第168話「ガーゴイルの正体」

 俺が居る20m先には、今まさに押し寄せようとしているガーゴイル軍団が居る。

 だが、殆どは見えない壁に阻まれて進めない。

 効果抜群。

 事前に聞いているが、イザベラとソフィアの作ってくれた魔法障壁はあと30分程度持つ筈だ。


 その間に、話し合いに応じてくれた『ガーゴイルA』と話が出来る。

 俺の呼び掛けに応えて、襲い掛かろうとするガーゴイルBを止めてくれたからだ。


 ガーゴイルAはいぶかしげに尋ねて来る。


「冒険者よ、お前はこちらの内情を知っているのか?」


 内情ねぇ。

 ああ、知っているぞ。

 もしも俺の考えた事が事実ならね。


「ああ、まあな。まずは名前を名乗ろう。俺はトール・ユーキ。商人兼冒険者で冒険者ギルドのランクはB。この迷宮には依頼を受けてやって来たんだ」


「依頼?」


 ここはまだ、ガルドルド王女であるソフィアの件は伏せておいた方が良い。

 こいつらが味方になるとは限らないし、すぐ明かして良い情報ではない。


 で、あれば理由は分かり易く、シンプルな方が良いだろう。


「ああ、依頼だ。アールヴの貴族マティアス・エイルトヴァーラさんから内々で頼まれたんだ。息子のアウグストさんを探してくれと、な」


「な、何! アールヴの凄い上級貴族じゃあないか!」

 

 ガーゴイルAは……マティアスを知っていた。

 もしこいつらが迷宮へ挑んだ者だったら、ベルカナの街を拠点にした筈。

 マティアスはベルカナの街じゃあ、アールヴの有名人。

 また俺の推測が確信に近付いた。


 ガーゴイルAはまだ、踏み込んで来ない。

 俺をまだ疑っている。  


「だが冒険者ギルドではこの迷宮の探索を禁じていた筈だ。にわかには信じられん……」


 冒険者ギルドが探索を禁じる?

 やっぱりこいつは!


「ああ、ギルドマスターにはそう釘を刺されたよ。だからさっき言ったように俺は内々で頼まれたのさ……彼は……アウグストは、ここに居るのか?」


「ふうむ……すぐには答えられん」


 すぐには……か。

 じゃあガーゴイルAはやっぱり何かを知っているんだ。

 よ~し、少しずつ教えて貰おう。


「取引しないか? 俺が某所で得た情報を話すから、差し支えないレベルで教えてくれよ」


「そうだな、とりあえずお前を信じよう……そうしないと話が進まないからな」


 やった!


 で、あれば俺の得意な魔力波オーラ読みもしやすい。

 警戒するこころより、安心してリラックスする魂の方が気持ちを読み取り易いのだ。


 俺はガーゴイルAの話と共に、魔力波オーラ読みで情報を取得する事も決めたのである。


「じゃあ、俺から内容のある質問をしよう。俺がある程度事情を知っていると分かれば、お前達が俺を信用して貰える事になるからな」


「ああ、助かる」


「まず、ここは旧ガルドルド魔法帝国の遺跡だな」


「そうだ」


「そしてお前達は元人間族の冒険者で、今は旧ガルドルド魔法帝国の傭兵……そんな所か?」


「傭兵じゃない! 真ガルドルド魔法帝国の国民だ!」


 え?

 真ガルドルド魔法帝国?

 何じゃ、そりゃ?


 俺は魔力波読みを働かせると共に早速聞いてみる事にした。


「真ガルドルド魔法帝国? 何、それ?」


「ああ、この迷宮の指導者達が再建した帝国の新名称さ。新たな国を建国する夢を聞いた俺達が協力する代わりにこの素晴らしい身体を貰ったというわけさ」


 素晴らしい身体ねぇ……

 デザインは、全く俺好みじゃあないけど……

 まあ、好みは人それぞれだ。


 しかし俺は、ガーゴイルAから発せられる波動に元気がない事に気がついた。

 これから新たな国を創るという理想に燃えている筈なのに、溌剌さを全然感じないのだ。


「でもさ、その割にお前はあまり嬉しそうじゃないぞ」


「……鋭いな、トール。ああ、俺も名乗るよ。アラン・ボワロー、冒険者さ。ランクはCだ」


「そうか、アラン……宜しくな」


 ここでおもむろにガーゴイルBも手を挙げた。


「俺はダヴィド……ダヴィド・ブノワ、同じく冒険者だ。アランとは同じクランを組んでいた」


 おお、よかった!

 ガーゴイルBことダヴィドも、俺を受け入れてくれたようだ。


「おお、ダヴィドか! こちらこそ宜しく。ぶっちゃけ、聞いて良いか? お前達は元の身体に戻って地上に戻りたいのだろう?」


「……ああ、そ、そうだ! 良く分かるな?」


 分かりますって!

 だって美しくないんだもの、ガーゴイルって!

 ※あくまで主人公視点です。


「大方、人間の身体より遥かに頑丈で膂力に優れるという事で魂を移したのだろうけど、違和感を覚えて来たんじゃね~か?」


「ああ、その通りだ。だけど最初の誘い文句、永遠の命を得られるというのが大きかった」


「俺も……アランと同じだ」


 よし!

 ここは、どんどん話を進めよう!


「じゃあさ、話が早い! あいつらと話して意見を纏めておいてくれよ」


「あいつらと意見をまとめる?」


 俺が指差した方向には魔法障壁に遮られてこちらに来れないガーゴイル軍団の残りが居た。

 彼等は俺とアラン達が話しているのを見て、一旦戦闘態勢を解除したようだ。


「ああ、俺達が攻撃もせず何故撤退したと思う? お前達が最初から人間と分かっていたから、戦いたくなかったんだ」


「戦いたくない?」


「ああ、お前達には地上で待っている人が居るのだろう?」


 俺は「ここぞ!」とばかりに、畳み掛けた。


 打ち明け話をする彼等のこころの中には、望郷の念と共に家族や恋人の名が浮かんだからだ。

 案の定、ガーゴイルAは俺に対して心の内を吐露したのである。


「ああ、正直に言おう! その通りだ! 俺達は地上に帰りたい! いくら永遠の命を得て、新しい国を創るといっても……このような地下迷宮で無為に過ごすのはもうたくさんなんだ」


「俺も……そうだ」


 続いてガーゴイルBも同様に呟く。

 ふたりとも気持ちは一緒のようだ。


 おお、いい流れになって来たぞ。

 ここからが正念場。

 詰めを甘くしないように注意だ!


「分かった! もう少し聞いて良いか。お前達の元の身体の所在は?」


「ああ、この迷宮に保存してある。俺達のように身体を移した者へ、指導者達からは約束が取り交わされた。いつでも元の身体に戻してやるとな」


 成る程!

 上手い誘い方だ。

 だったら、ちょっとお試し感覚でやってみようという気になるものな。


 よし!

 これなら行ける!


「俺に心当たりがある。一緒にこの国の指導者へ交渉しよう。そしてお前達の魂を元の身体に戻して貰う様に頼んでやるさ」


 しかしここでダヴィドが異を唱えたのだ。


「だが……お前の事……信用するにはどうしたら良い?」


 ぽつりと呟いたダヴィドの言葉は重い。

 確かにそうだ!

 会ったばかりの奴に、いきなり自分の大事な人生を預けろたって、信用出来ないのは当然である。


「う~ん……どうしよう?」


 俺は何か良い方法がないか、考える事にしたのであった。

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