第131話「アールヴ美少女、再び!」
抱きついていたソフィアは一旦離れると俺をじっと見詰めた。
「ふふふ、これで
はぁ?
何、言っているの?
駄目だぞ、ソフィア。
勝手に自分で死亡フラグなんぞ立てちゃ。
俺とソフィアは盛り上がっているのに、アマンダさんが笑いながら話し掛けて来た。
「うふふ、そろそろ宜しいでしょうか? では都合2部屋という事でお手続き致しますね」
ああ、そうだった。
白鳥亭の女将アマンダさんとは、宿泊手続きのやりとりをしている最中だったっけ!
「ははは、済みませんでした。仰る通りに2部屋でお願いします」
俺は頭を掻きながら宿泊の手続きをしたのである。
と、その時。
「ああ、やっと見つけた! 貴方ったら、何故逃げるのよぉ!」
この声は!?
さっき、中央広場で絡まれてたアールヴの……俺を追いかけようとした少女の声だ。
俺が振り返ると、見覚えのあるアールヴの美しい少女がそこに立っていた。
どうやら旅行者らしいと俺に当たりをつけて、この宿へ探しに来たようである。
「あら、フレデリカ様。一体どうしたのですか?」
「どうしたのです? じゃあないわ、アマンダ、聞いて! この男ったら、私の顔を見るなり逃げ出したのよ!」
「うふふ、この街の人間はフレデリカ様のお考えをご存知ですからね。この方もそうじゃないのですか?」
「この方も何も、こいつは初対面よ。それにアマンダ、どうして『私の考え』でこの男が逃げる事になるのぉ!」
フレデリカと呼ばれた少女は、アマンダさんに食って掛かる。
何か矛先が変わったみたいなので、俺はつい悪いと思って間に割って入った。
「何よ、邪魔しないで貴方! って、そうだ! 私、貴方を追って来たんじゃない! そうよ、思い出したわ、どうして逃げたのよ」
「う~ん、どうしてって言われてもなぁ……」
まさか『やばそう』だったとか、『危ない気配』がしたとか言えないし……
言ったらこの子……フレデリカは間違いなく『切れる』だろう。
「まあ、良いわ。貴方、何か強そうね。どう? 私の
ああ、やっぱり、出たか『下僕になれ』指令!
このパターンでは最早お約束の
危ない気配って、これだったのだ。
俺はデジャヴを感じたような気がして、複雑な表情でイザベラとソフィアを見た。
うんざりした俺の顔を見て、思わず苦笑する両名。
彼女達にとってみれば捨て去りたい『黒歴史』に違いない。
俺は複雑な表情のまま、フレデリカに向き直った。
「君は確かに可愛い……それは認めよう」
フレデリカは、俺の言葉に身を乗り出して大きく頷く。
俺に可愛いと言われて余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮べている。
「そうでしょう! 私もアールヴの中で一番の美貌だと思っているのよ。その私の下僕ならとても光栄な事でしょう?」
「そうだな……だが、断る!」
「えええ! 断るって、何よぉ!」
「俺は商人だし、やる事もある。悪いが君の下僕にはなれない」
「商人? はん! くだらないわ! 金勘定しか能の無い
フレデリカがいきなり猛毒を吐いた。
これは……さすがにまずいだろう。
やはり、ジュリアが噛み付いた。
「ちょっと! そこの不細工アールヴ。商人が金勘定しか能の無い半端者とはどういう事よ!」
啖呵をきるジュリアに対して案の定、フレデリカも負けてはいない。
「な、不細工アールヴ!? 不細工って一体誰の事よぉ!」
「あんたに決まっているじゃない。外見はちょっとばかり自慢するだけの美貌かもしれないけど、
ああっ!
言ってしまった!
怒ったジュリアって、相変わらず怖いよ!
「ど不細工ぅ!? はあっ!? 貴女、許さないわよ! このアールヴの国イェーラにおいて偉大なるソウェルの孫娘である私を侮辱するのは許されない事なのよ!」
「先に商人である私達を侮辱したのは、あんたじゃない。そっちこそ先に謝罪しなさい」
「ぐううう! この胸ペタの無礼者め!」
「何よ、胸ペタって! アマンダさんみたいなアールヴならいざ知らず、私以上の超胸ペタのあんたに言われたくないわよ!」
容赦ない罵詈雑言の応酬!
火花を散らしあうふたり……
ジュリアとフレデリカは、お互いに似たような性格らしい。
こうなると、意地の張り合いだろう。
はっきり言って切りが無い。
こうなったら俺が出張って収めるしかないか。
俺がふたりの間に一歩踏み出した、その瞬間であった。
「おお、フレデリカ様! こちらにいらっしゃいましたか」
「お父上様がお探しですよ! 早く戻りましょう」
緑色の革鎧を身に纏ったアールヴのイケメン魔法剣士がふたり、白鳥亭へ飛び込んで来たのである。
どうやらフレデリカの父親の指示で、彼女を連れ戻しに来たようだ。
ふたりの登場で、フレデリカはこの場は矛を収めようと思ったらしい。
「もう! 仕方が無いわね! そこの胸ペタ! 今度会ったら只じゃあおかないわよ」
「あんたなんか、もう二度と会いたくないわ! 超胸ペタ! さっさと行きなさい!」
フレデリカはジュリアの挑発に再度触発された様子で、もう一度戻りかけた。
あまりの怒りに我を忘れているのか、拳を高く振り上げている。
そこに俊敏な動きを見せたのが先程のイケメンふたりである。
「「失礼します!」」
「あ、ぶ、無礼者!」
両名は中々の『腕』なのであろう。
魔法剣士達は慌てるフレデリカをしっかり抱えると、あっという間に白鳥亭の外へ出て行った。
フレデリカ達が居なくなると、アマンダさんがカウンターで「ふう」と溜息を吐く。
そしてぽつりと呟いたのである。
「フレデリカ様は仲間を募っておられます」
「仲間? ……いや、普通は下僕って仲間とは言わないでしょう?」
俺が指摘すると、アマンダさんは苦笑した。
「……そうですね。まあ、仲間ではありませんね。下僕というか忠実な部下として有能な人物を引き入れたいのでしょうけど……」
アマンダさんはそのまま黙ってしまい、フレデリカが下僕を作ろうとする理由を言わない。
だが、俺はアマンダさんの発する
先程の少女はフレデリカ・エイルトヴァーラ
彼女自身が言っていた通りアールヴ族の
はねっかえりのじゃじゃ馬娘で冒険者志望。
しかし、父親からの指図で冒険者ギルドではフレデリカの登録を受け付けない状態となっている。
その為、自分で私設クランを作ろうと『下僕』を探しているのだ。
方法として、街でフレデリカの事を知らない新参者に『ナンパ』される度に大袈裟に助けを求める。
そして、助けようとする実力のありそうな冒険者を探す事がすっかり有名になってしまった。
フレデリカ本来の実力であれば、殆ど自力で撃退出来るのにわざとらしい演技までして。
こんな無茶な行動が許されているのは何故か?
俺がアマンダさんに聞くと、フレデリカが両親を脅しているという。
余り締め付けると国外へ家出をすると言っているらしい。
それでフレデリカに超甘い父親は許容しているというのだ。
だからあの時……
誰も彼女を助けなかったんだ……成る程。
俺は憂いを含んだアマンダさんの横顔を見ながら、思わず納得して頷いたのであった。
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