第105話「女は怖い?」

 俺は元々、用心深い方だ。

 

 たった1回だけ戦闘中に『へま』をしてアモンに助けられたが、基本的には臆病さに裏打ちされた慎重を期す事を信条としている。

 これは、転生前から変わらない。


 だから相手が正義を司るヴァレンタイン王国騎士隊と名乗っても、安心したりしない。

 命じられたからと言っても、無用心に武器を捨てたりはしない。

 

 使徒であるこの俺が、邪神様に改造されて与えられたチート能力、魔力波オーラ読み。

 相手の動きやこころを読み込めるのは、確かに便利。

 だが信じ過ぎるな、頼り過ぎるな――これがアモンから口酸っぱく言われ、実感しつつあった俺の経験則でもある。


 このような場合はどうするか?

 当然ながら、相手には用心深く接触する。

 いきなり襲われたら、かなわないから。

 

 相手が偽者の場合も考えると、捕まえた『クラン大狼ビッグウルフ』を前面に押し立てて彼等の所に行くやり方が懸命だ。

 最悪、相手が俺達を襲って来た場合には『大狼』の奴等が俺達の『盾』になってくれる。


 非情?

 家族の命には代えられない。

 それに俺達を襲った償いくらいはして欲しい。

 

 ソフィアの存在を隠す事も同じくらい重要だ。

 彼女の存在はとってもアンタッチャブルなのだから。

 悪いが、また収納の腕輪の中に入って貰う事にした。


 やがて相手の姿が見えて来た。

 まだ距離があるので、俺はまず遠くから名乗る事にする。


「俺達はクラン戦う仲買人バトルブローカー、こいつらは俺達を襲撃した『クラン大狼ビッグウルフ』で、ダックヴァル商店事件の犯人だ」


 俺が大声で呼び掛けると騎士団から即座に答えが返って来る。


「本当か! 丁度良い! そのダックヴァルの証言で奴等を追っていたんだ」


 おお、これは運が良い!

 すなわち渡りに――船という奴だ。

 

 そして大丈夫!

 出で立ちから見ても、俺が魔力波オーラを読んでも、声を掛けて来たのは本物のヴァレンタイン王国騎士団に間違いはなかった。

 一応、万が一の場合もあるから、最後まで警戒は解かないけれど。

 

 ――約15分が経った。


 俺達は一応取調べを受けて事情を聞かれ、経緯を話す。

 騎士団はダックヴァルと冒険者ギルドから『クラン大狼』の風体を聞いていたので話は早かった。

 村民証兼ギルドの身分証を出した俺達は全く疑われず、最後はお約束の『嘘発見器』代わりの魔法水晶をかざされて、全員が問題無しと判断されたのである。

 ちなみにアモンも臨時村民証持ってます。


 問題無しどころか、報奨金も貰えるらしい。

 俺達は『クラン大狼』の奴等を捕縛したという事で。


 騎士団小隊の隊長であるオーリクさんが冒険者ギルドに依頼をしてそれを成功させたという形にするそうだ。

 こうやって治安の悪いこの世界で犯罪者に対して国民の協力を得られるようにヴァレンタイン王国は対応しているみたい。

 

 下世話だが、俺は報奨金がどれくらい貰えるか気になった。


「済みません、ずうずうしいですが金額を聞いても良いですか?」


「ああ、構わないよ。ひとり10万アウルム、都合40万アウルムだな」


 という事は約40万円か……強盗犯人捕まえたにしては、えらく安いな。


 俺のがっかりした表情を見てピンと来たのだろうか?

 オーリクさんが苦笑しながら説明する。


「今回は何も盗られたものが無かったし、殺人未遂に近い暴行と脅迫だけだ。強盗や殺人罪が適用されると報奨金もぐっと高くなる」


 成る程――納得しました。


「悪いな、そういう規則なんだ。話は変わるが、……その、君達のクラン名は少し変だよな」


 ほら! やっぱり言われちゃったじゃないか。

 俺が思った通り戦う仲買人バトルブローカーってのは微妙なんだよ。


 俺がクラン名を付けたジュリアを振り返ると……

 

 うっわ!

 彼女、凄い目でオーリクさんを睨んでいる。

 えらい迫力だ。

 騎士相手に一歩も引かない。

 これも竜神族覚醒の効果?

 

 ジュリアの気迫に、思わずオーリクさんが後ずさる。

 おい、おい、おい!


「あ、ああ……ま、まあ悪くない名前だな。という事は、き、君達は本来商人なのか? だったら今度、騎士団から仕事を頼むよ。冒険者ギルド宛に指名依頼を出せば良いのだな」


 発注元としては文句無い優良顧客、ヴァレンタイン王国騎士団。

 変な名前と言われて怒っていたジュリアの機嫌も、たちどころに直ってしまう。


「毎度ありがとうございます! お待ちしております!」


 「がらっ」と表情を変えて、満面の笑みで発注をお願いするジュリア。

 答え方もはきはきしている。

  

 女は怖い!

 

 複雑な表情で頷くオーリクさんの波動から伝わって来た、正直な感想であった。

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