第40話「オークションもお仕事です」

 俺は稀少な金属と言われるオリハルコンの値段がどうしても知りたい。

 ジュリアはプライスレスだと言うが、他の人の意見も聞いてみたい。

 ひとつの意見に拘らず、広く意見を聞く。

 至極真っ当な考え方だと思う。

 

「チェスターさん、オリハルコンの落札想定価格って分かるかな?」


「う~ん、それは残念ながら分からない。需要と供給の関係で値段は決まるから」


「そうですか……」


「悪いな、こんな答えで。但し、これだけははっきりと言えるぞ。オリハルコンのような稀少な金属は普通のお宝より圧倒的に需要が多いんだ」


「圧倒的な需要……ですか?」


「ああ、美しいお宝として鑑賞するだけでなく、人間やドヴェルグの鍛冶師が武器防具の貴重なレア素材として調達しに来る。彼等は抱えている大口の客から競り落とすように言われて参加する場合も多いしな」


 そうか……

 オークションって、代理参加もありって事なんだ。


 ここで、ジュリアが補足説明してくれる。


「トール、基本的な事を教えるね。オークションは街や村によって相違はあるけど出品するにはまず保証金が必要よ。そして落札価格の10%~30%を手数料としてオークション開催側が徴収するのさ。だから出品して売り上げを見込む場合は注意しないといけないよ」


 ええっ!

 手数料とか、そんなに取るの?

 取り過ぎ……じゃねえか?

 オークションって楽しそうだし、雰囲気も面白い。

 値段が天井知らずの場合もあってワクワクしていた。

 そこまで手数料を取るとは興醒めだなぁ……


 むうう、必殺ジト目攻撃。

 俺の、恨みがましい目を見たチェスターは狼狽する。


「おいおい! 商業ギルドのオークションの運営はあらゆる面で大変なんだ。会場使用費、人件費、商品管理費等々、コストも凄くかかるんだよ。それにウチだけじゃなくて冒険者ギルドや他の団体、果ては王国が運営するいずれのオークション事務局も皆、仕組みは一緒さ」


 ありとあらゆる言い訳が聞けました。

 いや、理由か。

 どちらにしてもありがとうございます。


 俺はそう思ってから、考え直した。

 オークションだって所詮はビジネスだと。

 誰かを助ける為の慈善事業じゃないのだ。

 運営会社が儲ける為にやっているんだから。


 俺が納得した表情になったら、チェスターは安堵の表情をしてる。


「ま、まだウチは良心的な方さ。出品する為の保証金は金貨1枚、すなわち一律1万アウルムで落札手数料は15%だからね……今、ジュリアちゃんが言った通り、街によっちゃ保証金は商品ごとの設定で落札手数料は30%以上を取る所もあるからな」


 成る程!

 分かりました、

 勉強になりましたよ。


 片やイザベラはというと……隣でつまらなそうにしていた。

 明後日の方向なんて向いちゃっている。

 オークション自体には全く興味がないようだ。

 自分の好きな事以外は真剣になれない……そういうタイプの女の子かもしれない。


 おっと、まだ俺は質問をしたい。


「ええと、出品する商品の鑑定額ってあるじゃないですか。それは多分、上代なんだろうけどこちらとしては当然、それ以上で売りたい。そんな時はどうするのかな? いわゆる安値で売りたく無い時とか」


「そうだなあ、出品する時には一応こちらでも鑑定するから何も希望が無ければその金額からスタートする。こちらとしては売らない事には話にならないからね。出品者に希望があれば最低入札希望額を設定してその金額以上で落札されるように着地させるよ」


 そうか!

 じゃあイザベラの宝石ジェムは、最低でも1千万アウルム受け取れるように相談すれば良いのかな?


「出品商品には人気、不人気それぞれの傾向がある。すなわち商品に対してどこまで買いたい人が居るかって事。当然の事ながら人気商品は相場より高く売れるし、不人気商品はその逆の傾向だな」


 ほうほう!

 それは面白そうだ!

 今夜が楽しみだな。


 後は、出品の締め切り時間等々教えて貰って俺が満足しているのを見たジュリアはそろそろ移動しようと切り出した。


「そろそろここを出よう。他にも行く所があるからね」


「中々その彼は良いじゃないか。やる気満々だね」


 半分以上お世辞なのは一目瞭然だが、ジュリアは俺が褒められて悪い気はしないようだ。


「ふふふ、そう? 何たってあたしの『彼』だからさ。 こう見えて冒険者ランクもBなんだよ」


 ジュリアはついそう言うと、さすがにチェスターも吃驚する。


「そりゃ、凄い。でもそれなら商人より冒険者ギルドで高額の依頼を完遂した方が全然儲かるんじゃないか?」


「それをぽ~んと蹴って商人になってくれるのは、あたしの為なんだ」


 ジュリアの、『のろけ』とも言えるその言葉を聞いたチェスターはにっこりと笑顔を見せた。


「ははは、ジュリアちゃんが凄く幸せで、俺も嬉しくてご馳走様って感じだな」


 チェスター……結構、いい奴かもしれないな。


 イザベラがしかめっ面をする中で、俺とジュリアは熱く見つめ合っていたのであった。


 ※作者注:文中の説明が実際のオークションと違いがある場合はご容赦頂きます。

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