第37話「俺がもてる?」
イザベラが見抜いたジュリアの秘密……
俺は勿論、当人も吃驚。
何と、ジュリアは竜神族の血を引くという。
竜神族か……
俺には良く分らないけれど。
『竜』って言うからには……あの怖ろしい伝説の
あまり、ピンとは来ない。
ジュリアって、外見は可憐な美少女だから……
俺はそんな事をつらつらと考えながら、見つめていた。
イザベラの所持する宝石を熱心に調べるジュリアを。
そんな俺へ、イザベラが念話で囁いて来る。
どうやらこっそりと内緒話をしたいようだ。
俺が竜神族に関して知識がないと勘付いて、すかさず話を振って来たらしい。
『ねぇ、トール。貴方は竜神族の事って本当に知らないの?』
『ああ、殆ど知らないな』
『じゃあ教えてあげるよ。竜神族の先祖はね、北の大神と竜神の姫君との間の子である聖なる竜、真竜王――この神の御子だと伝えられている誇り高い一族なのさ』
『ふうん、そうなんだ』
『ああ、彼等は一般的な竜の一族とは一線を画していて、その為に殆どの竜族とは敵対している。だから竜の中でも最強と言われる
俺は、少しホッとした。
邪神様から貰った革鎧は、古代竜の皮で出来ていると聞いていたから。
もしジュリアの一族の皮で出来ている鎧など着ていたら……
ヤバい事になるのは間違い無い。
そんなのは子供でも分かる事だ。
なおも、イザベラの話は続いている。
『竜神族は15歳を境に『覚醒』するんだ。覚醒すると身体能力の著しい強化は勿論、性格は益々強気になり、押しがとても強くなる』
覚醒?
そうなると、性格が強気に?
押しも強く?
そ、そうか!?
『加えて危機回避能力も著しく高くなるから、強気で大胆な性格ながら冷静さも併せ持ち、リスクを見極める判断能力が凄く高くなる』
おお、成る程!
それってジュリアの力……そのものだ。
『竜っていうのは
そうか!
分かるよ。
イザベラの言う通り、竜って宝石を溜め込む習性がある。
ならば宝石だけじゃないけど、お宝を扱う今の仕事はジュリアにとって天職なんだな。
念話で会話をするふたりの傍らで、熱心に宝石を見入るジュリア。
その真剣な表情を見ていると、いつもの軽口を叩ける雰囲気ではない。
とっても真剣な雰囲気なのである。
しかしどうやら、その確認も終わりそうだ。
「ふたり共、お待たせ。何とか確認が終わったよ。さっきも言ったけど、さすが悪魔族の王女様の持ち物だ。トータルで金貨1千枚、1千万アウルムはすると思う」
1千万アウルム!?
えっと1円が1アウルムくらいとしても……約1千万円か!
そりゃ、凄い。
しかし、イザベラは不満顔だ。
「失敗した! そんなに少いなら、もっと持って来ればよかった」
す、少ない!?
約1千万円で何故少ないの!?
俺が不思議な表情をしているのを、読み取ったんだろう。
ジュリアが、イザベラの心配は当然と主張する。
「トール、オリハルコンは貴重な
「え? 市場価値を無視した言い値?」
「うん、万が一オークションに出品されても下手すりゃ直取引以上の値が付いてしまう。そうなるとイザベラの持っている1千万アウルムでも心もとないんだ」
そうか!
そうなんだ……
生半可な中二病の知識があっても俺なんかまだまだ……だな。
そんな俺とイザベラに、ジュリアの声が掛かる。
「明日は商業ギルドに行ってトールとイザベラの商人登録をしよう。時間が無いから朝早く行くよ、だからそろそろ寝よう」
やっぱり今夜、『アレ』は無しか……
露骨にがっかりする俺に苦笑したジュリアは「じゃあ添い寝してあげる」と優しく囁いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝……
俺達は手早く支度を済ませて絆亭で朝食を摂ると、ジェトレの村を歩いていた。
ひとつ疑問に思った事を念話でイザベラに聞いてみる。
それは村に入る時のチェックの問題だ。
確か特別村民証を発行する魔法水晶は、イザベラみたいな悪魔族だと真っ黒に反応する筈。
手を翳して、イザベラの正体が良く「ばれなかった」という事に関してである。
『ああ、あれ?』
あんなのチョロイと、イザベラは言う。
『下級魔族ならともかく、私達くらいの上級悪魔になるとあんな子供騙しの魔法水晶なんか魔力を使った裏操作で何とでもなるのよ』
裏操作ねぇ……
という事はだ。
様々な街や村に、ノーチェックで凶悪な上級魔族が入り込んでいるって事?
『当ったり~! その通り』
当たりって……
イザベラさん、それって人間からしたら凄く怖い事なんですけど。
『大丈夫だよ、トール。今時の魔族って実は平和主義者の方が多いんだ』
『平和主義者?』
『そうだよ、何故人間の街に入るかって言うと、魔界より人間の街の方が日々の暮らしが格段に楽しいからさ。それを悪戯に乱して壊すような事は滅多にしないよ』
ふ~ん……そうなんだ。
魔族が平和主義って、これも俺の趣味というか意向がこの世界に反映されているせいだろうか?
『それよりさ……折角こうして内緒で話せるんだからさ。ジュリアに内緒で今度、私とデートしてよ……ねえったら!』
『イザベラ……お前、それこそチョロインって言われるよ』
『何よ! チョロインって? それ意味分からないよ! それより誘いを断わるなんてそんなに私は魅力無いかなぁ? これでも魔界では王女という立場だけじゃなくて色々な男達に言い寄られて困っていたんだけど』
不思議そうに言うイザベラ。
そりゃ、お前は超絶美少女さ。
だから俺には、全く現実感が無いんだってば!
『はあ……でもさ……逆に俺がお前に好かれる理由が全く分からないんだけど……』
『何言っているの! トールが強くて格好良いからに決まっているじゃないか! 私達、悪魔族は力こそが正義……いや悪だから強い者は文句無しに人気があるんだ』
強い男ねえ……
どこが?
かねぇ……
雑魚のゴブ数匹にしか勝った事のない男が……
あ、冒険者ギルドのおっさんにも一応勝ったっけ。
そんな事を考えていたら、イザベラが解説してくれる。
『トールが強いのはその凄過ぎる動態視力と底知れぬ膂力さ。動体視力は人間の男との試合、膂力の方は私との腕相撲でそれぞれの圧倒的勝利で明白だよ……』
『そ、そう?』
『うん、総合的には私の父である悪魔王に匹敵する力じゃないかと私は睨んでいるんだ。ジュリアがトールに惚れているのも多分同じ理由じゃあないかな』
悪魔王に匹敵!?
うわぁ、色々な意味でやばい響きだ。
管理神の使徒の俺がねぇ……だけどちょっとは格好良い!
嬉しくなって来たのは誰かさんには内緒にしたい。
でも自称『邪神』だから許してくれるかも……
『その上、イケメンで優しくて気配りも出来る……私はね、そんなトールにひと目惚れしたんだ。たとえジュリアが正妻でも良いのさ。いずれ彼女には頼み込んで許可を取るよ』
うわぁ!
イザベラが『依頼』だけじゃなくて俺達と居るのも、そして敢えて商人になったのもそれが理由か!
でもさ、ちょっち待て。
抱きついただけで怒り心頭のジュリアが、イザベラの頼みを聞くだろうか?
覚醒したジュリアが竜になって、悪魔王女イザベラと戦ったとしたら……
嬉しい反面、段々気が重くなってきた気分に、俺は「はあ……」と大きく溜息を吐いたのであった。
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