来いだ!


 暫し歩いて、見えて来た商業ギルドの建物は結構な大きさである。

 さあ、仕事だ!

 この街でも、しっかり地盤を作らないと!


 俺は気合を入れ直して、しっかりと歩いて行ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る