第106話「悪魔の転移門」
クラン
腕輪の中に入って貰っていたソフィアも晴れて表に出られて、清々しい表情だ。
予定を考えたら大きな計算違いが起こった。
クラン大狼の奴等による、しょ~もない襲撃で結構な時間を食ってしまったから。
気が付けば、時間はもうとっくにお昼を越えている。
本来なら、昼食を摂って進む所。
だが、とりあえず転移門の場所まで行ってしまおうという意見で皆が一致したのだ。
更に歩いた俺達は街道から少し入った場所にある雑木林へ到着する。
そこには古代、いくつかの建物があった跡が見受けられるが、水の手が周囲に殆ど無い。
その為に、新たな建物も建てられず放置された廃墟なのである。
こんな目立たない所にスパイラルが破壊しなかった? 悪魔の転移門のひとつが残されていたのか。
そう思うとすっごく不思議である。
さあ、気合を入れよう。
いよいよ俺達は悪魔の国へ赴くのだから。
ドキドキする。
騒ぐ、俺の中二病。
だって、悪魔だよ、魔界だよ、何と言うファンタジー。
俺の異世界体験、今が最高潮って感じ。
しかし、ここで「待った」をかけたのがアモンである。
何か水をざぶんとかけられた気分だが、奴は俺の教師兼軍師。
仕方がない。
「転移門から出た先と王宮までの間は距離がある。ここで腹ごしらえをしておこう」
そうか。
納得!
途中飯が食えないのであれば、アモンの言う通りだ。
飯を食っておきましょう!
確かに俺、そしてジュリアはもうハラペコだったからである。
ちなみに悪魔ふたりと、
まあ一緒に飯を食えば、連帯感が深まるからOKでしょ!
そうと決まれば、すぐに女子達が昼食の支度を始めた。
当然、俺も生活魔法全開で手伝おうけど。
最近、イザベラが嫁修行と称して家事の腕を上げている。
悪魔王の娘である箱入りのイザベラがという意外さなのだ。
師匠は当然ジュリアであり、お茶の支度などはもう楽勝。
いくつかの料理もばっちり作れるようになったらしい。
す、すげ~。
そんなイザベラの様子を見たアモン。
感慨深げに言う。
「女とは男次第でこうも変わるものなのか……」
しかしこれでイザベラが惜しくなったから取り戻そうとか、考えないのが悪魔特有の価値観らしい。
普通は、またイザベラを賭けて勝負とか言いそうなのに……
まあ俺としては助かる話だ。
そしてソフィアも徐々に変わって来た。
ジュリアのサポートもあり、なかなか溶け込めなかった女子陣の会話や行動に加わるようになったのである。
ジュリアが頻繁に話し掛けて、最初は迷惑そうであったソフィアの表情も徐々に変わり、随分笑顔が増えた。
少しずつ判明してきたが、彼女は気位が高い所はあるのだが、明るく優しい女性でもある。
時折俺を見る視線が、何か意味ありげなのは気になるが……まあ錯覚だろう。
俺の生活魔法の『しょぼさ』をソフィアがからかって笑い、ジュリアも突っ込む。
イザベラがフォローしているようで自分の魔法の自慢に置き換えると、またジュリアとソフィアが大声で笑う。
こうして、いじられるのは大変だが――これも幸せと言うもの。
温かい紅茶に柔らかいパン、兎の乾し肉で昼食を済ませた俺達は後始末をすると早速、転移門の場所に向う。
そこは1番大きい廃墟の大広間だったらしい場所である。
一応周囲を索敵したが、人間や魔物の気配は無い。
どうやら『大広間』の真ん中に転移門を開くつもりらしい。
俺達は傍らに退いた。
スタンバイOKというように俺が頷くと、アモンが言霊の詠唱を始める。
禍々しい『気』が辺りに洩れ、立ち昇った。
ああ、何か気分が悪い。
気持ち悪い。
この気がいわゆる瘴気であり、冥界の大気なのである。
「開け! 魔界への大いなる門よ! 魔界に生きる者とその眷属達を導き、誘え! 我、闇を友とし、血と苦痛を糧とする事を誓い、人の夢を喰らう事を称えん!」
……アモンの詠唱が終わった。
すると中央に、円形の暗き深き穴が出現した。
これが魔界への入り口、悪魔の転移門だ。
「行くぞ……」
アモンの促す声と共に、俺は唾を飲み込む。
目を瞑ると、思い切って転移門へ飛び込んだのであった。
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