第44話「迷宮の鍵」
目の前に置かれた物。
何故か、ピンと来た。
「店主さん、これって鍵でしょう?」
「おいおい、不細工坊主。お前良くこれが鍵って分かったな? 大したもんだ」
俺が咄嗟に頭に浮かんだ印象で指摘すると、店主のダックヴァルは
ダックヴァルが言う通り、確かに目の前にあるのは普通の鍵みたいに歯があるわけではない。
単に小さな細い金属棒であったから。
「だって! あたしの彼だもん」
ジュリアが誇らしげに叫ぶとイザベラも黙ってはいない。
「おい、髭。不細工ではない! 私のダーリンであるぞ」
どうやら、さっきのキスで、完全に彼女モードへ入ってしまったようだ。
チョロイン増産と言われても、これが現実。
ならば、嬉しい悲鳴である。
そんなふたりが、睨み合って何か微妙な雰囲気だけど、まあ仕方がない。
爆発しろ?
仰る通りです。
「これって、普通の鍵じゃあなくて、魔力を込めて魔法錠前に差し込んで開ける鍵でしょう? いわゆる
俺は、何気に浮かんだ知識を言ってみた。
魔法鍵だという俺に、ジュリアとイザベラも追随する。
「確かにトールの言う通りかも。でもさ、あたしはこんな形の鍵は初めて見るよ」
「私の国のものとは全く違うけど……言われて見れば、このような鍵は見たことあるかな」
そんな俺達3人に、ダックヴァルは改めて説明した。
彼の言う所によれば、この鍵は迷宮に潜った、とあるクランが発見して持ち帰って来たらしい。
「これはよぉ、今巷で噂の旧ガルドルド魔法帝国の遺跡コーンウォールの迷宮最深部で見付かったものよ。ほら! 先日、オリハルコンが見つかった迷宮さ」
おお!
そういえば思い出した。
確かオリハルコンの発見場所は、コーンウォールの迷宮だった。
頷く俺達を見て、ダックヴァルは説明を続ける。
「あの迷宮の最深部にはいくつか開かずの扉があると噂されている。常人には見えない禁断の扉らしいんだ。この鍵はそのような扉の錠前に合う鍵のひとつだと言うぜ」
開かずの扉の噂?
禁断の扉?
おお、これって俺へ迷宮の秘密を解けってミッション?
何か、冒険の匂いがぷんぷんだ。
でも……何か、引っかかる。
「……常人には見えないって、この鍵を見つけたクランの奴等は扉を開けようとしたんだよな?」
俺が、当然思うであろう疑問をぶつける。
すると、ダックヴァルは大きく首を横に振った。
「だからよ、その扉自体が見付からなかったんだ」
やっぱり……そうか。
でもその鍵が何故この店にある?
そんなお宝が見つかる、それこそキーアイテムじゃないか?
俺は、ダックヴァルから出る次の言葉を待った。
訝し気な俺の表情を察したのであろう。
髭親爺が教えてくれる。
「奴等、散々探したらしいけど見つからなかった。金に困っていたから、仕方なく諦めて俺に売ったって
成る程!
金がなければ納得。
いつ見つかるか分からない未知のお宝よりも、目の前の現金。
明日より、今日。
そう考えるのは当然かも知れない。
そんな事を思っていたら、ダックヴァルがニヤリと笑う
「……ふふふ、坊主よ、どうだい?」
「え? どうだいとは?」
「お前はワクワクしないのか? 見えない扉の奥にはオリハルコンを始めとして、旧ガルドルド魔法帝国の未知の財宝が眠っているというぜ」
未知の財宝?
いやぁ、ワクワクしますって!
おお、駄目だ。
俺の中の中二病が爆発寸前。
どんどん迷宮に行こうって言っているよ!
心の声が叫んでいるよ。
冷静になれ! 俺……
ここでイザベラが、ダックヴァルに対して疑問を投げ掛ける。
「でもさ……それってあくまで推定だろう?」
「まあな、100%本当ってわけじゃない」
「何だい? いい加減だな、髭。この魔法鍵自体がその旧ガルドルド魔法帝国のものかどうか分からないじゃないか」
イザベラが、落ち着いて話す様子を見た俺はホッとした。
おお、あんなにダックヴァルに対して怒っていたのに……
今は普通に話してる。
無事にクールダウンしたのか、良かったぁ……
そんな俺の気持ちも知らず、髭店主ダックヴァルは自信たっぷりに言い切る。
「俺を誰だと思ってる。実はな、今迄このような鍵を何回か取り扱った事がある。気になったんでこの鍵を見せたら、偉い学者先生もそう言っているんだ」
学者先生が言ってる?
鍵を見せた?
ふ~ん、この親爺は扱う商品の裏を取ってるんだ。
これぞ商人の鏡。
いい加減なものは売らないって方針か。
少しだけ尊敬したぞ。
「という事で、これは確かに旧ガルドルド魔法帝国で使われていた魔法鍵だ、ほぼ間違い無い」
ダックヴァルの言葉を聞いていたジュリアも、興味深そうに頷いている。
こちらもやっと落ち着いたようだ。
ああ、ふたりとも完全に通常モードだ。
これで安心。
「イザベラ、どうする? もしダックヴァルさんと交渉するのなら私が代わりにしてあげるよ」
おお、ジュリア!
さすがプロだ。
一旦、引き受けた仕事だから、感情を抜きにして代行するっていうんだな。
「ふん! そんなのは余計なお世話だ!」
しかしこれが裏目に。
ジュリアの申し出を聞いたイザベラに、また火が付きそうになってしまったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます