第163話「可愛い妹に、へんし~ん!」
告げた内容に反して、俺の言い方はあまりにも合っていなかったようだ
仕方なく俺は、ふざけた口調を改める事にした。
「ちなみに、ここに居る女性は全員俺の嫁だ。なので敢えて言うのなら、全てお前の姉だ」
俺の紹介を聞いて、嫁ズは余り表情を変えずに軽く手を振っている。
フレデリカは黙って、キッと嫁ズを睨む。
「同意など絶対にしないわ!」という強い意思表示だろう。
そんなフレデリカの視線を受け、アマンダがきっぱりと言い放つ。
「はい! 私はトール・ユーキの妻です。ですから、フレデリカは妹で間違いありません」
「「「「そうそう」」」」
アマンダがにっこりと笑って口火をきると嫁ズも全員が頷いた。
それでも煮え切らないフレデリカに、とうとう俺が返事を促す。
「何を黙ってる、フレデリカ! 返事はどうしたっ! 俺の事を真っすぐに見て、しっかりお兄ちゃんと呼んでみろっ!」
裂帛の気合が籠められた俺の言葉。
びくっと身体を震わせたフレデリカは、慌てて返事をする。
「おおお、お兄ちゃん!」
フレデリカの顔が引きつっている。
また俺からデコピンをされるのが嫌だったのであろう。
でもまあ良い。
これでけじめは済んだ。
「よし! 盛大に噛んでいるが、まあ良いだろう。さて今後の事だが、俺は迷宮の探索を続ける。お前自身はどうしたいのか、ちゃんと聞かせて貰おう」
俺はフレデリカの肩を優しく掴んで、一気に彼女の顔を覘き込んだ。
フレデリカはここまで男の顔を間近で見た事がないらしい。
身体を固く強張らせながら、驚いて大きく目を見開いた。
「ひ! ひいい……い、い、い、一緒に……い、行きたいです……お兄ちゃんと一緒に……」
混乱していても、兄アウグストを捜したいフレデリカの気持ちは堅いようである。
やっぱ、この子は兄思いの優しい子なんだ。
ちょっぴり嬉しくなった俺はフレデリカの肩を掴んだまま、大きく頷いた。
「よ~し、分かった、我が妹よ! だが条件がふたつあるぞ」
「じ、条件がふたつ?」
「そうだ、ようく聞け。まずアマンダに対しては姉としてちゃんと接する事。さっきみたいな考えを持ったり、物言いをしたら今すぐここから帰って貰う! どうだ?」
フレデリカは呆然としたまま、「こくこく」とぎこちなく頷いた。
「よし! では早速アマンダに謝ってくれ」
「は、は、はい!」
俺はフレデリカを放し、アマンダの方に向いて貰った。
改めて、姉妹が正対する形となる。
「ア、アマンダ……ね、姉さん、ご、御免なさい。もうあのような言い方はしません」
はっきりと謝罪したフレデリカへ、俺は告げてやる。
「よしっ! 偉いぞ、フレデリカ。もうひとつの条件だが、父親のマティアスとしっかり向き合え。地上に戻ったらちゃんと話してみろ。マティアスがお前をどんなに愛しているか、分かる筈だ」
「う、うん……分かったわ」
俺に促されたフレデリカは、父マティアスに関しても話し合うと約束してくれた。
「よしっ! お前はホントに良い子だぞ、フレデリカ!」
素直になったフレデリカに、俺は手を伸ばした。
俯いていたフレデリカは、またデコピンでもされると思ったのか、身体を「びくり」と震わせた。
いえいえ、デコピンなんかしないって。
俺はフレデリカの頭のさらさら金髪に手を置いて、優しく優しく撫でてやった。
アールヴ特有の小さな頭に、両脇から「ぴょこん」と飛び出た尖がり耳が可愛い。
そして俺が撫でる際に、ちょっとだけ
「「「え!?」」」
今度はフレデリカ当人、アマンダ、ハンナの声が重なった。
アールヴの貴族令嬢であるフレデリカの頭を、よりによって人間の男が撫でる。
後から聞いたら、たいへんな侮辱に相当するらしい。
ハンナの顔色が真っ青になっていたから、冗談抜きで本当にヤバイのであろう。
他の嫁ズはというと、俺がフレデリカの頭を撫でるのを羨ましそうに眺めている。
「あうううううう……」
しかし、元々神の眷属で妖精族のアールヴには気持ちいいのではと思ってやってみた次第。
フレデリカは余程気持ちが良いのか、目が「とろん」として口は半開きになっている。
予想通りの結果に加えて、神力は何と別の効果も生んだ。
何と!
フレデリカの『痛み』を、すううっと取り去ってしまったのである。
「お、お、お兄ちゃん! 頬とおでこが全然痛くないの! もう痛くないのよぉ!」
「おお、良かったな!」
思い切り口調が変わったフレデリカに、俺はウインクした。
完璧な萌え系になった彼女の中で、いきなり何かが変わったようだ。
「お兄ちゃわ~ん! だから! ……もっと! もっと撫で撫でしてぇ!」
頭を差し出し、甘えるフレデリカの要望に応えて、俺は再び頭を撫でてやった。
「あううううう~ん」
甘い声を出して切なそうに悶えるフレデリカ。
やはり凄く気持ちが良いらしい。
今度は、目の焦点が合っていないくらいだ。
その様子を、俺とフレデリカ以外の者は呆れたように見つめていたのである。
――30分後
俺達は再び、フレデリカ主従を加えて出発した。
侍女のハンナは、一連の出来事に対していまだ納得がいかないらしい。
歩きながら、ずっとぶつぶつ言っている。
「あの人間の卑しい下民めが、よりによってフレデリカ様を呼び捨てにして、暴力を加えた上に、失礼な行為までも……」
びしっ!
その瞬間、肉が打たれる音が軽快に迷宮で鳴り響いた!
「ぎゃう!」
「だめでしょ、ハンナ。お兄ちゃわんの悪口を言っちゃ」
真っ赤になったおでこを押えて痛がるハンナに、今度はフレデリカが悪戯っぽい笑みを浮べていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます