第132話「ソフィアとふたりで……」

 白鳥亭に着いた日はバタバタと忙しかった……

 

 俺達が翌日以降の予定を相談していたら、あっという間に時間は経ち、夕方になってしまう。

 全員で話し合って、少し休む事となった。

 悪魔王国を出てからの旅の疲れ?

 いや違う。

 今や俺達は様々な規格の超人揃い。

 これくらいの旅なら全然疲れなどなかったが……少しだけ、のんびりしたいというのが本音であった。

 

 だから、夕食後はそのまま寝る事にした。

 それに……今夜はスペシャルナイト。

 ソフィアとの『初夜』である。


わらわから、ジュリアとイザベラには許可を貰っておる。今夜はトール、そなたは私を抱いて添い寝してくりゃれ」


「ああ、良いよ」


 そんなわけで、ソフィアに添い寝してやった。

 傍らのベッドで、もうジュリアとイザベラは寝入っている。

 どうやら、俺達に相当気をつかってくれたようだ。


 リラックスしたソフィアは、嬉しそうに俺にくっつく。

 

 いくら精巧とはいえ、人造人間とも言える自動人形オートマタに生殖行為は出来ない。

 なので、ソフィアが俺と肉体的に結ばれる事はない。

 一瞬、俺の前世にもあった某アダルト向け商品を思い出したが、さすがのガルドルド魔法帝国もそこまではやらなかったようだ。

 

 あくまでも本能的な男に対して、女は心の絆や充足を求めると聞いた事がある。

 そのせいだろうか?

 今夜は『初夜』ではあるが、たとえエッチが出来なくてもとりあえずソフィアに不満は無さそう。


 俺は改めて考えてみた。

 ええ、珍しく真面目な話です。

 つまり、今日ソフィアと結婚したが……

 果たして結婚とは一体何ぞや? って事。


 高校生の頃の俺であれば、この問いに答える事は絶対に無理だろう。

 ……だが既にふたりも嫁が居る、今の俺ならこう答える。

 

 他人同士の形式的な結びつきに始まるかもしれないが、そんなふたりが価値観を共有し、少しずつ地道に信頼関係を築き、積み上げて行く。

 そして精神的にも肉体的にもしっかりと関係を深めながら、長きに渡り生活して行く事なのだと!

 

 俺がそう言ったら、ソフィアも納得していた。

 良かった!

 最初から外したら、どうしようかと思ったもの。


 ……俺達はその夜、ふたりで色々と話をした。

 子供の頃の他愛もない話や、これから生きて行く上での希望、相手に対する要望等々である。

 

 腹を割って話をしていても俺にはまだまだいくつか話せない事はある。

 邪神様の件を筆頭に、いくつかはまだ厳秘だ。


 ソフィアも敢えて魔法帝国再興の話は振っては来ない。

 だから俺も彼女のこころは覗かない。

 

魔力波オーラ読みが出来る俺だが、そういった事から夫婦の信頼が生まれてくると思うから。

 いずれ絆が深くなれば、お互いにもっと分かり合える筈。

 

 俺はそう信じている。

 

 証拠は何かって?

 ジュリアとイザベラともそうだったもの。


 ソフィアの秘密……まだ夫の俺にも言わない事……

 彼女の旅の真の目的は自分の本来の身体に戻り、ガルドルド魔法帝国を再興させ、世界を征服して女王の座に就く事。

 

 生身の身体に戻る事はおおいに助けてやりたいが、ガルドルド魔法帝国の復活はこの世界の大きな火種になるのは間違いない。

 邪神様からも、世界滅亡への引き金になると言われている。

 

 だが栄華を誇った祖国の再興はソフィアの夢と言えるだろう。

 王族であるが故、簡単に諦めるとは思えない。


 でも……

 俺に告白した時の魔力波オーラは……確かに本心からのものだった。

 素直に俺の事を好きになったと告白してくれた。

 だからこそ、俺はソフィアを信じて受け入れたのである。


 ソフィアは何故俺の嫁になりたいと思ったのか?

 俺は改めて聞いてみた。


 きっかけがコーンウォールの迷宮で俺に助け出されたのは勿論なのだが、クランバトルブローカーに合流してから改めて気持ちが強くなったという。

 つまり俺達が夫婦として、固い絆で結ばれているのを目の当たりにしたからだそうだ。


 夫婦として、友として、お互いに信頼し合い、種族を超えて助け合う素晴らしさ……そのような奇跡が本当にありうるのにとても驚いたらしい。

 俺の妻になる決意、それが最終決定したのは俺のジュリアに対する愛情。

 竜神族として覚醒する際に、ジュリアが身体を弱らせた時の俺の甲斐甲斐しい看護を見たからだとソフィアは言った。


 ジュリアの下の世話までしたから?

 でもあの時、俺はジュリアの世話をする事が全く嫌じゃあなかった。

 身体が弱ったジュリアが頼るのは、旦那である俺しか居ないと思うと全然抵抗感が無かったのだ。


 だが伴侶とはいえ赤の他人。

 何故他人がそのような事をする?

 夫といえど、そこまで出来る?

 そんな事・・・・は侍女のような、下々の家臣がやる事じゃあないの?

 王宮育ちのソフィアにとっては全く信じられない行為に見えたという。


 暫く俺を見つめていたソフィア。

 ぽつりと呟く。


「なぁ、トール」


「何だ?」


「もし、わらわが、あの時のジュリアのようになっても同じ様に面倒を見てくれるかの?」


 俺を見つめるソフィアの表情は、真剣そのものだったのであった。 

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