第63話「言い方ひとつ」
翌朝……
アモンも加えた俺達4人は、連れ立ってジェトレ村の中央広場を歩いていた。
絆亭で朝食を摂った後、俺の提案で迷宮に潜る準備の為の買い物に出掛けたのだ。
当然、案内はこの村に詳しいジュリア。
昨夜得た安心感から、張り切って先頭を歩いている。
まず俺達が向かったのは『ギルデンの店』というドヴェルグ(ドワーフ)が経営する武器防具屋。
この店の主人はアンテロ・ギルデンと言う。
兄が居て名はオルヴォ。
その兄は冒険者の街バートランドにおいて、やはり武器防具店を経営しているそうだ。
ああ、本当に感じてしまう。
俺はファンタジーの世界に居るんだなと。
余りにも嬉しくて「ぼうっ」としていたら、ジュリアにわき腹を突かれる。
ああ、買い物をするんだっけ。
まずはと……
うん!
イザベラは兜を被っていない。
彼女の為に、兜を購入しよう。
俺が買いたいものを伝えると、店員のドヴェルグがすぐに商品を用意してくれた。
「これなどいかがでございましょう。こちらの可愛いお嬢様にぴったりでございますよ」
イザベラの黒い革鎧と同色の兜。
持って来たドヴェルグは、満面の笑みを浮かべている。
俺が資料本等で知っているドヴェルグは無愛想がお約束なので、まるで「らしくない」愛想の良さである。
兜はジュリアが褒め、アモンも納得しているようなので結構良い品らしい。
だが、イザベラは兜を装着したくないようだ。
「嫌よ、あたしの綺麗な髪が隠れちゃうじゃない!」
成る程!
今迄、兜を被らなかったのはそういう理由か!
やっぱり、お年頃の女の子だ。
そんなイザベラの言葉を聞いて、不思議そうな声で返したのはアモンである。
「イザベラ様、どうして嫌がる? 何事も安全の為だ」
「アモン! 貴方のそんな所がイヤ……」
気遣いの全く無いのが嫌なのだと、言いたかったのであろう。
イザベラは、辛そうに顔を歪めた。
親が決めた
場の空気が悪くなりかける。
こんな時は俺がフォロー。
アモンの失敗を目の当たりにした俺。
兜を買うという目的は一緒でも、違うお願いの仕方をする。
言い方や態度を変える。
「イザベラ、お前の綺麗な髪と美しい顔を守る為さ。我慢してくれないか?」
俺がこう言うと、案の定イザベラは笑顔になった。
嬉しそうに瞳をキラキラさせている。
俺もつられて笑顔を向けると、イザベラはすっかり機嫌を直してくれた。
ああ、良かった。
何とか、なりそうかも。
これで、分かった。
女も男も付き合い方は基本一緒。
気遣いの無い、無遠慮な奴は嫌われる。
違いは、耐性かな。
ストレート&ぶっきらぼうな言い方でも男なら比較的にOKだが、女には時としてヤバイ地雷となる。
意味が一緒でも、言い方を考えてやらないと駄目だと思う。
偉そうに言ったが、俺だって今迄女の子と付き合った事などない。
接し方もあまり良く分からない。
まあ、ジュリアとの付き合いが少しは役に立ったかな。
以前の俺なら、女子の機嫌を直すなど無理だったかもしれないから。
「うん、トール。貴方がそう言うのなら……私、我慢するよ。ところで兜……似合うかな?」
「ああ、ばっちりさ! 我慢どころか、似合っていて、俺はとても可愛いと思うぞ」
「とても? か、可愛い!?」
「可愛い」って言葉は不思議だ。
女性はどのような世代になっても、この言葉を気にせず使う。
「おお、すっごく可愛いぞ」
「うふふ、そ、そう? じゃあ買う! そして兜を被るわよ」
よ~し! 兜の購入終了っと!
ウキウキして兜を被るイザベラを見て、傍らではアモンが首を捻っている。
自分が発した言葉と、どこが違うのか? という疑問の表情だ。
だから!
言い方ひとつなんだってば。
俺は苦笑し、続いていくつか小物の防具を購入した。
買い物終了後、次の店に買い物に行くと宣言し、この店を出る。
次に俺達が向かったのはモーリスさんの店と同様の雑貨店。
ここで水筒を4つ、食料品を2週間分、磁石付き携帯魔導ランプをこれまた4つ、治癒草、解毒草など薬草も結構多めに買い込んだ。
イザベラが首を傾げる。
買い物の内容に関してである。
「トール、水は貴方の生活魔法で、明かりは私の
「いやいやイザベラ、万が一魔法が使えない場合とか、ばらばらにはぐれた時とかを考えると必要だぜ。備えあれば憂い無しと言うからな」
「そうか! 万が一の場合ね」
納得するイザベラを見てジュリアも微笑む。
「さすがトール! 皆の安全に気を遣ってくれているのね。やっぱりリーダーだわ」
今度はジュリアに褒められた。
普通に嬉しい。
俺は水筒と魔導ランプ、食料品=乾し肉を少々を皆に渡したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
買い物終了後……街角に立つ衛兵に聞く。
結果、ジェトレ村から旧ガルドルド魔法帝国の遺跡コーンウォールの迷宮までは、歩いて1日の距離だと言う。
「歩いて行くなんて、かったるい。転移魔法でささっと行こうよ」
歩くなど、さも面倒とばかりにイザベラが訴えた。
まあ一理はある。
確かに便利だ。
でもさ……
俺はイザベラを逆に問い質す。
「……転移魔法なんて誰が使えるの? イザベラが使えるの?」
「私? 無理! えっと……トールは使えないのかな?」
中途半端な改造人間の俺に、そんな高度な魔法が使えるわけがない。
俺は苦笑する。
そして全員へ、「歩いて行くぞ」と宣言したのであった。
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