第162話「おイタな妹にはお仕置きだべぇ」

 俺達が、前方に何者かが居る事を察知したのは……

 フレデリカ達が内輪揉めをして、激しい口論している時であった。

 

 ジュリアは、それがすぐにクランスペルビア、すなわちフレデリカ達だと確認した。

 何せ、凄く激しい口げんかをしていたから……

 放出される激しい怒りの魔力波オーラを含めて、正体も丸わかりだ。


 とりあえず、急ぎフレデリカ達へ接触しなければならない。

 俺達が、反応がある方角へ暫し歩くと、またもやジュリアが反応した。

 

「あ、ああ……クランらしい4人の魔力波のうち、ふたりが離れて行くわ」


 ああ、俺にも感じる。

 反応が4人からふたりへ変わって行く。


 でもここは、シーフ役としてジュリアの顔を立ててやろう。


「ジュリア……フレデリカはどうだ?」


「ええと、その場に残ったみたい……離れたふたりは人間で、残ったのはアールヴふたりだから」


 やはり、クラン内でトラブルが発生したようだ。

 多分、何らかの原因で揉めたのだろう。


 俺達は更に歩く速度を速めたのである。


 ――30分後

 遂に、俺は待ち構えていたフレデリカ主従と出会った。

 相手も俺達の事に感づいていたらしい。

 だって、フレデリカなんて手をぶんぶん振っているもの。


「あら? やっぱりトールじゃない!」


「おお、良かった。無事なようだな、フレデリカ」


「何! 汚らわしい人間め! 恐れ多くもフレデリカ様を呼び捨てにするな!」


 侍女のハンナがいきどおるが、俺は敢えてスルー。


「怪我が無くてよかったな。丁度、お前を探していたのさ」


「私を? 何故?」


 フレデリカは自分を探しに来たと言う、俺の言葉を理解出来ないようである。


「お前の父マティアスから頼まれた。フレデリカを無事に連れて帰ってくれと、な」


「何ですって!」


 俺が用件を告げると、フレデリカは叫んだ

 思うところがあるらしい。


「トール、私は目的を達成するまで絶対に帰らないわ。優しいお兄様を見捨てた冷酷非道なお父様の下へなど!」


 その瞬間であった。


 ぱああん!


「ぎゃう!」


 突如、フレデリカの頬が思い切り張られた。


「アマンダ様!」


 ハンナの叫び通り、フレデリカの頬を張ったのはアマンダであった。

 アマンダは……今迄俺が見た事もないくらい怒っていた。

 普段の穏やかな、優しいアマンダとは別人のようである。


「フレデリカ! お父様の事を何も分かっていないくせに酷い事を言わないで!」


 片やフレデリカは姉に打たれた頬を押さえ、呆然と座り込んでいる。


 怒りと驚き……

 

 同じ父の血を分けた灰色と菫色の瞳が、暗い迷宮の奥で見つめ合っている。


「な、な、何をするのよ! アマンダ!」


 頬を抑え抗議するフレデリカ。

 しかし、アマンダは鋭い視線を投げ掛ける。


「アマンダ? よりによって妹が姉の事を呼び捨てはいけません! 姉さんとお呼びなさい!」


 いつもは本家筋のフレデリカに気を遣い呼び捨てにさせていたアマンダも、今回ばかりは腹に据えかねたようだ。


「いけない妹へは、姉として『お仕置き』をします。お父様の気持ちが分からない不出来な妹へのしつけだと思うことね」


「躾? 貴女みたいな汚らわしい生まれの女が、私の姉なんて言わないでよっ!」


 むきになったフレデリカが、激しく言い放った瞬間である。


 びしっ!


「ぎゃう!」


 鋭い音と共に悲鳴が響く。

 フレデリカのおでこの真ん中が、あっという間に赤くなった。


「「え!?」」


 アマンダ、そしてフレデリカの侍女ハンナの驚きの声が重なった。

 今度は、俺がフレデリカのおでこに『デコピン』をしたのである。


「な、な、な、何をするのよぉ!」


 姉だけでなく『赤の他人』の俺にまで『お仕置き』されたフレデリカ。

 デコピンの痛さに、涙目になりながらも必死に抗議をしている。

 

 しかし嫁のアマンダを侮辱されて、俺は黙っていられなかった。

 これは冒険者ギルドで「切れた」時と一緒。

 それに、この俺はフレデリカの『兄』にもあたるわけだから、指をくわえたままではいられない。


「こら! 言うに事欠いて、実の姉に汚らわしいとは何事だべぇ。おいたが過ぎる、はねっかえりの妹に優しい兄としてのお仕置きだべぇ」


 俺の言葉を聞いたフレデリカは吃驚したようだ。

 打たれたおでこを手で押さえながら、声を振り絞る。


「おお、お仕置きだべぇって!? それより兄? 兄さんって? 私が貴方の妹!?」


 そう、お前は妹だ!

 俺は改めて実感しながら、はっきりと言い放つ。


「ああ、俺はアマンダと結婚したべぇ。だからお前の兄だべぇ。それから俺の事はお兄ちゃんと呼ぶのだべぇ!(萌えるからな!)」


「…………」


 これは、ふざけた物言い過ぎて、加えて無茶振りだったのであろうか?

 

 フレデリカは顔をしかめる。

 そして口を真一文字に結んで、不満そうに黙ってしまったのであった。

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