第137話「フレデリカの反撃」

 俺達はアールヴの美少女フレデリカ・エイルトヴァーラの事情を聞いてしまった。

 

 事情だけ考えればとても気の毒だ。

 実の兄が迷宮で行方不明なら、あれだけ心配する気持ちも分かる。

 今迄生きて帰って来た者が居ないから、尚更だろう。


 しかし……

 

 俺は改めて考えたが、やはり『依頼』として請ける事は出来ないと判断した。

 一旦、正式な依頼として請けてしまうと『責任』の問題が発生する。

 彼女の兄アウグストを助けられなかった場合、俺達クランは徹底的に糾弾されるだろう。

 もし、それが既に死んでいた等の不可抗力であってもだ。

 救助対象者がアールヴの長ソウェルの孫と言う事実が、可能性を確実にする。


 なので、目の前のギルドマスターには断る理由を伝えておく。

 フレデリカの叔母ということは、アウグストにとっても同じ。

 可愛い甥が行方不明で、何とか助けたいだろうから。


「申し訳ない、マスター。俺達クランは既に商人としての依頼を何件も受けているし、自分達の事で精一杯なんだ。もし彼を見かけて可能であれば助けるとしか言えない」


 俺がクリスティーナさんにそう言うと、彼女は結構冷静で怒った様子はなかった。

 それどころか、眉をひそめて首を横に振る。

     

「フレデリカの依頼は断わるのは当然としても……君達はあの遺跡に探索に行くのか? ……探索自体はこの国の法律で禁止などしていないから私が止めるわけにはいかないが……どうせならやめておいた方が良いぞ」


 眉を顰める……

 このような表情もアールヴ美女クリスティーナさんならば、とても趣きがある。

 どんな種族でも美人と言うのは絵になるなぁ、なんて見とれていたらジュリアに思い切り膝をつねられた。


 あはは、まずかった!

 ……今後は注意しないと。


 俺は「コホン」と軽く咳をして、用件を切り出す。


「申し訳ないのですが、この冒険者ギルドに来た理由は『失われた地ペルデレ』の情報収集です。出来れば迷宮の地図があればベストですが、単なる記録とかでも構いません。提供して頂きたいのですが」


 俺の丁寧な物言いにも、クリスティーナさんはしかめっ面をして腕を組んだままだ。

 こうなると、答えはほぼ予想出来る。

 

「悪いが、ギルドで探索や仲介を禁止している以上、それを幇助するような行為は禁じられている」


 そうか……やっぱりな。

 国では禁止していなくても、冒険者ギルドで『失われた地ペルデレ』に関わる事を禁止していたら当然か……


 商業ギルドの時もそうだったが、交渉事は粘ってOKか否か、見極めの早さも必要だ。

 クリスティーナさんの反応を見て考えれば……ここは、すっぱり諦めた方が良さそうだ。


「分かりました! 別件で何かあったらすぐご相談しますよ」


 俺は『別件』と言う所を特に強調してクリスティーナさんに伝えると、皆を促して冒険者ギルドを後にしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺達が冒険者ギルドを出るとまた『彼女』に会った。

 いわずと知れたフレデリカである。

 

 しかし今度の彼女はひとりきりではなかった。

 アールヴと人間族、それも女性ばかりを引き連れて立ちはだかっていたのである。


 フレデリカは、さすがに冷静さを取り戻していた。

 半狂乱になって、泣き叫んだ表情は消えている。


 キッと俺を睨みつけると、


「トール! さっきはよくも冷たくしてくれたわね。この私のたっての頼みだと言うのに! でもね、貴方が理不尽に断わっても、私は全然平気なんだから!」


 だ・か・ら~。

 俺が冷たくしたとか、理不尽に断ったなんて言い方をするなよ……

 君のファンなのかどうか知らないけど、わけが分からない冒険者達からまた変に誤解されるから。

 でもフレデリカは、俺の嫁ズ同様に『反論』はきっぱりと無効化するだろうな。

 

 ちらりと、フレデリカの仲間を見た。

 

 アールヴのお嬢様が集めただけあって魔力波オーラから判断すると皆、結構な腕の持ち主だ。


「冒険者ギルド非公認だけど私のクラン、スペルビアよ。皆、自己紹介して!」


「ロドニアの戦士ダーリャ・グリーンだ」


 ずいっと出る大柄な戦士。

 赤毛の女の子で身長2m近くある。


 そして栗毛の癒し系な女子。


「ヴァレンタインの元司祭ベレニス・オビーヌです」


 そして、フレデリカと同じアールヴ女子。

 司祭さんと同じ栗毛。

 すばしっこそうで、ジュリアと似たタイプ。


「フレデリカ様の侍女、ハンナ・エクルースでございます」


 フレデリカの指示で3人のクランメンバーが順番に名乗った。

 ふうむ、全員結構可愛い。


 男が女子を見る時にはまず顔に目が行く。

 仕方がない、現象なのだ。


 そしてオオトリは、 


「そして私がクランリーダーのフレデリカ・エイルトヴァーラよ」


 えっへん!

 どうだい!


 という感じで、フレデリカが胸を張った。


 俺はクランスペルビアの構成を考えてみる。

 魔法剣士であるフレデリカが攻撃役アタッカー、頑丈そうな戦士ダーリャが盾役タンク、元司祭ベレニスは当然、回復役ヒーラーであり、1番小柄なハンナは強化役バファーか、シーフであろう。


「スペルビアは女性だけのクランだけど……例外として貴方は入れてあげようと思ったのに!」


 そりゃ、ど~も!

 紅一点の反対って事か。

 でも今だって俺はそんなクランに居るからなぁ。


「じゃあ失礼させてもらうわ! 皆、行きましょう!」


「「「はっ!」」」


 フレデリカ達はきびすを返すと、俺達の前から去って行ったのであった。

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