第71話「俺達は賭けの対象」
コーンウォール迷宮は旧ガルドルド魔法帝国の遺跡である大規模な街跡にて偶然に発見された。
この街跡はかつて創世神の神殿があり、神の様々な恩恵を受け栄えた街だったと古文書には記されている。
迷宮への入り口は巧妙に隠されていた。
偶然ともいえる発見は、倉庫を造ろうとした地元の農民が遺跡の壁に穴を開けたのがきっかけだった。
放置され荒れ果てていた遺跡がヴァレンタイン王国の管轄になり、キャンプが出来て発展して行ったのは迷宮のお蔭である。
肝心の迷宮はといえば、構造はシンプル。
複雑な罠や仕掛けも無い地下5階の仕様だ。
発見されてから5年以上が経過している為、昇降する階段の位置どころか出没する魔物も特定され市販の地図に反映されているくらいである。
俺が冒険者ギルドで購入したのは、これまで迷宮に入った冒険者達の情報を元に作り上げたそんな市販の地図なのだ。
迷宮の入り口には、キャンプ専属の衛兵がふたり立っている。
これは様々な冒険者の迷宮への出入りの確認と、中の魔物が這い出て来ないかという監視の為に置かれていた。
迷宮に潜る、冒険者達の朝は早い。
日の出前から、入り口に行列を作る。
今朝も例外ではない。
俺達は早起きして朝の6時には来たのに、先客がもう50人以上も並んでいたのだ。
ジュリアが珍しく、雰囲気に圧倒されていた。
「凄いね……皆、一攫千金を狙っているんだろうけど」
「トールが買った地図を見ると、中の魔物を倒すだけじゃ全然元は取れないね」
俺の嫁という立場同士、さらにいろいろな事があった。
その為か、ジュリアとイザベラの絆はより深まっている。
これはとても喜ばしい。
待つ事30分。
「うん? お前等、この辺では見ない顔だな」
話し掛けた衛兵が呟くと、もうひとりの衛兵がすかさず手を横に振った。
「俺は知ってる。先に並んでいる冒険者から聞いたぜ。怖ろしい顔をした大男に黒髪の痩せ男、そして銀髪の可愛い女の子と商人風の同じくらい可愛い女の子……ははは、お前等は賭けの対象になっているんだよ」
何だよ……賭けの対象って?
「お前等が生きて迷宮から帰って来れるかどうかがさ」
はぁ!?
この世界は娯楽が少ないって聞いていたけど。
馬鹿野郎……
人の生き死にを賭けのネタにするなっての。
あ!
一瞬、不吉な予感が、俺の頭を
「それって……まさか?」
衛兵はそんな俺の心を見透かしたように笑う。
「おお、気付いたか? お前、満更馬鹿じゃないな」
「何だと?」
「まあ聞け、これは忠告だ。死ぬ方に賭けた奴から見ればお前等が死ぬと結構な金が手に入る。迷宮内で冒険者同士の争いは一応ご法度になっているが、何が起こるか分からないぞ」
「…………」
「せいぜい、どさくさに紛れて殺されないように気をつけな」
むう!
こりゃ、本当にやばいかもしれないぞ。
迷宮に出没する人間や魔物ばかり気にしていたけど目の前のクランがいきなり襲って来るって事もあるんだ。
……絶対に気をつけないといけない。
「そろそろ、行くぞ……」
俺の背後から、アモンが声を掛ける。
頷いた俺は、ゆっくりと迷宮の中に入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……俺達は今、迷宮内を歩いている。
地図があるから迷宮の攻略なんか楽。
普通はそう思うだろう。
しかし迷宮っていうのは、俺が想像した以上に不便である。
迷宮にもよるだろうが、このコーンウォール迷宮、明かりが殆ど無い。
地下1階の入り口から暫くは、魔導ランプが
これは辛い。
閉所恐怖症の奴ならすぐパニック状態になるであろう。
携帯用の魔導ランプは用意したが、先程の話を聞いて使用を控えた。
こちらの明かりを目当てに、同じ人間から奇襲攻撃されたら……
防ぎきれないからだ。
幸い俺は、夜目が利く。
邪神様が改造してくれた身体は戦いには向いていた。
五感も鋭くなるから敵の足音などは勿論、結構遠くの生き物の息遣いまで耳にも入って来る。
そんなわけで、このクランでは俺が
いわゆるロールプレイングゲームで言えばシーフ役もやる。
シーフ担当は、危機回避能力に長けたジュリアにも協力して貰うつもりであったが、少し暗闇が怖いみたい。
俺だってこれほど夜目が利かなければびびるし、女子なら無理もない。
クランの並びはというと俺が先頭をきり、俺ほどではないが夜目が利くイザベラが番手、ジュリアが3番目、
普通のゲームの考え方であれば1番体力の無いジュリアが最後方。
だが、後方からの奇襲の可能性も考えてアモンに最後方に盾役として入って貰った。
こうして……
下へ降りる階段を目指して、俺達は出発したのであった。
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