第187話「タトラ村への帰還」

 俺達は、タトラ村への街道を歩いている。

 メンバーは俺と、嫁ズ6人のみ。

 何故このメンバーなのか?

 それは趣旨がジュリアの里帰りだから。


 ちなみに、はるばるゲネシスから旅をして来たわけではない。

 空を飛んだりもしない。

 実はテオちゃんに協力して貰い、秘密の転移門を使ってやって来たのだ。


 今後の事を考えると、タトラ村への直行便的な転移門を置く事は必要であった。

 とは言っても、さすがに村の中には設置は出来ない。

 ジュリアの故郷とはいえ、村民は普通の人々。

 いくらなんでも、そこまでの『カミングアウト』は無理だから。

 

 そんなわけで転移門の設置場所はタトラ村から少し離れた、とある雑木林の中である。

 ただジュリアと初めて出会った時と同様、いきなりゴブやオークの襲撃があってもおかしくない野性味溢れた場所である。

 なので、奴等を完全に防ぐには、やはりしっかりした対策を立てる必要があった。

 

 皆で、いろいろと考えた末に……

 外敵からいきなり襲われる心配のない、簡易だが頑丈な地下室を作った。

 

 完成した地下室の出来栄えは素晴らしい。

 入り口は巧妙に隠してあるし、特定の魔法でしか開錠出来ない。

 それゆえ他人が無理矢理侵入する可能性は、ほぼゼロである。

 ついでに、ある程度の人数が宿泊&生活出来る部屋と倉庫も作って貰ったので、今後の使い勝手は相当良くなる筈。

 子供の頃やった、秘密基地ごっこの基地に近いノリだ。


 そんなわけで、転移門のある地下室を出て15分程度歩けばタトラ村へ着く。

 超が付く便利さである。


 久々の帰省なので、ジュリアは浮き浮きしている。


「うふふふ、トール! 久し振りのタトラ村だよ! いきなり訪ねたら皆、絶対に吃驚するよね」


「ああ、確かにな」


 ジュリアとそんな会話をしながら、俺はふと心配になった。

 大空亭で待つ、あのジェマさんが何と言うか……である。

 ジュリアの叔母であるジェマさんが、俺のハーレム状態を見てどう思うのだろうかと……

 

 もしかして、すっごく怒らないだろうか?

 ジュリアをさしおいて、他にこんなにも女を作って! とか……

 ふしだらなスケベ男とは、すぐ別れなさい! とか……


 タトラの村を出た時は俺とジュリアのカップルだったのが、今や俺の嫁は6人も居るから。


「ジュリア……ジェマさん、何か言うかなぁ……」


「叔母さんがどうかしたの?」


 ジュリアはいつものポーズで、可愛らしく首を傾げる。

 ああ、俺をいきなりノックアウトした必殺の胸キュンポーズだ


「う~ん……ほら、ジュリアは第一夫人だけどさ。今やお前以外に嫁がたくさん居るし……」


「あはは! そんな事を気にしているの?」


 ジュリアは、俺の言葉を聞いてすぐピンと来たようだ。


「大丈夫だよ! あたしを含めて全員超美形ばっかりだから、今時6人もお嫁さんが居るなんて、凄く甲斐性のある男だって喜んでくれるよ」


 はぁ……甲斐性があるかぁ……

 そんなものですかねぇ……


 何となく俺は嫌な予感がした。

 あのエイルトヴァーラの女帝フローラ様に対面する時より、陰鬱な気分だったのだ。


「心配する事ないって! あたしがトールから凄く大事にされているって、しっかり言うから!」


 むむむ、そうか!

 まあ、それなら安心だ!


 と、話している間に懐かしいタトラ村の正門に着く。

 ええっと、門の前で頑張っているのは……やはりあのラリーである。


「ラリー、ただいまぁ! だいぶご無沙汰だったねぇ!」


「はあ? ジュ、ジュリア!?」


「何よ! そんなに驚かなくても良いじゃない」


「何言ってる、驚くよ! お前、生きていたのか? ずっと戻らないからてっきり死んだのかと思ったぜ……ぎゃあっ!」


 ラリーは相変わらず軽口を叩くが、死んだ?は言い過ぎだろう。

 案の定、ジュリアの蹴りが炸裂していた。


「あごおおおおお……」


「あ、ごめ~ん!」


 ジュリアは以前の、かよわい少女ではない。

 竜神族として完全覚醒し、数多の実戦を経験しているのを、つい忘れていたようだ。

 遊びで放った単なる蹴りも、数倍の威力がある。


 蹴られて痛む足を擦りながら、ラリーは恨めしそうにジュリアを見つめていた。

 

 そんな中、俺は思う。

 改造された後、この異世界へ無理やり転生させられた俺に、もう根っこはない事を。

 邪神様の指先ひとつで前世での存在を消された俺に、もう故郷はないのだから。

 だけど、このヴァレンタイン王国タトラ村は俺の『始まりの地』であり、故郷のような思い入れがある。


 タトラ村……俺の最初の嫁、ジュリアの故郷……

 ジュリアと出会って、お互いを好きになり、成り行きで商人となって村を出発した。

 最初はふたりきりだったが、今や俺達以外に家族が5人も居る。

 合計7人の大家族だ。


 今や、俺とジュリアは他の嫁ズと共に、久し振りとなるタトラ村へ帰って来た。

 相変わらず、タトラ村は何も変わっていなかった。

 超が付く田舎の村という趣きだ。


 しかし!

 予想外というか、とんでもない人物が、来訪していたのである。

 それは……


 俺達は大空亭を訪ね、扉を開ける。


「た、ただいま~」


「うむ、帰ったか」


 恐る恐る帰還の挨拶をしたジュリアに、渋く低い声が掛かった。

 見れば中年の逞しい男が、食堂の椅子に座っている。

 顔を見たが、男に見覚えはない。


 一体、誰だろう?

 俺の索敵には引っかからなかったが、どうして?

 ジュリアを含めて嫁ズも何も言わなかったところを見ると、『対策』がされていたのだろうか?


「お帰り、我が娘よ! さあ、すぐに支度をしなさい、故国へ旅立つぞ!」


 故国へ旅立つ?

 とんでもない事を言う男を見たジュリアは、驚きのあまり大きく目を見開き口をパクパクさせていたのであった。

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