第138話「悪魔ヴォラクの提案」
フレデリカ達が去ってから、俺は何となく考える。
多分、ペルデレ遺跡へ向かうのであろうが、門番とか大丈夫なのであろうか?
街の外へ出る時は厳しいチェックが入るだろうから。
確かフレデリカ本人は、遺跡の探索を認められていない筈だ。
と、その時。
いきなり、ヴォラクから声が掛かる。
「兄貴! ソフィア姐御は頼りになるのは分かっているけど、このままじゃあ余りにも情報不足だ」
「そ、そうだな」
ヴォラクの言う事には一理ある。
少しでも情報が欲しいから、商業&冒険者両ギルドへ行ったんだもの。
収穫は殆どゼロだったけれど……
「だから、この街の情報屋に急いで接触しましょうや」
ほう!
情報屋か!
確か、ヴォラクは俺達の情報をソドムの情報屋から買ったと言っていたっけ。
かなりの金は掛かるだろうが、少しでも情報があれば命を失う事や怪我を回避出来る。
リスク回避は金には代えられない。
命に比べれば、安いものである。
但し、ガセネタならとんでもないが……
「情報屋って……俺には全く当てがないけれど、お前にはあるのか?」
「ええ、この街に来ると決まってからすぐに調べておきました! バッチリでさぁ」
おお、すっげぇ!
ヴォラク、こいつ使えるじゃあないか!
「よし、俺とヴォラクは情報屋に会って来る」
こんな俺とヴォラクの会話を聞いた嫁ズの反応は様々だ。
意外にも、一番興味を示したのがソフィアである。
「トール!
あのね……
情報屋って種族じゃあなくて職業なの。
俺が苦笑していると、ジュリアから提案が出た。
「じゃあ、ここはふた手に分かれようか? あたしとイザベラは商業ギルドから紹介状を貰ったこの街の商会を回って来るよ、契約までは行かないで顔見世程度にね」
「大丈夫か?」
「うふふ、心配してくれているの? ここは今迄の街とは比べ物にならないくらい治安が良いし、イザベラもついているからナンパなんかされないよ」
いや!
超絶美少女のふたり連れって、大いに危険。
絶対に声を掛けられてナンパされる。
100%保証しても良い。
俺、凄く心配なんですけど。
不安げな俺の表情を見て、今度はイザベラが笑う。
「ふふふ、大丈夫だよ。私には
死の魔法?
俺は以前、ジェトレの村でイザベラが使ったのを思い出した。
※第42話参照
ヤバイ!
そ、それはやりすぎだって!
あの時下手して、サイラス・ダックヴァルが死んでいたら、アホクラン大狼の代わりに牢屋へ入っていたのは俺達だったから。
というわけで、このベルカナで死人が続出すると困る。
俺はイザベラに釘をピシリと刺しておく。
「イザベラ、その魔法は絶対に絶対に禁止。ちょっと平手打ちか、グーパンチをお見舞いすれば、お前は大抵の男に勝てる筈」
「そうかな?」
「絶対そう! だから、その程度で頼むよ」
「分かった! 旦那様のいう事に素直に従うのが妻……だよね」
「そうだね、私もイザベラと同じだよ。トールの言う通りに注意するよ」
話は
俺とソフィア、ヴォラクは情報屋に会いに、ジュリアとイザベラはこのベルカナの街の商会回りに向ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺とソフィアは、ヴォラクの案内で中心から少し外れた街中を歩いていた。
華やかな中心部と違って、庶民が住む区画はどこでも地味だ。
干されている肌着の洗濯ものが、やけに哀愁をそそる。
「おお、これが
「…………」
「このみすぼらしい街並み! トール、教えてくれ、住民は全員、貧乏人なのであろう?」
ええと……
余り大きな声を出して欲しくないぞ、ソフィア。
念の為に言えば、今、俺達が歩いているのは決してスラムではない。
中心街に比べるとぐっと地味な雰囲気だが、庶民の暮らす区画といった趣きだ。
だが王族であり、王宮暮らしが当たり前のソフィアには見るもの全てが珍しいらしく、つい叫んでしまうらしい。
「ソフィア、ここは俺みたいな庶民が暮らす街だ。スラムなんかじゃないよ」
「ふうむ……そうなのか?」
「そう、俺は正真正銘の庶民だから」
「ちょっと、待て! 待つのじゃ」
「何?」
「トールが庶民じゃと!? 何故、偉大な神の使徒が庶民になるのじゃ?
あの……ぺろっと言わないで、神の使徒とか……
重大秘密だって。
これは……まめにソフィアに教育していかないとな。
そういう俺だって、まだまだこの世界は初心者なのに。
俺は一旦、唇に指を当ててソフィアを抑えると、ヴォラクに話し掛ける。
「ところで、これから会う相手はどんな奴なんだ?」
「ああ、デックアールヴの情報屋ですよ。この街では結構顔が広いって聞いていまさぁ」
「ふうん……」
デックアールヴとはリョースアールヴ――いわゆるエルフとは対極の位置にいるアールヴで闇の妖精として区別されている。
果たしてどんな奴なんだろう?
考えてみれば、ソフィア同様俺だって情報屋って奴に会うのは初めてだ。
やがて俺達一行は情報屋が居るという家の前についた。
いよいよだ……
未知の相手と会う為からか、俺はちょっとだけ緊張していたのであった。
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