第97話「残念な王女①」

 俺達はソフィアをクランの仲間として受け入れる事を決めた。

 表向きは今後の冒険及び商売のが理由だが――誰にも言えない本当の理由は世界滅亡を回避をさせる為だ。

 このコーンウォール遺跡には、ソフィアの本当の身体が眠っている。

 ソフィアの当面の目的はこの身体に自分の魂を戻す事。

 それまでは、大事に身体を保管して貰う必要があった。

 

 そこで俺達は親衛隊であるゴッドハルト達に対して彼女の本当の身体と、この遺跡の守護を託した。

 そして再び地上へと戻る事にしたのである。

 ゴッドハルトは彼等のあるじ、ソフィアの面倒をみるという俺の好意に感謝してくれたようである。


「トール殿、姫様ノ事クレグレモ宜シク頼ミマスゾ! 何卒ナニトゾ、何卒」


 何度も何度も繰り返して頼むゴッドハルトは果たしてソフィアの真意を知っているのだろうか?

 もしかしたらそれも含めての「頼み」かもしれない。


 そんなゴッドハルトは随行出来ない自分の代わりに「プレゼント」をくれるという。

 彼が抱えて現れた機体を見てソフィア以外の者は驚いた。

 それはゴッドハルトの機体である滅ぼす者デストロイヤーのひとつ前の試作機であったからだ。


 大きさは人間に近い体長2mほど。

 ゴッドハルトの1/3くらいの性能スペックを持っているという。

 桁外れに強力なゴッドハルトほどではないが、装甲に関しては鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレム以上の頑健さを誇り、歴戦の戦士並みに鋼鉄の剣を振るう。

 ゴッドハルト同様に様々な擬似魔法を発射出来る射出装置も備えた万能戦士だ。

 

 試作機はゴッドハルトに勝っている性能もあった。

 それは……俊敏性だ。

 吸入口から取り入れた空気を足裏から噴出し、高速で移動する事が出来るというのだ。

 こうなると『ゴーレム』というより、まさにどこかで見た『ロボット』である。


 問題はこの試作機の中枢部。

 滅ぼす者デストロイヤー鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムなどと違って人間の魂を使うものでは無いのは幸いだ。

 主人マスター魔力波オーラを登録して、その指示通りに動く魔法水晶が搭載されていたのである。

 そして『燃料』は魔力であり、一定時間充填しておけば稼働する。

 魔力を『電気』に置き換えれば分かるだろう。


 だが『操縦者』が必要であるこの機体は、当時の上層部からその有用性を否定された。

 やはり自らの判断で動く自律性を良しとする方針だったから、人間の魂を使用する機体優先へと切り替えられてしまったという。

 ゴッドハルトはこの機体を俺に託す意図を改めて強調する。


「俺達、帝国第7騎士団ハ貴方ノ部下ニナルト約束ヲシタガ、残念ナガラ果タセナイ。ソコデ代ワリニ、コイツヲ託ス」


 ゴッドハルトの放つ、この魔力波オーラは……

 一切の嘘は感じられなかった。

 俺は彼の男気に感動して、ありがたくこの試作機を受け取ったのである。


 当然、この試作機には俺の魔力波オーラを登録し、目の前で起動して貰った。

 一通りの『操縦方法』を教授して貰った後に、俺はこの機体を収納の腕輪へ仕舞ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 こうして俺達、クラン戦う仲買人バトルブローカーは地上に向けて出発した。


 名残惜しそうに見送るゴッドハルト麾下第7騎士団の連中の姿が見えなくなると、ソフィアは改めて自分の持ち味を強調し始める。

 彼女の語る内容は、はっきり言って自慢そのものだ。


「お前達は本当に幸運じゃ! 妾は創世神から祝福された最高位の巫女じゃからの」


 家臣にかしずかれて生きて来たソフィアは、やはり自分が中心でなければ、気が済まないのだろう。

 俺達が黙って聞いていると、ソフィアの口調はますます熱を帯びて来る。


「まずわらわの豊かな魔力量は魔力枯渇などの心配は一切要らぬ。行使出来る魔法じゃが、回復魔法は治癒から解呪まで全て問題なく行使出来る。防御魔法もお手のものじゃ。お前達下僕や下婢……いや、な、仲間をしっかり守ってやれるぞよ」


 つい口が滑ったのだろうが、相変わらず俺達を『しもべ』だと考えているようだ。

 俺だけじゃなく他の皆も呆れていて、ソフィアの話を適当に聞き流している。


「ふ~ん……あっ、そう……」


「ふ~ん……あっ、そうって……わらわ類稀たぐいまれなる才能の説明をしているというのに反応が薄い奴じゃな。そうそう知識も相当じゃぞ。何せ、ガルドルド帝国魔法大学を首席で、それも僅か15歳で卒業したのだからな」


 ふ~ん、15歳で大学卒業ね?

 数千年前の知らない国の学校制度なんて分からないから、何とも言えないや。

 ここで俺は直球を投げてやる。


「で、ソフィアさあ、お前、結局は今、何歳なの?」


「な!? わ、わ、妾の年齢としをいきなり聞くのか!? し、失礼じゃぞ! 乙女に年齢を聞くなど!」


 いきなり年齢を聞かれるというのは、どの時代のどんな女性でも嫌だし、失礼にあたるらしい。


「……分かったよ、もう聞かない。別に興味無いからさ」


「ううう、17歳じゃ! 興味無いとはどういう事じゃ!」


「だってさ、お前は数千年前の人間だろう? そうしたら……」


「え、ええいっ! その先を言うでないわぁ! 今の時代を考えるな。妾が眠りについたのは17歳! だからその時から年齢を重ねるのは一切無しじゃ!」


 むきになって否定するソフィア。

 はっきり言ってうざい。

 

 地団太を踏む彼女を置いてめでたし、めでたし……って俺が手を振って出口に向かうとソフィアは必死になって追いかけて来たのであった。

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